エニグマ峠01
馬車旅をすること3日が経過したよ。道中は比較的平和で、たまに魔物に襲われることがあったくらいかな。立ち寄った村や町も比較的普通だったし特別話すようなことも無いね。
「ふふ。ユーリお姉様が一緒に同行して下さって本当に嬉しいです。特に、普段は我慢しなければいけない馬車の揺れが無くなるなんて驚きました」
そう。私はトーザの森に入った時のガタガタ道でついに我慢の限界を超えて、魔法で馬車を少しだけ浮かせて揺れを無くしたのだ。副作用的に馬車が軽くなったせいで移動スピードも上がって、予定よりも早く泊まる予定の村や町に辿り着くことになったよ。
トーザの森をたまに魔物に襲われながらも無事に一日で抜けて、森を抜けてすぐにあるちょっと大きめの村で次の日になるまで待ってから再び移動を再開して、今度はまた先の見えない平原を途中の小さな町や村に寄りながら移動し続けた。
そんなこんなで3日間の間過ごしてきたおかげで、シアちゃん(ほかに人が居ない時はシアちゃんって呼んでる)ととても仲良くなって護衛の2人とも打ち解けたよ。ふっ。ちょろい。
4日目はちょっと険しい峠を越える必要があるみたいで、たぶん今日は野宿になるだろうってさ。もちろん予定通りだよ。シアちゃんも何度もこの道を通ったことがあるし、その時に野宿の経験もあるみたいだからね。特に問題は無いみたい。
今回の野宿はシアちゃん達に任せることにしようかな。私のピクニックセットはちょっとこの世界にない技術のものとかあるからね。あ、でも道中の食事は【創造魔法】で作ったのを収納魔法から取り出すように誤魔化しながら食べてたよ。休憩時間の時に食べる保存食が馬車の中に備蓄されているんだけど、日本の美味しい缶詰とかレトルト商品とかがある訳無いからとても、うん、微妙な味なんだよね。お腹には溜まるけど。私の日本人としての肥えた舌がそれに耐えられるはずもなく、多少はしょうがないと判断しておにぎりを出して食べてたんだ。
当たり前だけど、シアちゃんにバレて「それなにそれなにそれなに!?」っとキラキラした目で迫られてお裾分けして、その様子を見ていた護衛の人が「いくら何でも毒見なしに食べるのは危険です!」と言い張って結局その日から私がおにぎりを提供することになったよ。その代わりにお金をもらっているけどね。がめつい?いやいや、向こうが勝手に払うだけだから。私は催促なんてしてないから。ちなみに私が一番先に食べたのに毒見必要ないんじゃないの?思って質問してみたら、毒を盛る人は心中するか自分の盛る毒に耐性をつける人が居ることがあるから油断出来ないんだってさ。
そうそう。シアちゃんって興奮するとかなり言葉が崩れるみたいだね。普段は貴族の令嬢って感じのおしとやかな雰囲気なのに、私がやることに関して質問する時は好奇心丸出しでとても可愛らしくなるよ。といってもやっぱり貴族だから、私がそれとなく濁した答えをする時はすぐに察してくれて深く追求したりしないけどね。
馬車旅の中でずっと一緒ということもあってか、シアちゃんの中で私の株は急上昇しているみたいで、私のことを「お姉様ってお呼びしても良いですか?」ってもじもじしながら聞かれた時は発狂するかと思ったね。この子はもう私が嫁に貰おう。だって可愛いんだもん。
なんだか私が変態みたいに思われそうだから、真面目な話もしようか。護衛をしている女性兵士2人のステータスを確認しておいたよ。魔物とかに襲われた時にどの程度まで任せられるのかの基準になるからね。
〈名前〉 テレーザ
〈種族〉 人間
〈年齢〉 23
〈性別〉 女性
〈職業〉 護衛兵士/剣士
〈ステータス〉
レベル 20
HP 380/380
MP 35/35
攻撃力 175
防御力 121
魔力 39
精神力 89
素早さ 116
知力 93
器用 103
魅力 57
運 41
〈スキル〉
【気配察知レベル4】【剣術レベル6】【盾術レベル3】
【投擲レベル1】【攻撃受け流しレベル4】【受け身レベル3】
【攻撃力上昇レベル4】【防御力上昇レベル3】
【素早さ上昇レベル3】【精神力上昇レベル2】
〈名前〉 ユフィ
〈種族〉 人間
〈年齢〉 19
〈性別〉 女性
〈職業〉 護衛兵士/魔法剣士
〈ステータス〉
レベル 15
HP 190/190
MP 105/105
攻撃力 107
防御力 72
魔力 98
精神力 100
素早さ 71
知力 82
器用 70
魅力 55
運 100
〈スキル〉
【炎魔法レベル2】【風魔法レベル1】【生活魔法レベル3】
【身体強化魔法レベル2】【魔力操作レベル1】
【魔力感知レベル2】【魔力剣レベル3】【剣術レベル3】
【攻撃受け流しレベル1】【受け身レベル2】
【攻撃力上昇レベル2】【防御力上昇レベル1】
【魔力上昇レベル2】【魔法耐性レベル1】
・【魔力剣】…MPを消費して武器に魔力を流すことで武器の攻撃力を上げることが出来る。
正直な感想を言うと、思っていたよりも強くないね。なんというか、スキルは色々覚えているみたいだけど、どれもレベルがあまり高くないんだよね。冒険者よりも戦闘経験が少ないからなのかなぁ?でも、基礎レベルはそこそこあるんだよね。まぁ、これだけの基礎レベルがあればこの辺りの敵のしかも街道近くの魔物に後れを取ることはないかな。って判断して、事実この3日間、私が全く手を出さなくても大丈夫だったよ。
閑話休題。今私達が差し掛かっているこの峠は『エニグマ峠』っていう名前らしい。この峠を境目にしてシュトイツからクラウゼルの領地に変わるらしいよ。分かり易いけど、どちらの領地からも端っこの境目ということもあって管理があまり行き届いていないようで、他の地域よりも少し魔物も強くて量も多いらしいの。商人もここを通る時には護衛を付けるのが常識らしいよ。
「せい!」
「はぁ!」
ヤギみたいな魔物…っていうかロックゴートって名前だからたぶんヤギ。どの辺がロックなのかは知らないけど…をテレーザさんとユフィさんが上手く連携しながら危なげなく討伐した。私が収納魔法で死体を収納すると、再び峠を上り始める。今日中に頂上付近の休憩スペースまで行きたいらしい。完全な安全地帯ではないけど、魔物があまり近づかない場所なんだって。理由は知らんそうだけど。
私の魔法のおかげで快適な馬車の中に戻ると、シアちゃんがはふぅっと悩まし気に息を吐いた。どうしたのか聞くとシアちゃんは「お父様には内緒ですよ」と前置きして教えてくれた。
「実は、わたくしも少し魔法を嗜んでいまして。去年よりも成長したのでこの旅で披露したいと思っていたのですが。そんなタイミングは無さそうですね」
そうなんだと相槌を打ちながらさりげなく鑑定してみると、炎と水それに光、後は生活魔法が使えるみたいだね。レベルはあまり高くないし、基礎レベルが一桁だから実戦で戦うのは難しいかもしれないけど、光魔法は補助や治療の魔法が使えるはずだから支援としてなら活躍出来そうだ。
まぁ、でも、護衛対象が支援をしなければいけない事態なんてならない方がいいに越したことは無いけどね。鑑定したことをバレる訳には行かないから、なんでフォゼ様には内緒なのか質問してみた。
「お父様は過保護ですから、わたくしが魔法を使って戦うのは危険だとお叱りを受けてしまうのです。だから今年は支援や治療の出来る光魔法を鍛えて、今回の外出でお父様にも認めてもらおうと思ったのですが…」
どうやら、今回のクラウゼルへの来訪は本当はフォゼ様も一緒に来る予定だったみたいだね。そうなるとますます変な話だね。過保護っていうくらいなら、多少無茶してでもシアちゃんの護衛を増やしそうなものだけど。私がそう思って指摘すると、シアちゃんがそれとこれとは違いますよと言って理由を教えてくれた。
「お父様は何よりも領地に住まう領民を最優先にする人です。たとえ身内に多少の不都合があったとしても、今苦しんでいる領民の皆さんを助けることに兵士やお金を使うのでしょう。わたくしはそんなお父様がとても好きですから、今のこの状況に不満はありません」
シアちゃんはそう言うと誇らしそうに微笑んだ。ふぅん。これだけ可愛い娘に慕われているのならば、あんまり疑うのはやめてあげようかな。
それからも、確かに魔物の数が多いようで、度々魔物との戦闘があったけど、どれも私が出るような相手でもなく、危なげなく護衛の2人が討伐してくれるおかげで私は馬車の中でシアちゃんとの雑談に花を咲かせた。
それでも、戦闘の度に移動が止まるので今までよりも進める速度が遅いのがちょっと気になってしまう。シアちゃんの話ではこれでも速い方らしいけどね。
そろそろ日が落ちるかとう頃合いにようやく目的の休憩スペース…っというか野宿する場所だね…までたどり着いた。さすがに何度も戦闘したからかテレーザさんとユフィさんはお疲れ気味の様子だ。
私がおにぎりを3つ(鮭と昆布とシンプルに塩だけのバリエーション豊富だよ!)をそれぞれ全員に配った。私は気分的にパスタとか食べたいんだけど、みんなおにぎりにハマっちゃったみたいだし、収納から出来上がった料理を出すのはさすがに誤魔化しが効かなそうだから、泣く泣く私もみんなと同じ物を食べる。
まっ、さすがに出来立てほやほやの温かいおにぎりを毎食出しているから、何かしらおかしいとは勘付いているかも知れないけど、たとえ聞かれても教えるつもりはないし、冒険者に能力のことを根掘り葉掘り聞くのはマナー違反だからね。貴族やその護衛がマナーを破ってまで聞くことは無いよね。たぶん。
食事を終えて野宿の準備を始める。といっても、私とシアちゃんは馬車の中で毛布を掛けて寝ることになった。テレーザさんとユフィさんは交代で夜の番をするらしい。私もやろうか聞いたんだけど、断られちゃった。お嬢様についていて欲しいんだって。ま、別に良いけど。
完全に夜になると標高も高いだけあって少し冷えてきた。私とシアちゃんは早々に寝る為に馬車の中に入って一緒に毛布にくるまった。毛布は2つあったんだけど、シアちゃんが「お姉様と一緒に寝たい」とねだってきたので仕方なく…仕方なく!一緒に寝ることになった。あんなの断れる人居ないよね?
最初は雑談してたけど、すぐにシアちゃんがかわいい寝息を立てて寝てしまった。寝顔もかわいい。そして抱き締められているせいで感じる双丘の大きさ。ぐぬぬ。
さてさて、馬鹿なことを言っていないで私も寝るとしようかな。というわけで、おやすみなさい。




