表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/22

子爵領都クラウゼル01

「あらあら、シアちゃん!また一段と綺麗になっちゃって」

「やめてくださいませ、ユートリナ様。恥ずかしいです」


 エニグマ峠を越えた後は何の問題も起きずに子爵領都に到着した。今は領主館にシアちゃんを送り届けたところだ。


 一応契約上は後3日間護衛を続けるけど、領主館まで着いてしまえばクラウゼル子爵の兵士達が護衛を引き継ぐので実質依頼終了なのよね。


 今私はフードを被った状態で、クラウゼル一家総出で出迎えられているシアちゃんを見届けているところ。それにしても凄い歓迎ぶりだね。


 特に女性で領主をやっているユートリナ子爵は、シュトイツ様の言っていた通り、遠く離れた愛娘に久しぶりに再会したかのような歓迎っぷりだ。まだ若そうに見えるけどいくつなんだろう?息子らしき男性の二人は私より年上っぽく見えるけど。


「ユートリナ様。お喜びのところ申し訳ありませんが、ご報告することが御座います」

「そうです、ユートリナ様。わたくし、エニグマ峠で賊に襲われたのです」

「…どういうことかしら?」


 テレーザさんとシアちゃんの言葉で、先ほどまでの歓待モードから一変して貴族の顔になったユートリナ子爵は、シアちゃんの護衛であるテレーザさんとユフィさんを交互に見て何があったのかと話すよう促した。一瞬でここまで雰囲気変わるんだね。貴族ってすごいなぁ。


「事情は気になるけど、とりあえず中に入らないかい?」

「兄さんの言う通りだ。シアも長旅で疲れただろう?お茶会の準備が整っているよ」

「それもそうね。シアちゃんを立たせたままというのも失礼ですし、先ほどの話は中でしましょうか」


 そう言ってぞろぞろと移動を開始する貴族一行とその使用人達。


 私はどうしようかな。護衛依頼自体は続いているから入ったほうが良いのかな?でも、素性の知れない冒険者が許可もなしに勝手に入ってもいいのかな?


 私がどうしようか迷っていると、こっそりユフィさんが近くまでやってきて私に耳打ちしてきた。


「ユーリ様も私達と一緒についてきてくれますか?契約上では、まだお嬢様の護衛ですので入っても問題ありませんから」


 言葉は固いままだけど、ここ3日で口調は柔らかくなってきたユフィさんの言葉に頷いて、私も同行することになった。


 いくつかの種類の花が整然と並んでいる中庭まで移動すると、既にお茶会の準備は万全のようで、それぞれ貴族達が席に座るとそれに合わせてすぐにメイドが紅茶を淹れた。その間に他のメイドがお茶請け用のお菓子(あれはクッキーかな。味までは分からないけど)を皿に乗せてテーブルに置いていく。使用人の連携凄い。これがプロか。


 クラウゼル子爵達がクッキーを一つつまんで先に食べて見せてからシアちゃんに勧めた。どうやら毒は入っていませんよっていうアピールみたい。みんな所作が綺麗だから、ただクッキー食べて紅茶を飲んでいるだけで絵になるね。


 私はさりげなく【隠蔽】を使って気配を消しておく。貴族の話に混ざる気は無いからね。話題を振らないでねアピールだ。


 一通りお茶会をする前の儀式のようなものを終えた後は、ユートリナ子爵が「それでは、話を聞こうかしら」と私の隣に立っているテレーザさんとユフィさんに視線を向けた。2人の背筋が気持ちピッと伸びたような気がする。


「それで?ここに来るまでに何があったのかしら?報告してちょうだい」


 テレーザさんとユフィさんとたまにシアちゃんが交ざりながら、エニグマ峠で襲われた時のことを説明してくのどこかぼんやりとしながら聞き流す。私は別に正体に関しては興味ないからね。あ、微精霊達が花壇のスペースでふよふよしてる。町の中にも居るんだね。それとも、私がここにいるから?


 そういえば、この護衛期間中は神様とメールしなかったな。


 他人の居る所でスマホを取り出せなかったから仕方ないけどね。催促のメールがくると焦るけど、ずっとやり取りをしていないとこれはこれで落ち着かないものだね。


 【隠密】のおかげなのかどうかは知らないけど、最後まで私は話しかけられることも無く、ぼーっと考え事をしている内に報告は終わったみたい。


「わたくしの可愛いシアを襲うなんて。ここ最近ちょっかいを出してきているのは知っていたけど、そろそろ身の程を弁えさせた方が良いかしら?」

「母様、俺が行こうか?」

「いやいや、次期領主がもし何かあったらどうするの。ここは兄さんの補佐である僕がやろう」

「えっと、皆様、お気持ちは嬉しいのですが、危ないことはしないで下さいね」


 なんだか物騒な雰囲気を漂わせ始めたユートリナ子爵とその息子達をシアちゃんが宥め始めた。すると、今までずっと静かにしていたユートリナ子爵の旦那っぽい人が初めて口を開いた。悪いけど、なんだか影の薄い人だね。


「ところで、ユーラシアを救ってくれた冒険者というのはどこに居るんだい?」

「あら?そう言えばお姉様は?」

「うふふ。シアちゃんがお姉様と呼ぶなんて、随分と懐いているのね」

「はい。とても綺麗で優しい人ですよ」

「さっき声を掛けたのですが…?」

「あれ?隣に居たわよね?」


 はい。隣に居るよ~。【隠密】って思っていた以上に効力が高いみたいね。すぐ隣にいて姿が見えている筈なのに気付かないんだ。これは新しい発見だね。


 おっとっと、なんて感心してる場合じゃないね。【隠密】やめないと。はい。私はちゃんとテレーザさんの隣に居ますよ~。影が薄くてごめんないって誤魔化しておこう。


 さっきまで全然気が付かなかったテレーザさんや他の人達からの視線が突き刺さる。顔を見られるのは面倒だからフードをさらに目深にかぶり直す。


「あ、ごめんなさい。全然気が付きませんでした」

「お姉様は気配を消すのも達人なのですね」

「僕も全然気が付かなかったよ。兄さんは?」

「いや、俺も気が付かなかった。あんな怪しい格好をしていればすぐに目につきそうなんだが」


 怪しい恰好で悪かったね。でも、これが無いと大変なんだよ?


 中庭に来る前までは【隠密】を使っていなかったから、領主館の前では2人共シアちゃんばかり見て気が付かなかったみたいだね。


「あら、いきなり姿が見えなくなっていると思ったら、やっぱり貴女が冒険者の護衛だったのね。実はシアちゃんを迎えた時から気になっていたのよ」


 そう言ってユートリナ子爵が立ち上がって、私の目の前までやって来ると、フードの中を覗き込むようにして私と目を合わせた。


 緑色の瞳がしばらく私を検分するように見詰めた後、目を細めてボソボソと私にしか聞こえない声で呟きだした。


「…門の前でちらりと見えた時から気になっていたけど、これは、息子達には刺激が強いわね。フードはそのまま被っていてちょうだい」


 もともと外すつもりも無かったし、こくりと頷いて了承する。ユートリナ子爵は満足そうに頷いて一歩後ろに離れた。


「貴女が居なければ、私のかわいいシアちゃんは生きていなかったかも知れないわ。クラウゼル子爵としてだけではなく、ユートリナ個人として感謝するわ。どうもありがとう。ああ、お名前を伺っても?」


 ユートリナ子爵が感謝の言葉を言った瞬間、周りがザワザワとしだしたので、なんだろうと思いながら聞かれた通りに名前を教えた。


 そして、おもむろに私の手をとったかと思うとお茶会の席に誘導し始めた!?ってなぜ!?


「私の実の娘のように可愛がっているシアちゃんの命の恩人なのだから、こんなところに立っていないで座りなさいな。…ドリヴァン、席を用意しなさい」

「はい、すぐに御持ちしましょう」

「お姉様はお茶の作法も完璧ですよ。隣に来てください」

「あらそうなの?冒険者には珍しく教養があるのかしら?まぁ、良いわ。ほら、ロゼリオ、そこを退きなさい。少し位置をずらさないと入れないでしょう?」


 ちょ、ちょっと待って!?なんで私もお茶会に参加する流れなの?あ、執事さんが椅子持ってきて座らせてくれた。ありがとうございます。じゃなくて!!…わー!もういい!知らない!私ってこんなに流されやすい性格だったっけ?新しい自分を見付けてびっくりだよ!何より自然と断りにくい雰囲気を作り出すユートリナ子爵の手腕にびっくりだよ!


 フードは脱がないのか聞かれたけど、それは断固拒否した。弟くんの方が訝しげな視線になったけど、ユートリナ子爵が


「女の子の顔を見たいとねだるなんてはしたないわね。シアちゃん、あの獣達からユーリを守ってあげなさい」

「はい、ユートリナ様。ロートムート兄様からお姉様を守ります!」


 と、シアちゃんも仲間に引きずり込んで追及を止めさせてくれたお陰でそれ以上言われることはなかった。


 手早く私の前にも紅茶とクッキーが用意されてしまったので、私は大人しくお茶会に参加することにした。だって仕方ないじゃない。強引に転移でもしない限り、逃げられそうに無かったんだもの。


 私が現実逃避気味に用意してくれた紅茶を飲んでいると、その様子を見ていたユートリナ子爵が貴族の笑みを湛えながら口を開いた。


「どうかしら?今巷で話題の『聖女』もお気に入りの紅茶だそうよ」


 私は思わず紅茶を吹き出しそうになったのを頑張って耐えた。ちょっと!そのニヤニヤ笑いは知ってて言ったな!でもどこで私が勇者達の情報が知りたいって知ったの?シアちゃんが話している様子は無かったけど。


「つい昨日、通信の魔道具でフォーゼから連絡が来たわ」


 あ、なんだ、通信の魔道具ね。冒険者ギルドの職員も持っていたくらいだから、貴族が持っていても不思議じゃないね。基本的には中世に近いけど、魔法技術と恐らく何度か呼ばれている転移者達の知識のおかげで、中途半端に技術があることをうっかり忘れていたよ。


「フォーゼの話では、北の町に被害が出ていた魔物の巣もなんとか出来たって話よ。だから、シアちゃんは気兼ねなく私のところで、羽を伸ばしていないと言っていたわ」

「そうですか。被害が少ないうちに解決して良かったです」

「ふふ。シアちゃんもすっかり領主の考えが出来るようになってきたわね。これは、シュトイツの未来を安泰ね」

「いえいえ、わたくしなんてまだまだです。クラウゼル領こそ、優秀なお兄様方がおられるのですから、安泰でしょう?」

「あはは。だってさ、兄さん」

「俺だってまだまだ母上の足元にも及ばないが、シアの期待を裏切らない様にもっと頑張らないといけないな。お前もだぞ、ロートムート」


 なんだか、話が盛り上がっているけど、そんなことよりも私は魔物の巣の方が気になるかな。前もフォゼ様が話しているのを聞いたけど、どういうものなんだろう?目立ちたくないからここでは質問しないけどね。ギルドの資料室には、特定の種族が大量発生して、非常に大規模な群れのようなものって表現で書いてあったけど。あ~、神様に聞いてみたい。この調子だとあと3日間は連絡とれなさそうかも。ぐれてるかな?


 その後は、わたしは黙って紅茶と茶請けを食べながら話を聞いているだけの退屈な時間だった。なんでここ座らせられたのよ?別に〈隠密〉で気配消していたわけでもないのに無視され続けるのも中々辛いよ?お茶会が終わりそうな雰囲気になった時にどれだけ安堵したものか。


 っで、まぁ、なんとなく予想出来たけど、私には特別に個室が用意されるみたい。しかもシアちゃんが「わたくしの屋敷の貴賓室に誤って案内されたのですよ」という余計な一言を言ったせいで、ユートリナ子爵が面白がるように目を細めて「それじゃ、うちも上位貴族に用意する部屋をあてがいましょうか」っていう感じに話が纏まってしまったしまい、シアちゃんと同じ区画の部屋に案内されることになった。ユートリナ子爵は一度『誤って』という言葉の意味を辞書で引いて調べた方が良いと思う。


 隣の部屋は続き部屋になっていて、側仕え達が控える部屋になっているようだけど、一般人の私には関係無いから無人になっているよ。側仕え用のメイドを貸しましょうかって言われたけど丁重にお断りした。だって落ち着かないしね。


 でも、そこそこ良い部屋で一人で寝れるのはラッキーだったかも。誰かと一緒に旅をするのも楽しいけど、楽しいよりも気を使うことの方が多いからね。私は一人の方が楽かも。ボッチ思考とかいうな。


 せっかく一人になったから豪華なソファーに座って久しぶりにスマホでメールでもするかなって、すごいふかふかソファー!?なにこれ欲しい!さすが貴族の部屋だね。まさかソファーで人をダメにされるなんて想定外だよ。というかソファーでこれって、ベッドはもっとヤバいのでは?それこそ、永眠してしまうほどふかふかベッド…。ごくり。いやいや、まずはスマホを確認しよう。


 え~っと、あ、ついさっき神様からメール来てるね。タイミングを考えても間違いなく私の様子を見ているよね。洒落とかじゃなくて本当に紙に書いて上に掲げてみようかな。どんな反応するだろう?私が直接見ることが出来ないのが歯痒い。


 っで、メールの内容はっと、私が初めて人殺しをしてしまったことを心配してくれているみたいだね。内容はこんな感じ。


「悠理さん、数日前に人を殺めてしまったようですが、大丈夫ですか?見ている様子ではそこまで気にしていないようでしたが、一人になって落ち着いた環境になってから色々と考えてしまうこともあるでしょう。あれは精霊達の力による事故のようなものだと割り切って下さいね。私からも精霊達に少しお話ししておきましたから。精霊達も悠理さんを想うあまりの行動だったので、そんなに怒らないであげて下さいね。まぁ、私の友人に矢を向けた時点で自業自得だと思いますが。でも、精霊王が迷惑をかけたとして、何かお詫びの品を選んでいるようですよ。悠理さんは遠慮せずに受け取ってあげて下さい。」


 あ~そういえば、私、人を殺したんだっけ。なんだか実感が湧かないんだよなぁ。神様の言う通り、事故のようなものでもあったわけだし。


 一度人を殺すと人は脳が壊れていくっていう話があるらしいよ。普段は罪悪感を覚えて悪いことに対して抑制していたものが、人を殺めるという行為で一気にストッパーが外れてしまって、脳がとても強いストレスを感じるようになってどんどんと縮んでいくらしい。そして、消えない罪悪感でどんどんと心を病んでしまい、脳が縮むことで感情や行動を抑制する力も失ってしまうのだという。本当の話なのかどうかは知らないけど、そんな話を聞いた記憶がある。


 実感が湧かないのも、私の中で罪悪感を司る何かが壊れてしまったからなのかな。もう殺しちゃったしいいや。みたいな感じ。そう考えるとなんだかちょっと怖いね。


 これについて考えるのはやめようか。この世界で生きていく以上は、いつかは向き合わないといけないことなんだろうけど、今は他にも考えることがあるんだよね。例えばそう、神様が精霊に『少しお話し』をしたこととか。それ絶対圧力だと思うんだけど。精霊王もすっごい焦ると思うよ。そりゃあ何かお詫びの品をって考えちゃうと思うよ。


 これって近いうちに精霊界に招待されるのかな?それともお詫びの品だけくる感じなのかな?なんにせよ、雲の上の存在達が何をやりだすか分からなくて怖い。お願いだから穏便にしてね?


 なんだか、どっと疲れてきちゃった。今日はもう寝ようか。って、まだ夕食があるのか。面倒だなぁ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ