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ランナー真美の願い(2)  作者: でこぽん
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8.ナイロビ・マラソン

 ナイロビ・マラソン大会は、標高約千六百メートルの空気が薄い場所で走るため、選手にとっては過酷なレースである。


 しかし、この大会は、子供から大人まで約一万七千人が参加する一大イベントだ。もちろん子供たちはフルマラソンでは無く、十キロコースやファミリーコースなどに参加する。


 ケニア人の平均月収は日本円にしておよそ十二万円ほどだが、マラソン大会の参加費は約三千円であり、ケニアの人たちにとっては高い金額だ。だが、この大会は入賞者に多大な賞金が与えられるため、プロを含めた多くの世界レベルのランナーたちが大会に参加する。ナイロビ・マラソン大会で優勝することは、ケニア人にとってケニアン・ドリームを手にすることと同じだった。


 真美とルーシーは、朝の五時半に待ち合わせて、ニャヨ国立競技場へ行くバスに乗り込んだ。スタート時刻が朝七時のため、朝六時にはスタート地点で準備が必要となる。


 こんなに朝早くから行われるマラソン大会は、意外と数少ない。おそらく、ナイロビが赤道付近のため、開催時刻が遅いと紫外線の影響が大きく、危険が高くなるためだろう。


「真美、ナイロビ・マラソン大会は優勝賞金が沢山もらえるのよ。知っていた?」

 ルーシーがバスの窓の外を見ながら、何気なく尋ねた。


「えっ。本当なの?」


 突然のルーシーの説明に、思わず真美の目が変わった。日頃の純情な真美の瞳とは明らかに違う。守銭奴のような目に変わった。だが、ルーシーは窓の外を見ているため、真美の変化に気づかない。


「ちなみに、フルマラソンの優勝賞金は、日本円にしておよそ百五十万円よ」


「百五十万円…」


 さっきまでは、純粋な心で走ることを目指していた真美だった。だが、優勝賞金を知ると、思わず心の内に潜んでいる金銭欲が目を覚ました。


(これは、ぜひとも優勝しなきゃ…)

 真美は、ひそかに思いを巡らせた。まるで時代劇にでてくる悪徳商人のような表情になった。


「でも、真美はチャリティ参加だから、優勝しても賞金は、もらえないわよ」


 予想もしないルーシーの説明だった。真美は、ショックをうけた。


「えっ。そ、そんなぁ…」

 思わず守銭奴の目から涙目に変わった。真ん丸の大きな瞳に、うっすらと涙が溜まった。


「だって、真美は元々、骨髄バンクにドナー登録を呼びかけながら走るのでしょう? 優勝賞金がもらえなくても、問題無いじゃない」

 ルーシーは、ようやく振り返り、真美の顔を見た。涙目の真美の瞳を見たルーシーは、真美のよこしまな気持ちに気づかない。ルーシーは、心の底から真美を信じているようだ。


「泣きそうな顔をしているけど、どうしたの?」


「い…、いや、マアンギのことを思い出してね。そ…、そうね。あははは。私には優勝賞金は不要だわ」

 真美は、ぎこちない笑顔を見せ、とりつくろった。


 チャリティ参加なので、優勝しても賞金はもらえない。そう分かった後の真美の変わり様は、見事だった。



 ニャヨ国立競技場へ着くと、真美は、マイアからもらった布のメッセージを取り出した。


「これは、マイアの家族が作ってくれたものよ。『骨髄バンクにドナー登録を』と、スワヒリ語で書かれているの」


 真美が渡した布のメッセージを見て、ルーシーが思わず驚いた。

「えっ。マイア達も真美の願いを知っているの?」


「うん。マイアが大会事務局の人から聞き、マイアの家族やケニア選手団の人たちに話したところ、皆が賛同してくれたそうよ」

 そして真美は続けて、

「それに、ナイロビ石油化学会社の陸上部員も、このメッセージをつけて走ってくれることになった。私が救助したタンクローリー車の運転手が務めている会社の人たちだよ」


「凄い。それだと、このメッセージを付けた誰かが先頭にいる限り、テレビカメラがメッセージを映してくれるわね」


 確かにそうである。真美やルーシーが一位になれなくとも、メッセージを付けた誰かが一位になれば、真美の願いはかなえられる。ルーシーも、真美を取り巻く絆が広がったことを喜んだ。


 その後、二人はメッセージの布をランニングシャツの胸のあたりに付けた。


「真美は前傾姿勢で走るので、もっと上の方に付けないとメッセージが読めないわ」

 確かにそうだった。真美の走る姿勢だと、そのまま胸に付けるとメッセージが読みにくい。


 ルーシーは、真美のメッセージを付ける場所を直した。

「これで良し」


 メッセージを付け終わった真美とルーシーは、準備運動を軽くおこなった。



 ナイロビ・マラソンのスタート場所は、ニャヨ国立競技場の横にあるウフル高速道路上だ。二人は、早めにスタートラインの近くを確保した。


「この大会は速い人が多いわ。懸命に走らないと、先頭をキープできない。真美も覚悟してね」


「うん。わかった」

 真美は何が何でも先頭をキープしてテレビに映り、メッセージをみんなに見てもらうつもりだ。



 スタート時間まであと一時間ほどある。その間、真美とルーシーは目を閉じて、スタート時間近くまで静かに黙想した。


 それから四十分が経過した。あと二十分でスタート時間だ。高速道路は既に大勢の参加者で埋め尽くされた。


「ひゃあ。凄い人数」

 黙想を終え、目を開いた真美が驚いた。

 しかも真美の周りに、同じメッセージを付けた人たちが百人ほどいた。


 真美から離れた場所にも、数十人の人たちが真美と同じメッセージを付けている。


 若い人もいれば中年の人もいた。驚くことに、沿道にいる小さな子供も、メッセージを付けていた。


「もしかして、アンダー20ケニア代表の人ですか? それともナイロビ石油化学会社の人たち?」

 真美が尋ねたところ、「アンダー20ケニア代表」と答える人や「ナイロビ石油化学会社陸上部だよ」と答える人、そして「どちらでもないよ」と答える人がいた。だが、みんなが、「君が真美だね。協力するよ」と、笑顔で答えてくれた。


 みんなは真美を知っていたし、真美の願いも知っていた。

「マアンギのために走ってくれてありがとう」と、言う人や、

「うちの会社の社員を救ってくれてありがとう」と、いう人もいる。

 さらには、

「あなたの勇気と行動に感謝している」と、いう人が多数いた。


 アンダー20のケニア選手団や、マアンギのクラスメート、ナイロビ石油化学会社の陸上部員だけではなかった。どの様ないきさつかは分からないが、それ以外の人たちも、協力しているようだ。みんなが真美の願いを受け継ぎ、自分の願いとして、願いをかなえようとしていた。


「ルーシー、こんなに多くの人たちが協力してくれている。すごく嬉しい」

 真美は、このことだけで感動した。


「そうね。私たちは出身国が違うけど、心は一つよ。これって素晴らしいことだわ」

 ルーシーも、大いに感動しているようだ。


 すると、どこからか、

「真美、ルーシー、頑張れ!」と、応援が聞こえた。

 声の方を見ると、エヒンバがいた。エヒンバのお婆さんも、応援に来ていた。


 エヒンバは、真美たちが白血病の患者のために走ることを知っていた。だから、まるで姉を応援するように、真美やルーシーを応援していた。


「エヒンバやお婆さんがいる。これは何としても頑張らなきゃ」

 真美たちは、エヒンバたちに手を振って応えた。


 すると、さらに「真美、頑張れ!」と、応援する者がいた。今度はべつの方角だ。

 真美が声の方を見ると、ブラウンだった。

「あ、ブラウンだ。ありがとう」

 真美は嬉しかった。ケニアで知り合った人たちが、応援に来てくれた。


 みんなの応援は、真美に力を与えた。


 さらに驚いたことに、左側の沿道の方から

「真美、頑張れ!」と、一段と大きな声があがった。

 声の聞こえた方向を見ると、真美の知っている人は誰もいない。しかし、みんな若い男女である。しかも、真美のメッセージと同じ文字が書かれた横断幕を持っている。


 おそらく、マアンギのクラスメートたちだろう。『骨髄バンクにドナー登録を』と、スワヒリ語で大きく書かれている。

 この横断幕がある限り、多くの人がメッセージを見ることになる。


「みんな、ありがとう」

 真美とルーシーは両手を振り、笑顔で応えた。


 すると、さらに一段と大きな声で

「真美、頑張れ!」と、今度は右側の沿道にいる百人ほどの人たちから声援があった。

 声援した人たちは、若い人もいれば年老いた人もいる。そのなかにエリウドさんがいた。

 彼らはナイロビ石油化学会社の人たちだった。彼らも胸に『骨髄バンクにドナー登録を』と書かれたメッセージの布を胸につけている。


 真美はそれだけで嬉しくなった。


「ありがとう、エリウドさん。ありがとう、みんな」

 真美は、両手を大きく振って声援に答えた。


 すると、人込みをかき分けながら、マイアと中年の男性がやって来た。


「真美、おはよう」


「おはよう、マイア、隣の人は?」


 すると中年の男性が、真美に握手をした。

「はじめまして真美さん、私はナイロビ石油化学会社陸上部のキャプテンをしているキマニです。同僚の命を救ってくれてありがとうございます」


 キマニは、真美が救助したタンクローリー車の運転手と同僚だった。だからエリウド社長の依頼に対して即答で協力を申し出たのだった。


「真美、さっき偶然にもキマニさんと会ったのよ。私たちと同じメッセージの布を胸に貼りつけている人たちが大勢いるので、びっくりしちゃった」

 マイアがキマニさんと出会ったいきさつを説明した。


「真美さんの右斜め後ろにいる人たちが、ナイロビ石油化学会社陸上部関係の人たちです」

 キマニの指さす場所を見ると、なんと六十人ほどの人たちが手を振ってくれた。もちろん彼らの胸にはメッセージがついている。


「ありがとう」

 真美は手を振って答えた。


 すると今度はマイアが、

「彼らがアンダー20世界陸上競技のケニア選手団とその関係者よ」

 真美のすぐ後ろにいる八十人の仲間を、マイアが紹介してくれた。もちろん彼らもメッセージを付けている。


「ありがとう。よろしくお願いします」

 両手を上げ、真美は元気に挨拶した。


 マイアとキマニの話を合わせると、メッセージを付けて走ってくれる人は、今のところ真美たちを含めて約百四十人ほどだった。沿道にはさらに、二百人ほどメッセージを付けて応援してくれる人がいる。


 真美の願いは、確実に伝わっていた。



 やがて、スタート時間となった。


 朝七時、スタートを告げる号砲が鳴り響く。

 走者が一斉にスタートした。


 いきなり真美がスタートダッシュした。すぐさまルーシーもマイアも、真美の後ろを追う。


「あれ? おかしいな」

 通常、真美がスタートダッシュをすると、必ず先頭になるはずだった。だが、十人以上のランナーが、真美と同じスピードで駈けている。


 やはり、この大会は参加者のレベルが違う。真美は体を傾け、さらにスピードアップした。



 今日は晴天だ。赤道にほぼ近いナイロビで晴天の日に走る際は、脱水症状に気をつける必要がある。しかも、いきなりスピードアップをしている真美は、早くも額から汗がにじみ出ていた。また、前方からは強風も吹いている。

 ただでさえ体力を消耗するフルマラソンだが、向かい風だと、さらに体力を消耗する。


 重量があるルーシーは、向かい風の影響が少ない。だが、軽量の真美は、向かい風の影響を、もろに受ける。

 向かい風を克服する走り方が必要だった。


 真美は、今まで練習してきた前傾姿勢で走った。前傾姿勢だと、風の影響を受けにくい。

 しかも真美は、今までよりも更に、体を前に傾けて走った。まるで百メートル走の前半の走り方である。


 マイアも懸命に、真美にくらいつくように走った。

 疾風が駆け抜けてゆくように、真美とマイアは先頭を走った。その後をルーシーが続いて駈け抜けた。


 やがて高速道路を下り、ハイル・セラッシー通りを走る。にぎやかな通りだ。沿道には多くの観客が集まり、選手の応援をしている。


「あの少女、まるで短距離走みたいな走り方をしている」


「うそー。信じられない。あんな走り方だと、すぐに疲れてしまうよ」


 沿道で観戦している人たちから、真美の走法に対する驚きの声がわきあがる。それほど真美の走法は、他の走者と比べると体を前方に傾けていた。


 ハイル・セラッシー通りを通り抜けると、一回目の給水ステーションがある。

 真美は紙コップを二つ取り、一つは頭にかけ、もう一つは一口だけ飲んだ。


 ケニアでは、水をこまめに補給しないと熱中症になる。かといって水を飲みすぎると、腹が痛くなる。もちろん水は、日本の水とは異なる。だから、飲み慣れない水を走行中に飲むと、それだけで体調が悪くなることもある。


(給水の水は気をつけなければ…)

 真美は、慎重に飲む量を調整した。

 だがマイアは、日頃飲み慣れている水なので、気にせず飲んだ。


 日本のように水道の蛇口から綺麗な水が出る国は、そんなに多くない。日本は、他の国の人がうらやむほどの品質の高い水を、水道から補給できる国である。



 この時点では、真美とマイアは先頭を走っている。一見、互角のようだが、実は互角では無い。


 給水ステーションで飲む量を慎重に調整する真美と、日頃飲み慣れた水を気にせずに飲むマイアとでは、疲労の度合いが異なるし、この先の展開が大きく違ってくる。


 そのことを真美は知っていた。だが、まだ真美は、前傾姿勢を維持している。

 今はまだ気力で何とかなるが、気力だけで42.195キロメートルを走ることはできない。

 真美は、この先の苦しい戦いを覚悟した。



 やがて、左側にウフルパークが見えてきた。

 『ウフル』とは、スワヒリ語で『自由』を意味している。この公園はナイロビ駅の近くにあり、休日は家族連れでにぎわう場所だ。


 余談だが、かつて、この公園は、独裁政権により閉園を余儀なくされた。当時の政府は、国民の憩いの場所を高層ビルに変えようと計画していた。そのとき、後にノーベル平和賞受賞者となったワンガリ・マータイ女史が、まさに血のにじむような努力をし、仲間を募り、公園の存続を勝ち取ることができた。ナイロビに行かれる人は、ワンガリ・マータイ女史の足跡を調べてみてはいかがだろうか。彼女の生き様は、きっと感動を与えるだろう。



「篠原、そんなに体を傾けたら最後まで持たないぞ」

 井口コーチが沿道から自転車で追いかけながら忠告した。


「あっ、井口コーチ。どうしてここへ?」

 真美が驚いた。


 井口コーチは、真美がナイロビ・マラソン大会に出場することを佐々木かおりから知らされ、急遽、真美の応援をすることに決めたようだ。


 真美は井口コーチの忠告を聞いたが、思うところがあり、前傾姿勢を保ったままだ。

 真美は、向かい風の影響を、できる限り少なくしたかった。


 真美のスヒードが、さらにアップした。


「あいつ。いつの間にか前傾姿勢での走り方を、自分で改良してやがる」

 井口コーチが驚いた。


 真美とマイアは、先頭をキープしてケニヤッタ通りに入った。この辺りは、ナイロビの中心地であり、ホテルやレストランがひしめき合っている。


 真美とマイアは先頭を走っている。二人のスピードには、誰もついて来ることができない。



 第二の給水ステーションに近づいた。


 真美は、水を飲もうかどうか迷っていた。

 飲み慣れない水を多く飲み、お腹を壊すのを恐れたためである。だが、水を飲まないと脱水症状となり、スピードが落ちる。最悪の場合はレースを棄権せざるを得なくなる。


 すると、井口コーチがスポーツドリンクを用意して待っていた。

 今、真美が最も必要としていたものだった。


 真美は井口コーチからスポーツドリンクを受け取った。


(いつも飲み慣れている水だ。ありがたい。しかも、栄養が補給できる)

 真美は井口コーチに感謝した。


 給水をした真美は、元気を取り戻した。


「足が軽くなった。まるで、マアンギと井口コーチが力を貸しているようだ」


 それに対してマイアは、給水はしたが、疲労の度合いが濃くなった。必死に真美にくらいつくように走っているが、元々の練習量が真美とマイアとでは異なる。その差が徐々に表れ始めたようだ。



 やがて真美とマイアは、ナイロビ大学を通り過ぎた。


 この辺りには、白井玲子がリサイタルをしたケニア・ナショナル・シアターがある。

 真美は、玲子のピアノ演奏を思い出しながら走った。


 この頃から徐々にマイアが遅れだした。


「マイア頑張って!」

 真美が叫んだが、


「真美、私にかまわず先に行って」


 そういってマイアは速度を落とした。真美の速度に付いて行くための体力が残っていなかった。そしてマイアは、ルーシーにも抜かれてしまった。


 マイアは自分の体力の無さを痛感した。練習を怠ったことを改めて後悔した。


「もう決して練習を怠ったりしない。来年は二人に勝ってみせる」

 そう心に念じて、マイアは走り続けた。



 相変わらず真美は、先頭を走っている。二位のルーシーとの距離は、五十メートル近くに広がった。


 テレビ中継には、先頭を走る真美の姿が映し出された。もちろん真美の胸に貼り付けられているメッセージ『骨髄バンクにドナー登録を』の文字も、テレビを見ている人たちには読むことができる。


 真美の懸命に走る姿は、みんなの共感を呼んだ。

「あんなに小さな少女が、大人たちを引き離して先頭を走っている」


 真美のひたむきな姿を見ると、「自分も何か懸命にしなければ」と、誰もが思えてくる。それほど真美の走りは、皆にうったえる力があった。



 この頃から、少しずつではあるが、骨髄バンクへ訪れる人が増えだした。骨髄バンクへ訪れた人たちは一様に、

「テレビを見ていたら、何となく足がここに向かっていた」と、職員に説明した。


 やがて、骨髄バンクの職員たちは、訪れる人がかなり増えてきたので、首をかしげながらも、あわただしく作業をした。



 真美はフォレストロードを通り抜けた後、道路を南下した。

 まもなく、第三の給水ステーションだ。

 すると、驚くべきことに、ナイロビ石油化学会社社長のエリウドが、スポーツドリンクを持って真美を待っていた。


「真美、これを飲め!」

 真美はエリウドからスポーツドリンクを受け取った。いつも真美が飲み慣れているものだった。


 エリウドは、第二の給水ステーションで井口コーチが真美に手渡したスポーツドリンクを見ていた。だから大急ぎで購入したようだ。


「残りの給水ステーションでも我が社の者がドリンクを用意している」

 大きな声でエリウドが真美に伝えた。


 それを聞き、真美はエリウドに感謝した。



 フルマラソンでは、必ず給水する必要がある。そして、そのときの水が飲み慣れている水かどうかで、タイムが大幅に違う。

 今回、真美は給水を半ばあきらめていた。飲み慣れない水を飲み、体調を壊したくなかった。だが、井口コーチやエリウドが、真美の飲み慣れた水を用意してくれた。みんなが真美を応援してくれる。


(これで走りに集中できる)

 真美は、元気よく給水ステーションを駆け抜けた。



 再びニャヨ国立競技場の脇を通った。


 真美が国立競技場に近づくと、沿道から大きな声援が起こった。

 マアンギのクラスメートたちとナイロビ石油化学会社の人たちの声援だった。

 二つの団体は、いつの間にか一つの大きな団体となっていた。協力して一緒に真美を応援することにしたようだ。


 みんな真美と同じメッセージを胸に付け、そのメッセージと同じ横断幕を広げていた。エヒンバやお婆さん、ブラウンも、いつの間にか、その団体の中でメッセージを付けている。彼らは大きな声で真美を応援した。


 みんなの応援は、真美に走る力を与えた。


「ありがとう。みんな。私は、まだまだ頑張れる」

 真美は懸命に走った。


 まるで真美の走りは、ケニアの疾風のようだ。


 次の給水ステーションでは、エリウドがいったように、ナイロビ石油化学会社の社員が、真美の飲み慣れたスポーツドリンクを持って真美が来るのを待っていた。しかも、胸にメッセージの布をつけているので、すぐにわかった。


 真美がスポーツドリンクを受け取るとき、ナイロビ石油化学会社の社員が「真美、頑張れ!」と応援した。

 真美は一人で走っているのではない。大勢の人に助けられて走っている。

 真美はそれを再認識した。



 まもなく、中間地点となった。


 中間地点を過ぎると、風向きが追い風に変わった。風が背中を押すように吹いている。まるで、走るのを応援してくれるような風だった。


 これだと、前半よりもさらに、スピードアップが見込まれる。


 すると真美は、今までの前傾姿勢を止め、体を直立した。


 後方からの追い風を、身体中で受けとめる。真美は、風力エネルギーを前進のためのエネルギーに利用した。しかも、真美は体重が軽いため、追い風の恩恵を受けやすい。


 真美が更にスピードアップした。



 やがて真美は、モンバサ・ロードを南下した。


 ここには、ナイロビ・ジャワハウス・キャピタルセンターがあり、ケニアで最高級の新鮮なコーヒーと自家製の食品を販売している。観光客にも人気の場所であり、沿道で応援する人たちが多かった。


 真美は、三十キロ地点もトップで通過した。前回のラスベガス・マラソン大会では、三十キロ地点を過ぎた辺りで、真美の走りが遅くなった。だが、今回は、まだ真美には余裕があるようだ。


 全ての給水所で飲み慣れたスポーツドリンクを飲める。それは、真美に大きな力を与えた。


 真美は、ハイスピードを維持している。二位のルーシーとの距離は、百メートルに広がっている。フルマラソンが二回目とは思えないほどの、驚異的なタイムだった。


 しかし、この頃から追い風が少しずつ和らいできた。

 だが、真美は相変わらず直立姿勢で走っている。


「篠原、風が凪いだ。前傾姿勢をとれ!」

 沿道を自転車で走る井口コーチが叫んだ。


「あ、そうか。そのために練習してきたのだった」

 真美は、再び前傾姿勢をとった。心持ち真美のスピードがアップした。


 三十五キロ地点を過ぎた。


 後は、ゴールであるニャヨ国立競技場まで七キロほどの距離だった。

 すると、いきなり真美のスピードがダウンした。明らかなスタミナ切れである。


 真美は、フルマラソンが二回目だ。まだ体が、フルマラソンに慣れていなかった。さらに、真美の右足が痙攣を起こし始めた。


 ルーシーが真美に近づいて来る。『ヒタヒタ』と、ルーシーの足音が聞こえだした。

 足音は、少しずつだが着実に大きくなっている。この足音は、疲れきった真美にとって、嫌な響きだった。心理的に、大きなプレッシャーだった。


「負けてたまるか!」

 真美は気力を振り絞り、前傾姿勢で走り続けた。


 だが、前傾姿勢で走るには、ある程度のスピードが必要だ。今の真美には、そのスピードが出ていない。走る姿勢は、いつの間にか直立に近くなった。


 四十キロ地点を通過したとき、ついにルーシーが真美に追いついた。真美の真横を走っている。


 真美は、全身がボロボロだ。三日前に空港で痛めた背中も、真美を苦しめだした。それでも真美は、気力を振り絞り、ルーシーを追い抜かせない。


 真美とルーシーのデッドヒートが続いた。

 ルーシーがスピードアップすれば、真美も気力でスピードアップする。

 真美も疲れていたが、ルーシーも相当疲れていた。そのため、ルーシーは、真美を引き離すことができない。二人は抜きつ抜かれつしながら、ほぼ横並びで走り続けた。



 まもなくゴールである。


 ゴール手前の最後の上り坂を、真美とルーシーが同時に上り終えた。後は下り坂が二百メートル。その後、三百メートルほどでニャヨ国立競技場に入りゴールとなる。ニャヨ国立競技場では、トラックを一周することはない。競技場に入るとすぐに、ゴールラインが見えるはずだ。


 しかし、坂を上り終えたところで、突然、真美の右足の痙攣が激しさを増した。


「うぉおおおおおお、ああああああああああ」

 激しい傷みだった。あまりの苦痛のため、真美は、思わず屈み込んだ。

 その横をルーシーが、重い足取りで引き離して行く。


 ルーシーの勝ちだ。誰もがそう思った。ルーシー自身ですら、『勝った』と確信した。


(真美の右足は当分動かない。昨年のラスベガス・マラソンのときのように、右足を引きずりながら歩くことしかできないはずだ)

 安心したため、ルーシーの速度が心持ち遅くなった。


「くそー!」

 右足を動かせない真美が、大声で叫んだ。


 すると、沿道から井口コーチが大声で、

「篠原、下り坂だ。回転するんだ!」と叫んだ。


 次の瞬間、沿道の観客は、驚きの声を上げた。

 なんと、真美が体を丸め、前回りをしながら坂を下りだしたのである。まるで自動車のタイヤのように、真美は体を丸めている。しかも、そのスピードは、どんどん加速していく。真美は背中も痛めている。だが、さらに背中を傷つけることも構わずに、真美は回転した。


 ルーシーは、沿道の歓声が驚きの声に変わったことに気づいた。


 後ろから何かが、回転しながら迫ってくる。

「バイク? いや違う。耕運機? でもエンジン音が無い。それでは木造車輪のリヤカーか?」


 迫り来る音が真横まで近づいた。

 恐る恐るルーシーが右側を見ると、なんと、真美が体を丸めて回転していた。


「真美…、いつもあなたは、私を驚かせる。あなたはいつも、私を高みへと引き上げる」

 ルーシーは苦笑いをした。


「私は、まだまだ気を抜けない」

 そうつぶやいて、

「真美、最後の勝負よ!」


 ルーシーが加速した。ゴールまであと四百メートルだ。ルーシーの速度に応じて、真美の回転も、勢いを増した。


 人間は、ここまで体を丸めて坂を転がることができるのかと、誰もが驚いてしまう。それほど真美の回転は激しかった。回転するたびに真美の体は傷ついていく。だが、体が傷つくのを覚悟して、真美は回転した。

 しかし、ゴールまであと三百メートルとなった時点で、下り坂が終了した。


「今度こそ勝った。真美はこれ以上前へ進めない。真美、あなたはよく頑張ったわ」

 ルーシーは再び勝利を確信した。そして速度を緩めた。


 実は、ルーシーも、相当に疲れきっていた。


 沿道の歓声にこたえるべく、ルーシーは両手を上げ、勝利者の笑顔をみせた。



 下り坂が終わったとき、なぜだか真美は、ロビンの顔が目に浮かんだ。真美が一緒に遊んだ片足が不自由な子猫、それがロビンだ。


『こうやって走るんだよ』

 あのとき真美は、ロビンに走り方を教えた。その光景が頭をよぎった。


「ロビン、私も頑張るからね」

 真美は覚悟を決めた。



 ルーシーがニャヨ国立競技場に入ろうとしたまさにそのとき、沿道から更に驚きの声が上がった。


「なに? どうしたの?」

 思わず背筋に戦慄が走った。まるで雌豹から追いかけられているようだ。


 ルーシーは振り返った。

 次の瞬間、ルーシーは信じられない光景を見た。


 なんと、真美が四つん這いで迫って来ていた。まるで片足を負傷した雌豹のように、両手と左足を交互に使い、駈けている。


「ま…、まずい!」

 ルーシーがそう思ったとき、前方から猛烈な向かい風を浴びた。風速三十メートルはあろうかと思われる風だった。競技場の中の風が全て、出入口のゲートに集まり、競技場の外に向かって吹いている。


 体の大きいルーシーは、向かい風の影響をもろに受けた。それに対して四つん這いで頭をアスファルト寸前まで下げている真美は、向かい風の影響をあまり受けない。


 二人は横一線に並んでニャヨ国立競技場に入った。


 競技場の観客は、女子のトップの一人が四つん這いで走っているのを見て驚いた。


「何だ。あれは」と叫ぶ者や、

「信じられない。まるで手負いの豹が駈けているようだ」と、言う者もいた。


 ニャヨ国立競技場に入ると、ゴールはすぐ目の前だ。ゴールまで、あと五十メートルもなかった。

 ルーシーも最後の力を振り絞り、懸命に走った。

 どちらがリードしているのか、誰もわからない。


 二人は、ほぼ同時に、ゴールになだれ込んだ。


 写真判定の結果、わずかだが真美のほうが早くゴールに着いていた。


「あはは。勝っちゃった」

 真美が倒れながらいったとき、観客席から、

「真美、おめでとう!」と、大きな声援があった。


 マアンギのクラスメートたちだけでなく、ほとんどの観客が声をそろえて真美を祝福した。

 真美は上半身だけ起き上がり、両手を振り、祝福に応えた。


 僅かの差で二位となったルーシーは、しばらく、この事実を信じられなかった。ただ茫然と、立ちすくんでいた。

 やがて、ルーシーは現実を受け入れた。彼女は、悔し涙を流した。


「私は、最後の最後で、二度も力を抜いた。一緒に走ったあの少女が、世界一諦めの悪い少女だと、私は知っていたはずなのに…。私は、真美の勝利への執念を、誰よりも知っていたはずなのに…。二度も勝ったと思い込み、力を抜いてしまった」


 ルーシーが真美の体を観察すると、真美は全身がボロボロだ。右足は痙攣しており、両手はアスファルトを掴みながら走ったため、掌の皮膚がむけて血まみれだった。両手の爪も一部はがれている。手の甲を見ると拳の辺りの皮膚が破れている。これは回転する際、後頭部を手で守ったため、アスファルトに手の甲が接触してできた傷である。さらに背中を見ると、白いランニングシャツにもかかわらず、背骨の辺りが赤く染まっている。これもおそらく、坂を回転しながら下った際にできた傷だろう。


 ルーシーは、三日前に空港で真美が背中に傷を負ったことを知らなかった。それでも、これらの傷は、何がなんでも勝ちたいとほっした真美の執念のあかしだった。


「真美、おめでとう」

 ルーシーは真美を抱き上げた。そして、

「悔しい。私は真美に負けた。自分自身に負けた」

 そう言ってルーシーは号泣した。


「真美、次は絶対に負けない。あなたに勝ってみせる」

 ルーシーは、真美の胸に顔をうずめながら泣き叫んだ。


「ルーシー、私も負けない。私もまだまだ速くなる」

 真美は、泣きじゃくるルーシーを優しく抱き締めた。



 不思議な光景だった。

 五日前、真美は、ルーシーの胸に顔を埋めて泣きじゃくった。そして今日は反対に、ルーシーが真美の胸に顔を埋めて泣いている。


 マラソンランナーにとってライバルは、自分を高みへと導く最高の協力者である。真美はルーシーやマアンギに出会わなければ、ここまで速くなれなかっただろう。ルーシーも、そう思っているはずだ。


 真美は、ルーシーの心が落ち着くまで、優しくルーシーの髪の毛を撫でていた。


「二人ともよく頑張ったぞ」

 観客席の多くの人たちから、真美とルーシーに対して歓声があがった。


 真美とルーシーは、手を繋いで観客に手を振った。



 やがて、勝利者インタビューが始まった。


「優勝おめでとうございます。凄い走りでしたね」

 司会者が真美に尋ねた。


「ありがとう。でも、ゴール前で突風が吹いたので、私が優勝できたんだよ。あの風は、マアンギが私のために起こしてくれた風だと思う」

 真美が答えると、司会者がうなずき、

「マアンギとは、昨年、アンダー20世界陸上競技大会の女子三千メートル走で優勝した少女ですか?」と、司会者はマアンギのことを知っていた。


「そう。私は、マアンギに勝つために懸命に練習してきた。だけど彼女は半月前に白血病で亡くなった」

 真美の声は悲しげに競技場に響いた。


「ドナーさへ見つかれば、彼女は死なずに済んだのに」

 真美の目には、うったえたいことがあるようだ。司会者は、瞬時にそれを察した。


「もしかして、ユニフォームに書かれている『骨髄バンクにドナー登録を』のメッセージと関係がありますか? そう言えば多くの参加者が、真美さんと同じメッセージが書かれた布を付けていましたが…」


「うん。今もマアンギのようにドナーが見つからないために死んでいく白血病の患者が多数います。ドナー登録は、ほんの僅かな血液を採取するだけで済みます。三分もかかりません。傷みも殆どありません」

 真美は懸命に説明した。


「この場を借りて、皆さんにお願いがあります。まだ見ぬ友達を助けると思って、ぜひドナー登録をお願いします。ほんの僅かな協力で、絶望の淵にいる患者たちに、明るい希望を与えることができるのです。お願いします」

 真美は深々と頭を下げた。


 明らかに、普通の勝利者インタビューとは違っていた。

 真美が一位にこだわっていたのは、勝利者インタビューでドナー登録をテレビに向かって呼びかけるためだった。


 観客席の人たちは、真美のうったえを静かに聞いていた。すると、観客席の一角から「ドナー登録をお願いします」と、大きな声があがり、横断幕が大きくひらめいた。マアンギのクラスメートたちとナイロビ石油化学会社の人たちの声だった。


 真美たちの声は、みんなの心に深く響いた。


「そう言えば近くに骨髄バンクがあったな。帰りに寄ってみようか」

 会場のあちこちで、誰かがポツリといった。


「そうだ。どうせ帰り道だ。寄ってみよう」

 多くの人たちがうなずいた。


 みんなの声は、真美にも聞こえた。

 司会者が、皆の声を真美に通訳してくれた。


「ありがとう。ありがとう。みんな」

 真美は感激して、涙が止まらなかった。


(私の走りは無駄ではなかった。これで、一人でも救われる患者がいたら、私は幸せだ…)

 真美の願いが皆の心に届いた。それは、テレビを通じて大きなうねりとなり、ケニアに広まった。


 しばらくして、司会者が質問した。


「ところで、体を極端に前方へ傾けて走る走法は、何か名前がついているのですか?」

 ようやく勝利者インタビューらしい話となった。


「もし名前が付いていなければ、『マミ走法』と呼びたいのですが…」

 司会者の提案に真美は一瞬考え、静かにいった。


「あれは『マアンギ走法』です」

 司会者が驚いた。


「私が永遠に勝てない相手、マアンギの走り方です。私は、彼女の走り方を真似て走りました」


 真美は、敢えてマアンギの名前をつけた。これでマアンギは、みんなの心にいつまでも残るだろう。真美に悔いは無かった。


 会場にいたエヒンバは、真美の言葉を聞き、喜んだ。

(姉さん、姉さんの走り方が皆に伝わったよ。みんなはいつまでも、姉さんの名前を忘れない)

 エヒンバは、今日のできごとを一生忘れないだろう。


 東の彼方にある島からやって来た少女が、姉のために願いを込めて走った。そして、少女の願いに賛同する人たちが集まり、みんなの願いとなった。その願いは大きなうねりとなり、骨髄バンクへのドナー登録者増加へとつながった。


 今日をきっかけにエヒンバは、骨髄バンクで働くことを決意した。



 勝利者インタビューが終わった後、大会事務局の人が真美に話しかけた。だがスワヒリ語である。真美には意味が全く分からない。


「ルーシー、エヒンバ、私の代わりに答えて」

 真美は面倒なことは全て、ルーシーとエヒンバに頼むことにした。いつもの能天気な真美の姿に戻ったようだ。


 その後、マアンギのクラスメートたちやナイロビ石油化学会社の人たちが真美のもとへ駆け寄り、真美を胴上げした。


「真美、ありがとう」

「えーっ みんな、ありがとう」


 いつの間にか、マイアをはじめとするケニア選手団や他の人たちも真美のもとへ集まった。もちろん、井口コーチやブラウンもいる。

 真美の胴上げは、しばらく続いた。


 みんな真美に感謝していた。真美もみんなに感謝していた。

 ケニアの青空が、真美の目の前に大きく映っていた。


「マアンギ、ありがとう。そして、みんな、ありがとう。おかげで走ることができたよ」

 真美は大空に向かい、大きく叫んだ。



 やがて、ニャヨ国立競技場の近くにある骨髄バンクに、大勢のドナー登録申込者が集まった。


 後談だが、骨髄バンクの職員は、その日から一ヶ月の間、多忙を極めた。そして、この年のケニアでの骨髄バンクのドナー登録者数は、真美の影響で昨年の二倍になった。

真美の走りはいかがでしたか?


次は真美が銀行へ行って大失敗をします。

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