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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~四章 忘却の男編~
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二十二話 誰の声


「マルセロ!」


間際の一撃、ヨルゲンセンは雷の如き剣閃にて文字通りの半身となり冷たき地面へと落ちると、墓地を埋め尽くす亡者達も崩れ去るように倒れ始める。亡者が倒れ行く中でレジーナはすぐに負傷をした彼の元へと駆けていく。


「レジーナ……」


「マルセロ……」


右目からボタボタと落ちる血を彼は片手で押さえながら彼女と熱い抱擁(ほうよう)をした。


「よかった……勝てたんですね、私たち」


「……ああ。危ない所だった」


まさにギリギリの幕切れである。この勝利の鍵は間違いなく彼女、レジーナであろう。彼女があの自身の身を投げる覚悟と決意がなければ僕達はあの亡者達にやられていた。そしてマルセロの剣術という決定打もなければどうしようも無かったであろう。


「…………」


「ハザマさん? どうしたんですか?」


「あぁ、いや……」


……激しい自己嫌悪が僕を襲った。僕は彼の助けになると思ってここへと来たのに、結局なにもできず足を引っ張るだけであった。僕は自分の能力を過信していた。あの天の声さえあればきっと上手くいく、助けてくれる。そういった考えがすでに"甘え"だったのだ。


結局それは僕の力では無く、最終的には他人任せなのだ。そもそもあの謎の声自体に頼りきっている。それに、今回の戦いでわかった事もある。


あの天の声は、決して他者を助けるものでは無い。あの声は()だけを助ける声なのだ。前のようにマダム・シアラーの豪邸のように逃げ場が無い状況では戦う選択肢をくれるかも知れないが、今回のように逃げられる選択肢があるのならばあの声は他人を犠牲にしてでも僕を生存させる助言しかくれないのだ。


ますます僕はこの声がわからなくなってきた。天の声は僕自身の本意なのか? それならば僕はなんと冷たい人間だ。それとも記憶を失っているからわからないだけなのか、僕は本当は酷く冷酷な人間性なのかも知れない。


そう考えると、願わくばこの声は他人が僕に命令しているものだと僕は強く思う。その方がまだ自我を保てる。僕はまだ僕を信じられる──


「……さん? ハザマさん!」


「──!」


ファリアが青ざめた僕を見て声をかけてるのに僕は気づいた。


「ハザマさんどうしたんですか。顔色が……まさか怪我でもしてるのですか!?」


「いや、大丈夫。ありがとうファリア。戦いが終わって少し気が抜けていただけさ……」


心配そうにする彼女に僕は作り笑いをしてごまかす。


「二人ともありがとう。おかげでレジーナを助けられた。礼を言わせてもらう」


レジーナに支えられたマルセロが僕達に言うと、


「よしてくれマルセロ。……あんな根拠も無い大言(たいげん)を吐いて僕は足を引っ張っただけだ。いま僕はとても恥ずかしい気分だ……ことごとく自分の無力さを痛感しているよ」


「私もです。レジーナさんの救出をお助けできると思ったのに何にもできなくて……」


僕達はうつむいて申し訳なさそうに言う。しかしマルセロは首を横に振った。


「そんな事はない。君達は充分に役に立ってくれた。あの無数の亡者達を僕一人では決して相手できない。君達がいたから敵を分散できた。だからそんなに気を落とさないでくれ」


「そうよ。あなた達のそのここへ来てくれた気持ちだけでも私はとても嬉しい。マルセロを助けてくれてありがとう」


マルセロとレジーナはにこりと笑って答えてくれた。彼らのその言葉に多少は救われたのか、僕とファリアの口元にも少しばかりの笑みが出た。


「街に戻りましょう。マルセロの手当てもしなきゃだわ」


そうレジーナが言うと僕達は冷たく暗い墓地を後にした。





────ペミル街


街へと戻り、一夜を明かす。いつもの夢を見ながら目を覚ますと、翌日の朝には人々が朝からせわしなく働くなんてことの無い日常が宿屋の窓から見えた。


──僕は迷っていた。これから先、ファリアを守れるのかと。この己の非力さで何ができる。あの僕の能力なのかわからない謎の声は、いつか彼女を殺すような選択をするのだろうか? 僕だけが助かる無慈悲で残酷な未来が待っているのかと思うと僕は宿屋のベッドの上で震えた。


「ハザマさーん。おはようございます。起きてますか?」


扉の外からファリアの声が聞こえると、僕はゆっくりと起き上がって扉を開ける。


「おはよう……ファリア」


「おはようございますハザマさん。早速ですがマルセロさんの様子を見に行きませんか?」


「……そうだね、そうしよう」


いつもより少し暗い面持ちで僕は身支度をすると、ファリアと共に宿を出る。


僕達は昨夜医者へと担ぎ込まれたマルセロを案じて様子を見に行くと、彼は負傷した右目を包帯でぐるりと巻かれてベッドの上にいた。


「やあ、君達おはよう」


「あら早いわね。おはよう」


介抱していたレジーナさんと一緒に挨拶を交わす。


「マルセロさん……やっぱりその目は……」


「ああ。血は止まったがね、しかしどうやらもう見えなくなってしまったようだ」


ファリアがおそるおそる聞くと、彼は自分の事なのにまるで何事もなさげにさらりと言う。


「マルセロ……」


「そんな顔をしないでくれよ。右目くらい、彼女を助けられたのだから安いものさ。むしろ腕や足じゃなくて助かった。僕の剣は速さが売りだ。剣術に支障が出る四肢じゃなくてよかったよ」


僕の暗い顔を見てマルセロはクールに笑いとばした。


「……君は強いな、マルセロ」


「──そんなことないさ。むしろ己が弱いとわかっているから修行してるんだ僕は。ハザマ、君も自分の愛する者が窮地に(おちい)るならばその身を燃やしても戦う筈だ。違うかい」


マルセロは残った左目で僕を強く見つめる。


「……そうだね。僕もそうでありたい。ありがとうマルセロ」


僕は彼が差し出した手を握って力強く握手した。


「マルセロさんとレジーナさんはこれからどうされるのですか?」


「予定通りこれから彼女と西大陸へと向かうよ」


「もう私達を邪魔してくる人はいない。マルセロのこの怪我が落ち着き次第、ゆっくり旅をするわ。あなた達はどうするの?」


ファリアが聞くと二人は微笑みながら言う。


「私は昨夜にお二人から聞いた北東の村へと行ってみたいと思います。そこならもしかしておじいちゃんを殺した犯人がいるかも知れません」


「そうか……なら、君が守ってやらなきゃなハザマ」


マルセロは僕に向かって言う。その目には期待のような励ましが込められている。


「……ああ! ファリア、僕ももちろんお供するよ」


「ハザマさん……」


彼の言葉に答え、ファリアのためにと僕は決意する。そうだ、マルセロの言うとおりだ。この先何が起こるかわからないのに僕だけがこんな不安な気持ちでどうする。僕は彼のその凛々しく芯の強い心と言葉に自分を奮起させた。


「君達の旅が幸福であらん事を願うよ。ハザマ、君は決して弱くなんてない。誰かを守るその気持ちさえあれば人の可能性は無限大だと僕は思っているよ」


「ありがとうマルセロ……。レジーナさんと平和な旅と西大陸での幸せな生活を祈っているよ」



──こうして、僕とファリアは街から離れた。顔立ちのいい銀の剣士と歌姫に別れと礼を言いながら手を振った。


旅とは一期一会、これから彼等に会うことは二度とも無いかも知れないが、その刹那の会合で人はまた成長できる。


僕の、この誰の声やも知れぬこの能力ももしかしたら旅の中で会えるのかもと、僕はファリアと共に雪原をまた歩き出すのである。





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