二十六話 激闘!! 雷光のジーダ
ジーダは俺に剣をぶつけると、大きく後ろに飛んでこちらを威嚇するよう、剣を再度構える。
「雷光のジーダ──! 貴様、何のつもりだ。ここで何をしている!」
「グウウウウウ……! 殺す……! 殺す! アルラネルラ様に刃向かう者は──殺す!!」
ディーノが怒鳴ると、ジーダは狂ったような声を上げて、ゆらりと鎧を輝かせながらこちらに剣を向けた。
「なに……あいつ。いったいどうしたの──?」
「操られている──!? 気をつけろ! 奴はどうやら正気では無いようだ──!」
「へっ! 丁度いいじゃねーか! 小難しい話し無しであの野郎ぶっとばせるぜ!!」
「ティエナは下がって近くの石柱に身を隠してくれ! バッジョ! 敵の動きを見逃すな!」
「グガアアアアアアッッ!!」
ジーダは咆哮すると、狂えるエメラルドの鎧が、錐揉みするように突っ込んでくる。
「「散ッ!!」」
俺達はそれを左右に飛んで避けると、その勢いで両脇からジーダに斬りかかる!
「「阿吽ッ!! 合わせ刃──『達磨落とし』ッッ!!」」
両脇から放たれる横一閃は、上と下からの斬撃である! 上を斬る者はその首を狙い、下を斬る者はその腰を狙う、斬られた者は無惨にも体が三等分される恐ろしき剣技!!
しかし──その首を狙ったディーノの剣と、腰を砕く俺の剣は、捉えていた筈の敵をかすりもせずに空を斬った──!
「なっ!」
「なにっ!?」
ジーダは二人の剣が振り抜かれる前に、恐ろしきまでの脚力で空中へ高くジャンプする──!
「ガアアッ!! 『雷旋』ッ!!」
雷を纏ったジーダの剣が、バリバリと音を鳴らし俺達目掛けて一閃すると、無数の雷が円のように光りながら俺達を襲う──!
「ぐああッッ!」
「だああッッ!」
「バッジョ! ディーノ!」
ティエナが二人の安否を心配する声を上げると、俺達の体は全身を貫くような雷に打たれ、その食らったことの無い衝撃を受けながら、地面へと叩きつけられた。
「くっ……! 雷だと……! あの剣の能力──いや、違うな。奴は逸脱だ……!」
「なんだコラ……! とんでも能力だしやがって……!」
ディーノはエリックの言葉を思い出す。雷光のように身を舞わせながら戦う人間──しかし今の奴は人間離れした跳躍を見せ、理性が飛んでいる。奴は逸脱として覚醒した可能性が高い……!
「ディーノ! 立てるか!」
「無論さ。バッジョ……こいつは雷を使う能力らしい。剣の軌道だけ見ても避けられないぞ。気をつけろ!」
「おうよ!」
「グオオオオオ! 倒す……殺す……!!」
まだ痺れる身体を無理矢理動かす。先陣を切るようにディーノが瞬足でジーダの間合いに入ると、その素早き剣を舞わせる!
キィン! ギィン! キィン!
ジーダは軽くそれを剣でいなす。片手間のように振るうその剣は、まるで大人と子供の試合を見ているかのようだ。
「俺もいるんだぜええ!! おらあッ!!」
ガギィィン!
奴はディーノの剣を捌きながら、俺の剣をそのエメラルドの篭手で受け止める。チャンバラの如く受けられた俺の剣は、その鎧にかすり傷すらつけられない。
「固てえッ!?」
「──休むな! 技で勝負だッ!」
二人はジーダの正面と背後から挟み撃ちの形を取る!
「静ノ断ち──『積乱雲』ッ!!」
「豪ノ断ち──『裂破断』ッ!!」
ならばこれでどうだと、互いの秘剣を同時に放つ!
──が、ジーダはその両から飛んでくる秘剣を冷静に見据えると、
「『雷円舞』!!」
高速で回転させた体と剣から、雷を放ちながら不規則な斬撃と共に俺達の秘剣をすべて受け流した。
「まじかよッ!?」
「なんてやつ──ッ!」
俺達はギリギリで剣撃を避けながら、雷で服を焦がしつつも距離を取る。
ジーダは剣を上段に掲げると、剣がまた雷を帯びて光りだした。
「死ねいぃ! 『魔雷召』ッ!!」
掲げた剣から伸びるように雷が四方八方に飛ぶ──!
「どわあああッ!!」
「よく見るんだ!」
放たれた幾束の雷がうねる大蛇のように暴れる! それを俺達は縫うように避けるが、鳴り止まない雷は轟音を上げながらホール全体を襲う!!
「バッジョ!! 懐だ!!」
ディーノはジーダの雷が自身の周りには降り注いで無いのを見極めると、俺に合図をする。
「外すなよ!!」
「わかってらーなああ!!」
雷を避けながら声でタイミングを図る。二人の呼吸があった時──ジーダの懐へと一気に詰め寄った!!
「「阿吽ッッ──合わせ刃『牛角刺し』いいッッ!!」」
二つの合わさった切っ先は、牛の角のような鋭さで敵を突き刺す必殺剣!! そのエメラルドの鎧に風穴を空けんと、猛牛の如し突進で敵の胸へと飛び込んだ──!!
「ゴオオッ!! 『雷燼斬』!!」
必殺剣に対抗せしは、まさに魔剣! 二人の刃が触れる瞬間、ジーダはその研ぎ澄まされたかのような剣を振るう! 魔剣は轟音を響かせ、雷を盾のように広げながら解き放つ! その雷に触れた必殺の剣は動きを止められ、横に薙ぎ払う魔剣の一閃が二人を吹き飛ばした!!
「「ぐああああああッッ!!」」
吹きとんだ体は地面を跳ねると、雷に打たれたせいか体からは煙が立ち上っていた。
「大丈夫!? 二人ともしっかりして!!」
ティエナは今にも雷で蒸発しそうな俺達を見て、泣きそうな声で言う。
「くっそ……。あいつ強ええじゃねーか……!」
「桁違いだ……! これまでの奴等とは……!」
「ゴルルルル……。指名を、果たす……! 侵入者は──殺す!!」
所々が雷に焼かれて、俺達の体はすでにボロボロだ。雷を使う能力も恐ろしいが、奴は剣技も身体能力もこちらの遥か上であることが俺達にとっては絶望であった。
「──俺達の技が、通じねえ……! 阿吽も効かねえ奴なんて初めてだ……!」
「(あの雷を封じる事ができれば……。奴の不意を突かなければ、勝機は無い……!)」
歯を食い縛るように俺達は立ち上がる。ジーダがバチバチと唸る剣を轟かせながら近づいて来るのを見ると、まるで雷を纏って俺達を殺しにくるエメラルド色の死神に見えた。
「私は──勝つ! アルラネルラ様のために──! オオオオオオ!!」
一体こいつを操れるアルラネルラとは何者なのか──。そんな疑問もあるが、今は目の前のこの剣鬼を倒さなければ何も意味が無い。
「バッジョ……。作戦だ。耳を貸せ」
ディーノは俺の肩を引っ張ると、短く早く、俺の頭でも理解できる作戦を伝えた。
「……気は乗らねーが、それしかねえな」
「そうだな──。でもやるしかないぞ」
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