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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~二章 献身の聖女編~
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二十七話 神の真意


緊迫する空気が私達の呼吸を早めた。マルセロさんは地に落ちた剣を拾うと、手から流れる血潮を無視するように握りしめる。それと同時にお父さんと目配せをすると、二人は左右に分かれて敵を挟み込むよう攻撃に移る。


「ぬううおらああッ!!」


「『降雷斬(こうらいざん)』ッ!」


その怪腕で強引に振り回される斧と、一方では高くジャンプをしながら降り注ぐ雷のような一閃が敵を()たんと速攻をかけた──!


「シンプルながらいいコンビネーション! ならば私も強めにいきましょう! 『打撃の喝采シュラーク・バイファール』!」


迫る攻撃を意図も気にせず、ソルダーノはその両手でやや大袈裟な拍手をする。パチパチと鳴らす手のひらからその音と一緒に、まるで水面に投げ込まれた石のような波紋を見せると、衝撃波が波を打って二人に襲いかかる!


「ぐああっ──!」


「グ、ハッ! なんだ、この威力は……!」


衝撃波は二人を簡単に吹き飛ばし、その身体に大きな打撃痕を残す。マルセロさんは痛めた身体をガクガクと震わせ、お父さんは口から血を吐きながらはうずくまっているのを見ると相当なダメージなのだろう。


「二人ともいま私が治して──」


「ストップ! チェックメイトです。癒しのJunge Dame(ユンゲダーム)(お嬢さん)。あなたが動いた瞬間、そのかわいらしい顔を破裂させますよ」


「うっ……」


白き男はその片手を私の前に出しながら言った。


「その能力……あなたは『音』を攻撃へと変える能力ですね」


私は彼の手を見つめて答える。


Ja(ヤー) 正解です。私は自らが出した『音』を強い衝撃波に変えたり、風を切るような音を出して真空の刃に変える事ができる能力です。私が旋律(メロディ)を奏でる限りは、決して何人たりとも勝てませんよ」


「ぐお……サビオラから……離れろ、クソ野郎……!」


「お父さん……!」


「虫の息ですな。──サビオラ君。君はどうする? 私の能力がわかったのなら勝ち目が無いことは明白だ。そこで提案したい。君、私達の仲間にならないかね?」


「何を言ってるのですか! そんなのお断りです!」


「もし君がそれを呑むのであれば、そこの二人は見逃してあげましょう。教団からみても君の能力は非常に珍しく、貴重であるからね。もちろん断れば二人は死ぬ。もちろん君もね。さあ、どうするかね」


「そんな……」


状況は絶望的である事は確かであった。この人には迷いや隙がない。そして防ぎようのない音の暴力的な能力は、これほどまでに強さを示している。頼もしい父と剣士はすでに瀕死と言っても過言では無い。このままでは間違いなく全員殺されるだろう。──私に残された選択肢は一つであった。


「ほ……本当に二人は見逃してくれるんですね──」


「約束しよう。私は紳士だからねえ」


「だめだ! その男の言うとおりにしては……!」


マルセロさんが剣に持ってふらふらと立ち上がった。


「マルセロさん! もう無理をしないで下さい……! このままではみんな殺されてしまいます!」


「サビオラ……! パパにまかせろ……! そんな奴、いますぐぶちのめしてやるぜ──!」


「お父さん……!」


父も続くように立ち上がる。私は二人のその姿を見て狼狽えた。


「ははは。まだやるのですねえ。面白い、実に面白い! ここまでタフな人達は久しぶりです! 楽しくなってきました!」


「スタムさん……! 奴の手だ──! 手の動きに注視するんです!」


「わかってるぜ! あの手からやばいのが来ることはよくわかった! うおおッくらえや!」


ブオオンッ!!


お父さんは斧を力の限り振り上げると、それを思い切り相手に向かって投げつける。斧は轟音を鳴らしながら一直線にソルダーノの胴体目掛けて弧を描いた!


「武器を投げましたか! それは悪手! 『破裂の旋律(ブルッフ・メロディ)』!」


両指をパチンパチンと連続で鳴らすと、投げた斧は空中で破裂音をさせながらあらぬ方向へと飛ばされる。


「その瞬間を待ってたぞ! はああッ!」


同時であった。敵がその手を迫る斧に向け迎撃する瞬間、マルセロさんは真っ赤に血に染まる腕を頭上にかかげてその必殺剣を放つのである──!



「──アホかね? 私には手があり、そしてこの『足』もあるのだよ──『打撃の旋律(シュラーク・メロディ)』!」



ソルダーノはそのすらりとした白い足をあげて地面を叩こうとする──が、


"ぐにゅ"っと、聞き慣れない音がする。それは決して地面を叩く『音』では無い。


「なっ──!?」


「させない、です……!」


足が地面を叩く直前、私は腕を伸ばして自分の手を踏ませることでその音を殺したのだ──。


「よくやったッ! サビオラ! マルセロ決めろおお!!」


「くらえ!! 『稲妻斬』ッッ!!」


ザンッッ!!


縦一文字、雷の如き必殺剣が決まる──! 敵を切り裂くと、その身体から血が飛び出た。銀の剣士と白き紳士は互いにバタリと倒れると、私はいそいで傷を治すためにマルセロさんに触れた。


「マルセロさん! すぐに治します! 『治癒の手(ヒール)』!」


「やったぜ……! ざまあみろってんだ!」


「はあ、はあ、……恐ろしい相手でした……」


満身創痍の勝利である。私達は辛勝と相成った強敵を見て一安心をする──



「──いやあ、やってくれますねえ」



「なに!?」


「なんだと!?」


その男はむくりと、深い傷跡を見せながら立ち上がったのだ。


「馬鹿な……! 致命傷の筈だぞ!?」


「ええ。すごく痛かったですよ。ただ、私には秘密兵器がありましてね。諸君らには聴こえないが私だけに聴こえる『音』があるのですよ。それのおかげで衝撃をやわらげて何とか助かりました。ここで問題! その『音』とは? さあ、答えてみてください」


「うるせえ! どうなってやがる!?」


「なぜ、立てるのですか……!」


ソルダーノはニコニコと笑みを浮かべながら質疑を問う。私はその彼の姿に恐怖した。この人は普通では無い──確かについたその傷跡を気にも止めないのは、底知れぬ怪物を想像させるようだ。


「はい。時間切れです。死にゆく君達に特別に教えてあげましょう。それは私の『心音』です。常に動き、鳴らす心音は微弱ながら私を守る衝撃波を出しているのだよ。だから彼の剣は止めとならなかった──。惜しかったねえ。もう少し威力があれば私を倒せていたよ」


「そんな……!」


「ならば、この剣でもう一度──」


「それは不可能。もう君達にはそんな力は残ってないんだねこれが。残念ながらあとは静かに終わるだけだ。──『刃の喝采クリンゲ・バイファール』」


腕を俊敏に動かすと、無数の真空の刃がマルセロさんと私に向かって雨のように降り注ぐ。


「サビオラ! マルセロ!」


「きゃああ!」


「くっ! 『雷雨(らいう)ノ舞い』ッ!!」


舞わせた剣が襲う風の刃を打ち落とす。しかし、打ち漏らした刃が私達を徐々に切り刻むように細かく肌を裂き始めた。


「このままでは……!」


「回復が追いつかない……!」


「終わりです! 音を立てて崩れたまえ!」


一際大きな刃が飛んでくる。マルセロさんは疲労困憊(ひろうこんぱい)の腕をガクつかせながら私を見た。


「サビオラさん──すまない……!」


彼はそう言うと、私の肩をドンと押す。その刹那、大きな刃が彼を引き裂いた。私をかばって引き裂かれたのだ。


「ぐ──はっ──」


「あ、ああ──! マルセロさん!」


「身代わりになりましたか! いい判断です。残るは二人──さて、どう戦ってくれますかな?」


「野郎おおおおッッ!!」


お父さんが吼えながら突進する。敵はそれを見るとニヤリと笑って手を構えた。


「特攻するのはいい覚悟ですが──勝利には遠いですなあ! 『打撃の旋律(シュラーク・メロディ)』!」


ソルダーノは足を地面にダンッと踏むと、お父さんは目にも止まらぬ速さの衝撃波に足を打ち抜かれて豪快に転んだ。


「ぐお……くそっ……」


「お父さんしっかり!」


私は突っ込むようにこちらに転ぶ父を介抱する。


「ふむ。他愛なしですな。あなたの怪力なら私を倒せるでしょうが、近づけなければそれも無意味。私の音は全てを叩きのめせますからねえ」


「ソルダーノさん……! あなたは、あなたの神は無慈悲です──! そのような思想ではこのバイエルの民も、西大陸全土にもその悪行はいつか必ず知れ渡ります! こんな冒涜が許される筈がありません!」


「──はは。ははは! まだ君はそんな事を言うのですね。では答えましょう。なぜ(セント)ミカエル教団はここまでの発展を遂げてこんなにも信者がいるのだと思う──?」


「それは素晴らしき教団の教えと、歴史の研鑽、大天使ミカエル様の加護があってこその賜物です!」


「……四十点ですな。残念だがそんな事では他の宗教に負けるでしょうな。君はこのバイエルの街を見ただろう? 人々が眠りについていただろう。あれは定期的にそうさせているのだよ」


「なんのために──」


「まだわからないかね。つまり洗脳(・・)しているのさ。眠りについた人々をゼルメイダが甘い夢を見させて心の底から支配しているのだよ。首都であるバイエルさえ抑えればあとは勝手に発展を遂げる一方だ。この大聖堂は名誉の塊、信仰心と言う名のブランドを求めて各地で信者はゆっくりと、じわじわと増えるのだよ」


「嘘です……! そんな事で信者は増えない……! それに教団は五百年も前から栄えているのです! もしゼルメイダちゃんがそうしているとしても、大昔からやっていないと辻褄が合わないです!」


「──だからその"大昔"からやっているのだよ」


「──え」


「彼女は、ゼルメイダは五百年も前からこのバイエルで洗脳を続けているのだよ」


彼が何を言ってるのかわからなかった。あの少女はどうみても十歳かそこらの年齢だ。


「そんな嘘──」


「嘘では無い! 彼女は私なんかよりもずっと生きている逸脱だ。彼女は天使様に加護を頂いたのだよ。それは転生の加護、そしてあの夢を操り支配する能力をね」


「天使、様……?」


「私やキエーザ、クリンスマンも元はただの敬虔なる信徒であった。だがある日、天使様からこの逸脱の能力を貰って教団の暗部に遣えているのだよ。そして天使様は私達に命令する。"教皇の命に従い行方不明事件の後始末"をしろとね」








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