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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~三章 復讐の拳闘士編~
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十四話 我ガ名ハ参号


「……? あの人形なんで立ってるの? あなたが動かしてるんじゃないの?」


「ち、違うよ! ぼくは動かしてない! なんで勝手に動いてるんだ!?」


静かな森に衝撃が走った。まるで幽鬼の如く立ち上がってこちらを見つめる鉄の人形は、キュルキュルと鉄を擦り合わせたような音が聞こえ、直立不動に佇む。


「──起動ジュン備チュウ……起動、ジュン準備チュウ……。プログラム……修復中……。──システム稼ドウ率……30%……」


顔についた細長い黒い目の部分が赤く光り出し、真四角の口がガチャリと開いて人の声とは違う耳に刺さるような音を出した。


「なによなによぉ! 変な声が聞こえるわよこれぇ! 爆発でもするんじゃないのぉ!?」


「こんな機能、ぼくも知らない……!」


「これは──なに──?」


人は見たことの無いものを見たとき、硬直をする。それは何をしでかすか分からぬ恐怖であり、現実を信じられない一種の逃避であり、そして──果てぬ好奇心によるものからである。



「────セットアップ、カン了。参号、起動」



鉄の体から空気を抜いたような力強い音と共に、人形はその両手を高く上げ、肘を少し曲げながらポーズをとってみせた。


「に、人形が勝手に暴走したわぁ! ヴィエリィ! 逃げましょ!」


「──か」


「なにやってんのよぉ! ほら早くぅ!」


「カッコいいーーーーッ!!」


私は自分の腕を引っ張るバラコフを振り払って人形に全力で近寄った。不思議と恐怖は感じない……というか、そんなことよりも好奇心が勝ってしまったのだ。だって勝手に喋る人形なんて初めて見たのだから。その凄さと美しいフォルムに私はもう虜であった。


「お馬鹿!! 何やってるのよぉ!」


「お姉さん! 危ないですよ!」


離れた二人は依然として警戒する。しかし人形は私が近づいても何もしてこない。それをいいことに私はベタベタと人形のあちこちをさわり始める。


「すごいすごい! どうやって声を出してるのかしら!? それに動力はなに!? 中で石炭でも燃やしてるの!?」


「──アナタガ、私ヲ起動サセタノデスカ」


謎しかない構造に興奮していると、鉄の人形は私に質問までしてきた。


「会話もできるの!? やばい、感動してきた……。私はヴィエリィ! あなたは誰なの?」


「我ガ名ハ──『参号(さんごう)』。機械人間メタル・ヒューマノイドデス。マスターヴィエリィ、ゴ命令ヲ」


「『サンゴー』? サンゴーって言うのね! マスターなんて野暮ったいわね、もっとフランクに私のことはヴィエリィでいいわ! よろしくねサンゴー!」


「……『ヴィエリィ』──。ネーム、インプット完了。言語、フランク、セット。──ヨロシク、ヴィエリィ」


私は嬉しすぎてサンゴーに抱きつくと、その銀色の硬いボディを堪能するように触りまくる。


「なんなのよあれ……」


「──機械だ……。五百年前のオーバーテクノロジーだ……。すごい……これは歴史的大発見だ……!」


バラコフがつぶやくと、ホビィはわなわなと震えながら古代のオーパーツを見つめた。


「機械!? あれが機械!?」


「ぼくは人形職人の家系だからわかるんだ。大昔──まだ世界に機械が満ち溢れていた頃、自律する機械の人形がいたかもしれないっていう文献が残ってるんだ。そんなの嘘かと思ってたのに、本当にいるなんて……」


「嘘でしょ……。機械なんてバーにある古ぼけて壊れた蓄音機しかみたことないわよ……。じゃああれは五百年前の機械で……ってなんでそんなもんがあったとして動くのよ!?」


「……たぶんだけど、さっきの戦闘で何かしらのスイッチが入ったんじゃないかな……。強い衝撃を与えることで動くとか……」


「そんなアホなぁ!」


目の前にいるのは伝説の存在といっても過言では無い。機械の人形、その動力も構造もわからぬ物がこうやって普通に人間と対話できるのがまた信じられない。


「ヴィエリィ! そいつは機械の人形なんだって! だ、大丈夫なのぉ?」


「え? そうなの! 機械! やばっ!」


それを聞いてさらに楽しそうにする相方を見てバラコフはもう何も言わなかった。


「サンゴー! あなたはどうやってここまで来たの?」


「私ハ……自分デ歩イテココマデ来マシタ。途中、システムエラー発生、強制終了(シャットダウン)シテマシタ」


「シャットダウン? よくわかんないけど動けなくなったの? じゃああの酒場から一人で船に乗り込んでここまで来たのか……」


私はてっきり盗まれたものだと思ってたが、どうやら早とちりだったようだ。まさか自分で動いてここまで来るとは誰が予想しようか。その行動力にただ驚くばかりである。


「それじゃあ、あなたはどこで生まれて何しにここへ来たの? 仲間はいたりするの?」


私は続けて質問をする。しかし、その質問にサンゴーはしばし沈黙をする。


「質問……解答準備……。記憶回路(メモリー)ニ異常有リ。解答──不能」


「なんかしゅーしゅー言ってない? 大丈夫なのぉ?」


バラコフが心配そうに離れたところから言う。サンゴーは私の質問に対して頭から排気を出しながら黙っている。間が空いたのち、サンゴーは口を開いて機械的な声……と言ったらいいのだろうか、そんな人間を模倣し近づくような声で謝るように言ってきた。


「ソノ質問ハ現時点デ解答デキマセン。私ノ記憶ガ破損シテイマス。」


「今は答えられないのね? 全然大丈夫! 別にあなたがあなたであることに変わりはないわ! それなら私があなたの記憶が甦るまで一緒にいてあげるわよ!」


私はサンゴーの肩をばしばしと叩いて笑う。


「待て待て待てぃ! あんたその機械を連れて行く気なのぉ!?」


「旅は道連れ世は情けよ! 記憶が無いなんてかわいそうじゃない。戻るまで一緒にいてあげようよ」


「いや、あんた、記憶が戻るとか戻らないとかじゃなくて……だってそれ機械よぉ!?」


困惑するのも無理はない。急すぎる展開にオカマの脳はオーバーヒートである。


「サンゴーはただの機械じゃないわ! こうやって私達と同じ対話をしてる以上、人間と機械に壁なんて無い筈よ!」


「──!」


バラコフはその言葉を聞いて過去を思い出す。自分が人と違うオカマと言う存在として差別され、いじめられていた子供時代。彼女は自分のことを一人の人間として対等に接してくれた。あの時も彼女は今と同じような事を言っていたのだ。


そしてそれは人間と逸脱を差別しないこの国の指針的な考えでもある素晴らしいことだ。バラコフはすっかりそんなことを忘れていた自分を恥じた。そうだ、生きてる以上──壁なんてものは無いに等しいのだ。


「──そうね。そうだったわね。あたしが間違ってたわ。動物だろうが機械だろうが何でも誰でも壁なんて無いわよね」


「そうだよ! みんな等しく楽しく、友達さ!」


私は新たにできた人間以外の友達に嬉しさを覚える。バラコフは鼻で笑いながらこちらに近づいて機械の彼に握手を求めた。


「サンゴー……って言ったわよね? じゃあ──"サンちゃん"! よろしくねサンちゃん! あたしの名前は──」


「彼は『バラコフ』だよサンゴー!」


「『バラコフ』──ネーム、インプット完了」


「『リリアン』よぉ!!」





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