表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~一章 野望の剣士編~
36/157

三十五話 在りし日の剣


──────────────────


────深い。



微睡(まどろ)むような眠り。そして──夢を見た。


それは在りし日、ディーノが俺の剣を使ってみたいと言った日の夢。


あいつは俺のクソ重い剣を持つと、その剣とは思えない重さに笑った。


ためしにあいつは剣を研いだ──。何度か砥石に擦ると、剣は月の光のように輝く。


あいつは試し斬りがしたいと言った。剣の真価を確かめたいようだった。外にある年輪の長そうな、太い木の前に立つ。


光が眩しくて俺は見てなかったが、あいつは剣を振ったらしい。


でも、木は斬れてなかった。


斬らなかったのか? 俺が聞くと、あいつは笑いながら「この木は、師匠がよく背もたれにするんだ」と、思い出したように口にした。


時間切れのように、剣は輝きを弱らせて、元のナマクラへと戻る。


もう一回やるかと、思ったのだが、あいつは何かを理解したかのように「もう大丈夫だ」と俺に剣を返した。


あいつは、あの時からわかっていたんだ。


剣の特別な力で、威力が増しているのでは無い。これは逸脱である相方自身の能力だと。


あの木は斬らなかったのでは無く──斬れなかったのだ。


そんなことも俺はわからずに、この力をいたずらに使っていた。


相棒は隠してくれていたのだろう。俺が逸脱であることを、それが周囲に知られたらまずいであろうことを。


俺を俺以上に理解してくれた最高の友。夢の中であいつは笑う。でも──どこか悲しい顔もしていた。



「なあ、ディーノ」


「なんだよ、バッジョ」


「なんつーか、その……。ありがとうな!」


「ふふっ。なんだそれ」


「そうだな……うん、全部──全部だな。ここまで俺と一緒に遊んだこと、美味い飯を食ったこと、時には悪さもして……喧嘩だっていっぱいしたな!」


「……ああ。思い出は尽きないな」


「こっ、今度! 今度はどこに行く!? まだいっぱいやることだって沢山あるぜ! まだ食ったことも無いとびきりの肉も、強い剣士と戦ってお互いを高め合うとかよ!? いっぱい、いっぱい──色々あるよな!」


「──バッジョ」


「なんだよ……そんな目をするんじゃねーよ……」


「それは、お前がこれから成して行くんだ」


「だから──ディーノ、お前と」


「バッジョ──聞こえてこないか。お前を呼ぶ声が──」



耳を澄ますと、誰かが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。どこかで聞いた声、必死に俺の名を呼ぶ声──。



「……そろそろ時間だ」


「ま、待てよ!!」


ディーノは俺から去ってゆく。それを追いかけるが、距離は縮まらない。ほんの少し、手を伸ばせば届きそうな距離なのに、果てしなく遠くに感じる。


「ディーノ!!」


「──バッジョ。……とても、とても楽しかった。お前と出会えて良かった。これからお前は辛く、苦しい事が沢山あるだろう。俺達の野望も、全てお前に託す事になることを許してくれ」


「待て! 待ってくれ!!」


必死に伸ばす手は、空を掴むばかり。ディーノの姿は深い闇へと呑まれるように消えゆく。



「いつでも俺は──お前を見ている。だから、決して一人だと思わないでくれ。お前には俺がいて、そして愉快な仲間達がこれからの旅路を助けてくれる」



「ディーノ!! 俺もお前に会えて!! 本当に楽しかった!!」





「──さらばだ。バッジョ。また、いつか、どこかで──」






──────────────────







「────ジョ──バッジョ──!」




「!!」


「きゃ!?」



誰かが俺を呼ぶ声に飛び起きる。俺を介抱してくれていたのか、ティエナがその急に起きる俺に驚きの声を上げた。



「俺は──」



辺りを見渡すと、俺は激闘を繰り広げていたホールにまだいた。どうやらそこで意識を失い、倒れていたようだ。



「よかった……。やっと起きた……!」


「調子はどうだ。どこかまだ痛むか?」


ティエナとエリックが心配そうに、顔を覗き込む。


「あ、ああ──。まだ痛えとこもあるが、平気だ。──あの女はどうなった?」


「安心しろ。お前が見事、討ち果たしたよ」


「アルラネルラは……灰になったわ」


少し離れた所に、崩れたような灰が積もってあり、そこにアルラネルラの帽子が乗っかっていた。あれが、あの魔女だというのか──。俺は少し信じられずに、その灰をしばらく見つめた。


「あいつは、逸脱なのか」


「どうだろうな。人間でも逸脱でも無い──それがもしかしたら守護者(ガーディアン)なのかもな……」


「アルラネルラは倒れると間もなく、その身が崩れ去るように、灰に変わって死んでしまったわ──。結局、禁断の花園のことは聞けずじまいだったわね……」


「ティエナ──」


「なに?」


「ディーノは──」


「…………」


俺が質問すると、ティエナは口をつむいで、うつ向いた。


「バッジョ。ディーノは──」


「わかってる。わかってんだ。もう別れは、済ましたからよ──」


「バッジョ……」


ティエナがホールの奥に視線をやると、そこには大きな布を被った、相棒が横たわっていた。



「……ここを出よう……。ディーノは、俺が運ぶ」


俺はまだふらつく足に渇をいれると、ディーノの元まで歩み寄り、その軽くなった身体を両手で抱き抱えた。



主のいなくなった館は、水を打ったような静けさに包まれている。そんな寂しくなった館の中を、俺達は重い足取りで外へと出る。



外に出ると東より闇を払うような、朝日の光が俺達の顔を照らした。


視界に広がるそれは、傷ついた俺達を讃え、壮絶な戦いを(ねぎら)うかのような、とても綺麗な朝日であった──。










ご一読ありがとうございます。よければブクマ、評価をして頂ければ作者の生きる糧になります。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ