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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~三章 復讐の拳闘士編~
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二十五話 くだらぬ勝負ほどよく燃える


「それでは一回戦を始めたいと思います! 両者、前へどうぞ!」


リングアナがコールすると、ギャラス町長と私は一歩前へ出る。


「──ちょっと待ったぁ!」


勝負が始まろうとした刹那、その間に割って入るバラコフがあせりながら言った。


「ん? 何かまだ至らない点でも?」


町長は自分のあごしたをグリグリと触りながら言う。


「あたしがジャンケンする! ヴィエリィ、あんたは下がってなさい!」


「え!? なんで? わたし絶対勝つよ!」


「あんた昔から熱くなると"グー"しか出さないでしょ! こういう心理戦はあんたには不向きよぉ!」


「うっ……!」


悔しいが事実である。私はジャンケンになるとほとんどグーしか出さないのだ。そのせいでジャンケンで勝ったためしがあまり無い。だってなんかチョキとかパーとかって自分の気持ちに嘘ついてるみたいで嫌なんだもの。


「町長かまわないわね?」


「……まあいいだろう。だがあくまでも負けた時に服を脱ぐのはヴィエリィ君だ。ジャンケンの代理は認めるが、条件はそのままだ。彼女が裸になった時点で勝負は終わるものとさせてもらうよ」


「かまわないわぁ。勝つのはこっちよぉ!」


仕切り直し──! 勝負の行方はオカマと町長の一騎討ちである!!


「……バラコフ、頼むわよ」


「リリアンつってんでしょ! ……任せなさいよぉ。こんな勝負さっさと終わらせてあげるわよぉ」


リングの中央に歩み寄ると、睨み合う二人。その熱さと緊張感の割には、この世でもっともくだらない勝負が始まるのである。


「一悶着ありましたがみなさんお待たせしました! それでは改めて両者! かまえて!」


その浅黒い巨体をかまえるバラコフ。それに対して腹の出ただらしなボディの町長。両者の拳に力が入ると、場内のどこからか軽快な音楽が流れ始めた。


()(きゅう)~す~るなら~こういうぐあいにしやしゃんせ~♪』


その音楽に乗せ、観客らの合唱が始まった!! それは熱烈であり、他に見れぬ賭け事とエロスの混じった興奮、他者の不幸を見ることによる傍観者達の狂喜の合いの手!! たかがジャンケンにこれほどまで盛り上がっているのは世界でもここだけであろう!


『アウトォ! セーフ! よよいのよぉい──!!』


最後の掛け声と共に二人の手は出された!


一方はパーを出し、もう一方はグーである!


すなわち、あいこにならず一回戦は決着! そして勝ったのは──


「よぉし!!」


「ぬぬっ!」


ガッツポーズのオカマ! 渋い顔をする町長! 落胆する観客!


「勝者──挑戦者チーム!」


一回戦はバラコフの勝利である!


「やった! さすがだね!」


「あったりまえよぉ!」


喜ぶ私達とは裏腹に場内はブーイングの嵐である。


「なんでブーイングするのよ!」


「悲しいかな、男ってのは性欲の奴隷なのよ。オカマのあたしが言えたことじゃ無いかもだけど哀れねぇ……」


私が怒ると、達観するようにバラコフが言った。


「さあ! 続けて参りましょう! 二回戦です! 両者、再びその拳をかまえて下さい!」


仕切るリングアナの言葉でまたも一瞬の勝負が始まろうとする。


「バラコ……リリアン! ファイト!」


「やるわよぉ!」


戦いの音楽が流れ始める! 奇怪な合唱がまた場内を包む! 拳が高く掲げられ、それを振り下ろす瞬間を待ち望むのである!


『アウトォ! セーフ! よよいのよぉい!!』


──出された手は……"チョキ"と"パー"!


「決まったあ! 二回戦、勝者は──」


リングアナの宣告、勝者のチョキはブイサインを描いて天を指した!


「またも勝ちました挑戦者チーム!!」


「やったあ!」


「どんなもんよぉ!」


連勝! 連勝! 流れはこちらにあり!


「……やるじゃないか」


「残念だったわねぇ。あたし、これでもジャンケンなんかの心理戦は得意なのよぉ」


町長が呟くと、ふふんと鼻を高々と突き上げバラコフは背を伸ばした。


「これであと一回ね! さっさと終わらせて帰らせてもらうわ!」


私は嬉々として跳ねた。これで敵は後が失くなったのである。こちらはあと一回でも勝利すれば全てが終わる。加えて敵はこれから逆転勝利するのにここから六連勝もしなくてはならないのだ。


誰が見ても結果は明白な勝負……! 流れは完璧にこちらへと傾いている。


──それなのに、敵はなぜか妙に落ち着きを払っていた。それは元々賭けているのが町長からしたら端金(はしたがね)だからなのか、それとも逆転できると言う自信の現れなのかはわからない。


『まーた町長の悪い"クセ"が出たな?』


『役者だねえ。これだからあのギャラス町長はたまらねえよ!』


『魅せてくれますねえ! 勝負はギリギリだから面白いんですよお!』


妙に落ち着いているのは町長だけでは無い。観客達もニヤニヤと笑いながらこちらを見下ろしている。


「……? なんか妙な雰囲気ね」


「ほっときなさいな。ただの負け惜しみよぉ」


私は何処か背筋を走るような悪寒では無いが、うすら寒い奇妙な感覚を察した。だがそれはバラコフの言うように気のせいなのだろう。だって誰がどう見たってこちらの優位は変わらないのだ。


「これはピンチです! ギャラス町長、後がもうなくなってしまいました! ここから逆転はあるのかー!? さあ三回戦! これで終わるか、はたまたまだ続くか!? 両者、かまえて!」


高まる歓声、呼応するように心音が上がる。これで決着にするため、オカマの手に力がより一層と入った。


「(……あんたの次の手は──)」


バラコフの脳内に思考の渦が巻いた。ジャンケンとは、決して運によるものだけでは無い。場の流れ、相手の性格、微妙な身体の変化……それ等を符合させ勝利への方程式を導くことにより、勝利への確率をぐんと高める事が可能な心理戦でもあるのだ。


「(最初の敵の手はグー、そして次はパー……。間違いない、こいつは前回の手よりも強い手を出そうとする傾向の持ち主……!)」


人には、無意識に決まった思考パターンが偏在する。それは無自覚な分タチが悪く、中々に直るものでも無い。


町長の思考パターンはわりと凡俗なものである。よくあるパターンの一つ……連続する手は出しづらく、変化を求める。さらに言えば前回の自分の手よりも強い手を出して勝ちにいく王道と言えば王道のシンプルな勝負手。


最初にグー次にパーなら、さらにその次ぎはチョキ、もしくはグーのパターン。この説が真ならこちらは次に出す手をグーにすれば、最悪でもあいこになるだけでまず負けは無いのである。


「(ここはもちろんあたしはグー……! 安定を取ってあいこでも情報が得られるに越したことはない……!)」


もちろん、読んだその手に絶対は無い。だが確率ではこれが最善なのだ。仮に裏をかかれて負けたとしても、こちらのライフは充分にあるし更なる敵の心理情報を読み取れるメリットであるのは違いない。


『アウトォ! セーフ! よよいの──』


「「よぉい!」」


三回戦──決着を望むその手は、



グー対パー!!


「勝者──チャンプ、ギャラス町長!!」


「ぐっ……!」


「ははは! 私の勝ちだあ!」


読んだその手は読まれていた! 町長は手のひら、パーをひらひらと舞わせながら観客に手を振る。


『さっすが町長! エンジンかかってんな!』


『いいぞいいぞー! こっからだー!』


『それを待ってた! 脱げ脱げー!』


野次が雨のように降り注ぐ。読みの手が外れた彼の肩を私はポンと叩く。


「ドンマイドンマイ! まだ一回負けただけよ!」


「そ、そうねぇ。大丈夫よぉ次は勝つわぁ!」


落ち込んだように垂れるドレッドヘアを掻き分けて、気を引き締める如く自身を奮いたたせる。


「では挑戦者は負けた代償としてグローブを外して下さい!」


リングアナから言われて私は手につけたグローブを外して地面に置いた。これでこちらはあと五回負けたら終了である。まだまだこれからだ。


「ではでは! 四回戦! 張り切っていきましょー!!」


バラコフは静かに目をつむる。敵のさっきのパターンが外れた事を踏まえてもう一度考えを改めるためだ。


「(敵もそこまで単純じゃないか……。私の読みに合わせて裏をかいてきた可能性が大……! でも逆にこれで絞れた!)」


冷静に分析する。敵は二連続でパー、三連続でパーを出してくる豪気さを持っているか? 否、少なくともこの短時間で見たこの男は口ではフェアと言っているが姑息な大人に過ぎない。根が小者であるこいつに狡猾さはあっても豪気さは無いと踏む。


次の手はパー以外の手! すなわちグーかチョキ……! さすれば、グーを出せば安定である。


「(今度はあたしが二連続でグー……! 裏をかいたあんたを討ち取る(グー)だっ……!)」


『こういうぐあいにしやしゃんせ~♪』


決める……! そう心から聞こえてきそうな程に集中をするオカマは今、この世界で一番頼もしいかもしれなかった。


『アウトォ! セーフ! よよいのよぉい!』




差し出された討ち取るグー! それに対抗したギャラス町長の手、それは──



「なっ……!」


「おっとっとっと──これは強気なグーだ……。だが残念っ……! 私はもっと強気なのだよ……!」



まぎれもない開かれた手、町長はパーを出してこちらに上目で語るのであった。






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