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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~一章 野望の剣士編~
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二十三話 隠された根城


「しっかし何もねーな」


「同じ景色ばっかりね」


昼食と喧嘩を終えた俺とティエナは、お互い頬をつねりあったせいか顔が少し腫れていた。


歩けども、歩けども道行く道は荒れた大地が広がり、空からはギンギンと太陽が熱を発し、遠くを見渡せばレンガ色の岩肌しか見えない山がいくつもそびえるだけだ。


「ほんとにいるのか? 人が住むとこじゃねーぞ、ここ」


「ふむ……。なぜこんな所でオーキュラスは人拐いなどしてたんだろうな」


「そりゃこの荒地の方が奴が有利だからだろ」


「それはあるが、それにしてもさ……。もっと効率の良い場所があったんじゃないかな」


「やっぱりこの辺りに奴の根城があるって言うの? でもディーノ、こんな明け透けな場所にいたら苦労しないわよ?」


俺とティエナは苦言を呈するが、ディーノは考えるように辺りを注意深く警戒する。


「ま、あったらラッキーって感じだな。実は荒野の片隅に、地下に降りる階段があってそこには奴等の帝国があった! ……って可能性もあるかもな!」


「あほくさ」


「お前にゃ夢がねーのか!」


俺の妄想は儚くも小馬鹿にされて、ティエナが鼻で一笑した。



────迷いし時は剣に聞け──。



「……! そうか、そうだな。こんな時こそブレシア師匠の教えだ──!」


ふと、ディーノの頭に師匠の教えがよぎった。腰に下がる剣を抜く。愛剣の"幻視ノ剣"は今日もその鏡面の如し剣身を美しく輝かせた。


「いつ見てもキレイな剣ね……。それでどうするの?」


「おっ、"アレ"やんのか? ディーノのは良く当たるんだよなぁ~」


「アレ? 何それ?」


「まあ見てなって」


ディーノは愛剣の切っ先を地面に軽く置くと、(つか)の頭を指一本で押さえた。そして指をそっと離すと、剣は斜め右上の方向にカランカランと音をたてて倒れた。


「……あっちだな!」


「あっちか! よし! 行こうぜ」


「えっ、ちょ──待て待て待て」


「あ? なんだよ」


「なに、今のは」


「なにって、倒れた剣の方向に行く願掛けみてえなもんだよ」


「適当っ!!!! 適当すぎ!!!!」


思わずティエナは叫んだ。


「もっと!! なんか!! あるでしょ!!」


「ないでしょ! お前は知らねえかもしれねーがディーノのこれは良く当たるんだよ! 特に探し物とかしてるときな」


「ははは! 悪いねティエナ。昔からこれ、好きなんだ。ちょっと試してみないかい?」


ディーノは子供のような無邪気な笑顔を見せながら愛剣を拾う──が、その時、ディーノの全身に衝撃が走った──。


「──バッジョ、ティエナ……。お前達の右手には……何が見える……?」


「えっ、何って……。何もない荒野だけど……」


「? なんもねーぞ? 強いて言えばちょっと小高い山があるくらいか?」


「──ふ、ふふふふふふふふ。ははははははははははは!!」


突然に笑い出す相棒に俺とティエナは驚きを隠せないでいた。


「どーしたんだよ!?」


「違う! 違うぞ! バッジョ、ティエナ! 道は見えた!! この剣が教えてくれた!!」


狂ったように笑う相棒は幻視ノ剣は高々と上げる。俺とティエナはその剣を見上げると、その鏡のような剣に写りし風景は──、


「「あ!?」」


その幻視ノ剣に写った風景は虚無の荒野に在らず! 鏡の剣身は真実を照らすように目には見えない森を写していたのだ!! この摩訶不思議の光景に一同は(おの)(まなこ)を疑ったッッ!!


「なんで!? 目には映らないのに……! 森が見えるわ!」


「どうなってんだ……! あそこに森があるってのか!?」


「──行こう! おそらくあの森が隠された根城だ……!」





勇み足である! 三人は駆けるように近付き、見えぬ森の入口正面に立っていた!



「な、なあ。ほんとにここに森があるんだよな? 俺には漠然とした荒野にしか見えねーんだが……」


「間違いない。この剣を見ろ、確かに目の前は森だ。すぐ横に広めな小道もあるじゃないか」


「信じられないわ……。この森はなんなの……?」


「行けばわかるさ。さ、二人は覚悟はいいかな?」


「……ここまで来てガッツ見せねえのは漢じゃあねーぜ……!」


「行きましょう。この先に拐われた人達がいるかも知れないわ!」


「よし! じゃあせーので入るか!」


三人は横一列に並ぶと、右足を上げながら息を合わせる。


「「「せーの!!!!」」」


右足が見えぬ森へと入った瞬間──世界が変わった。視界は森の木々に溢れ返り、今まで見ていた荒野はどこを見てもキレイさっぱり無くなっていたのだ。


「どおお!? なんじゃこりゃあ!?」


「森が……現れたわ……」


「何と、面妖な……。二人とも気をつけて行こう。何が起こるか分からないぞ」


恐る恐る、森の中へと歩を進める俺達はいつになく、恐怖を感じていた。今までの敵とは違うどこか異質な、そして殺気にも似たどこか誘うような"気"がどこからか流れてくる。それは俺達が敵の罠にまんまと入りこんだ、まるで蜘蛛の巣に捕らわれた哀れな蝶のような──そんな気がしてたまらなかった。


「──あれは」


歩いて十分ほどで、それは以外にもすぐに見えた。森の小道が大きく開けたかと思うと、目の前に大きな『館』が唐突に現れたのだ。


その館は赤い屋根にレンガ造りのシンプルな城のような外観で、どこか暗く、人気の無いオドロオドロしい雰囲気を出しながら、手招きしてるかのようにその入口は半開きで俺達を迎えていた。


「……やべーな」


「ああ……やばいな」


「この館にいるの……?」


三人はしばし呆然と立ち尽くす。


──俺は平手をパンッと、顔面に打ち付け気合いを入れた。


「行こうぜ! 拐われた奴がいるならよ、さっさと助けねーとな!」


「……ああ! そうだな! 必ず助けるぞ!」


「ちょっと怖いけど……。私、頑張るわ! 行きましょ!」



俺達は勇気を振り絞り、その入口に手をかけた──が、



「待て」



──何者かが、後ろから俺達を呼び止めた。


バッと、振り返ると、そこには目が痛くなるようなエメラルドの鎧を全身に纏った男と、その後ろには五人の王都の騎士が剣を構えてこちらを威嚇していた。


「なっ、王都の連中か──!? いつの間に!?」


「そんな……! 今まで誰もいなかったのに!」


「……どうやって跡をつけてきたんだ──」


俺達は疑問を頭で整理するが追いつかない。エメラルドの鎧の騎士はこちらを凝視すると、


「『バッジョ』に『ディーノ』だな。逸脱の者を拉致し、逃亡を図った罪でお前達は指名手配されている。剣を置け、連行させてもらう。無論そこの逸脱もだ。──お前達は王都にて死をもって償ってもらう。五体満足で王都に行きたいなら大人しく連行されるんだな」


冷静に、そして冷酷な声で死刑宣告をしてきた。


「野郎……俺達が大人しくするとでも思ってんのか──」


俺は剣を構えようとする。


「暴れてもいいぞ。ただ──こいつがどうなってもよければだがな」


後ろにいた騎士の一人が、縄に繋がれた見たことのある逸脱を前に突き出した。


「エリック!!」


「エリックさん!!」


「すまない……。情けないが捕まってしまった……。こいつらは最初からお前達を泳がせてたんだ……。ちくしょうめ……!」


エリックはボロボロになった体を引きずりながら、声を震わせた。


「てんめえええええええ!!」


「駄目だ! バッジョ!! 抑えろ!! エリックさんがいるんだ! ここは動くな!!」


「そうよ! バッジョ! エリックさんが危険だわ! ここは言うこと聞いて!!」


ディーノとティエナが力強く一喝する。俺は怒りを震わせながら剣の柄をガタガタといわせた。


「ふっ。どうやらそっちの青髪は幾分か利口なようだな。よし、この犯罪者共を縛り上げろ!」


エメラルドの騎士が部下に命ずると、俺達はあっという間に縄で固く縛られた。


「くそったれえええ!! てめえ! 卑怯だぞ!! 勝負しやがれ!!」


「……一つ聞きたい。どうやって尾行した」


怒り狂う俺に対し、相棒は冷静に相手に問いただす。


「お前達が気配感知に優れている剣士だと言うのは『コーリー』が教えてくれたからな。こちらも気配遮断の能力を使わせてもらったまでだ。死に行くお前達に特別サービスだ。おい、見せてやれ」


エメラルドの騎士が部下の一人をアゴで使うと、そいつは透けるように急に姿を消した。


「!?」


「見たか。私の部下は全員逸脱でな。こいつは自身と触れた物を透明にする能力を持っている。これでお前達をずっと尾行していたんだ。私はお前達がその逸脱の女を連れて城から出るのを見ていたからな。他の逸脱も狩れると思い、ずっと泳がせていたんだ。気づかず旅をしていたお前達は実に滑稽だったぞ」


「──くっ……! 不覚……ッ!」


「そんな……。私達、ずっと見られてたなんて……」


ギリリと歯を食い縛る。全てはこの男の手のひらだったと思うと、ハラワタが煮えくり返るようだ。


「……この森も、貴様らの仕業か」


「ふふふ。残念だが、この森は違う。私も流石に驚いたぞ。こんな所に森があるとはな。しかもここに誰もが探し求めた守護者(ガーディアン)がいるのかも知れないのだろう? お前達には感謝するぞ。この手柄は大きい……! 私が世界全土に轟く『雷光のジーダ』として高名になる最高の踏み台ではないか……!」


「『雷光のジーダ』!? そうか、お前が王都最強の剣士と言われたあのジーダか──!」


「ほう、嬉しいな。私の名は東大陸では名を馳せているようだな」


エリックが言うと、ジーダは鎧をカタカタと言わせながら笑う。


「くそがッッ!! 最強ならその座をかけて勝負しやがれクソだせえ鎧野郎ッッ!!!!」


「野蛮だな……。知性の欠片も無い猿とは剣を交わる事は無い。もう一度来世で得を積んでから出直すんだな」


ジーダは軽くあしらうと、館へと視線を向ける。


「これより我が隊は守護者(ガーディアン)がいると思われる館の攻略を開始する! ネスタン、テュレム、バレッジ、マテラットは私に続け! カーフ! お前はその犯罪者共を見張っていろ。私はものの小一時間で戻る。周囲の警戒も(おこた)るな!」


「「「「「は!!」」」」」


ジーダは部下を引き連れ、ずかずかと館へと入っていった──。










ご一読ありがとうございます!よければ評価、ブクマしてもらえればとても嬉しいです!明日の夜も更新していきますのでよろしくお願いします!

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