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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜  作者: サムソン・ライトブリッジ
~三章 復讐の拳闘士編~
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二十七話 勝ちへの価値


「七回戦! 七回戦です! ここまで町長の連勝、快勝、問答無用! だれがこの展開を読んでいたか!? 否、皆がこの展開を待っていた! 町長はあと二回! たったの二回でゲームセットというところまで来ました! これはピンチだぞ挑戦者(チャレンジャー)! もはやリードはあって無いようなものだ! それでは七回戦! 張りきっていきましょーーう!!」


轟く歓声が異様な空気をつくる。圧倒的なアウェーでこの流れ、私達は思わず冷や汗を垂らした。


「──くっ……」


下唇を噛みながらバラコフは額からドッと汗を流す。この相手は凄腕の博徒だ。それを今さらになって痛感をする。素人が挑むにはあまりにも壁は高く、知識と経験……それと流れを掴むことのできる強運が必要だったのだ。それらをこいつは全てこちらよりも持ち合わせている。窮地、追い込まれている──。


「バラコフ! しゃんとしなさい! ここで一番やっちゃいけないのは弱腰、弱気になって自分を見失うことよ!」


下着姿の乙女がオカマに激を飛ばす。なんともいえぬ光景だが、その必死さは伝わるものがある。


「……よし。いくわよぉ……!」


「いい顔だ。ナイスだよ。さあ楽しい七回戦を始めよう!」


何か覚悟を決めたようなバラコフは目を細めて指をポキポキと鳴らし構えをとった。


『こういうぐあいにしやしゃんせ~』


歌が進む。そしてその刹那であるが、彼は考えがあった。


「(これは偶然、それともこいつには何か絶対にジャンケンで勝てる秘密がある……? あたしの手を読める何かの秘密──。まるで心の中を読んでるような何か……)」


それは一縷(いちる)の疑念。細く、極めて細い閃きの電光が頭の中を一瞬よぎった。


「(この男……! もしや本当に心の中が読める……!? 例えば、そういう能力(・・)なら──まさか、逸脱している!?)」


そんなピンポイントな考えをする。すると──対戦相手のギャラスは静かにこちらを見て笑った。それはこちらの思考を読んだのか、それともただの挑発なのかはわからない。しかし確かに言えるのは、この勝負が勝ち目の無い勝負だとそう言っているような不敵な笑いであることは間違いないのだ。


『よよいの──』


「(! もう考えてる暇は無い──! ここはグー…………! と、見せかけてチョキよぉ!)」


歌も終盤、決着を焦る手をバラコフは振り下ろそうとする。


「「よぉい!!」」


寸前で切り替えたバラコフのチョキ! 流れ断つチョキ! 悪鬼を斬るチョキ──!


それに対した町長──。その手を見たリングアナが勝敗を告げる。


「七回戦! 挑戦者(チャレンジャー)……チョキ! 王者(チャンピオン)──グー! 勝ったのはまたまたまたまた我らがギャラス町長だあああーーー!!」


ワアアアアーーー!!


それを見てガクリと膝をついたのでは無く、枯れ木を折ったように崩れ落ちるバラコフ。


『よっっしゃーー!! 勝ったーー!!』


『脱げ脱げ脱げ脱げ脱げええっっ!!』


下卑た野次が飛ぶ中、バラコフは相手を睨んだ。


「……反則よぉ! あんた、逸脱ね──! それも相手の心を読む力……そうでしょう!?」


「……おかしなことを言う。負け惜しみは見苦しいですよ。それに仮にそうだとしても証拠でもあるのかな? いいかね、イカサマはバレなければ反則(イカサマ)では無いのだよ……!」


その言葉に動揺することもなく軽くあしらう町長。とんだ食わせ者……もしそうならこちらにもう勝ち目は皆無である。


「下着を──脱いでもらえるかな。ヴィエリィ君……!」


「…………っ」


町長が催促をする。私は胸につけている黒のブラジャーを肩口からするすると降ろし、片手でそれを名残惜しそうに外した。


何も着るものが無くなった乙女の上半身は、肌の滑らかさが遠目からでもわかるような美しさと決め細やかさ、更には両の手で隠されたたわわな乳房……そこに羞恥心というスパイスが加わってこれはもう一種の芸術作品とも呼べるだろう。観客は言うまでもなく大歓声の嵐、この夜は更なる熱気が加速する──!


「すばらしい……! ナイス、ナイス、ナイス! 君をこのまま剥製にして飾りたいくらいだよヴィエリィ君……!」


「……変態ね。あんたも、観客も、この街も性欲に狂った大人の掃き溜めだわ」


「はっははは! そうかもだな! しかしそれで結構! 私は無理矢理に君を脱がした訳じゃ無い……。あくまでもギャンブルで勝ったからその代償を頂いてるだけだよ。そしてそれも次で終わりだ。君に残された下着(ライフ)はあと一枚! 泣いても笑っても次が最後の勝負だ……! 覚悟は、できてるかな?」


高笑いする町長に悪態をつくもノーダメージであった。顔を赤らめる私にバラコフはのそりと近づいて来て耳打ちをする。


「ヴィエリィ、こいつ絶対能力者よぉ! 勝てる訳が無いわぁ! 隙を見て逃げるわよぉ!」


バラコフの言ってる事はたぶん正解だろう。奴は逸脱である可能性が高い。ここまでの勝負が"できすぎている"。もし心を読める能力ならこのギャンブルで勝てる見込みは無い。絶体絶命である。


「…………」


「考えてる暇なんて無いわよぉ!」


それでも私は動けずにいた。まず、"逃げる"という行為──これが出来ない。それは物理的にでは無く、私のプライドの問題。ここまで相手にコケにされて引いては腹の虫がおさまらない。


しかしこの勝負が勝てないこともまた明白である。このまま無謀な勝負をして一か八かに賭けるか、それが例え身ぐるみをすべて剥がされても立ち向かうのか……。半裸の私はこの窮地を苦しんでいた。


「おっと、言っておくが"逃げる"なんて姑息な事はないだろ? 仮にも武術の王者がリングに立ってるんだ。君は逃げないよなあ、ヴィエリィ君──?」


「──当たり前よ! その鼻っ面、折ってやるわ!」


こちらの思考を読むように町長が言うと、私はついついそれに乗ってしまった。その隣でバラコフは自分の顔を手で覆ってこりゃ駄目だといったポーズをする。


「ナイス! ではそんなヴィエリィ君にサプライズだ! 後ろの客席を見たまえ!」


町長が指をさした方向を見ると、警備兵に連れられている両手を後ろに縛られたサンゴーが居たのだ。


「サンゴー!」


「サンちゃん! どうしてここに!?」


「君達の勇姿を見てもらいたくてね、私がさっき呼んでおいたのだ。君達が勝てば彼はこの場で放免だ。どうだ中々の演出だろう?」


私達の反応を見て町長は顔を歪ませて言う。


「なーにが勇姿よぉ! あんたのそれは建前! 本当は仲間が無惨に負ける姿とその痴態を見せるために呼んだだけでしょうが! 最悪の趣味ねぇ……反吐(へど)が出るわぁ!」


「くっくくく! どう取るかは君達に任せるよ。それじゃあそろそろ始めようか……最終ラウンドを!」


町長が開始の合図をしようとする──


「待った!!」


とっさに私はそれを止めた。観客がざわつき、町長は鼻息を漏らす。


「なにかね? 覚悟が決まらないとでも?」


「……交代よ。ジャンケンの選手交代をするわ」


私はバラコフの肩をポンと叩くと『ここまでありがと。もう大丈夫よ』と、一言礼を述べる。


「大丈夫って……ヴィエリィあんたがやるの!? 駄目よぉ! あんたジャンケンはてんで弱い──」


「選手交代! 最終ラウンドは私の仲間──彼が代わりにやるわ!」


そう言って私は指をさした。その先にいる、"サンゴー"を示したのだ。


「え!? サンちゃん!?」


「そうよ。サンゴーにやってもらうわ。かまわないわね、町長?」


私が言うとギャラス町長は腕組みしながらこう言った。


「──残念だがそれは無理だ。君の仲間は今、こちらの手の中にある。借金の担保として預かってる者を代理に起用する事はできない。君達は自力でやらなきゃならんのだよ」


それはもっともな言い分である。しかし、私は引かなかった。


「……なら提案するわ。もし、これで負ければ私は身ぐるみを全部剥がされる。本来ならそれで終わり……だが、それに加えて私は"自分自身"を賭ける──! その条件で交代権を彼に託すわ……!」


その提案に場内が、息を呑んだ。


「バッ……なに言ってるのよぉ!?」


「……改めて聞いておこう。君はそれがどんな条件か理解してるかね? 君が負ければどんな酷い目に合おうが、恥辱に毎夜犯されるか──自身を賭けるとはそういうことだが、それで本当にいいのかね?」


町長は目を丸くして確認をとる。それに対して私は言ってやるのだ。


「二言は無いわ。私は私の仲間を信じることでこの勝負に打ち勝つ──!」


「────ナイス。君の心意気、その勇気に敬服するよ……! いいだろう! 交代を認めるっ!!」


うおおおおおおーーー!!


『すげええ!! こんな勝負初めてだ!!』


『いいぞー!! 姉ちゃんやるじゃねえかー!!』


どよめく! 会場のボルテージは今宵、最高潮に達する!! 町長は目で警備兵に合図すると、サンゴーを縛る縄をほどき始めた。


やがて仮の自由となったサンゴーはリングに降りて来て、私達のところまでやってきた。


「ヴィエリィ、無事デスカ」


「サンゴーほんとごめんね。私のせいで離ればなれになっちゃって……」


「気ニシナイデクダサイ。ソレヨリ、コレハ」


「サンゴー。すっごい勝手だけど頼みがあるわ。あなたの頭脳であいつにジャンケンで勝って欲しいの。それがこの街から無事に出られる条件なの」


私は半裸の情けない姿で懇願した。元々はギャンブルなんて向いてない私達、ならばこそ──逆に何も知らないサンゴーに運命を託すのだ。


中途半端に知っているからこそ痛い目を見ることはどの競技でもあり得ること。それこそ運に左右されるギャンブルならビギナーズラックなんて言葉もある。少なくとも自分達よりは勝つ公算が高いと私は踏んだのだ。


「了解デス。私ガ、勝利ノ道ヲ示シマス」


「サンちゃんカッコいい! ……けどほんとに大丈夫!? これで負けたら、ヴィエリィは……」


「これは本当の賭けよ──。破滅か生き残るか……博打の真骨頂……!」


勝ちへの価値、これほどまでに膨らむとは誰もが思うまい。この己を賭けた投資に私は闘志を燃やした。




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