子爵領都クラウゼル03
クラウゼルに着いてから3日目、今日でシアちゃんの護衛の最終日になるよ。いあ~あのベッドはヤバイ。ホントに。人間ってあそこまでダメになる生き物なんだね。最近はベッドに恐怖を覚えてきたくらいだよ。結局魔力に負けて寝るんだけどね。恐るべし!異世界のベッド!
「はぁ。お姉様の護衛が今日までだなんて。残念です」
「専属護衛は断られたのでしょう?諦めなさいな」
「うぅ。とても残念ですが、仕方ありません。強制はしたくありませんから。だからせめて、今日はお姉様とずっと一緒に居ます」
今はシアちゃんとクラウゼル子爵…えっと、リナ様って呼んでいいって言われてるから今度からそれで…と一緒に裏庭の庭園でお茶会をしているよ。貴族の淑女たるものいついかなる時でもお茶会に励むべしだってさ。いやいや、私は貴族じゃないんだけど。なんで同列で見られているの?
ま、そんな疑問は置いておいて、今日でシアちゃんとの護衛契約が切れるということもあって、今日は朝からずっとシアちゃんがベッタリなの。何か一緒にお風呂に入ってから更に距離が近いような気がするんだよね。気のせいであってほしい。好意を向けられるのは嬉しいけど、ちょっと愛が入ってくると重いんだよね。特に私の場合は意に沿わない魅力値のせいってところもあるから余計にね。
リナ様の話にもあったけど、シアちゃんから熱烈に、うん、とても熱烈に専属護衛の打診があったよ。丁重にお断りしたけど、まだ諦め切れていないような雰囲気を感じる。でも、私は貴族の専属護衛をやるつもりはない。だって、旅が出来なくなっちゃうしね。
なによりも、私には【不老】スキルがあるから、人の町にずっと留まることは出来ないんだよね。寂しくないといえばウソになるけど、本来この世界に居ないはずの私があんまり干渉しすぎるのもね。出来るだけこの世界の人達だけの人生を送ってほしいと思う。もちろん、シアちゃんにもね。だから、ちょうどいいスキルなのかも。根無し草になるための理由付けとしてはね。
話が少し逸れちゃった。それで、今日のお茶会はリナ様から勇者、というよりは聖女の話を聞くために用意してもらったの。ま、もともと話をしてくれる約束…というより契約だったからね。王都に近いとはいえそんなに情報が入ってくるとは思えないから、あんまり期待はしていないけど。
「それで、半年前に秘術で召喚された異世界の勇者達について聞きたいのよね?」
ちょ、ちょっと待って?半年前?私がこの世界に来てからまだ一ヶ月ちょっとしか経っていないと思うんだけど?
でも、異世界から人を呼び出す術は早くても数十年に一度って神様が言っていたし、時期を考えたら私と同じ転移者で間違いないんだよね?何か問題が起きて私だけ別の場所に転移させられたらしいし、その時に召喚された時期にずれが生じたってことかな?後で神様に確認してみようか。
私は頭の中では色々と考えつつも、表情には一切出ない様に注意した。リナ様の目がまるで私の小さな変化も見逃さないというような目で見てくるからだ。何か勘付いているのかも知れないから注意しないとね。
「勇者と賢者については私もそこまで詳しくないわ。一度だけ挨拶したことはあるけれどね。だから、話せる情報は一般的なものしかないわ。勇者は類稀なる剣術の使い手で、強力な聖剣を召喚して強大な魔物を一刀両断するほどの力を持っているそうよ。容姿がかなり整っていて、とても貴族の娘達に群がられているそうね。性格も人当たりの良い気さくな性格で、どんな相手にも優劣を付けずに接するそうよ。小さな子供を救うために危険な魔物の巣に単身で乗り込んだ話は一時期とても英雄譚として話題になったわね」
【勇者】スキルには聖剣を召喚する能力と強力な剣術のスキルのチート能力があるんだね。まさに勇者だ。しかしまぁ、話を聞いていると性格に裏がありそうな感じがするね。私の偏見だけど。
とりあえず、この国の特に王都では、勇者はとっても人気が高くて、この国で1、2を争うほどの剣術使いであり、容姿はかっこよくて貴族平民問わずモテモテらしいと。異世界転移生活満喫してるね~。
「賢者はとても寡黙で人付き合いも苦手そうだったわね。大量の魔物をたった一度の魔法で殲滅したと言われているほどの大魔導士よ。本人は魔道学に興味があるみたいで、昔の失われし魔法について王立図書館で調べたりしているらしいわ。見た目は無表情で氷のような印象を持つけれど、勇者に引けをとらないくらい整っているわ。勇者ほどではないけれど、こちらもお嬢様達に人気ね。まぁ、私にとってはどちらも好みではないけれど」
【賢者】スキルの能力は恐らくこの世界に現存する全ての魔法が扱えるって感じかな。勇者と同じくらい容姿は良いけど、冷たい印象を持つから勇者人気の影から熱い応援があるみたい。勇者が表で大きく活躍しているから賢者についての情報はあまりないみたいだね。
「聖女は私も何度かお茶会で招いたから、直接話もしたこともあるわ。少し気弱で押しに弱いところがあるけれど、とても優しい娘のようね。名前はアマネ。私が聞き出せた話では、【聖女】のスキルは最高レベルの【聖魔法】のほかに一日の使用回数が決まっている【奇跡】と呼ばれるスキルがあるそうよ。代表的なのが、死者蘇生という一日一回だけ使える、魂が残っている死体から死者を蘇させることが出来る奇跡ね。容姿もとても美しい娘で、第一王子と第二王子の2人から猛アピールされているって本人から聞いたわ。でも、あまり乗り気ではないとも言っていたわね」
大丈夫かな?その聖女…アマネさん?すごくスキルの情報が知られちゃっているけど。これは本人の警戒心が足りないのか、リナ様の巧みな話術に関心するべきなのか…なんとも言えない気分になるね。
しかし、【聖女】スキルもヤバそうだね。特に使用回数のある【奇跡】。条件もあって回数制限もあるけど、死者蘇生はヤバすぎるでしょ。そりゃあ、国で全力で囲むよね。
私が聖女について考えていると、私と一緒に今まで黙って話を聞いていたシアちゃんがくすくすと笑いながら口を開いた。
「くすくす…お姉様とその『聖女』様は、どちらがお綺麗なのでしょうね?」
「そうねぇ。惹きつけられる魅力は断然ユーリの方が上ね。…でも…」
リナ様の視線が私の顔から少し下がって胸の辺りを見たような気がする。そして、すぐにそっと視線が外れていった。何かな?今とても不愉快な気持ちなんだけど。
「聖女はとても立派なものをお持ちだったわね。そこはちょっとユーリには勝てないかしら?ふふふ」
なんの話でしょうねぇ…ちょっと何言っているかわかりませんねぇ…。それに私は小さくないもん。Bはあるし。…なによ?私は普通サイズなの!!他が大きいだけなの!!嘘吐いてないかって?本当にBだもん!
くっ、なんだかすごい屈辱を受けたような気がする。ちょっと、シアちゃんも笑わないでよ!そのいじりは結構私の心にダメージ来るんだからね!うぬぬぬぬ…。
「ふふふ。ごめんなさいな。それだけの魅力的な容姿を持っていても気にしているものなのね。…まぁ、私が知っているのはこんなくらいかしら。他に聞きたいことはあるの?」
「お姉様は少し控えめなくらいの方が、容姿と釣り合ってよいのではないですか?顔は簡単に隠せますが、体付きを隠すのは大変でしょう?」
確かにシアちゃんの言う通りだね。胸があまり大きくないおかげで、顔を隠すだけでなんとか出来ている感じはする。…あ、違うの。小さくないよ?あまり大きくないだけだから。この言い回しには大きな違いがあるからね?勘違いしないでよ?貧乳って言ったそこのキミ?覚えておけよ?
さてさて、質問ね。じゃあ、とても気になっていることを聞いてみようか。転移者達の扱いについてだね。転移させられて強引にこの国に連れてこられて、神様からもらった力で一体何をやらされているのか。内容によっては、少し王都でやることが出来るかもしれない。
「勇者達がこの国に来てからの扱いね。生涯を王国と国王陛下の為にその力を使うことを誓う代わりに、上位貴族に匹敵する権力を持っているわ。だから扱いも上位貴族のような感じかしらね。それと、転移者同士は出来るだけ一緒に行動するようにしているらしいわ。特に王都から離れた場所での魔物の討伐とかね」
それからは転移者の扱いについて出来るだけ詳しく知るために、リナ様に色々と質問してみた。もちろん、分かる範囲でという話だったけど、どこから集めてくるのか、かなり初期の頃から、まだ正式の存在が発表される前から勇者たちの存在を知っていたらしい。なんだか、リナ様の方が怖くなってきたわ。この人を敵に回すのだけは止めた方がいいね。
順を追って話をしようか。今は上位貴族の扱いを受けているらしい勇者達は、王城に転移させられた直後はほぼ軟禁状態でこの国や情勢についての教育をされた。そして、その後は王城が所持、管理している特別なダンジョンでレベル上げを強制されて、どういった力を持っているのか様々な検証をさせられた。そして、3人とも非常に有力な力持っていることが判明して、王直属の兵士として誓いをたてさせられ、その褒美として上位貴族並みの権力を与えられた。その後は、情勢の悪くなってきた北側で危険な魔物を倒したり、難度の高いダンジョンに潜ってダンジョン産のアイテムを回収したりなど、国の指示で色々と動き回っているらしい。
話を聞き終えた私は深く溜息を吐いた。シアちゃんが私の様子に心配そうな顔で見詰めてくる。
「お姉様?そんなに転移者達のお話しを聞いて、どうするおつもりなのですか?」
「…」
リナ様も興味あると言いたげに私を見てくる。どうしたいね。別に転移者達をどうこうする気は全く無いんだけどね。私は笑いながらシアちゃんの頭を撫でて誤魔化した。そして、リナ様に顔を向けて教えてくれたことにお礼を言う。
「お礼なんて必要ないわ。これは契約範疇だもの。でもそうね。もし貴女が今の話を聞いて何かするつもりならば、くれぐれも気を付けなさいな。転移者達は王の管理にある者。下手に手を出せば王国全てが敵になるわよ」
リナ様の助言に私は深く頷いてから、予想以上の情報をくれたお礼に収納魔法に見せかけた【創造魔法】でイチゴのショートケーキを出した。リナ様は目を丸くしていたけど、シアちゃんはおにぎりで慣れたのか、「こんな美味しそうな食べ物ももっていたのですか?」と青い瞳をキラキラさせながらケーキを食べ始めた。シアちゃんの様子を見て、リナ様もすぐにケーキにフォークを突き刺した。
その後はあまりにもイチゴのショートケーキが好評だったので、更に2つもそれぞれに出すことになった。私は1個しか食べてないよ。甘い物は好きだけど、ずっとショートケーキは飽きるからね。でも、チョコとか出すと長引きそうだったからやめた。
そうして盛り上がりつつ、リナ様とシアちゃんとのお茶会は終わりを告げた。




