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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~二章 献身の聖女編~
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五話 ボルシアへ



「命日にはちょっと早いけど……。お母さん、私達少しだけ旅に出てくるね。来週には帰って来ると思うから、また来るよ」


「カンナ、行ってくるよ。安心してくれ。危険な旅にはならないよ。なんてったって俺がついてるからな」


亡き母の墓に花を添える。もしかしたら旅が長引く可能性もある。私とお父さんはお母さんの墓前に挨拶して、ブンデスの街を後にした。



「よし! 頑張っていこうねお父さん」


勇往邁進(ゆうおうまいしん)に先導を切る私は歩を進めると、


「サビオラ! そっちは森へ行く道だぞ!」


「えっ!? やだ私ったら……」


ブンデスの街からボルシアまでは平野を越えて、そこから運河を掛ける橋を渡れば着く。道なりに進めば迷うこともなく行ける筈だが、なんせ私は方向音痴であった。


「サビオラはおっちょこちょいだなあ。パパが先に歩こうか?」


「うううう……。私って頼りない……」


早速であるが涙目になる私を見て、お父さんは心配そうに声をかける。でも私はいつまでもお父さんに頼る訳にはいかない。今までさんざんに私のドジのせいで、お父さんには迷惑をかけている。


何とか親離れできるように私はもう子供では無い所をアピールしたいのだが、このまま私が前を歩けば着くものも着かなくなるだろう。だから妥協案であるが、仕方無くお父さんと並行して歩くことで自身を納得させた。


「サビオラと並んで歩いて旅するなんて、パパ嬉しいな! そうだ! 手を繋ごうか!」


「それはいや」


「なぜだーー!?」


お父さんは喜んだり落ち込んだりしながら歩みを進める。ボルシアの町までは頑張って歩いて半日程で着く予定。お父さんだけならもっと速く着くけど、私の足が遅いせいで到着は深夜になるだろう。こんなとこでも私は足を引っ張ってしまっていて、心が少し痛かった。


「しかし懐かしいな。昔はパパがサビオラを肩車してあげて、この辺りで遊んでいたのを覚えているかい?」


「うん。覚えてるよ。お父さんがはしゃいで猛スピードで走ったせいで、私の髪の毛がぐしゃぐしゃになったよね……」


「そうそう。サビオラがすごく泣くからパパすごい焦って困ったよ」


「泣くよ! あんなスピードで走ったら普通の子供なら泣くよ! お父さん反省してないでしょ!」


「ごめんごめん! ちゃんと反省したよ! だからもうやらなかっただろ?」


「まったくもう……」


幼き日の思い出話しをしながら、私達は早朝の平原を歩く。初夏になるこの時期は天気も良く、とても旅をしやすい気候だ。道中、お父さんのくだらないギャグを見たり、道端に咲く綺麗な花を見かけては、私は誘われる蝶のように足を止めたりしながら進む。


親子の会話が途切れる事が無いまま時が進むと、辺りはすっかり夜の闇に呑まれて、頭上には星の瞬きがキラキラと輝いた。




広大なエムス運河の水流の音が聞こえてくると、大きな橋の向こうにボルシアの町が闇の中に明かりを灯すように見えてきた。


「お父さん! やっと着いたね!」


「ああ! 早いところ宿を取って一休みしよう」


足が棒のように疲れ果ててたところに現れた町を目にすれば、私は自然と駆け足で橋を渡り、町の入り口へと急いで向かった。


「あっ! サビオラ走ると危ないぞ!」


「大丈夫だよお父さん。もう子供じゃないんだか──ふぎゅっ」


ビタンと地面に倒れると、私は恥ずかしさと情けなさでしばらく動けないでいた。






夜も更けるボルシアの町は、生誕祭が終わった影響なのかとても静かである。酒場の明かりが点いているので覗き込んで見るが、客は片手で数える程しかいなく、どの店も閑古鳥が鳴いていた。


「おかしいな。ボルシアは酒が美味いから毎日呑んだくれ共が騒いでる町なんだが……」


「生誕祭が終わって疲れてるのかな? 近くの人に聞いてみようよ。あっ、あそこの人なんかどうかな」


ふと周りを見渡すと、丁度店を閉めるのか場末の酒場の店主が外看板をひっくり返していたので私は声をかける。


「すみません。なんだか町に人があまり出歩いて無いんですけど、どうしちゃったんですか?」


「あんたら旅人か? 先日この町で生誕祭があったんだが、そこで町のもんが行方不明になる事件が起きてよ、みんな最近は怖がって夜になると外に出ないんだ。まったく商売にならないよ」


どうやら行方不明の事件は、よほど町の住民に恐怖を与えたらしい。私とお父さんは顔を見合わせると、事の重大さを再確認する。


「詳しくその話しを聞かせてもらえないか?」


お父さんがその巨体を壁のようにそびえ立たせ、店主に質問する。


「うおっ……! あんた(いか)ついな……。そ、そんなに聞きたいなら花屋の女主人に聞けばいいさ。あの主人の息子がいなくなってるからな、詳しく聞けるんじゃないかな」


「そうかありがとよ」


「お父さん。そんなにデカイ身体を被さるように質問したら、相手が恐がるでしょ!」


「うっ、ごめん……」


デカイ身体とは裏腹にしょんぼりとする父は、私に怒られた時だけ小動物のようにしぼむようだ。


「とりあえず宿屋に行こう。今日はもう疲れたからね。明日から本格的に捜査開始するためにきちんと睡眠をとりましょう。──お父さん? なんで震えてるの?」


「いやあ、なんだかサビオラがたくましく育っててくれてパパすごい嬉しくて……!」


「もう! いいから早く宿屋に行こ!」


私は宿屋に向かって歩く。その照れた顔を隠しながら。お父さんはいつも私を見てくれている。そんな優しい自慢の父親であることが私にとっても誇りであったりするのだ。



「サビオラ! そっちは風俗通りだぞ!?」


「ふええ!?」



明日からも私、頑張れるのか不安になってきた……。













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