~二章 献身の聖女編~
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──主よ。人に愛を。世に慈悲を。与え賜ること、願い、祈ります──。
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『ブンデス』の街の大聖堂に、讃美歌が響く。
修道服から飛び出る金色の髪をなびかせながら、私は歌う。蒼い瞳には目の前にあるミカエル様の美しい銅像が映る。今日はとてもいい天気。私の歌声も、いつもより綺麗に出せているかも知れない。
パイプオルガンから出される音の波が、私のお腹を響かせると同時に、朝から何も食べてなかったせいか空腹の虫がキュルルと鳴った。
慌てる素振りで、お腹を押さえるように私は手で隠そうとする。周りにバレてないかキョロキョロと視線を動かし顔を赤らめる私だが、それを見て周りのシスター達はくすくすと笑いを立てた。
そんなことをしてるうちに讃美歌が終わると、周りのシスター達は私を一瞥してまた笑い始める。
「くすくす。いやだわサビオラったら。神聖な歌の最中にお腹を鳴らすなんて。冗談はその胸のデカさだけにして欲しいわ」
「仕方ないわよ。サビオラのお家は貧乏だから、朝食もまともに食べられないのだわ」
「愚かでかわいそうなサビオラ……。大天使ミカエル様も、きっと哀れなあなたを見て嘆いてくださるわよ」
「うううう……」
皮肉まじりにシスター達は私をからかう。私は涙目になりながら今日の礼拝を終えると、今度は神父に頼まれていた仕事をこなすため作業に取りかかる。
頼まれたことは実に簡単。すでに浄められた聖水をボトルに入れるだけの簡単なお仕事。これなら私でも出来そうだ。
「えっと……これが聖水よね?」
近くにあるタンクに入ってた液体を、迷いなくボトルにドボドボと入れる。
「そうだ! ここにも入れておこうかしら」
私は首から下がる、お気に入りの聖水ボトルの形をしたペンダントにも液体を入れた。
「よし! これで完璧!」
十本ほどのボトル全部に聖水を入れ終わると、それを持って神父のところまで行く。
「失礼します。パウロ神父。聖水を持って来ました!」
挨拶をし部屋に入ると、白髪と丸い眼鏡を安楽椅子に揺らしながら聖書を読む、初老の神父が顔を上げた。
「おお。ありがとうサビオラ。どれどれ……んん?」
パウロ神父はその糸のような目を開くと、聖水をまじまじと見た。
その理由は簡単だ。何か聖水のボトルから異臭がするのだ。パウロ神父はボトルを開けると、その異臭の正体が解った。
「サビオラ……これは『灯油』ですよ」
「えっ!?」
「まったく……君は本当にどこか抜けていますね。そんなことではこの西大陸を統べる『聖ミカエル教団』の名が廃れますよ。君ももう18歳でしょう。もう少し自覚を持った行動を心がけることができないのですか」
「うううう……。すみません……」
「もういいですから、灯油を戻してこのボトルを綺麗に洗っておいて下さいね」
「はい……」
私は涙目でとぼとぼと聖堂の廊下を歩き、ボトルの洗浄をするため外の洗い場まで出たのであった。
この『聖ミカエル教団』は、西大陸の全土を統べる大宗教である──。西大陸は世界でもっとも宗教が盛んな大陸であり、数千もの宗派がある信仰心の高い土地柄なのだ。
その中で大天使ミカエル様を奉るこの教団は、西大陸で随一の知名度と、信者が多く、また歴史も長い。主な活動としては日夜の礼拝を主とした単純なものであるが、特長的なのは二十歳の成人を越えるまで、信者は修行を欠かさぬ事を軸にして、その精神を鍛えることが神への貢献と信仰になるとの教えが義務付けられている。
私の家は貧乏でお布施さえも、ままならないのだが、『聖ミカエル教団』は私達のような家族でも無償で受け入れてくれる素晴らしい教団だ。
だから私もこの恩を返せるように、神と教団の司祭様や、教皇様に感謝を続け、私自身も教団の名を語る以上、恥じぬような毎日を送っているつもりなのだが……。
パリンッ
「ああ!? ボトル割っちゃった……うううう」
いつまでもこのドジな性格が直らないのを、私は心底悲しんでいた。
今日から二章スタートしていきますのでよろしくお願い致します!なるべく毎日投稿できるよう頑張りますので是非ご一読頂けたら幸いです!