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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~三章 復讐の拳闘士編~
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四十三話 機械と奇怪


機械──それは現代では使わなく、使えなくなった代物である。機械文明の衰退の原因は様々な憶測がある。今や世は機械では無く、多種多様な花による効力が人々の助けになっているからなのか、それともそれ以外の原因があるのか……。


五百年前の人々はこの『機械』達を利用して暮らしを豊かにしていたらしい。誰もが忘れた科学の真髄、もっとも人と近くにあった技術の研鑽、その人間が作った最高傑作が──今、時を越えるように私達を助けてくれた。



「サンゴー!」


「サンちゃんやるぅ!」



私達を閉じ込めていた敵の能力は、科学の力によって打ち破られた。四方の壁には邪魔な物を全て焼き切ったように黒い線が鋭く刻まれており、焼け焦げた札がプスプスと煙を上げている。


「──貴様、機械か……! まさかその鋼鉄をまた拝めるとはな……! 実に久方ぶりだぞ……!」


ジェロンは驚きというよりも、どこか感激に近いような嬉々とした声を上げた。


「──! 見て! ヴィエリィ身長が!」


「──戻ってきてるわ!」


先程まで私より身長の低くなっていたバラコフの身長が、徐々に伸びるように戻り始めると同時に私の身長もまた少しずつ大きくなり始めた。


「これで上にいる人達も戻るのねぇ!?」


「──イエ、バラコフ。残念ナガラ私ノ予測デハ、戻ラナイト出テマス。暗闇デ、ヨク見エマセンガ ココノ天井ニハ、札ガ大量ニ張ッテアリマス」


「まだあるのか! じゃあそれを燃やせば……いや、その前に目の前にいるこいつをぶっ倒すのが先ね──!」


完全に体勢を立て直した私達は憎き難敵を見据えた。しかし、その相手は自身の技が破られたと言うのに動揺する素振りも見せぬように、まだ腰をどっしりと落とすように座して、こちらを見ていた。


「……合点(がてん)がいったな。ただの有象無象がここまで辿り着けたのは、その機械のお陰だったということだな。なるほどなるほど……興味深い。お前達がどうやってその機械を見つけた事に関心が絶えないが、それは後から調べればわかること……今はまず、ワシにたてつくハエ(・・)を始末してやらんとな──」


ジェロンはそう言うと、両手を合わせながら何かの"印"を結び始めた。


「また何かやる気だわぁあいつ!」


「──させない!」


私は地を思い切り蹴り、一気に距離を詰めるように敵に向かう。


「──愚かな。『呪獄召(じゅごくしょう)(じん)』」


敵との距離、あと一メートルという所でその異変は起きる。その奇妙な感覚は足元からであった。私が踏みしめるは盛り上がった地面、そこから勢いよく飛び出すように細い触手の束がうねりながら襲いかかってきたのだ。


「う、わああ!?」


「今度は何ぃ!?」


私はその触手が出てきた勢いを利用して、後方に逃げるように飛んで何とかその攻撃を回避する。


「マダ来マス! 前方、後方、左右ニモ触手出現! 警戒シテ下サイ!」


瞬く間に部屋の隅々から細い触手の束が現れる。一同は囲まれる形となって身を寄せた。


「ふぇふぇふぇ……ただの触手では無いぞ。ほれ、よく見てみろ」


ジェロンが両手で輪っかのような印を結ぶと、私達は目を疑った。各々の触手の先から巨大な"鎌"が生えてきたのである。その鎌は松明の灯りを反射しながらギラギラと輝き、今か今かと獲物を刈り取るようにぐらぐらと揺れているではないか。


「お前達がワシに触れる事などできん。その身を八つ裂きにしてやるわ」


ジェロンが合図をするように手を振ると、鎌を生やした触手達は一斉に私達に切りかかってくる──!


「ひいいいぃぃ!」


「サンゴー! バラコフをお願い!」


了解(ラジャー)! バラコフ、私ノ背中ニ隠レテ!」


右に、左に、上から襲い来る鎌を私は紙一重で何とか躱す。私ほどの体捌きが出来ないバラコフはサンゴーの後ろに隠れると、サンゴーは切りかかる鎌をその鋼鉄の体で受け止めた。


「サンゴー大丈夫!?」


「問題、無イデス──シカシ危機的状況ナノハ、否メマセン」


次々に襲う鎌を避けながら私はサンゴーに安否を確認する。鎌が鋼鉄の体にぶつかる度に金属音が部屋中に響く、サンゴーの体は刃物が通じないのか今の所は何とか耐えれているようだ。私は何とか隙を見つけようにも、触手の数が多すぎて本体に近づけず手のうちようが無い状況である。



ギシャァッン!!


「──!? サンちゃん!!」



バラコフの驚嘆と一段と甲高い金属音が響く。その驚きはサンゴーの鋼鉄の体に傷が付き始めたからである。


「マヌケな奴等よな。その(やいば)がただの刃物と思っておるのか? ワシは呪獄のジェロン、呪いを得意と豪語するからにはその刃にも『呪い』がかけられている。その刃はお前達に触れるたびに、その鋭さ、頑強さを強化している。いくら鋼鉄の機械の体を持とうが、時間の問題……ゆるりと絶望するがいい」


ジェロンは私の苦しむ表情を見て笑いながら言う。だが、バラコフはニヤリとそれを返すように口に笑みを浮かべた。


「あんたが強化するならこっちだって同じこと(・・・・)すりゃいいって話しよぉ! いくわよぉサンちゃん!」


「コンビネーションヲ、見セテヤリマショウ」


バラコフはサンゴーの背中に手をつくと、


流転の愛(プリティー・ラヴ)!」


バラコフの能力でサンゴーを硬くしたのである! これぞオカマとロボットの無敵のコンビネーション! 鋼鉄の体はここに更なる進化を遂げた!


「これであんたの鎌も恐くないわぁ! サンちゃんやっちゃいなさい!」


「オ任セデス『アイアン・フィスト』!」


バキィィッン!


サンゴーは迫る刃に鉄の拳を食らわせると、見事その鎌を破壊した。


「よし! サンゴーナイス!」


「ほう、壊すか。なら──また生やせばいいことだ」


ジェロンは再び印を結ぶと、めきめきと触手の先からまた新たな刃が生えてきた。


「再生!? ずるいわよぉ!?」


「バラコフ! 後ろ!」


ギィィィッン!


驚くバラコフの後方から他の触手の鎌が襲う。私が叫ぶとサンゴーが庇うようにその無数の刃を体全体で止めた。


「状況──不利。再計算ノ余地有リ」


鳴り止まぬ金属音。何度も打ち付けられる刃は、最硬を誇るサンゴーの体を徐々に傷付き始める。


「サンちゃん!」


「敵カラノ被害(ダメージ)増大。計算デハ、後一分ガ限界デス!」


「ワシの呪いは生半可では無い。お前がいくら硬くなろうが、それを上回る強度を上げればいいだけだ」


「くっそ! 二人とも! 何とか凌いで!」


私は攻撃を躱すのに精一杯、頼みのサンゴーはバラコフを庇うのに手一杯である。


「くっ──! このままじゃ……!」


「どどど、どうすんのよぉ!?」


完全に手詰まり、あと一分後には間違いなくサンゴーはあの鎌の餌食となるであろう。そうなればバラコフも同様であり、確実なる死へのカウントダウンは始まっていた。


そんな絶望の中、サンゴーは攻撃を受け止めながら目を光らせると、


「──計算終了。ヴィエリィ、バラコフ! 札デス! 札ヲ探シテ下サイ! コノ攻撃モ、カラクリガ有ル筈デス! ソレヲ見ツケルノガ逆転ヘノ道デス!」


彼は私達に希望を持たせるよう言ってきた。


「そうか──! これも『呪い』なら札があるのね!」


私はすぐさま鎌の攻撃を避けながら部屋を見渡す。しかし、この見通しが悪く広い部屋で札を見つける事は容易では無い。全方位を見渡したが、そんなものは見えないのである。


「どこだ──!? どこにある!?」


「ふぇふぇふぇ! いいぞその着眼点、そうだとも札はあるぞ。しかしお前達には絶対に見つけられん。見えない(・・・・)ものを探す事はできんよ」


ジェロンは手を叩きながら私達をあざ笑う。私は必死に壁や触手を見るが、やはり札なんてものは見当たらない。


「くっ……」


私は刃をすり抜けながら部屋の中央まで来ていた。──だがそこで、不思議な事を見つける。


「……? ここだけ触手が飛び出て無い……?」


部屋の隅々に生えた触手、しかし何故か私が立っている部屋の中央にある半径三メートル程の円、この周りは触手が飛び出ておらず綺麗なままの地面なのである。


「ヴィエリィ! わかったわぁ! あいつの『見えない』って言葉で謎が解けた! 札は地面(・・)の中にある筈よぉ!」


バラコフが閃いたように言う。確かにこの攻撃事態も地面(・・)から出たもの、それならば札が地中にあってもおかしくは無い。


「地面ね! ──って地面!? どうやって……ええい! もう迷ってる暇なんかないわ!」


私は左足を思い切り上げると、その足を全力で地面に叩きつける。


ダァンッ!


地面が響く音、しかし──


「硬っっった!! 駄目だ! この地盤硬すぎる!」


びりびりと足が痺れるだけで私の『震脚』は無に()した。


「ふぇハハハハ! 無駄だ。無力な人如きがその地盤は割れん」


「──じゃないわよ」


「……あ?」


「笑ってんじゃないわよ!! 私達をなめんじゃないッ!! サンゴー! バラコフを!」


私はジェロンに一喝すると、サンゴーに向かって叫んだ。彼は触手の猛攻を受けながらバラコフに指示をする。


「バラコフ! ウシロヲ、向イテ下サイ」


「リリアンだっつってるでしょぉ!」


ツッコミを入れながらバラコフは後ろを向くと、サンゴーは自身の後ろ足をオカマのケツに照準を合わせ思い切り蹴り上げる!


「痛っっっったああああ!!」


浮かせるように蹴りを入れるとオカマは宙を飛んだ! 吹っ飛ばされた先は部屋の中央! やるべき事はただ一つ!


「バラコフ! 頼んだわ!」


「リリアンって言ってるでしょうがあぁ!! 食らいなさいなぁ! 愛と怒りと悲しみのぉ! 『流転の愛(プリティー・ラヴ)』!!」


バラコフは部屋の中央、硬き地面にその拳を叩き込む!!



グシャアッッッッ!!



まるで泥のように柔くなった地盤はオカマの拳にて砕け散った! その中から赤い札が飛び出し宙を漂うと、


「そこお!!」


鋭き蹴りの一閃──! 私の放った瞬撃により、札は真っ二つと相成った!


「何事だ……! これは何事だ──!」


ジェロンが思わず立ち上がる。部屋の隅々に生える触手はバタリと倒れると、灰と化した。


「よっしゃー!!」


「やったわぁ!!」


「現状、打破。流石デス」


私とバラコフはハイタッチし、サンゴーは怒りに震えるジェロンを見て構えを取り直した。


「ワシの……ワシの呪式をコケ(・・)にするとはいい度胸だ……。いいだろう……貴様らには八つ裂きすら生ぬるい。ワシの呪いを骨の髄まで味わって貰うぞ……!」






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