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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~四章 忘却の男編~
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六話 盗っ人ガンツ


男は構えた短剣を振りながらにやりと笑う。僕はファリアを後ろへ下がらせると、彼女から貰った短剣を相手に向ける。


「旦那ァ……やるんですかい? 死にますぜぇ?」


「僕は死んでもいい……ただ、彼女だけは守る。お前のような奴に好きにはさせない……!」


僕は相手に対して強い意志を見せる。もしここで僕が負けるような事があればファリアがこの男に何をされるかわからない。手に持った短剣を強く握る、少なくとも記憶を失った僕にとっては初めての戦闘である。


「くく……旦那ァ、震えてますぜ」


「……!」


足腰が無意識に震えていた。短剣を持つ手からは尋常では無い汗が出てるのがわかる。悔しいが、僕は完全に緊張と恐怖に飲み込まれていた。


──ザッ!


そんな僕を見て敵は一気に間を詰めてくると、短剣で素早く切りつけてきた。


「ハザマさん! 避けて!」


「うわっ!」


ファリアの声で僕は何とかその攻撃をのけぞって避けて見せるが、


「甘ぇ!」


短剣の攻撃はあくまでも(おとり)! 敵は(から)ぶった身体を回転させると、そのまま回し蹴りを僕の胴に放ってきた。


ズン! と、蹴りがめり込むと僕はその場に倒れる。


「ぐあっ……!」


「おっと今度は命中ですぜ。苦しんでくだせぇ」


「くっ……! はあ!」


僕は追撃を食らわないために短剣を思いきり相手に向かって振るが、男はひらりと後方へジャンプしてそれを避けた。


「ハザマさん! 大丈夫ですか!」


「大丈夫だ。ファリアは危ないから下がっててくれ」


心配するファリアに僕は強がるように言って見せる。確かに蹴りを食らったがダメージは深刻では無い。多少の痛みと、じわりとした苦しさが残るだけでまだ戦える。この男は身のこなしは素早いが、そのぶん打撃は軽い。問題なのはあの持っている短剣での攻撃が厄介だ。


僕は呼吸を整えて再び相手を睨む。あの短剣の動きに注視して戦わなければならない。


「旦那ァ、どんどん行きますぜ!」


「……(集中するんだ……!)」


男は今度は横に素早くジグザクに動きながら僕に向かって来る。そして右手の短剣で僕の胸を突き刺すように伸ばす──!


「速い──!」


そのスピードは僕が思うよりも速く、僕の思考が追い付く前にその短剣が刺さろうとしたその時──


『胸だ……!』


また、誰かの声が僕の身体に響いた。僕はその言葉を聞くと同時に身体を横に反らして間一髪、敵の攻撃を避けた。


「!? やるぅ!」


敵は自分の攻撃が避けられたのを一瞬驚くが、すぐに僕に向かって蹴りを放つ。


「くっ!」


下半身を狙ったローキックに僕は体制を崩されるが、それと同時に僕も相手に短剣を振るっていた。短剣は敵の頬をかすめると、男はまた距離を取るように大きく跳んで離れた。


「はあはあ……」


「旦那ァ……あんた勘が鋭いよ。今のはひやっとしやしたよ」


僕の読み通りやはり相手からの打撃はそこまでのダメージでは無い。蹴られた足も少し痛むだけでまだ僕の身体は動ける。それよりも……また"誰かの声"に助けられた。辺りには僕達以外の者などいないのに……しかし助けになっているのであればこれは僥倖(ぎょうこう)、今はこの男を倒すことが優先だ。


敵の頬から血が滲んで垂れてきた。それは僕の攻撃が通った証、僕はこの戦いに少しだけ勝機を見た。奴の打撃はこの際無視をして、打撃の終わりの一瞬を突く戦法……これこそが勝利に繋がる道であろう。僕は集中するように相手を見つめる。


「おっ……さては旦那あっしの攻撃が軽いと思いやしたね? その通りですよ。あっしは所詮盗っ人なんでね、盗み以外はさっぱりなんですよこれが」


「……(自分の弱点をわかっている……厄介だ)」


敵はにやりと笑い、その自分の欠点をさも楽しそうに語る。


「なあ旦那ァ、あんたもしかして"逸脱"じゃねえですかい?」


「僕は人間だ……ただの、人間だ」


「へえ、そうですかい。その勘の良さを見て、あっしはてっきり人の心を読んだりできる能力者かと思ったんですがねえ。ま、ただの人間ならあっしも楽ができるってもんですよ」


男は短剣をくるくる回す──その刹那、


「うわああ!」


「!?」


僕はその相手の虚を突くようにみずから相手の懐に突っ込んだ。僕が振るった短剣を相手はサッと避ける──しかし、それを僕は読んでいたかのように相手の右手を蹴り上げると、男が持っていた短剣は見事に空中へと飛んで道の横の雪の中に落下して埋もれた。


「やったあ! ハザマさん!」


「どうだ! 盗賊、お前の負けだ!」


僕は自分の短剣の切っ先をまっすぐ相手に向けると、確信を持って勝ちを宣言する。男はもう武器も無い、軽い打撃だけではどうしようもできず、武器を持っている僕の方が圧倒的に優位だ。


「く……くくく」


「何を笑っている……!」


勝負は決まったようなものだ。それなのに、男は不気味に笑って見せているのだ。


「旦那ァ、あんた丸腰(・・)で何を言ってるんですかい?」


「丸腰……? 何を言ってる、この短剣が目に入らない……か──」


僕は、男の言葉で自分の言ってる事と現状が矛盾をしていることに気づかされた。今の今まで確かに僕は自分の短剣を相手に向かって向けていた筈なのに、その短剣(・・)が無いのだ。


「なっ……剣が──!?」


「くくく……剣ってのはこれ(・・)の事ですかい?」


男は右手でくるくると短剣を回している。そしてぴたりとその回転を止めると、そこにあったのは間違いなく僕の短剣であった。


「いつの間に!?」


「くくく……なんなら返しやしょうか? ほら──」


男はそう言ってその短剣を僕に優しく投げてきた。訳が分からない、何かの罠かと僕は混乱するが、短剣が空中で弧を描いて確かに僕の手元に収まる。僕はそれをまじまじと見るが間違いなく僕の短剣──と、思ったその瞬間に僕の手元から短剣がまた消えたのだ。


「なっ消えた!?」


「くっくく! ほらここにありますぜ」


男は僕の慌てる様子を楽しむように、僕の武器をまた右手でくるくる回しながら見せびらかした。


「どうなってる──」


「ハザマさん……たぶんあの人は、"逸脱"です!」


僕の混乱を解決するようにファリアが叫んだ。男はそれを聞いてにやにやとしながら答える。


「お嬢さんの言う通りでさあ。あっしはこれでも能力者なんですよ。能力は──『盗む』。たったそれだけ、あっしは一度でも触った相手から何でも持ち物を盗めるんですよ」


「これが逸脱の能力……!」


僕は初めて見るその摩訶不思議な現象に驚く。


「ただの盗賊じゃ無かった訳か──」


「いやあ、あっしはちんけな盗っ人ですよ。なんたってこれしか能が無いんだから……弱そうな奴しかあっしは襲わんのです。だから旦那にゃ悪いがここで消えて貰いやす……あっし、盗っ人『ガンツ』の飯の種を知られちゃ困るんでねえ!」




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