辺境伯領都シュトイツ01
広大な平原の街道を道なりに進んで行くとやがてブルムよりも二回りくらい大きい町が見えてきた。町が見えてきたところでスマホのマップを確認してみると…やっぱり町の名前が書いてあるね。あの町の名前は『シュトイツ』っていう名前らしい。
望遠鏡で確認した感じ、ブルムと一緒で町の入り口近くでは冒険者達が魔物を狩ったり薬草の採取をしているね。
私はずっと東の方角を歩いているんだけど、町を越えて更に東に行くとついに森に入るみたい。道が整備されているっぽいから横道に入らなければ迷うことは無いと思うけどね。そもそも、私にはスマホのマップ機能があるから迷う要素無いんだけど。
今の私は身分証を持っているから中に入れないことはないはず。それじゃあ、さっそく行ってみようか。
門にだいぶ近付いてきたところでたまたま帰りが重なった五人組の冒険者パーティーと出会った。独りでブルムから歩いてきたと私が言うとみんな驚いた顔してたよ。見た目は普通の女の子だから当然か。遠いところから来たからこの町には初めて来るのって言ったらいろいろと教えてくれた。
ブルムもそうだけど、この辺りはシュトイツ辺境伯っていう貴族の領地でこの町は辺境伯の家もある領都らしい。当たり前だけどこの辺りの町では一番大きくて他領や王都から来る商品も一番多いから多種多様な物があるんだってさ。
町の事をいろいろと聞いているうちに門の前まで来たよ。冒険者達はカードを見せてすんなりと中に入っていったけど、私はカードを見せた途端に詰め所まで連行された。なんで?
「ユーリ。冒険者ランクG。間違いないな。君、ブルムから来たんだよね?」
西門の兵士長さんから尋問されています。意外と情報の伝達が早いね。いや、たぶん冒険者ギルドが何かしらの通信機器を持っているのかな?そんなものがあるというニュアンスの会話をキララさんとしたことを思い出す。
バレているならば仕方ないよね。私はフードを外して真っすぐ兵士長さんの目を見て改めて名前を名乗った。私がフードを外した瞬間、周りの兵士がどよめいたけど気にしない。どうせステータスの高い魅力のせいだから。
兵士長さんも一瞬だけ固まったけど先ほどよりも柔らかい表情になった、これは【才色兼備】の力かな?警戒心を弱くするだっけ?
「安心してほしい。君みたいな冒険者もたまに居るんだ。何か深い事情があって力があるのを隠しているんだろう?ブルムのギルドは半数ほど負傷し、死者も出たが、全滅寸前のところを君のおかげで助かったとお礼状が出ている。それと、功績ポイントを与えて冒険者ランクを三段階昇進させてDランクまで上げるそうだ。必ずこの町の冒険者ギルドに立ち寄ってくれ」
私が最初から助けるために動かなかったことは一部の冒険者から非難の声も上がったけど、ギルドとしては最終的には自分の隠していた力を見せてまで助けてくれたという評価になっているって。ふ~ん。私としてはありがたいから良いんだけどね。冒険者ランクもさすがに一気に上がりすぎだと思うけど、Dランクならばまだ一般的な冒険者扱いだから良いか。
私が了承してお礼を言うと、兵士長さんはむしろ突然詰め所に連行するような形をとってしまって申し訳ないと謝られた。
そんなことがあったけど無事に辺境伯領都のシュトイツの中に入れたよ。面倒だけど宿屋の前に冒険者ギルドに行かなくちゃね。
* * * * * *
冒険者ギルドまで来たよ~。いや~。さすがは領都だね。ブルムとは広さが段違いだよ。人もすごく多いしね!
冒険者ギルドの建物も倍ぐらい大きさが違うんじゃないのかな?3階建てだし。訓練場みたいな大きい広場も併設してあるね。
あ、貼り紙がある。なになに…?「冒険者に必須こ基本的な知識と武器、魔法の訓練をする授業を開催しています。冒険者を目指す人、既に冒険者だけどまだ知識に不安がある人ら遠慮無くお越し下さい。曜日毎の日程か以下になります」…ふむふむ。新米冒険者やこれから冒険者になりたい人に無料で教育しているんだね。人材を育てることに手を抜かない良いギルドだね。
こういう所ならば変な干渉は受けないかな。受けないと良いな。私は期待を込めて入り口の扉を開いた。
ギルドの中には沢山の冒険者達で賑わっていた。ほとんどがDランク以上の人で、たぶんお金に少し余裕のあるパーティーが依頼を受けないで集まって情報収集したり交流したり緊急の依頼に備えたりしているんだと思う。まあ、休暇でギルドに来ている人も居ると思うけど。
日も高い位置にあってお昼時も過ぎた今の時間から依頼を受けようとする人はあまりいない。今から依頼を受けると依頼中に夜になって外で夜営をして晩御飯食べるか、晩御飯抜きになるからだ。
逆に晩御飯が過ぎた後の時間に夜にしか受けられないような依頼を受けに来る人もいるけど、朝のラッシュ時に比べるととても少ないね。依頼内容によるけどほぼ夜営確定だし。
私は一定数の視線を感じながら冒険者依頼受け付けカウンターに向かった。私より少し年上くらいのまだ若い受付嬢さんに声をかける。
私の声を聞いて、受付嬢さんは私が女性でしかもまだ若いことが分かると営業スマイルから本物の柔らかいスマイルに切り替わった。
「はい。どのようなご用件でしょうか?…西門の兵士長からギルドに行けと言われた…?冒険者でしたら冒険者カードを拝見させてもらってよろしいですか?……Gランクのユーリさん…?ユーリ!?」
私の冒険者カードを見た受付嬢さんが驚いたように声を上げた。そのせいで、私の方を見る視線が増えたよ。ああ、気配消したい。
受付嬢さんが自分のせいで注目を集めてしまったことに気付いてばつの悪そうな顔をした。受付嬢さんよりも少し年上の受付嬢さんが隣から覗きこんで私のギルドカードを確認すると、後ろにいる他の職員を呼んで何かを言うと、その職員さんは頷いてその場から居なくなった。ギルドマスターでも呼びに行ったのかな?
それから、年上の受付嬢さんが声を上げた受付嬢さんにこそこそと話をしたあと私に話し掛けてきた。
「お騒がせてして申し訳ありません。建物の奥の方でお話したいのでこれからご案内致しますね」
私は気にしていない旨を伝えて頷いた。2人の受付嬢さんはほっとしたように緊張を緩める。
そして、一度カウンターから出てきた年上の受付嬢さんの案内で建物の二階に上がると、いくつかある個室の中から一番奥の部屋に通された。
私がもの珍しそうにきょろきょろとしていると、案内してくれた受付嬢さんがお茶を用意しながらこの部屋について説明してくれる。
二階にある部屋は全て防音設備のある部屋でギルドから直接冒険者に依頼などの大事な話をしたり、貴族や有力な人からの依頼を受け付けたりする時に使う場所らしいよ。
ふ~んと聞きながら用意してくれたお茶を飲む。味は…紅茶かな。貴族とかを相手にする時があるからか、割りと良いのを使っているっぽい?私にはいまいち分からないけど。
紅茶を待っていると、部屋の出入り口の扉にある石が突然光だした。私がビックリして扉をじっと見詰めると、受付嬢さんが扉まで歩いてガチャっと開けた。
部屋に入ってきたのは40代ぐらいの線の細い体格で眼鏡を掛けた男の人だった。眼鏡の男の人はフードを被ったままの黒ずくめの私を見下ろした。表情は柔らかいけど目には警戒の色が見える。恰好からして怪しいもんね、警戒して当然だ。
「はじめまして、ユーリ殿。ブルムのギルドマスターから話は聞いているよ。まずは、ギルドの職員、それに冒険者達を守ってくれてありがとう」
私は自分の身を守るために戦っただけだからお礼を言われるようなことじゃないんだよね。何人もの人を見殺しにしたのに変わりは無いし。私は紅茶を飲みながらそう言った。
ギルドマスターは私の姿勢を理解したのか深く頷いた。眼鏡を押し上げてから話を続ける。
「貴方は結果としては全滅寸前だったブルムの冒険者ギルドを救ったことに間違いは無いからギルドとしてもきちんと評価させてもらうよ」
評価の内容は門番の兵士長が言っていたものと同じだ。冒険者ポイントが渡されてそのポイントにより一気にDランクまでランクアップするというもの。私は事前に内容を知っていたこともあったので特に動揺もせずに頷いて了承した。
手続きのために部屋の隅に控えていた受付嬢さんにギルドカードを渡す。待っている間にこの町のことや町の周囲にいる魔物や地形のことなどいろいろと雑談交じりに質問していく。いくつかの質問を終えた頃にはギルドマスターの警戒心もだいぶ解けて穏やかに会話をするようになった。
「しかし、先に情報を集めるというのは関心するね。情報収集の大切さを知るのはDランクのごく一部とCランク以上の冒険者が多いんだよ。情報集めは冒険者として大成するために必要なことだからね」
そして、シュトイツのギルドの資料室は領都という大きい町にあるギルドというだけあって資料がとても豊富らしい。もし時間があるならば見ていってほしいって推奨された。どうやら、ギルドマスター自らが各地で様々な資料を集めて回って納品しているらしいよ。
自慢のコレクションを見てほしいだけじゃない。とは思ったけど、私にとっても悪い話じゃないからしばらくは資料室に通おうと思う。そんな話をしていると入り口の扉の石が光ってギルドマスターが声で入室を許可するとガチャっと扉が開いた。
帰って来た受付嬢さんから更新した冒険者カードを受け取って確認する。
冒険者カード
〈冒険者ランク〉D
〈名前〉ユーリ
〈レベル〉9
〈ジョブ〉魔法使い
〈スキル・魔法〉空間魔法
お~。ランクが一気に上がったね。これでCランク以下の依頼が受けられるようになったよ。
「一応聞いておきたいんだが。君はパーティーを組む気は無いのかい?」
パーティーねぇ。私はちょっと、いや、かなり特殊だから誰とも合わないと思うんだよねぇ。今のところは一切その気は無いと答えておこう。ギルドマスターも私の返答を予想していたのか「やはりか」と呟いただけで特に何も言わなかった。
用事も終わったので宿を探しに行こうと席を立つと最後にギルドマスターがこう締めくくった。
「今日は時間をとってしまって悪かったね。君のこれからの活躍に期待しているよ」
期待されてもねぇ。私は自分のこと以外には積極的に動くことは無いよ?冒険者として依頼は受けるし、人の営みとかも見て回るけどね。
思ったよりも時間を取られてしまって、結局その日は宿を見付けただけで終わってしまった。部屋にはいったらすぐにベッドにダイブする。うわ、ブルムの時に泊まっていた宿にあったベッドよりもふかふか!
明日からはしばらく資料室かなぁ…。ふかふかのベッドに体を埋めてこの後のことを考える。いろいろと考えていたけどお腹が減ってきたから晩御飯を魔法で作ってもぐもぐと食べた。だいぶ魔法のある生活にも慣れてきたね。
最終的に考えるのを放棄した。成り行きに任せてこの世界を見るほうが楽しそうじゃない?でも資料室には通うよ。情報と知識は大事だからね!
よし寝よう!ふかふかベッドダイブ!あ~これだけは日本でも絶対に勝てないだろうねぇ。おおう。眠気が襲ってくる。おやすみなさい。ぐぅ。




