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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~三章 復讐の拳闘士編~
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三話 売り上げ


おしゃべりをしながら軽快な足取りで山を下り、険しい道を慣れたように進むと四時間足らずで港町が見えて来た。


「おっ。もう着いたね」


「あんたと一緒だとペースが速くてさっさと着くから嬉しいけど、そのぶん倍疲れるわね……」


「えっそうかな? こんなの準備運動にもならないよ」


「あんたのスタミナがおかしいのよ! たまにはもうちょっと女の子らしいこと言ってみなさいよ!」


「はは! バラコフよりは私だって乙女さ」


「本名言うな! その乙女の片鱗が無いから言ってるのよ! まったく昔から何にも変わらないわね……」


バラコフは肩で息をするように言う。私はと言うと、一滴の汗も流さずに息一つ乱すこと無く彼を見て笑っていた。


急ぐように港町まで移動した私達はさっそく船着き場に向かう。ヴァスコ村と違い港は今日も色んな人がいて賑やかだ。港にいる顔馴染みの漁師や屋台の店主に挨拶をしながらお目当ての商人が乗った船を探していると、丁度よく水平線の向こうから私が依頼した商人の船が帰って来たようだ。


「あっ! 帰って来た!」


「帰って来たわね……」


「今日は私がご飯奢ってあげるよ! うろうろくんの売り上げ金で!」


「期待しないでおくわ。あんなのが売れるわけないでしょ」


「またそんなこと言う! 逆に売れない道理がないでしょ!」


「(この子の謎の自信はどこから沸いてくるのかしら……)」


船が波止場に止まると、やつれた顔をしながら商人がふらふらと降りてきた。


「おじさーん! ヴィエリィです! うろうろくんの売り上げをくださーい!」


私は元気いっぱいに声をかけて、期待まんまんに両手の手のひらを差し出した。すると、商人はムスッとした顔をして私のその手のひらに、たったの二百G(ゴールド)をチャリンとのせてきた。


「…………? これは?」


「売り上げだ」


「なんの?」


「お前さんの変な人形のだ」


「えっ──ええええええええっ!!??」


衝撃の言葉である。一心不乱、誠心誠意をこめて作った渾身の人形は売れなかったのだ──!


「ま、待って待って待って! えっなんで!?」


「こっちが聞きたいわい! お前さんのあの変な人形はたったの一つしか売れなかったんだよ! おかげでこっちは大損だ! こいつのせいで船の積載量は圧迫するし、はるばる東大陸まで行ったってのに誰も見向きもしねえ! 時間と労力の無駄とはこのことだ! 手数料分も儲からねえこんな仕事は始めてだぜ! さっさとこのガラクタを引き取って失せやがれ!」


商人は船から大量のうろうろくんを私に投げつけると、がに股に鼻息を鳴らしながら去っていった。


山のような人形に埋もれた私を見てバラコフは遠い目をしている。それは哀れな者を見るような目でもあるし、ある意味では同情を誘うような目でもある。


私は放心状態で固まっていた。自分の先見性の無さや多額の投資、どうやっておじいちゃんに顔を会わせればいいのかと頭の中で様々なことが渦巻いている。


「……ヴィエリィ。わかったでしょ。あんたにはセンスが無いのよ……」


「──うっ。うぐぅ~~~~!」


声にならない悔しさが喉元から捻り上がると、私は静かにうなだれた。


「どーしたんだ?」


「なんだヴィエリィまた変なことやらかしたのか?」


「なんだよ、その人形。すげえだせえな」


私の悔しそうな顔を見に来たのか、港町で漁師をやってる知人がぞろぞろと集まってきた。


「あらん。みんなちょっと聞いてよぉ。この子ったら変な人形を量産して大損こいたとこなのよぉ」


バラコフがオカマ口調でそう言うと知人達は遠慮無しに笑いだした。


「はっはは! ヴィエリィお前もこりないなあ。こんなセンスの無い人形初めて見たぞ」


「確か前は村にシンボルとなる銅像を作るとか言って奇妙な像を作って子供を泣かせてたよな? お前は伝統ある家柄の娘なんだからもっと落ち着けないのかね」


「そうそう。そんなんじゃ嫁の貰い手もねえぞ! だはは!」



お構い無しに好き勝手に言う彼等。しかし、私の静かなる殺気が全員の笑いを止めた。


「──あ? もういっぺん言ってみろや」


怒りを込めた口調で彼等に言う。それを聞いて青ざめた顔をした知人達は、身の危険を感じ必死に弁解を始める。


「じょ、冗談だよヴィエリィ。よく見たら素敵な人形じゃないか……」


「そ、そうそう! なんつーか気品があるっつーの……? 家柄が出てるねぇ~!」


「い、いやあこんな事ができるのは可愛くてスタイルのいいヴィエリィだけだぜ! 惚れちまいそうだ!」


次々に手のひらを返すように彼等は目を泳がせながら言った。


「──ほう。ならてめえらこれを買い取れ」


「「「え?」」」


「カッコいい人形だろ? 買い取れ」


「「「いやあ……それは……」」」


「買え」


「「「はい……」」」


私の一睨みが有無を言わさない。彼等は渋々とお金を払うと、その大量の人形を抱えながら暗い顔でいそいそと去っていく。


「ヴィエリィ……なんて恐ろしい子なの……」


バラコフが引きながら私を見つめた。


「──ようし! 全部売れたね! 飯でも食いに行きますか! わはは!」


私は何事も無かったように高笑いをしながら船着き場を闊歩(かっぽ)する。終始バラコフがドン引きしてたが気にしない。だって私は悪くないもの。


「今日は美味しい肉でも食べちゃおうかしら! お金があると心も豊かになれるわね!」


「さっきまで豊かの『ゆ』の字も無かったのによく言うわよ……」


「あはは! なんのことかな! ──ん? あれは……」


在庫も捌けて気分良く歩いていると、普段はあまり見ない露店商が妙な物を売っているのを発見した。きらびやかなアクセサリーが並ぶその横に、大きな鉄で出来たまるで一人の人間のような人形が置いてあったのだ。


「うわっ! なにこれなにこれ! すごい……! カッコいい……!」


「ちょっとヴィエリィ。あんた只でさえ無駄遣いが激しいんだからさっさと行くわよ。それにもう人形はいいでしょ。まだ懲りないの」


子供のように目を輝かせながら鉄の人形を見つめる私。すると露店商のおじさんがこう言ってきた。


「お姉ちゃんお目が高いねえ。こんなに大きな鉄の人形なんか滅多にお目にかかれないよ」


「すごいですねこれ! どうやって、誰が作ったんですか!」


「実はな、こいつは北の大陸近くの漁師が海から引き上げたんだよ! 魚と一緒に網に絡まってたそうだ。誰が何の目的で作ったか知らないが見る限り中々の代物には違いない! どうだお姉ちゃん! 買ってみないかい!」


露店商は交渉する。鉄の人形のその銀色に光る胴体が私の心を揺らす。


「ちょっともう行くわよ! そんな怪しいもん買ってどうすんのよ! またおじいさんに怒られるわよ!」


「…………いくらですか」


「へい! こちら十万Gだよ!」


「高っっっっか!! 誰が買うのよそんなもん! バカでも買わないわよ!」


「買うわ」


「バカーーーーーん!!」


バラコフの忠告を無視して私は先ほどの売り上げ金の全てを使ってその人形を購入した。








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