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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~一章 野望の剣士編~
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二十一話 指針


「うーし、今日も張り切ってやっか」


「さて、今日も勝たせてもらおうか」


まだ昇り始めたばかりの太陽を横に、二人は木剣を構えた。朝焼けの暖かな光が剣先を照らす。呼吸を合わせ、一瞬の勝機を狙うこの空気感は何度やっても楽しく、そしてかけがえのない時間だ。


「豪ノ断ち──『砕断(さいだん)』!!」


「静ノ断ち──『流れ雲』!!」


ガッッ!!


空気を揺らすような大きな風切り音を鳴らしながら俺の剣は一閃を放つ。しかし、その豪剣は相手の髪をなでるだけの空振りに終わると、ディーノの流れるような瞬足の剣先が俺の頭をガツンと叩いた。


「だああああ!! 負けたあああ!! いてえええええ!!」


「はは! これで俺の十三連勝だな。お前の剣は威力はあるがまだまだ遅いな」


「ちくしょー! 勝ったと思ったんだけどなー!」


「技の選択がよくなかったな。当たらないなら一回受ければいい。そしたらお前の剣筋も当たる可能性が出てくる。相手をよく見ろって師匠に散々言われただろ?」


朝の修練を毎日の日課のようにやってきた俺達は、今日もその技に磨きをかけるが如く互いを高めていた。


「あっこんなとこにいたのか! お前ら怪我人だろ! 大人しくしてられんのか!」


俺達を探しに来たのか、エリックがその小さな体をピョコピョコさせながら怒る。


「わかってらーな。そう怒んなよ、老けるぜ?」


「老けんわ! 老けんから困ってるんだわい!」


「すみませんエリックさん。毎日やってきた修練なんで、朝になると体が勝手に動いちゃうんですよ」


「なんでその深い傷で動けるんだ……。お前ら普通の人間だろ? 逸脱は怪我の治りが早かったりもするが、普通の人間でそこまでの回復力は異常だのお前ら……。痛くはないのか?」


「「いや、めちゃくちゃ痛い」」


「じゃあ休めや!!!!」


エリックは呆れた顔で言う。それを見て俺達は昇る朝日と共に高笑いをした。


「まったく……あの嬢ちゃんは起きとらんのか」


「ああ、あいつは寝ぼすけだからな。多分ほっといたら夜まで寝てるぜ」


「それも考えものだな……。まあいい、もう少しで朝食もできる。これからの指針についても話したいから宿の下の階で待っておるぞ」


「ありがとうございます。もう少ししたら伺いますね。バッジョ、今日は阿吽の練習で(しめ)にしよう。まだ互いに本調子では無いからな」


「そうだな。──じゃあ"アレ"やるか」


「"アレ"か……。そうだな、やってみるか」


俺達の技には種類がある。ブレシア師匠から教わったもので、威力を重視した力強き技が特徴の『豪ノ断ち』、速い斬撃と相手の攻撃を流したりする『静ノ断ち』──。この剣技の他に俺達は自身の持つ『月光剣』と『幻視ノ剣』を活用した独自の技を自己流で極めている。


そして二人の息が重なってできる、もっとも難易度の高い技がある。精度と威力、速さや軌道、全てが整った技──『阿吽(あうん)』による合体剣技だ。


俺達が長年にかけて、互いを一心同体にして繰り出されるこの合体剣技『阿吽』は、剣の型によって技が七色の如しと変わる特殊なものであり、今日までの戦いに置いて、非常に重宝する我流の極みだ。


だが、どうしても出来ぬ技が一つだけある。俺達が編み出した阿吽の中で、もっとも難易度が高い奥義があるのだが、それがいくら練習しても完成には至らない苦戦をしいられていた。


「──いくぜ」


「──こい」


俺達は互いに利き手が逆である。俺は右利き、ディーノが左利き。並んで構えると、俺は剣を持ってない左腕で、相棒は剣を持ってない右腕で互いの腕をガッシリと組んだ。


「「回転!!」」


組んだ腕と隣接する片足を軸にし、時計回りに俺達の体は恐ろしい速度で回り出す。あまりの速さにその遠心力は腕が引きちぎられそうな程である。


「「うおおお!! 阿吽──に、──んッッ!?」」


バツンッッッッ!!


「「うおあああああ!!」」


まるで磁石が反発し合うように、俺達は互いにあらぬ方向へ吹き飛ばされた。


「いててて……。やはり、駄目か」


「あたたた……。くっそー! 上手くいきそうだったのに!」


本日も奥義習得は失敗であった。成功は見えかけているのだが、何がいけないのかがわからない。二人は頭を捻らすばかりである。


「これ以上は傷にさわる。今日はここまでだ。バッジョ、朝食にしよう」


「くやしいがそうだな。腹も減ったし飯にするか。ついでにあの貧乳も起こしてやっか」





「おーい。起きろー、つるぺた娘」


「………………ん、……」


ティエナは腹を半分出した、だらしない寝相でかろうじて返事をする。


「飯だぞ、飯。早く起きろや」


「…………ふぇ?……何だ……イソギンチャクか……」


「誰がイソギンチャクだ」


ティエナは俺の寝相のついたような赤髪を薄目で見ると、失礼な事を言い出す。


「起きろ! その変な人形取り上げるぞ!」


俺は寝てるティエナの、大事そうに抱きながら持ってる変な人形を取り上げようとすると、


「や、……やめりょ~!」


と、変な声を出しながらやっと起きた。


「いつまで寝てんだよ」


「……どうせならイケメンに起こされたかった……」


「よーし、もう二度と起こさねーわ」


「……アホ」


「おめーもな」


二人は朝からバチバチと火花を散らす。不機嫌に足音を響かせながら宿の下に降りると、エリックとディーノが朝食をテーブルに並べていて、丁度準備が整っていた。


「やあ。ティエナおはよう」


「嬢ちゃんよく寝れたか?」


「おはようございます。とてもいいベッドのおかげでよく眠れました。……目覚めは最悪でしたけど」


「まだ言ってるぜこのちんちくりん」


ティエナは手を合わせると、ホットミルクを飲みながらパンをちまちまと食べ始める。その向かいで俺はパンを適当に取ると、それを三個ほどまとめて持つ。その三個のパンを自慢の握力で握り潰すと、まるで石のような一つの塊にしてバクバク食い始めた。


「……何その食いかた。朝からドン引きなんですが」


「ちまちま食ってる奴に言われたくねー」


「あ゛?」


「お゛?」


「まあまあまあ。二人とも、まだ今日は始まったばかりだよ。エンジンを暖めるのは徐々にいこうじゃないか」


ディーノが間に入って争いの火種を食い止める。


「なんと言うか……飽きない奴等だな。お前達……」


エリックが苦笑する。


「お前達。食べながらでいいから聞いてくれ。倒した犯人が守護者(ガーディアン)の手の者とわかったから、これからどうするかわしなりに考えてきた。恐らくだが本丸はこの東大陸のどこかにおる。それもかなり近いと予想する」


「──同意ですね。オーキュラスは拐った男達を生け捕りにしてるようでした。奴の能力は途中から進化をしたものの、最初は砂塵を巻き上げる程度の能力である事から移動には(すぐ)れません。拐った者を他の大陸に連れていく可能性もありますが、ここから一番近い港はテインです。テインの港は今、コーリーと言う放火魔のせいで船が燃やされて出航が一時的に閉鎖されてます。だから必ずまだこの近くにいるはずですね」


「うむ。これはこの集落と近くの村の拐われた者達がどこで消えたかの地図なんだが、少し見てくれ」


エリックは両手で地図を広げると、何ヵ所かにバツ印が示されている。


「これを見てどう思う?」


「全然わからん」


俺は即答する。


「……ディーノお前さんは?」


「──この集落と隣の村の往復経路が一番被害が多いですね。そのさらに隣の村になると、被害が少ない……。エリックさんはこの辺りは調べつくしましたか?」


「ああ。この集落は移動集落でな、各地を転々としてここに来て二年だが、特に変わった地形は無い。ただ荒野と山がそびえるばかりの場所だ。行方不明者が出始めたのは丁度一年前くらいだな」


「なるほど……。今一度、調べて見る必用があるかもしれません。相手はこの五百年間、隠され続けた存在ですからね」


「そう言えばその『アルラネルラ』ってやつは、今から百年も前からエリックさんの仲間が言ってるのよね? と言うことはその守護者(ガーディアン)もエリックさんと同じ『不老』の力を持ってて、今まで生きてるのかしら……?」


「かも知れないね。何にせよ一筋縄じゃ行かない訳だ」


「へっ、おもしれーじゃねーか。しゃらくせえ能力なら散々見てきたぜ」


「なんでそんな楽観的なのよあんたは……」


「いちいちこまけぇこたあいいんだよ! 『人間マジ最強がママ』って言うだろ」



「……えっ?」


「……ん?」



ティエナとエリックは一瞬なんのことか思考するが、その解答は浮かばない。それを見かねたディーノがコホンと咳払いをし、助け船を出すように言う。


「──今のはですね、『人間万事塞翁にんげんばんじさいおう(うま)』と言いたかったんですよ」


「お、おう。そうか」


「そ、そうなのね」


「それだな。それなんだよ」


俺はドヤ顔で腕を組んだのだった。







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