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辺境伯領都シュトイツ05

 あっという間に3日が経過して、私は依頼契約通りにフォゼ辺境伯の住んでいる領主館までやってきた。


 うん。めっちゃ門番さんに怪しい奴が来たって目付きで見られているね。そりゃあ黒いマントで身を隠して、フードで顔もまともに見れないような相手だもんね。その反応は正しいよ。


 追い返されたら依頼受けられませんでしたって帰っても大丈夫なのかな?追い返されたら仕方ないよね?


 と思いながら門番さんに話しかけると普通に通された。え~?あんなに警戒してたじゃん。私の声を聞いた瞬間に「あ、フォーゼ様からお話は伺っています。中へどうぞ」とにこにことしながら門を開けてくれたよ。もしかして【才色兼備】の能力が働いたのかな?


 それにしても大きい家、おっと館だっけ?なんでもいいけど、貴族の住んでいる建物って感じだねぇ。使用人の部屋とかもあるだろうから部屋数も多いんだろうね。あ、館の中にメイドさんが居る。おお。本物のメイドさんだ~。ちょっと感動するね。日本に住んでいた頃に私の家には家政婦さんが居たけど、家政婦とメイドは違うからね。


 あ、じっと見ていたら窓掃除をしていたメイドさんと目が合っちゃった。フードを被ったままだから訝しげに見られている気がする。仕方ない、この館に居る間はフードを脱ごうか。余計な揉め事の種になりそうだし。フードを下ろしてニコッと頬を緩めて笑い掛けると、メイドさんが慌てた様子で深々とお辞儀をしてからバタバタと走っていってしまった。どうしたんだろう?


 そういえば、この館にはガラスが使われているんだね。ガラス窓は高級品らしいから、貴族が持っていても普通と言われればそれまでなんだけどね。地球に居た頃はどの家もガラス窓が普通だったから、なんだかちょっとだけ懐かしく感じてしまったんだよ。まだこの世界に来てそんなに日は経っていないけどね。


 入り口の扉まで辿り着くと、ノッカーでトントンと中の人を呼び出す。インターホンなんてある訳無いでしょ?そんなに待たずにガチャっとドアが開いた。おや?なんか何人ものメイドさんがお辞儀しながら並んでいる?何事?


「申し訳ございません。今旦那様は少し立て込んでいまして。貴賓室でお待ちいただいてもよろしいですか?」


 私が訳も分からないまま笑顔で頷くと、ちょっと偉そうなメイドさんがすっと音もなく目の前に出てきて自ら館を案内してくれた。そして、見るからに貴族用の豪華で煌びやかな部屋まで案内されると「すぐにお茶をお持ち致しますので少々お待ちください。」と言ってあっという間に居なくなってしまった。


 なんかこれ、何か勘違いされてない?私が来るって通達してないの?でも、門番さんはきちんと事情を知った上で通してくれたよね?どゆこと?


 混乱しながらも座り心地抜群のイスに姿勢よく座ったまま待っていると、先ほどのメイドさんが何人かのメイドさんを連れて紅茶のセットとお茶菓子を持ってきてくれた。


「今、旦那様をお呼びしていますのでもう少々お待ちください。何かあれば、こちらのベルを鳴らして頂ければ部屋の外にいるメイドが対応致します」


 すっごく丁寧に接してくれたメイドさん達は、私の前に紅茶の入ったカップを置いて、更にお茶請け用のタルトも置いていって部屋から出ていった。どう見ても貴族待遇なんだけど?どゆこと?


 せっかく用意してくれたから、なんとなくちょっと高い店に連れていかれた時のマナーとか思い出しながら貴族(笑)っぽく紅茶を楽しむ。いや、これとても美味しいわ。絶対高いやつだよね?絶対私何か勘違いされているよね!?


 ま、いっか。私は悪くない。勝手に勘違いするのが悪いの。つまり、フォゼ辺境伯の教育不足ってやつだよ。そんな言い訳をしながら、フォゼ辺境伯…もう様だけでいっか長いし…が来るの待っていると、トントンとドアがノックされて「失礼する」とやや緊張した声でフォゼ様が部屋に入って来た。


「お待たせして申し訳ない。一体我が家にどのような…って、お前さんはユーリじゃないか。どういうことだ?」


 むしろ、私がどういうことか聞きたい。私は普通に門番に通してもらって普通に正面の入り口からノッカーで中の人を呼んだだけだ。私は何も悪くないと主張しながらここまでの流れを説明をした。


 すると、フォゼ様が私の対面に座りながらその説明を聞いて、納得したような顔で頷いた。なになに?ひとりで納得してないで説明して?


「なるほどな、始めに弁明しておくが、俺はきちんと使用人全員に娘と年の近い冒険者の娘が来ることを伝えていた。だが、お前さん…ユーリと呼んでいいか?」


 こくりと頷いて承諾する。さっきも名前で呼ばれたしね。私が頷いたのを確認してからフォゼ伯爵は話を続けた。


「それで、ユーリは普段から姿を隠すようなマントを羽織っていて、顔もフードで隠している。そして、フードを下ろすと目を見張るような美貌な上、外で活動する冒険者とは思えないほど肌も白い。更に加えて、武器を携帯していないのと、極めつけがその服だ」


 服?と思って思わずマントを少し捲って確認する。この世界では珍しい格好かもしれないけど、別に普通だよね?っと思って首を傾げると、「わからないか」と額に手を当てながらフォゼ様が説明してくれる。


「その服…っと言っても普段はマントしか見えないが…それはミスリル糸製だろう?普段から貴族の対応もしている俺の使用人は目も肥えているから、そういった()()()()()()()()()()()()()ような服の素材を見分けることが出来る。恐らく、今まで俺が言ったこと全てを見た上で、俺の使用人達はユーリのことを来訪予定の冒険者ではなくて、お忍びで来た俺と同格かそれ以上の力を持つ貴族の娘だと勘違いしたんだろう。ちなみに、ここの冒険者のギルドマスターは、ユーリのことを認知されていない他国の王族か王族の血を引く者だと思っているみたいだぞ。教養もしっかりしているみたいだしな」


 おうふ!言われてみれば、ミスリル糸の説明を受けた時に、性能が微妙なわりに超高級品だから冒険者や一般の人にはあまり売れないって言っていたじゃない!ということは、どう考えても高級品というのが好きそうな貴族好みの素材だよね。しかも、私の服はマントも含めて全ミスリル糸製。これは確かに貴族だと勘違いされる訳だよ。私まで納得してしまった。王族はどう考えても意味不明だったけど。ギルドマスターさん妄想力たくまし過ぎ。


 あと、顔は普通だから!ステータスの魅力のせいだから!正確な値は濁しながら、魅力値がやや高いということを言って見た目については反論してみた。


 フォゼ様は私の反論に呆れたような目で返してきた。え?なに?私何か変なこと言った?


「お前な。魅力のステータスだけでそれだけ他者に与える印象を変えられるならば、上級クラスのサキュバス並みの魅力があると言っているようなものなんだが?」


 嘘!?私サキュバスと変わらないの!?驚愕の真実を知って、私はさっきの話は無かったことにした。そんなことよりも、護衛依頼だよね!本来の目的を忘れるところだったよ。


 話をぶった切って無理やり話題を変えると、私があまり掘り下げてほしくない話題だと察してくれたのか、フォゼ様は特に追及するようなこともなく私の話題転換に合わせて「確かに、今は護衛の話だったな」と呟いてからテーブルの上にあるベルを鳴らした。


 ベルの音を聞いて部屋に入ってきたのは3日前にフォゼ伯爵と一緒に冒険者ギルドに来ていた執事さんだった。私を見ると一瞬驚いたように目を見開いたけど、すぐに何事もなかったように微笑を浮かべて恭しくお辞儀した。


「どのような御用件でしょうか?」

「すまんが、ユーラシアを呼んできてくれないか?それと、護衛予定の兵士も顔合わせのために呼んでくれ。後は、俺とユーラシアの分の茶も頼む」

「かしこまりました、旦那様」


 執事さんが出ていくと、すぐにメイドさんが入ってきて紅茶セットを2人分運んできた。ついでに空になっていた私のカップに紅茶を注いでくれる。にこりと笑ってお礼を言うと、メイドさんが驚いたようにびくりとして「畏れ入ります」と一言呟いて丁寧に礼をしてから部屋を出ていった。


 それを見送ってから、先ほどまでと同じように丁寧な仕草で紅茶を飲む。うん、美味しいね。カップをソーサーの上に音をたてないで置いて視線を上げるとフォゼ伯爵の視線とぶつかった。なんだろうと声を掛けると、フォゼ様が言い難そうに顔を歪ませながら口を開いた。


「いや、ユーリは貴族やそれに近い教育を受けているのではないかと思ってしまってな。先程から所作を見ていたが、本当に上位の貴族の娘と勘違いしそうなくらい完璧だったから驚いてしまった」


 うーん?私としては、定期的に通っていたちょっと高い料理の店に連れていかれた時に、両親から怒られながら食べ方を教わって染み付いたのをやっているだけなんだけど。貴族(笑)が意外と本家で通用するんだね。今後使う機会は無いと思うけど。


 フォゼ様が当たり障りのない話題として、私の冒険者活動について話を聞いてきた。チートな行動については濁しながらいたって普通の冒険者としての活動をしばらく話していると、トントンっと入り口の扉がノックされた。


「来たか。入っていいぞ」

「失礼します」


 かわいらしい声がドアの奥から聞こえて、ガチャっと扉を開けて入ってきたのは、魅力のステータスだけで美人認定されている私とは違う本物の美少女だった。


「お父様。ユーラシア、ただいま参りました。突然貴賓室に呼ばれて驚きましたわ」

「すまんな。こちらの手違いで護衛の冒険者がこの部屋に案内されてしまってな。座っていいぞ」

「まぁ、そのようなことが…。失礼します。…それで、そちらの美しい方が冒険者の護衛ですか?確かに、普通の冒険者には見えませんね。実は本当に貴族なのではありませんか?」

「確かに、貴族でも冒険者として登録している者も多いからな。俺も一応持っているし。どうなんだ、ユーリ?」


 フォゼ様が悪戯する子供のような顔で私にそう聞いてきた。もちろん、そんな訳無いと否定したよ。私はただの冒険者だからね。


 っで、フォゼ様の娘さんのユーラシア辺境伯令嬢はさっきも言ったけどとても可愛くて綺麗な美少女だ。フォゼ様はグレーの髪だけど、ユーラシア様は綺麗な金髪(母親譲りなのかな?)で目の色はフォゼ様と同じ青い瞳をしている。金髪碧眼美少女ってやつだね。貴族令嬢というだけあって楚々とした雰囲気の所作の美しい正統派ヒロインって感じがする。私じゃなくてこっち主人公にしようよ。そっちの方が絵的に売れるって。


 そんな正統派ヒロイン系の美少女に『美しい方』とか言われても嫌味にしか聞こえないよね。本人はいたって本気で言ったようだけど。ごめんね。魅力のステータスだけが高いエセ美人で。


「しかし、本当に綺麗な方ですね。黒くてサラサラした艶のある髪は星々の瞬く夜空のように綺麗で、黒曜石のように神秘的な引き込まれそうになる瞳を見ていると、同性のわたくしでもドキドキしてきてしまいます」


 やめて!!それ以上私をみじめにしないで!!私のライフはもうとっくに(ゼロ)よ!!?


 私が引きつりそうになる笑顔を必死にこらえつつ、キラキラした目をしながら私を称賛するユーラシア様にお礼を言う。


 フォゼ様がくっくっと笑いをこらえようとするように口元を手で隠すのが見えてムカッとした。笑っていないで早く助けてよ!依頼の話するんでしょう!?私の圧を感じたのか、ひとしきり笑って満足したのか、フォゼ様が緩んだ顔で改めて私を紹介した。おい貴族、もうちょっと表情を取り繕いなさい!貴方辺境伯でしょう!?


「シアも気に入ったようだし改めて紹介しよう。今回、クラウゼルまでの護衛として、兵士の護衛の不足分を補うために雇った冒険者のユーリだ。年は16だからシアよりも4つ上だぞ。相手が冒険者だからと言ってわがままを言ったり、上から無茶な命令とかした場合は即家に帰らせるように言ってあるからな。もちろん他の護衛の兵士にもだ。分かっているな?」

「もちろんです、お父様。守られる者としての立場を弁えろということですよね。それにしても、ユーリさんは16歳だったのですね。てっきりわたくしと同い年だと思っていました。ごめんなさい」


 私は気にしていないと答える。ま、日本人って外国だと見た目より年下に見られやすいらしいからね。顔の造りが童顔で身長も低いしスレンダーだからね。私の胸の話じゃないよ!


 というか、気付いちゃったんだけど、ひょっとしてユーラシア様の方が胸大きい?うそでしょ?私、12歳に負けてるの…?いやまさかね。あははは…


 しかし、私そんなに小さく無いんだけどな。身長の話だよ?ちなみに女性としては平均的なサイズだよ。クラスの女の子で背の順で並んで真ん中のちょっと後ろくらいだしね。顔も童顔って言われたことはないし。それでも12歳に見えたんだ。12と16ってかなり違いがあると思うけど。


 そんなことを考えていると、入り口の外から新しい気配を感知した。なんか入ろうとしてるけど躊躇しているような感じがする。私がそれをフォゼ様に伝えると「兵士だけで貴賓室には入りにくいか」と苦笑しながら再びテーブルの上のベルを鳴らした。


 入り口の扉がノックされて、2人の鎧を着た女性が入って来た。この2人が護衛の兵士さんかな?20代くらいの見た目でまだ若いね。お嬢様の護衛だから女性の兵士を選別したのかな。


「「失礼します」」

「すまんな。手違いでこの部屋に冒険者が案内されてな。この少女が護衛で雇った冒険者のユーリだ。基本的には馬車の中でシアと一緒にいてもらって緊急時に備えてもらう予定だ。異論はあるか」

「冒険者?にはとても見えませんが…。シア様と一緒に行動されるのは問題無いのですか?私達のどちらかの方が良いかと存じますが」

「大丈夫だ。ユーリの冒険者ランクはⅮだが、森に出たブラッドウルフをひとりで討伐した実績がある。シアも馬車の中で暇だろうしな。年も近いから話し相手に良いだろう」


 たぶん、護衛の兵士さんはそう言う事ではなくて、私が信用出来るのかどうか聞きたいんだと思うんだけど?実はフォゼ様ってちょっと抜けてるの?私がなんとも言えない顔をしながら兵士さんの聞きたかったと思う意図を説明してあげると、フォゼ様がなんだそういうことかといった顔で質問した兵士さんに向き直った。


「まだ2回しか会っていないが、少なくとも俺は信用出来る相手だと思っている。それでは不服か?」

「いえ、旦那様がそう仰るのならば構いません」


 こちらで勝手に警戒しますからと副音声が聞こえそうだね。護衛としての素質は十分あるみたいだね。感心感心。…それにしても、【才色兼備】の警戒心を薄くする能力のせいでフォゼ様からこんなに信用されているのかな?そうなると、護衛の兵士さん達も時間の問題のような気がする。そう考えると、この能力ちょっと危なっかしいね。意図的に能力を切ることが出来ないからどうすることも出来ないけどね。


「他に何かあるか?」

「いえ、大丈夫です」

「私も大丈夫です」

「お父様、お話しも終わったのなら、そろそろ出発しなくてはいけないのでは?」

「そうだな。そろそろ出発しないと次の町に辿り着く前に日が落ちてしまう」


 ということらしいので、紅茶とタルトをささっと平らげて(お上品にね)私達は貴賓室から出た。先頭にフォゼ様、その次にユーラシア様と私、最後尾に護衛2人の順番で館を歩いて正面扉から表に出ると、着た時には無かった紋章の入った豪華な馬車があった。この馬車に乗っていくらしい。


 サスペンションとか付いているのかな?それとも魔法の力で振動を和らげたりしてるのかな?それだったらいいけど、何も緩衝装置の付いていない馬車に乗っているのは結構苦痛だと思う。


 ちなみに、護衛の2人は片方が御者をやって、もうひとりが馬に乗っていくみたい。御者は休憩時間の時に交代するみたいね。そんな会話が聞こえてきたよ。


 メイドや執事などの使用人に見送られながら、私とユーラシア様が馬車に乗り込んだ。最初に御者をやる護衛が準備が終わったと声を上げると、最後に馬車の入り口からフォゼ様が顔を出してきた。


「それじゃ、ユートリナ様によろしく伝えといてくれ。ユーリ、娘を頼んだぞ。護衛の2人もよろしく頼む」

「ふふ。心配しすぎです、お父様。では、行ってまいりますね」

「「「「いってらっしゃいませ」」」」


 使用人たちの見送りの声を後ろに聞きながら馬車が動き出し、町の中の大通りを進んでやがて外まで出た。しかし、馬車にまでガラス窓使っているんだね。さすが特権階級。でも、やっぱり緩衝装置は何も無かったよ!振動めっちゃくる!いくらクッションが高性能でもこれを長時間はきついよ!!


 内心叫び声を上げながら、私は辺境伯領都シュトイツから出たのであった。



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