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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~四章 忘却の男編~
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三十話 ドクター


「各機、異分子ヲ消滅スル。攻撃態勢ニ入レ」


 片腕の取れた陸号(ろくごう)と呼ばれる機械人形が号令を出すと、後ろに控えていた三体のロボット達もその赤い目を光らせ、鉄の足につけたローラーのようなものが唸りを上げてすごいスピードで旋回すると、僕達の周りをあっという間に囲んだ。


「囲まれた……! ファリア! 僕の側から離れないで!」


「は、はい!」


 僕は彼女を守るように肩を抱いて警戒する。危ういこの状況に慌て、冷や汗を流す僕──だが、もう一人のこのヴライと名乗った男は一切慌てる様子も無く、静かに周りを見渡してヒュウウと、呼吸を吐いた。


「おい、貴様ら邪魔だけはするなよ。目障りになるならどこかへ行ってろ。このふざけた人形共を壊して本体を炙り出してくれる」


「……!」


 ヴライは僕達にそう言うと、低く落とした腰の先に伸びた左の拳を力強く握る。そして──


一極いっきょく(じん)津迅拳(つじんけん)』──!」


 バァッ! ──と、するどい風がなびいたかと思うとヴライの真っ直ぐに伸びた拳が一体の人形の腹部にめり込んでいた。


「ガガ──ッ!」


 そいつは耳障りで嫌な高音を口からまるで痛そうに漏らすと、すぐにその自分の腹部にめり込むヴライの拳を両手で掴んで捕獲する。


「ガ──捕マエ、タ。オマエハ、終ワリ、ダ」


「なるほど。この程度じゃ壊れんか。ならば──」


 タァァンッ! と、武人の足が地を踏むと一帯に振動が響き渡る!


「二極・昇『登破昇(とうはしょう)』!」


 抑えられた左の片手を無視するように、右腕が空を裂く!


 ゴガッッッ!!


 一瞬の内に起こった攻防、ヴライの右腕は素人の僕達にはわからないほどの速さで機械人形の胸部に打ち込まれ、その威力からか敵はそのまま垂直に宙へと舞った!


「ガ、ガ────ッ!!」


捌号(ハチゴウ)!」


 片腕の無い陸号が叫ぶも、そのまま地に落ちてしまった捌号と呼ばれる機体はもうピクリとも動かなくなっている。狼の様な眼をした武人はそれを見て、ふんと鼻をならした。


 ……なんと恐ろしい威力、僕はこのヴライと言う男が心底恐くなった。彼は現状では決して敵ではないが、味方でもないだろう。あの眼はただひたすらに戦いを求める眼──群れず、孤独に強者を求め彷徨う眼。ここにいたらもしかしたら僕達もただではすまないのかも知れない。


「──貴様ら、たかが人形のくせに妙に人間に近いな(・・・・・・・・)。その証拠に心臓の位置である胸部が弱点と見た。鉄クズの割によくできているが、戦いにはいらぬ要素だな」


 男は言うと、残る三体の機体は僕達を無視して彼を囲んだ。


「気ヲツケロ。奴ノ拳法ハ、驚異ダ」


「次はどいつだ? 貴様らはあと何体いる? 何号いるのか知らんがまとめてかかってこい雑魚ども」


 彼が睨みをきかせながら言い放つと、何とも言えぬ一触即発の空気が辺りを包む。そして三体の敵が両手を彼に向けると、


「各機──照射!」


 伸びた鉄の指先が赤く光った。それはあのモストボイ将軍を倒した、あの灼けるような閃光である。その死の閃光が何本もの赤い光の線を瞬き、彼めがけて一気に襲う!


小癪(こしゃく)──! その技は見ている!」


 ヴライは身を捻りながら器用にその閃光を避ける。避けられた赤い死の線は僕達の足元や真横へと空を切ると、地面には焼いた黒い跡ができ、かすった僕の髪の毛はちりちりと焦げた臭いがした。


「──っ! 危ない……!」


「ハザマさん! ここは危険です! どこか安全な場所へ──!」


 僕はファリアの手を強く握りながら、戦う彼等から距離を取ると、鉄の壁に囲まれた広い空間を見渡して安全そうな場所を探す。


「各機、フォーメーション・デルタ実行。敵ノ攻撃ヲ無効化セヨ」


「「了解」」


 目まぐるしく動き回る三機は赤い光線を撃ちつつ、攻撃の手を緩めることなくフロアを壊す勢いで、激しさを増している。この場にいれば僕達もいつ死んでもおかしく無い状況だ。


 どうにか彼女だけでもとにかく安全な所へ逃したいと、僕は自分の身を盾にしつつ逃げていると、


「──ハザマさん! あそこ、見て下さい!」


 彼女が急に指差した方向には、あの敵が出てきた鉄の壁があり、その奥には暗くてよくは見えないが階段のようなものがあった。


「あそこに行きましょう! ここよりは安全な筈です!」


「よし……! ファリア、走れるかい?!」


 僕達は脇目も振らず真っ直ぐに、その鉄の壁の奥にある暗がりへ走り込んで行った。


「はぁ、はぁ……階段! この塔の上に続いているみたいだね」


「……登りましょうハザマさん。もしかしたらこの上には──」


 暗がりの奥にはやはり階段があり、僕達はその階段に足を一歩踏み出すと、その足場がいきなり勝手に動き出して上へと自動で登っていく。


「わっ……! この階段も機械なのか……!」


 僕は一瞬びっくりしたが、この階段なんかよりも不可思議なものを見すぎたせいで、なんだか感覚が麻痺してるようだ。


 動く足場がどんどんと上へと上がっていく。もう下の階で繰り広げられてる、彼等の戦いの音は聞こえないくらいには上がった。薄暗い中で僕は彼女の手を握りながら静かなその時間に息を呑んだ。


「…………ハザマさん」


「……なんだい?」


 小さなライトがぽつぽつと光る薄明かりな機械の壁が、彼女の顔を見え隠れさせるとファリアは小さくつぶやいた。


「私は…………ハザマさんが好きです。この先……なにがあっても、どんな事があっても、あなたの事が大好きです。……ハザマさんは、これからも……私の事を好きでいてくれますか──」


「──当たり前だよ。ファリア。僕も、君の事が大好きだ……。恩義や成り行きじゃなく、心の底から……君を愛している。だから、不安にならないでくれ。君の事は、僕が必ず守る──!」


 二人の言葉で、二人の握る手がより強くなる。そして、足場は止まった。僕達の目の前に大きな鉄の扉が迎えると、扉は左右にゆっくりと開き始めて、奥から──光が漏れ出した。



「……ここは」



 扉の先には、また見たこともない造形をした四角い箱のような機械が壁際に沢山あり、下のフロアとはまた違った雰囲気──例えるなら何かを実験するような場所……。広いフロアは上から降る照明はほどよく明るく、赤や緑の液体の入ったビーカーやフラスコがずらりと並ぶ机、奥には何だかよくわからない大きなドラム缶のような奇妙なものまである。


 (いぶか)しむように僕達はゆっくりと歩を進めると、それは──突然に聞こえてきた。



「──おお、やっときたか」



 その声は、突如上から聞こえてきた。ガー、ガー、と金属を巻くような音がすると、頭上から一つの椅子が降りてくる。


 そして声の主は、その椅子に座った男であった。シミのついた白衣を着た、長い白ひげを生やした老人であった。


「お前は、誰だ──! あの機械を操る逸脱か!?」


 僕は頭上から降りてきたその老人に向かって言うと、その老人は少し曲がった腰をよいしょと椅子から上げて口を開く。


「私は逸脱ではないよ。私の名は、『Dr.(ドクター)クライフ』。君達を、ずっとここでまっていたよ」






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