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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~二章 献身の聖女編~
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三話 過去、過ぎ去りし今日



──今から十年前。当時八歳だった私と、六歳の妹がいたのだ。


母親亡き後に、父は私達二人を養うために仕事を励んだ。三人の生活は裕福なものではなかったが、幸せな毎日であった。


そんなある日……。運命の日が訪れた。


その日は毎年ブンデスの街で行われる、(セント)ミカエル教団が主催するミカエル様の誕生日の祭事を街全体で祝う日。


西大陸の各方面から敬虔(けいけん)な信者が集う街は、いつもより数段と賑やかで華やかなムードに包まれる。


私はと言えば、その日に風邪を(こじ)らせていた。せっかくのお祝い事なのに、家のベッドで安静をとっていて、楽しそうな外に出られないことにショックを受けていた。


家には私と妹のコネホだけ。お父さんは職場で落盤事故があり、仲間を助けにいくために"すぐ帰ってくる"と、言って家を朝早くから出ていった。


留守番をまかされた私達は、外から聴こえてくる陽気な音楽を聞きながら、窓の外を眺める。


私は毎年、この祭事にしか来ない屋台に売ってるある『ムントの花』が欲しかった。


ムントの花はとても綺麗な黄色の花で、百年経っても決して枯れない花だと云われる、とても不思議な花である。


今年こそはと、私はお小遣いを貯めてこの日を待っていたのに、その努力むなしく、私は熱で身体をまともに動かせないでいた。


そんな私を見てか、コネホはこんな事を言い出した。


「お姉ちゃんのかわりに私が買ってくるよ!」



とても可愛らしい声で、自慢の妹はおつかいを志願してくれたのだ。


私はとても嬉しかった。ムントの花が手に入る事もそうだが、コネホが私のために初めてのおつかいに行ってくれる事が、なによりも嬉しかった。


まだ幼い妹が「いってきまーす!」と、元気よく飛び出すと、駆け足しながら屋台が並ぶ中心街へと向かう。私は窓の外から見守るが、すぐにその背中は見えなくなった。




──それが、最後に見たコネホの姿であった。



コネホは……行方不明になった。どこで、どうやって、何故──。果てや、その生死すら、誰にもわからない。


唯一の目撃情報は、中心街の辺りで大道芸人のショーを観ていたらしい……。たったのそれだけ。後の情報は何もない。


私はとんでもない罪悪感に襲われた……。自分が花を欲しがらなければ、お父さんの言いつけ通りに妹と留守番をちゃんとしていれば……。今でもそれを考えると、胸がすごく苦しくなる。


お父さんも、ものすごく悲しんだ。自分が家に入ればこんな事にならなかったと、全部自分の責任だと──。


その後、私は(セント)ミカエル教団で聖者になるための修行を続けながら、妹の行方を探している。


お父さんは深い悲しみに暮れながらも、仕事をしながらコネホの捜索に尽力したが、未だなんの実りも出ずに今日までを過ごしている。


コネホは必ず何処かで生きている──。そう信じて止まないのが、私達の生きる糧となっていた。







「……コネホは好奇心の強い()だからな。きっと珍しいものに惹かれて、ちょっと遠出してるだけさ。もしかしたら、そのうちヒョイと戻ってくるかもしれん」


「……うん。きっとそうだよね。だからコネホが戻って来ても、恥じないような聖職者になるために、私も頑張らなきゃ!」


「パパも頑張るぞ! もっといっぱい働いて、この家を改築してコネホを迎えてやるんだ!」


裸電球がぶら下がる薄暗い食卓の中、私達は残り少ないサラダを食べながら、笑いあった。



──コンコン。



親子水入らずのディナータイムに、家のドアを叩く音──。


「誰──?」


「……! コネホか──!」


私達はコネホの話をしたばかりか、その突然の来客に期待を持ってしまった。


お父さんはドシドシと二メートルある巨体を響かせながら、勢いよくドアを開けた。


「おお。スタム。ご機嫌いかがかな」


「あっ、神父様──! こりゃあどうも」


「パウロ神父! どうしたんですか」


急な来訪者は、日頃お世話になっているパウロ神父であった。


「夕飯の最中にすまないね。ちょっと話したい事があって来たのですよ」


「いやいや、神父様なら構いませんよ。どうぞ質素な家ですが上がって下さい」


お父さんは神父を家に上げると、まだちゃんとした脚のイスを引いてお出迎えし、私は来客用のいつもよりかは"マシ"なお茶を淹れて、出迎えた。


私達家族はパウロ神父には頭が上がらない。神父が面倒を見てくれるおかげで、貧乏な私達は教団に入信できて、無償で修行させてもらい、時には食料なんかも分けてもらったりしている。


「あの、神父。どんなご用でしょうか……」


私はかなりドキドキしていた。まさか日頃の私が失態の連続で情けないことから、わざわざ家で説教をされるのかと、心臓がはち切れそうだった。


「実は……」


「(ごくり……)」


生唾を飲み込んで覚悟を決める。突然の三者面談は私の身体をぷるぷると震わせた。


「……先日──ここより五十キロほど離れた隣町で、数人が突然行方不明になる事件が起きたそうです」


パウロ神父の言葉は、予想外のものであった──。


「なんだって!? 神父様、そりゃあ……」


「そう、もしかしたら十年前に、この街で起こった事件と関係があるかもしれない──」


「行方不明……事件……!」


私はその言葉を聞いて、脳裏に十年前の記憶が呼び起こされるようであった。


実は十年前の行方不明者は、コネホだけでは無い。妹の他に街の子供が三人と、若い男女が五人、さらには老人も一人、あの日にいなくなったのだ。


「今回の行方不明者も男女、年齢問わずの数人──。隣町では先日、町の生誕祭を行っていて人の出入りが激しかったそうだ。その中で、忽然と消える大人と子供……。どうです、似ていないかな」


「似てる……! あの十年前と同じだ……」


「パウロ神父。他に何か手がかりなどは、ありますか」


「いいや、残念ながらまだ詳しくはわからない。だからこそ、君達に教えに来たのだよ。スタム、サビオラ」


神父は目を光らせると、力強く言うのである。


「此度の事件、これ以上の被害者を出してはいけないと私は思う。私の勘ではこれは『逸脱』の手による誘拐事件だ。並みの人間には太刀打ちできないだろう。──そう、だからこそ……そこで君達に頼みたいのだ。『"逸脱"』である君達にね」












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