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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~四章 忘却の男編~
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九話 黄金邸


僕はまた今宵も夢を見る。何度も見た景色を見て、黄金の花畑の中心で何者かに会う。


僕はふと思ったのだ。僕の頭に響くように助言する、あの声の正体はこの謎の人物なのかと。


だから夢の中でこの誰か(・・)に質問をしようかと思った矢先──僕の夢は急に覚めてしまった。


「ハザマさんおはようございます」


「…………あ」


「どうしました? もしかしてどこか具合でも──」


「ああ、いや何でも無いよファリア。少し夢を見ていただけさ。おはよう」


「ああ良かったです……」


眩しい朝日が窓から差す。もうすでに出かける身支度を整えたファリアが挨拶をしてくる。彼女の声で僕はいつもの夢から目覚め、身体を起こして背骨をぐいっと伸ばす。


「昨日はお疲れでしたね。ハザマさんよく寝れましたか?」


「ああ。よく寝たせいか調子がいいよ」


昨日は疲れていたせいかすぐに熟睡してしまった。僕は窓から外の景色を見ると、雲が晴れていてとても綺麗な雪景色が広がっていた。


「いい天気だね」


「そうですね。でも北の大陸はすぐに天気が変わっちゃうので油断はできませんよ。今のうちにザカンへと向かいましょう!」


僕は身支度を直ぐに済ませると、ファリアと外へ出る。外は晴れてはいるがやはり寒い。僕は白い息を吐きながら、ふと昨日ひと悶着あった隣の小屋を見た。


「……隣は人の気配がしないな」


「お隣さんならもう昨日の夜中に出発したみたいですよ。よっぽど急ぎの用事があったのかもですね」


ファリアがそう言うと僕は少しだけほっとした。昨夜に僕が軽率に立ち聞きなんかしたせいで怒らせてしまったのだから、朝から顔を会わせづらいと思っていたせいだ。


「そうか……しかしあの人、ただ者には見えなかったなあ」


「王宮が抱える極寒の騎士団(アイス・ランス)の騎士様かも知れませんね。ハザマさんもあまり迂闊に夜中にうろうろしちゃ駄目ですよ。この大陸では不審者は斬り殺されても文句は言えませんからね」


「……すまない」


困った顔で彼女は僕に注意喚起をする。記憶を失ったとはいえ、僕は僕自身の危機管理能力を恥じた。


「それじゃあ行きましょうか! 雪も降ってなく視界も良いのでザカンへは数時間で着くと思います」


彼女に手を引かれて僕は歩き出す。まっすぐとザカンへと続く道をひたすらに進みながら僕はファリアに少し気になった質問をぶつけてみた。


「ファリア、さっき言ってた極寒の騎士団(アイス・ランス)とは何だい?」


僕が質問するとファリアはオレンジの髪の毛をいじりながら答え始める。


「──極寒の騎士団(アイス・ランス)は北の大陸の王、バレリー王が逸脱を討伐するために作り上げた最強の騎士団です。この国に住む人達は逸脱の存在を認めていない人がほぼ全てです。どの大陸でもそうですが、この大陸は古くから逸脱によって町や王宮を襲われるなどの被害を受けてきました。バレリー王は歴代の王が逸脱によって四苦八苦してきたことを幼少から学び、それが"悪"だと叩き込まれてきたので国中の強者を集めて最強の騎士団を作り上げたのです」


「……そうなのか。歴代の王達の経験があったからこそ自然とそうなったのかな」


「そうですね。今までの歴代の王も騎士団を作って逸脱に対抗してきましたが、バレリー王の作った極寒の騎士団(アイス・ランス)こそ北の大陸の歴史上で一番の強さと規模を誇っていると言っても過言では無いです。特に"北方の英傑"と称されるモストボイ将軍はこの北の大陸最強の男と言われ、強靭で勇猛な方と聞いていますね」


彼女の話しを僕は固唾を飲んで聞き入る。そんな恐ろしい騎士団に僕は昨日、相対していたのかも知れないと思うとぞっとする。


「しかし逸脱を討伐してくれる彼等がいても、それでも昨日みたいに私達のような一般人が逸脱に襲われる事が絶えません。それだけ今この大陸では治安維持が問題になっているのです」


その問題は根深く、果ての無い螺旋の輪のように終わらないものであると彼女の言葉から僕は察する。この大陸には、いや世界には彼女と同じように肉親を逸脱によって殺された者は少なくないだろう。


……僕は怖くなった。もし僕が逸脱だとしたら……人々は僕を避けるのか、そして彼女はどんな反応をするのか──そんなわだかまりを抱えて僕はザカンへと歩くのであった。





──ザカンの町。


「着きましたね! 予定よりも早く着いて良かったです!」


昼過ぎの雪原を抜けた先に見えた町は、人々が笑顔を見せる賑やかで明るい町であった。


雪化粧をした広い道、外で元気に遊ぶ子供達、太い丸太で作られた住居は暖気が逃げないような厚い扉の門構えと煙突からの煙……


「何と言うか……ロトルの町に似てるね。広く大きくしたロトルみたいな……」


僕は率直な感想を漏らした。


「うふふ。北の大陸の町並みなんかみんな似たような感じですからね。どこも寒さ対策をしてますからどうしても似たような作りの建物ばかりになってしまうんですよ」


「なるほど……理に適った結果という訳なんだな」


僕は町並みを見渡しながら彼女と町の中へ進んで行く。


「ハザマさん。あそこでお昼ごはんを買いましょう」


彼女が指差した先には大きな寸胴で熱そうなスープを売っている屋台があった。僕達は二人分の煮詰まった野菜スープを買うと、それを屋台の横にあるベンチに座って食べ始めた。


「ちょっと熱いけど……うん、美味しい。ファリアはスープが好きなのかい?」


「はい! 小さい頃から好きで、よくおじいちゃんに作ってもらったんですよ」


彼女は屈託のない笑顔で答える。僕はそんな彼女の過去が気になったので悪気もなく質問をしてみた。


「……昔からの好物か。そういえば君の両親は──」


僕は彼女の顔を横目に見ながらその質問を途中で遮った。もしかしたら彼女に対しこの質問はデリカシーの無いものだったのかもしれない。現に彼女はどこか苦しそうな顔をしていたからである。


「す、すまない! 言いたくないようであれば余計な詮索はしないよ!」


「あっ……違うんです! その……私、両親の顔を知らなくて……。生まれた時からおじいちゃんに育てられて一緒だったのでわからないんですよ。おじいちゃんが言うにはどこか遠い所で働いているとしか聞いたことが無いので……」


彼女は僕に謝るように答える。謝らなければならないのは僕の方なのに変な感じだ。


「そうだったのか……。だが生きているのならいつか会えるよ、きっと。もしかしたらこの旅の道中の町なんかで不意に会えたり……という事もあるかも知れないしね」


「……そうですね! いつか会って見たいです!」


ファリアが優しい笑顔を見せる。僕もつられてはにかむと、ファリアの持っていたスプーンが地面にからん(・・・)と落ちた。


「あっ、スプーン落ちたよ」


僕がそれを拾おうとすると、今度は彼女が持っていたスープの容器も地面に落ちた。そして彼女は、


「うっ……うう……」


「ファリア!?」


急に苦しそうな声を上げて頭をおさえ出したのだ。


「どうしたんだ!?」


「あ……頭が……」


「例の頭痛か!」


僕は初日に彼女に会ったときに見た頭痛の症状だと直ぐにわかった。彼女の肩に手を添えて身体を支えてあげると僕は周りをきょろきょろと見渡す。


「どこか……どこか休める所は……!」


できれば彼女を屋内の暖かい所へ連れていきたいが、辺りを見てもここは屋台が数件並ぶだけの広い通りで宿泊所は見当たらなかった。


「だい……じょうぶ……です。すぐに……治ります……から……」


「いや、暖かい所まで僕がおぶっていこう──」


僕は心配そうに彼女に言うと、さっそく立ち上がって彼女をおぶろうとした──その時、通りの奥から白い体毛に包まれた大きな馬がカツカツと歩いてきた。


「なんだ……? 馬……なのか?」


そのモノ珍しい馬に目を奪われる。そしてよく見ると、大きな白い馬は後ろに客車を付けた馬車であった。


その馬車が僕達の目の前を通るとピタリと止まって、客車の小窓の隙間から声が聞こえてきた。


「ごめんあそばせ……そこの旅の方、いかが致しまして?」


小窓から問いかけてきたのは女性の声であった。どこか気品のある喋り、この町に住む貴族であろうか。見れば金細工を散りばめた高そうな馬車である。


「あの、この辺りに宿泊所はないでしょうか? 彼女、体調が良くなくて困ってるんです」


僕はその女性に困った声で問うと、


「そうなのですね……でしたらこの馬車にお乗りなさいまし。案内致しましょう」


客車の扉が開くとそこには大柄な女性──見かけでいえばマダムと言ったらわかりやすいか、金の装飾に身を包んだいかにもなお金持ちの婦人が現れた。


「さあ、どうぞ……。身体が冷えないうちに」


「えっ……あ、ありがとうございます」


僕はいきなりの事で言葉を詰まらせたが、今は彼女をゆっくりと休ませる所へ連れていくのが最優先だ。僕はこれ幸いだと思い、この人の好意に甘えようと彼女を抱きかかえて客車の席に乗せ、ゆっくりと座らせる。


馬車は僕達を乗せるとさっきより速いスピードで走り出した。僕は対面に座る大柄なマダムに頭を下げる。


「どなたか存じませんがありがとうございます」


「いいですわよ。困ってる方がいましたら助けてあげるのが人情と言うもの……。お連れの方は風邪でして?」


マダムは頭を抱えて苦しそうにするファリアを見て尋ねる。


「……突発的な頭痛みたいなんですよ。本人はすぐ治ると言うんですが、やはり心配で……」


「まあ。そうでしたのね。それでしたら今夜はゆっくりと療養して行けばよろしいですわ」


マダムは大きな口をにんまりとすると、小窓の外を見た。


「そろそろ着きますわよ」


その言葉を聞いて間も無く馬車は減速し始めてピタリと止まった。扉が外から開かれるとそこには──


「これは──」


目を疑うような豪邸が眼前に建っていた。まるで宮殿のような広さでそこかしこが黄金の彩飾を施した眩しい建造物。一片も疑う余地も無いそれは"黄金邸"と言っていいだろう。開いた口が塞がらないような、そんな豪邸の前に馬車は止まったのだ。


「ここが(わたくし)、マダム・シアラーの家。町の宿は今の時期ですと混雑しているので、今夜はここに泊まる事をおすすめしますわ」






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