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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~二章 献身の聖女編~
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十八話 振り出し



かくして初夏の昼下がりには似合わぬ、凍てつく午後の死闘は幕を閉じた。クリンスマンが倒れると教会を覆っていた氷は消え、元の古びた木造の木肌が見え出した。


ガクリと全身を落とすマルセロさんと、ダメージの酷い父を私は自分の力で癒しを施す。



「お父さん……そしてマルセロさん。ありがとうございます。二人のおかげで私は助かりました」


「いえ、助けられたのは僕の方です……。戦いはギリギリでした……。もしスタムさんがあの氷を破らなければ、僕は間違いなく敗けていました。その証拠にまだ身体が冷えてよく動けません──」


「…………あ、ああ……。まったくとんだ野郎だったな」


「お父さん! よかった……気がついたんだね」


「はは……。パパなら大丈夫だよ。心配かけたな、サビオラ」


私は父の手を握りしめて喜びを(あらわ)にする。


「スタムさん。そしてサビオラさん。お二人のご協力本当にありがとうございました」


「いいえ。マルセロさん。私達もこの戦いは避けられない戦いだったと思います。これは三人の勝利です。──そうだ! レジーナさんは……!」


私は教会を見渡すが、中央に敵の死体があるだけでそこには他の誰の人影も無い。


「──どうやらここには居ないようです。……奴めッ! レジーナをどこへ連れていったんだ……!」


マルセロさんは壁を殴りその行き場の無い怒りをぶつける。折角倒したと言うのに目的の人質の行方は闇へと消えた。問いただそうにも容疑者は黙認、死人に口無しである。


「そんな……。あの人は最初から嘘をついていたのですね……」


「どこまでも冷酷な奴──! 胸くそ悪いぜ」



「……サビオラさん。あなたの力でクリンスマンを甦らせる事は可能ですか──?」


マルセロさんは真面目な顔で私に言う。その真意は敵から情報を引き出すつもりなのだろう。


「残念ですが……それはできません。私の力は傷は治せますが、命の鼓動が止まってしまった身体──失った命までは直せません。その人はもうどうすることも……」


「左様でしたか……失礼しました。今の戯れ言は聞き流して下さい」


「ああそれがいい。万が一そいつが復活したらまた襲ってくるかもしれねえからな。」


「あっ……そうだ──。お父さん、この人もあれを──」


「……みてみるか」


うつぶせに倒れているクリンスマンの死体を仰向けにすると、服の裏側に教団のバッジが付いていた。


「やっぱりこの人も……」


私は死者の魂が迷わぬよう死体に十字を切って祈る。


「──あなたの来世が正しき道を歩まん事を祈ります──」



得るものの無い、無益な戦いであった。事件は振り出しへと戻ってしまった。レジーナさんの行方も、敵の正体と目的もわからぬままに私達は気を落とした。



静まる空気の中、銀の剣士は決意の顔で立ち上がると、教会の出口に足を進める。


「おい! どこ行くんだ」


「──妻を、レジーナを助けに行きます」


「助けに行くってお前、当てなんか無いだろ!」


「たしかに……。でも、それでも僕はどこかにいる妻を早く助けなくてはならないのです」


「勝手こいてんじゃねえ! さっきの戦いで一人じゃ何もできねえって事がわかってるだろうが!」


「それは……」


「一人じゃ何もできないのは俺達もそうだ。三人であの敵の目的、お前の奥さんの行方を探すぞ!」


お父さんの怒号がマルセロさんの足を止める。これはもう一人の戦いでは無いのだ。



「あの……今は一旦マインツの村に戻りませんか? そこで温かい湯船に浸かって養生するのが最優先だと思います」


「そうしようぜ。マルセロ、お前も来い。ここまで来て一人で勝手にどっかへ行くのは無しだぜ?」


「……わかりました。すみません、僕も少し頭を冷やす必要があるみたいですね」


「へっ。さっきまで散々冷えてたのにまた冷やすのか?」


「──ぷっ、ははは! それもそうですね」


「お父さん……。寒いのか熱いのかわからないね」



三人は笑う。ひとまずの決着に村へと戻るのであった──。









夕刻にさしかかる頃、村へと戻るとすぐに私達は宿を取ってその身体を休めた。傷は治ってはいるが、みんな身体が凍えていたせいで弱っているので無理は出来ない。宿の湯船にしばらく浸かり、すぐに(とこ)へとついた。


次の日朝、身体も全快となった私達はさっそく村の食堂で今後の方針を話し合っていた。


私達が店に入ると店員が「ひえっ。また来た」と言った気がしたが気のせいだろう。今日はお金が無いので注文はサラダ一品だけで我慢するとする。



「この先のことですが──マルセロさんもバイエルに行きませんか?」


「バイエル? 何故です」


私は先日あった逸脱の『キエーザ』との一件を話す。その者も例の"裁きの門ゲート・オブ・ジャッジメント"を名乗り、教団との関係性を言った事や私達もまた十年前に消えた妹を探している事などを語る。



「そんな事情があったのですね……。それならバイエルに向かいましょう。教団の(おさ)のマテウス教皇なら何か知っているかもしれませんね」


「私は教団の名を騙るあの人達を信じてはいません。教皇様に会って真実を聞いて疑いを晴らしたいのです。それにレジーナさんと私の妹の行方の事も話せばきっと協力もしてくれる筈です。バイエルにある大聖堂へ行きましょう!」


「決まりだな。これからよろしくなマルセロ」


「こちらこそです。お二人のような心強い味方がいて僕も嬉しい限りです」


「よかった! マルセロさんとお父さんすっかり仲良しだね!」


「男ってのはこういうもんさ」


「ふふ。そうですね。男はこういうもんです」


「ちょっとずるいかもです! ……私も男だったらわかるのかなあ?」


「サビオラが男……? そんなのパパ嫌だよお! 男なんか汗臭くて全然可愛くないじゃないかッ!!」


「例えだよ! お父さん暑苦しいよ! それと汗臭いよ!」


「そ、そんな……! 娘に臭いって言われた……!」



父娘は普段通りの会話でやりとりする。それを見守るマルセロはにこやか口元を緩めて食事を進めるのであった。








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