辺境伯領都シュトイツ03
皆さんこんにちは。今私は町を出て森林浴に来ています。
間違ってはいないけどちょっと訂正すると、依頼を受けて町の近くにある森に入って彷徨っているところだよ。
依頼内容は「シュトイツ東にあるトーザの森奥地にブラッドウルフの存在が散見されている。これの調査又は討伐 依頼ランクC」だよ。生息調査で証拠を手に入れられれば調査依頼達成。討伐して魔石を手に入れられれば討伐依頼達成として報告出来るの。
ちなみに情報によると極稀に森の浅い方までやってきてフォレストラビットやフォレストウルフなんかを捕食しているところが目撃されているらしい。ウルフって共食いじゃん。名前が違うから別なのかな?
ブラッドウルフは個体によってはレベル20を超える場合があるから出来ればCランク以上の冒険者がリーダーのパーティーが推奨らしいんだけど、わたしはレベル9でソロなのにすんなりと受付してくれたよ。まぁ、オークジェネラルを一刀両断した情報が流れているからね。
このトーザの森についてなんだけど。この森を更に東に抜けるのが王都方面への普通のルートみたい。この森は北と南に長く伸びているみたいで、北は特に何もないけど南は小さな村が近くにあるらしいよ。森を迂回するルートが確立されているからわざわざ森を抜ける人はいないみたいだけど。
森の出入口付近には比較的弱い魔物が多いけど中央に入るほど強くなっていくようで、トーザの森のヒエラルキートップはフォレストベアーっていう熊らしい。レベルは10後半で攻撃力も防御力も高いやっかいな魔物なんだって。
今回のブラッドウルフはフォレストウルフが突然変異した可能性が高いみたい。魔物は魔力が一定量ある場所から生まれるらしいんだけどその時に極稀に生態系に合わない特殊な個体が生まれることがあるようなの。それにしても、魔物の種類ってたくさんあるのに大体場所毎に現れる魔物が決まっているのも不思議だよね。何か理由というが原理があるんだろうけどまだ詳しくは解明されていないみたい。少なくとも資料室にあった本には書いていなかったよ。神様に聞けば分かるだろうけど。
木々を上手く避けて走ってきたフォレストウルフを〈銃撃魔法〉で撃ち抜いて倒して収納にポイッとする。〈索敵〉スキルのレベル上げも兼ねて魔法による索敵はやらないようにしているけどこれだけでも十分だね。魔法の方が使いやすいし性能も高いけど。私の作った魔法優秀。どやぁ。
ところでなんだか森を歩いていると小さな緑の光と茶色い光が集まって来るんだけどこれって微精霊ってやつなのかな?試しに話しかけてみるとなんだか点滅してふわふわと私の周りを回り始めた。うん。微精霊っぽいね。
微精霊は個々の力はほとんどないけどとても沢山存在していて、集まると集まった精霊達の属性によっていろいろな気象変化を起こすらしい。例えば、風の微精霊が集まると風が起こるでしょ。そこに水の微精霊が集まると暴風雨になったり、土の精霊が集まると砂嵐が起きるんだって。精霊ってきまぐれだから大きな異常気象が起きるようなこともたまーにやっちゃうみたい。自然災害みたいなものだと思うしかないね。人間達はそう思っているし。ちなみに微精霊は火と風と土と水しか居ないみたい。
今私の周りに居るのは風と土かな?なんで集まって来るんだろう?祝福があるからかな?
よく分からないけどあんまり集まってくると私の周りで気象変化が起きそうで怖いんだよね。綺麗ではあるんだけどちょっと散ってもらおうか。う~ん。でもあっち行けっていうのはちょっと可哀そうだよね…。そうだ。ブラッドウルフを探すの手伝ってもらおうか。
私がブラッドウルフの特徴を説明して探すようにお願いすると微精霊達は我先にと散っていった。少しくらい残ってくれても良かったんだけど、みんな居なくなっちゃった。これはこれで寂しい。
寂しさを近くをたまたま横切ったフォレストラビットを捕まえてもふもふして癒してから探索を再開する。フォレストラビットは薬草をあげてから逃がしてあげたよ。さすがにもふもふしてから殺すほど鬼畜ではないよ。【無慈悲】スキル持っているけど。フォレストラビットはこちらから襲い掛からなければ襲ってこないからね。見た目も普通のうさぎだし可愛いよ?
出来れば日が沈む前にブラッドウルフを倒したいんだけど、とりあえず今日はただ森を歩いて探索するだけでも良いんだよね。転移先を増やすためにもマッピングもしておかないといけないから。まだこの辺りは来たばっかりで探索していないからマップが空白なんだよねぇ。…今思ったけど、この世界の既存の地図を取り込んだり出来ないのかな?後で試してみよう。
森を歩くこと30分。素早さが高いせいで歩くスピードも速いから時間はそんなに経っていないけど結構森の奥まで入っていると思うんだよね。フォレストラビットの姿も無くなって代わりにボブゴブリンとフォレストウルフが主力になってきた。
ここまで来ると魔物のレベルは平均で10前後になってきたね。前も言ったけど、10毎にステータスが大幅に上がるから見た目が同じでも油断は禁物だね。一般的な冒険者ならば。
私には関係ないよ。この森の魔物程度ならばみんな格下だからね。今探しているブラッドウルフはどうだか分からないけど、オークジェネラルと同じくらいならば余裕だと思う。
あ、微精霊達が帰ってきた。まさか見付けたのかな?うん?なんだかめっちゃ可愛い全身が緑一色の幼女が居る。精霊だから仕方無いんだろうけど裸なんだよね。ロリコンが居たら目潰ししないと。
「ユーリさま!こっち、いた、よ!」
たどたどしい言葉で幼精霊ちゃんが教えてくれた。控えめに言って超可愛い。別にロリコンじゃないけど、小さい子が必死に喋っている姿って微笑ましいよね?つまり私の感性は普通なのだよ?普通なんだよ!
幼精霊ちゃんと手を繋ぎながら一緒に歩いていく。その間にまだまだ分からないことの多い精霊について質問してみた。
「せいれいに、せーべつはない、けど、みんな、すきなすがたで、かたちをもっている、の!」
そっかそっか~。私が幼精霊ちゃん可愛いなぁと思いながら話を聞けたのはここまでだった。
「いまはね、ユーリさまを、まねる、せいれいがおおい、から、じょせい、のかたちがおおい、の!」
はい?私を真似て?なんで私の容姿が精霊達に知れ渡っているの?どゆこと?
私がそれとなくどういうことだか聞いてみると、幼精霊ちゃんはニコニコと笑顔を浮かべながら教えてくれた。
「おーさまが、かみさまから、すがたをおしえて、もらったらしいの!にじせいれいさまと、たいきのしそせいれいさまが、みんなにひろめた、の!」
おおう。神様お前の仕業かあああ!!!
おっと、神様にお前とか言っちゃダメだよね。精霊王も精霊王でしょ。私が悪い人だったらどうするの?神様と友達だから善人だとは限らないよ?人間なんて腹の中に一物あるのが普通なのに…。私だって善人では無いつもりだし。普通に人を見殺しにしているからね。
教えてくれた幼精霊に(ひきつった)笑顔でお礼を言うと、【索敵】スキルに今までで一番強い反応を感知した。恐らくブラッドウルフかな。思っていたより強いかも?
精霊達が襲われることは無いだろうけど(普通は見えないからね)、念のため精霊達には探してくれたお礼を言って一度散ってもらった。幼精霊ちゃんともお別れをする。ちょっと!寂しそうな顔しないで!後ろ髪引かれちゃうから!
そして、感知した方向に歩いて行くとブラッドウルフを視界で捉えた。どうやら倒したフォレストベアーを食べているようだ。この森のトップの強さを持つフォレストベアーを無傷で倒しているところを見るにやっぱり予想よりも強めだね。
〈種族〉ブラッドウルフ
〈ステータス〉
レベル 29
HP 557/557
MP 0/0
攻撃力 288
防御力 120
魔力 165
精神力 98
素早さ 385
知力 98
器用 57
魅力 62
運 24
〈スキル〉
【気配遮断レベル8】【気配察知レベル5】【超嗅覚レベル5】【俊足レベル3】
【超嗅覚】…嗅覚が非常に良くなる。臭いで鑑定出来る。
【俊足】…【素早さ上昇】の上位スキル。素早さが上がる。
レベルはギリギリ30いってないね。ステータス的にはオークジェネラルよりも攻撃力と素早さが高いけど防御力が控えめだね。ヒット&アウェイタイプの戦闘かな。
しかし、上位スキル持ちだね。効果は単純だけど、ただでさえ高い素早さが更に速くなって厄介なことこの上無い。ちなみにステータス表示で分かる数字はスキルの補正が無い数値だよ。武器とか装備してたらカッコで表示されるんだけどね。
ブラッドウルフが私に気付いたみたい。食事を邪魔されて怒っているね。威嚇するようにヴ~っと唸っている。
そして、素早い動きで一気に接近してきたブラッドウルフは口を大きく開けて鋭い牙で私の首元に噛みつこうと飛び掛かって来た!
元々平和な世界で過ごした私はその迫力に怖気ついて動けなくなってしまう…なんてことがもちろんある訳もなく一挙手一投足まではっきりと見て反応出来たのだけど、ちょっと試したいことがあったからわざと噛まれる様に左手を突き出した。
ブラッドウルフの鋭い牙の生えた口が私の突き出した左腕にかぶりついた。その瞬間周りの木々が騒めいてどこからともなく「わー!」っていう悲鳴が聞こえたけど気にしない。
しばらく私の左腕に噛みついて体を左右に揺らしながら引きちぎろうとしていたブラッドウルフは、ようやく何かおかしいことに気が付いたのかクンクンと鼻を引くつかせると目を大きく見開いて私を見上げる。
【超嗅覚】で私の事を鑑定してようやく気付いたようだけど、もう遅いよ?
私がにっこり笑顔でブラッドウルフに微笑むとばっと私の手から離れて逃げようと踵を返した。もちろん逃がす訳には行かないので〈銃撃魔法〉で頭を撃ち抜いた。一発では殺せなかったようなのでもう一発撃ち抜いてとどめを刺す。手を拳銃の形にして魔法を使ったのはご愛嬌ということで。
私、一応魔法使いタイプなんだけど、オークジェネラルよりHPも防御力も低いウルフを一撃で倒せなかったよ。使った魔法が悪かったのか、オークジェネラルの首を一撃で落とした私の刀が強かったのか…。
そんなことを考えながらブラッドウルフの死体を収納に仕舞うと森のあちこちから精霊が集まってきて私にまとわりついてきた。
別れたばかりの幼精霊ちゃんも再びやって来て私に抱き付いてきた。幼女が涙目で上目遣いしてくる!ぐはっ!ブラッドウルフの攻撃より痛い!心が!!
「うで、かまれてた、の!だいじょうぶ、なの?」
私は何ともないよと笑いながら噛まれた腕を見せた。あ、服に穴空いてる。魔力流して修復しておこう。それ以外はなんの問題も無い。もちらん、腕にも傷ひとつないよ。
私の傷ひとつ無い綺麗な腕を見て安心したのか、幼精霊ちゃんは泣きそうな顔からほっとしたような顔になって、今度は怒ったように頬を膨らませた。
「けが、なくてよかった、けど。なんで、あんなことした、の?とっても、しんぱいした、の!」
ぷんぷんと怒る幼精霊ちゃんを宥めながらどうしてわざと攻撃を受けたか説明した。
私が試したかった、というより確かめたかったのは防御力の数値がどこまで信用出来るのかってこと。
私の今の防御力は554。スキルの効果とか防具込みの実数値だともっと高いけど、この防御力でどの程度の攻撃力ならばダメージを受けるのか試しておきたかったんだよね。痛いのはイヤだけど大事なことだからね。
結果としては、今のところ攻撃力300以下の敵の攻撃ならばダメージは無い、かな。武術とか使われたらまた違うかも知れないけど目安にはなると思う。さっきのブラッドウルフの攻撃は牙を突き立てていたけど、つぼ押しマッサージされているような感覚だったかな。気持ちよくはなかったけどね。
幼精霊ちゃんが呆れたようにジト目で見上げてくるけどその顔もとっても可愛いです。ごちそうさまです。
「むー!むちゃしちゃ、だめなの!」
ごめんごめんと謝りながら頭を撫でる。すると怒った顔からへにゃっとした嬉しそうな笑顔に変わった。ちょろい。そして可愛い。かわいいは正義。
まだ日が落ちるには時間があるので、その後は森の中を散策という名のマッピングをして時間を潰した。森の中に自生している薬草とかキノコとかもついでに採取しておく。売っても良し、自分で使っても良しで悪いことはないからね。
日が落ちてきたところで精霊達とお別れをして転移で森の入り口近くまで移動する。依頼も達成出来たし、今日の成果は中々だったんじゃないかな?ただ一つ不満があるとすれば…。
私はスマホを取り出してステータスを確認する。レベル欄には9という数字が変わらなく表示されているのを見て溜息を吐いた。今回の散策でも結局レベル10には届かなかった。
ま、気長にやるしかないよね。別に世界を救うために魔王を倒す旅に出てるわけでもないし。
そこからは頭を切り替えて今日の夕食は何を出そうか考えながら私はシュトイツへの帰り道を歩いた。




