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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~二章 献身の聖女編~
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二十話 被害拡大



「やっとアウクス着いたな……」


「ふええ……疲れたよう……」


「お疲れ様でした。とりあえず宿で休みましょうか」


──鍛冶の町『アウクス』。ここは西大陸の中央から北東に位置する場所にあり、私の故郷であるブンデスから首都バイエルの丁度真ん中あたりにある。この町の特徴は様々な家具や装飾品、武具などを造ることに長けた職人達が集う町であることだ。


三日間もの距離を歩いた私達はギリギリ夜にさしかからない夕方にアウクスへ到着すると、宿に荷物を置いて一休みをする。


「予定よりも早く着いてよかったです。予想では夜中か明日の朝に着くところでしたからね」


「ああ。お前が居てくれてよかったよ。さすが旅慣れてるのは伊達じゃないな」


「アウクスは何だか街並みがしぶいですね。他の町ではパンの芳ばしい香りとかするのに、ここは鉄と木材の匂い……かな? そんな匂いがします。あとは金槌の音がそこら中から聴こえますね」


「職人達が西大陸中の物造りをしてるからな。それに他の大陸からも注文が毎日入るんだ。四方八方から二十四時間金槌の音が聴こえるのは西大陸広しと云えどもこの町だけだな。俺も来たのは久しぶりだが相変わらず良くも悪くも"男の町"だな」


「楽しいところじゃないですか。僕はこの町、好きですね」


「そりゃ剣士なら楽しいだろうな。でもお前東大陸出身なんだろ? あっちはもっといっぱい鍛冶の町あるだろ」


「そうですね。東大陸は剣術が盛んなので多くの町に職人が沢山います。それでもやはり鍛冶の町は楽しいですね。職人は数多いれど剣は同じ剣に非ず。鋼を打つ職人の性格によって剣は十人十色に変わりますからね。奥が深いですよ」


マルセロさんはまるで少年のように瞳を輝かせて答える。


「はっは! お前も"男"だな!」


「こればっかりはですね」


男性陣は豪快に笑い合う。


「二人とも何かずるいです! うらやましいです!」


「すまんすまん。サビオラは女の子だからちょっと難しいかもな」


「とりあえず酒場に行きましょうか。食事も兼ねて何か情報も得られるかもしれません」


「そうですね。お腹も減ったし早速行きましょう!」


私達は宿を出て数百メートルほど歩いた所にある酒場へと移動する。それなりに広い酒場はほどよい賑わいを見せており、店員がせわしなく動いている。私達は店内奥の角にあるテーブル席に座ると私は一番安いパスタを注文し、お父さんとマルセロさんはビールを頼んだ。


「お父さん、ビールは飲みすぎないようにね」


「大丈夫だよわかってる。そう言えばマルセロ、お前いくつなんだ?」


「僕は今25歳です。酒は飲めますよ」


「はー。なんだなんだ! 俺が結婚した歳と同じじゃねえか!」


「そうなんですか! じゃあその頃にサビオラさんを授かったのですね?」


「そうなんだよ! あの時はそりゃもう嬉しいったらありゃしなくて……」


「お父さん恥ずかしいよ……」


「はーい。お待たせでーす」


お父さんが話しに盛り上がっていると、店員のお姉さんが注文を持ってきてくれた。


「おう。ありがとよ姉ちゃん。ところで俺達、ちょっと行方不明になった人を探しているんだが『レジーナ』っていう女性と『コネホ』っていう女の子を探しているんだ。知らないか?」


「うーん……。ちょっとわかんないですね~。この町も行方不明事件が去年あって、そう言って質問してくる人が結構いるんですよ」


「そうなのか!?」


「この町でも事件が……」


「レディ。その事件について詳しく教えて貰えませんか?」


「えーっと……。去年の夏に町の職人達を労う催事があった時に町の人が七人ほど急にいなくなったんですよね。それも小さな子供から大人まで……」


「同じだ……」


私は生唾をごくりと飲み込む。


「しかも私のお爺ちゃんの話ではなんか三十年前も同じ事件があったみたいですよ。その時はもっといなくなったって言ってましたね」


「何か変わった事は無かったか? その催事の中で怪しい人物がいたとか──」


「それが特に何も無いんですよね。あの日は町にも沢山の人が来てたからそもそも誰が怪しいとかわからないんですよ。それにみんな催し物とか観てて気づかないから……」


「! その催し物って大道芸人とか来てましたか?」


私は何かにピンと来た。その質問をすると、


「ええ。よく知ってますね。いろんな芸人さんが町に来てましたよ」


「その──"鳥のような仮面を被った"芸人さんいませんでしたか……?」


「はい。いっぱいいましたねえ。鳥とか犬とかの仮面被った芸人さん。それが何か?」


「いっぱい……。──そうですか……。いえ、何でも無いです……。」


ボルシアで聞いた情報と一致する。だがそれはどうやら多数いるようだ。やはり芸人さんが仮面をつけてパフォーマンスするのは珍しい事では無い。私はその情報を心の片隅に置いておくことにした。


「レディ。他には何かありませんか?」


「私も酒場で働いてるから色んな町や村から人が来て行方不明事件の質問をされますけど、正直わからないですねえ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。色んな町や村って……」


「なんか時期を問わず西大陸の全土で行方不明事件が起きてるらしいですよ。物騒ですよね~」


衝撃であった。まさか自分達の身近だけで無く、この大陸全てが関与している事件だとは思わなかった。


「……これはただ事では無さそうですね」


「そうだな──。ああ、姉ちゃんありがとよ。また何かあったら教えてくれい」


三人は神妙な面持ちで目を伏した。お父さんはぬるいビールをぐいっと飲むと深くため息をつく。


「まさか他の所でも起こっているとはな……」


「……これは旅をしてわかった事ですが、東大陸では逸脱による被害がとても多くて行方不明事件もそこそこあったのですが、いなくなった人は男性ばかりだったんです。それに比べて西大陸では極端に逸脱の被害が少ない……。変わりに行方不明事件の被害者が多い──いや、多すぎます。それも東大陸と違い男性では無く老若男女を問わずの被害です。これは異常ですね……」


「みんな……みんな苦しんでいるのですね……」


「胸くそ悪い話だぜ……! だが犯人はわかってるんだ。あの『裁きの門ゲート・オブ・ジャッジメント』とか名乗る野郎共だ。あいつらの根城を突き止めればマルセロの嫁も俺の娘もそこにいるだろう。そうすりゃ何もかも解決できる筈だ。奴等にも必ず親玉がいるだろう。そいつが誰かわかりゃ話が早いんだけどな……」


「そうだね……。まずはあの人達の正体を知る事が先決だね」


いまだ掴めぬのは敵の目的と正体だ。彼等はなぜあのような行為をするのか──。逸脱は本能のままに悪行をする者がいるが、彼等はそう言ったものを感じなかった。むしろ私達と同じ理性のあるタイプの逸脱……。まるで誰かの命令に従っているかのような振る舞いであった。


そして胸につけた教団のバッジ……。あの真相を確かめるべく私達はバイエルの大聖堂に行かなければならない。


「そうだ。ここからバイエルへは馬車が出ている筈です。明日に手配してそれで行きましょう。少なくともバイエルまでは安全にいけると思います」


「そうだな……。ここからは土地勘が無いと厳しくなってくる。金はかかるがやむを得ないか──」


「馬車……。私、初めて乗ります……!」


移動手段がこれまでの人生で歩きのみの私にとって、その『馬車』という言葉はとても素敵に聞こえた。


「ははは! 馬車ならサビオラが小さい頃にパパがいっぱいお馬さんごっこしてあげたじゃないか!」


「それテンション上がったお父さんが速すぎて、私が振り落とされたやつだよね?」


「……すまん」


「ふふ。スタムさんはサビオラさんには本当頭が上がりませんね」


「お前も娘が産まれたらいずれはこうなるんだぞ! 例えば洗濯物をしようとしたら『お父さんの下着と一緒に洗わないで!』とか! 小さい頃は一緒にお風呂に入ってたのにそれもいつしか無くなり、俺が風呂上がりにパンツ一丁でいると冷たい目で怒ってくるし、いつの間にか同じ寝室で寝るのも嫌だって言ったりして、俺は毎日娘の成長を喜ぶと同時に悲しみも背負ってるんだぞ!? お前も覚悟しとけよ!!」


「そ、それはちょっとショックかもしれませんね……」


「もう! 家の事をこんなところで言わないで!」


私が怒るとお父さんはしょぼんと肩をすくめて、バツの悪そうな顔をするのであった。














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