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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~四章 忘却の男編~
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八話 疑念


「……暖かい」


冷えきった身体を暖める暖炉、陽が沈み辺りが暗くなる頃には僕達はザカンの町に向かう途中にある旅人の小屋と呼ばれる簡素な宿泊小屋に泊まっていた。


小屋に入るやいなや暖炉に火を点けて僕は木の椅子に座って暖まる。パチパチと小気味よく燃える薪の音を聞きながら、僕はつい数時間前の昼にあった記憶を思い出していた。


「(あれが逸脱……すごい能力だった……。もし相手がもっと凶悪な奴だったら僕は今こうして生きていないのかも知れなかった……。そしてあの声は一体……)」


僕を逸脱の魔の手から救ってくれた正体不明の声……。僕はあのあと辺りを警戒するが誰もいなかったし、そもそもあの声は僕にしか聞こえていない。つまり、考えられることは──


「(僕は……"逸脱"なのか──?)」


そう、あれはもしかしたら己の能力なのかも知れない。記憶を失くした自分の正体は世間から疎まれる存在なのか、僕はあの戦闘の後で試しに"あの声"に何度も問いかけてみた。──しかし、声は答えなかった。戦闘が終わった途端、声は一切聞こえなくなったのだ。


「(だめだな……僕が実際に声を出しても心の中で叫んでも"声"からの応答は無い……。どういうことだ? これは僕の能力じゃないのか?)」


疑念と疑問が頭の中で渦巻く。仮に僕が能力を持っていたとしても謎が残る。声の正体は相手の心を読む能力? いやいや相手の心が僕に助言する訳が無い。ならば第三者の心の声を聞いたりする能力なのか? ……それも違う気がする。あの場には間違いなく僕とファリアと敵の三人しかいなかった。敵はもちろんファリアは戦闘経験なんてない普通の女の子だから、心の声を聞いてもあんな的確なアドバイスはできない。


結局の所わからず仕舞いである。あの声がまた再び僕に助言をするのかもどうかわからない。もし、また恐ろしい能力を持った逸脱に襲われたらと考えると僕は身震いをした。


「ハザマさん。ご飯ができましたよ」


小屋の中にある簡単なキッチンからファリアが香ばしい良い匂いのするチキンスープを持って木のテーブルの上に置いた。


「ありがとうファリア」


僕はスプーンを持って少しずつ味わうように食べ始める。香味の利いたとても美味しいスープだ。口の中でごろごろと肉汁を溢れ出す鶏肉が僕の空腹を満たしてくれる。火の通ったほくほくのジャガイモもいい感じだ。


「ええと……美味しいですか?」


「ああ。とても美味しいよ。ファリアは料理が得意なんだね」


「うふふ。それなら良かったです。……ハザマさん、今日はありがとうございました。ハザマさんがいなかったら私はどうなっていたかわかりません」


ファリアは僕にお礼を言う。


「君が無事でよかったよ。……少し震えたけどね」


僕はスープをちびちびと食べながら答える。


「ハザマさんはとても強かったです! まるで相手の攻撃を読んでるかのような動きで私、感動しました! ハザマさんはきっと記憶を失う前はとっても強い方だったんですよ! だからあんな動きができたんです。記憶は失くしても身体が覚えていたんですね!」


「うーん……そうなのかなあ」


「そうですよ!」


ファリアは目を輝かせて僕を見てくる。そんな期待に僕も悪い気はしないが、『あはは』と苦笑いをする。


「それにしてもやっぱり逸脱は恐くて悪い人だってことがハッキリとわかりましたね。おじいちゃんの言った通りでした。もうこの先、出会わなければいいのですが……心配ですね」


「…………」


不安な表情を彼女は浮かべる。やはり彼女、もとい世間は逸脱には苦言を示している。僕は自分の中に響いたこの謎の声を彼女に打ち明けようとしたが、それは止めておいた。


それはこの世界の常識のようなもの。誰が好き好んで自分が逸脱だと、狂人であると語ろうか。もし僕が逸脱だとしたら彼女は悲しみ、一人で旅立ってしまうかもしれない。それにまだ確証は取れていないんだ。この声の正体……僕の記憶──今の所は不安しかないがわざわざ彼女を振り回すような発言は控えるべきであろう。


そんなことを考えてる内に僕はスープを綺麗にたいらげると、


「美味しかったよファリア」


彼女にお礼を言って席を立ち上がる。


「ハザマさん今日はもうお休みにしましょうか」


「そうだね……寝る前にちょっと外の空気を吸ってくるよ」


僕はそう言うと小屋の扉を開けて外に出た。外は暗く、雪がちらついている。天を見上げるとほんとにうっすらだが雲の隙間から月が見えて、その僅かな月光がこの雪に囲まれた白い世界を弱々しく照らす。


「……寒いな」


吐く息は白く、吸う空気は凍てついていた。手を組んで脇に挟みながら暖を取ろうとする。まるでこの寒さと暗さは僕の記憶を表すように静寂で殺風景である。


そんな外の寒さに耐えかねて小屋へと戻ろうとしたその時、僕は他の(・・)旅人の小屋に明かりが点いてるのを見かける。


旅人の小屋は僕達が泊まっているのを含めて三つほどある。小屋と小屋の距離はほんの数メートルしか離れてないので明かりが点いてたら嫌でも目に止まる。


その小屋の窓から二人の人影が見えた。僕はその二人を意識すると、周りが静かなせいか話し声も聞こえてきた。


「──なら……明日だな」


「──そうだな。何としても……財源……見つけるんだ……」


別に盗み聞きする訳じゃないのだが僕の耳に二人の会話がぶつ切りであるが入ってくる。どうやら二人はどちらも声からして男のようである。


「これで……大陸に……」


「ああ……隊長…………だろう……」


よくわからないが難しい話しをしているようだ。僕は何となくその会話を聞きながら小屋の窓を見ていた──次の瞬間


「──誰だ!!」


ドガアッッ!!


男の怒号と小屋の扉が勢いよく開かれた。それは窓を眺めてた僕に向かっての言葉、小屋から出てきた茶髪の男は剣を持ってこちらをギロリと睨む。


「すっ、すまない! 別にただ僕は外の空気を吸っていただけなんだ」


僕は慌てて釈明する。彼はその剣をこちらに向けながら僕の一挙一動を厳しく見つめる。素人並みの意見だが、この男の人はかなり強そうだ。上半身に銀の胸当てをつけ、堂々とした迫力がある騎士のような人であった。


「何者だ! 嘘をつくならこの場で斬る!」


その騒ぎを聞いたのか、僕の泊まる小屋からファリアが飛び出して来た。


「待ってください! この人は私の大事な人です! 怪しくなんてありません!」


彼女はそう言うと僕の傍に駆け寄る。


「……ただの夫婦か……」


茶髪の男は彼女を見ると剣を下げて警戒を解く。


「おい、この辺りの夜は危険だ。あまりうろうろ出歩くなよ」


男はそう言うと小屋の中へ引き返す。僕はあっけに取られてたが、男の小屋の中を見て違和感を感じた。


「(あれ……もう一人(・・・・)がいない……)」


一瞬だけ見えた小屋の中に疑問を持つと、勢いよく開かれた扉を茶髪の男がバタンと閉めた。


「ハザマさん大丈夫ですか!?」


「ああ、すまないファリア。また君に助けられたよ……」


僕はほっと胸を撫で下ろす。まさかあんな強そうな人が怒って出てくるとは思わなんだ。ファリアがいなかったら僕はただの怪しい奴で切り捨てられたかも知れない。


「ハザマさんもう今日は休みましょう。お隣さんはもしかしたら高貴な方かも知れないです。なにか無礼があったら首を跳ねられるかも知れません……」


「ああ、よくわかったよ……。常識はずれですまない。それに君が僕なんかの嫁に間違われたのも謝るよ」


「えっ……それは……別に……」


彼女は何故か僕の言葉に顔を赤らめるとプイッと横を向いた。


「もう休みましょうハザマさん!」


「あ、ああ」


何かを誤魔化すようにファリアは小屋の中へと戻っていく。僕は隣の男が二人だった筈なのに一人しか確認できなかったことがどこか心の中でもやもやとしながら小屋へと入り、暖かいベッドで眠りについた──。




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