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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~三章 復讐の拳闘士編~
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四十四話 鋼鉄の牙城


──風向きは変わる。見事敵の術を打破した私達、それを見て怒りに震えるジェロンはその重い腰を上げて歯ぎしりをしながら憤慨してみせた。


「さぁこれで後はあんたをボコすだけよぉ!」


「ジェロンとか言ったわね……お前の罪、私達が罰を下すわ!」


「…………調子に乗るなよ……餌共が……!」


よほど自身の術が破られたのが腹にたったのか、ジェロンはその恐ろしいまで見開いた眼をこちらに向けてギラギラと殺気を飛ばしている。


「ワシの呪いが一つ二つと思うなよ……! ここからは加減も慈悲も無い──」


ジェロンは再び手を合わせて何かの印を結び始める。


「ヴィエリィ! 反撃デス!」


「わかってる! くそっ! 遠い──!」


サンゴーの言葉を受けると同時に、敵にこれ以上余計な事はさせまいと私は距離を詰めようとするが、部屋の中央にいる私達は敵と離れたこの十メートルほどの間隔をすぐには埋めれない。


「遅いな──『呪獄・魔境魔射(まきょうましゃ)』」


残り三メートルほどの所まで来ていた私の拳は間に合わない。ジェロンの背後から大量の札が、ぶわりと舞った。札は円を描くように空中にて大きな輪を作ると、その輪の中心に巨大な鏡が作り出されたではないか。


「気をつけてヴィエリィ! 何かしてくる気よぉ!」


私はその巨大な鏡を見て、攻撃を瞬時に反応できるように意識を備える。自分なら大丈夫だ、どんな攻撃がこようと必ず避ける自信を持っている。


──しかし、鏡からの攻撃は予想外のものであった。


──カッ!


突然のまばゆい閃光、部屋中の隅から隅を照らすような強烈な光が私達を襲ったのだ。


「なっ──まぶしっ──!」


「何も見えないわぁ!」


有りとあらゆる攻撃を想定していたが、避けられない、避けられようのない光の閃き。いかに反射神経のいい私でも光の速さにはかなわない。思わず足が止まり、腕を前に出して私は目元を隠した。


「二人共大丈夫デス! コノ光ニ有害ナ物ハ有リマセン! タダノ目眩マシデス!」


「なるほど……! 時間稼ぎってわけね──!」


何とか目を凝らして光の中に包まれる敵を見ようと徐々に目を慣れさせる。するとジェロンは印を結びながら何か呪文のようなものを唱えている事に私は気づく。


()()、個は個、我は我、生みし憑きしは表裏の己──(なんじ)(なんじ)と呼ぶ声を聞け、明暗別つ時は来たれり、()の影、積念(せきねん)を持って今此処に現れん──」


「ぶつくさ念仏唱えてる場合じゃないわよ!」


まばゆき視界の中に敵の影が見え始める。それにめがけて私は地を蹴り、飛ぶように拳を当てようとする。


──だが、敵の狙いは光の照射によるネコダマシでは無い。そのような単純なものでは無いと私は次の瞬間、思い知らされる。


「闇に呑まれるがよいわ──『呪詛(じゅそ)怨身影法師(おんしんかげぼうし)』」



ぶおんっっ!



敵の顔面に拳が当たる直前──私の身体は何者かによって後方へと投げ飛ばされる。


「うわっ──! なに!?」


明るき視界の中にいたのは、まったくの新手であった。しかし新手であるのにどこかで見たような体格、背格好をしている。


「誰!? また何かの術──!?」


「どわぁぁ!? あんた誰よぉ!?」


バラコフの悲鳴を聞いて後ろを見ると、新手はもう一人いて怪しく揺れ動いている。


その新手は真っ黒な者であった。真っ黒とは文字通りの姿でその顔も、身体も、足先までもが黒一色に染まった……まるで影のような──。


「コレハ……! 影デス! 二人ノ影ガ動イテイマス!」


よく見ればその新手の足先から延びる影は、私の足先の影に繋がっているではないか。同様にバラコフの影も本人を写すように、その大きな影を延ばして鏡のように目の前に現れていたのである。


「気にいってくれたか? それはまごうこと無くお前達の影だ。今からお前達にはお前達自身(・・・・・)と戦ってもらう」


ジェロンはニタリと目尻を上げて笑うと、私とバラコフの影は本人をめがけて襲ってきた。


「自分と戦うですって──? 冗談じゃない! こんな術、速攻で破ってみせる! 『流掌打(りゅうしょうだ)』!」


──ガッ!


放つ私の技──しかし、私の影はこれを軽くいなし、捌いたのである。


「──!? この動き!?」


それは間違いなく私自身の体術、流術の動きであった。影が出したのは私の得意技『流水破』──影はこちらの体制が崩れるのを見計らうと、追撃を仕掛けるように拳を腹にめがけて打ち込もうとする。


「こん……の──!!」


影が繰り出す攻撃を私も負けずと流し返す。両者の攻撃は瞬く間のスピードで展開されるも、互いの呼吸のタイミングを熟知したように決定打は決まらない。


「なんなのよぉこいつぅ~!?」


バラコフも自身の影と揉み合いになるように組み合っていて、互いの力が同じであるがため膠着状態(こうちゃくじょうたい)であった。


「ふぇふぇふぇふぇふぇ! あがけあがけ! それはお前達と同じ力を持つ者! 負けること無くとも勝つことも無い! 苦しむがよいわ!」


ジェロンは下品に笑うと高みの見物と洒落(しゃれ)こむ。私は影にいくつも攻撃を仕掛けるが、全ては無に帰す如くいたずらに体力を消耗するだけである。


「ど……どうすんのよぉ~!」


「バラコフ! 私ガ手伝イマス!」


サンゴーはバラコフの影を後ろから羽交い締めにすると、


「よくやったわぁサンちゃん! ぐぉぉらぁ死ねやぁぁ!!」


バラコフは思い切り振りかぶりながら自分の影の胴体にパンチを浴びせる。サンゴーの機転によって無防備となった影にズドン! と、鈍い音と共にめり込むパンチ!



だが、またも予想外の事が起きた──。



「ガハッッ──!」


「バラコフ!」


何故か、パンチを確かに影に対して打ちこんだバラコフの方が白目を向いて倒れたのだ。サンゴーは羽交い締めにした影を投げ捨てると倒れたバラコフを抱き起こす。すると、胸に大きな"へこみ"があるのを確認した。


「コレハ……」


「ふぇハハハハ! たわけが! それはお前の影、お前自身だ! 影に攻撃すると言う事は自分も傷つくと言う事! 汝は影、影は汝! お前達が勝てる道理など、最初からあろうものか!」


「この影は……倒せない……!?」


ジェロンは愉快に、痛快に笑う。そうしてる間にも私の影は攻撃を仕掛けてきて、バラコフの影も止めを刺そうと倒れた本体へと歩みよる。


「くっそ……!」


「ふぇハハハ! これで終われると思うな……? ここからが真の恐怖だ──」


ジェロンは目にも止まらぬ速さで印を結ぶと、


「『呪獄・一心憑影(かげおくり)』」


そう唱える。すると、私の影とバラコフの影がどんどんと小さくなっていくのだ。


「なんだ、小さく……!? どうなってる──」


「──! ヴィエリィ! 足デス!」


敵の術に疑問を抱く私、そこにサンゴーが何かに気づいて叫んだ。言葉通り私は自分の足を見ると、


「なっ!? 影が!?」


私の足先から這い上がるように影が登ってきたのだ。影が小さくなっていくのは、その体積を減らして私の身体に侵食をしていたからだ。その影の侵食に痛みや違和感は無い、だがこのままでは何かがまずい(・・・・・・)という事だけはわかる。


「状況、不利。解答、該当無シ」


バラコフの影もまた彼を飲み込むようにどんどん侵食している。それを見たサンゴーは小さくなっていく影に対して攻撃をしようとするが、それが本体へのダメージとなることを懸念し、その鋼鉄の拳はピタリと眼前で止まった。


「くそ! なら──!」


私は元凶であるジェロンに目を向けて一気に叩こうとするが、すでに影によって侵食された足が上手く動かない。


「なんで──!? 動け! 動いて──!」


「無駄だ。お前達は影に喰われ、影となる。ここで終わりだ」


私の影はすでに下半身を呑み込み、上半身も残りわずかまでとなるほどのペースで侵食されて行く。


「あっけないな──お前達は"餌"だ。わきまえるべきであったな」


「──ふっざける……な! 私達は……負けない……!」


ジェロンは影に呑まれるその様を哀れな目で見る。絶対絶望的な状況──だが、


「マダデス──私ガイマス──!」


"希望"が再び立ち上がる。唯一己の影がいない、サンゴーがジェロンへと突っ込んで行く。


「呪獄ノジェロン──覚悟!」


サンゴーの特攻、鋼鉄の体をフルパワーで突撃させる──



ガツンッッ!!



蹴り飛んだ──。それは、サンゴーも、私自身も信じられない結果であった。その特攻、ジェロンに当たる直前でサンゴーの体は突然の"蹴り"によってふっ飛ばされたのだ。


「ガ──ガガ──」


「……そ、そんな──サンゴー……!!」


サンゴーを飛ばす蹴りを入れたのはジェロンでは無い……それは誰も予測できない、攻撃──その蹴りは、"私"が放ったのだ。


影に侵食された身体が勝手に動き、彼の体を意識とは関係なく蹴り飛ばしたのだ。


「──ワシの敵は最初から一人だ。そこな機械人形、お前だけはワシの呪いが効かんらしいな。なればこの世で唯一のワシの天敵という訳だ……。だからこそ、ワシはお前を壊すため──お前の"仲間"を利用することにしたよ」


「マダ──デス──。モウ一度、特攻シマ──」


ギリギリと機械音を鳴らしながら立ち上がるサンゴー。


その一瞬の間、運命を別つように最悪のシナリオが訪れた。



ギャッシャアァッッ



「────バ、──」



生半可な攻撃では傷もつかぬ鋼鉄の体──その胸部を貫くように、一本の浅黒い太い腕が彼の体を貫通させた──。



「──な────サンゴーおお!!」



サンゴーの胸部に(こぶし)大の風穴が空いた。いとも簡単に風穴を空けたのは、他でも無い──その身の大半を影に呑まれた友のバラコフであった。


「ふぇっハハハハ! ハハハハハ! その物の硬度を操る能力! 利用させてもらったぞ!」


「ヴィ……リィ……バラ…………フ……」


鋼鉄の牙城がバラバラと歯車を落としながら、静かに音をたてて──地面へと沈んだ────。




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