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ランナー真美の願い(2)  作者: でこぽん
10/10

10.新たな絆、新たな友達

 ケニアを出発してからドバイを経由した真美たちは、二四時間ほど経って日本に着いた。


 成田空港で佐々木かおりたちと別れ、大宮駅行きのエアポートバスに乗り込む。真美の家はさいたま市の大宮駅から少し離れた場所にある。


 久しぶりの我が家である。やはり懐かしい。それだけで真美は嬉しくなった。

 家に着くと、いつものように元気に挨拶した。


「ただいま」


 真っ先に出迎えてくれたのは、猫のドラだった。野良猫だったドラは、真美の母親のしつけにより、大人しい飼い猫へと変わったようだ。

 ドラは、「ニャーン」と真美の足元にまとわりついてきた。


 真美がドラを撫でていると、

「お帰り。姉さん」

 弟の伸次の声だ。だが、伸次は右手を出している。どうやらお土産の催促のようだ。


「伸次、珍しいものを買ってきた」

 真美は伸次の手に象さんの貯金箱を渡した。


「姉さん、これ、何?」


「これはナイロビで超有名な貯金箱だよ。私は、伸次のために三十分並んで、これを買ったんだよ」

 真美は、腕を組んで購入の大変さを切々と説明し始めた。しかも、自分の説明に自分で何度も頷いている。


 だが、伸次は疑り深い。入念に貯金箱を調べながら、

「でも、小さな字で『ナイロビ・バンク』と書いてあるみたい」と、つぶやく。


「それ、象さんの名前だよ」

 真美はさらりと答えた。


 だが、伸次は騙されない。

「姉さん、もしかして、これは、銀行の景品だよね」


 弟からの冷たい視線を、真美はしっかりと浴びた。


「まあ…、私が無事に怪我もせずに帰って来ることができたので、良いでしょう? 私は、お父さんに挨拶しなきゃ」

 冷や汗をかきながら目を泳がせて、真美は早足で居間に行った。


「逃げた―」と、後ろで伸次が叫ぶ声が聞こえた。



 居間にて、真美は父の遺影の前に優勝メダルを二つ並べた。ひとつは女子三千メートルでの優勝メダル。もう一つはナイロビ・マラソンの優勝メダルである。


「お父さん、今回も、いろいろな出会いがあったよ。そして、いろいろな体験ができた。私は頑張ったよ」

 真美は、父の遺影の前で両手を合わせ、目を閉じた。


 しばらくすると、真美の母親が買い物から戻ってきた。

「真美、おかえりなさい」


「お母さん、ただいま」


 挨拶が逆のようであるが、素直な真美の気持ちだった。やはり、家に帰ると心を和ませてくれる。母と弟とドラ、それに遺影に飾られた父がいる。それは、真美にとって、かけがえのないものだった。



   *****



 次の日の午後九時に、オーストリアのウィーンにいる白井玲子から電話があった。オーストリアと日本とは、八時間の時差がある。オーストリアではちょうど、午後一時だった。


「真美、優勝おめでとう。アンダー20とナイロビ・マラソンと、2冠を達成したのね。しかも、タンクローリー車の運転手を救助し、銀行強盗を捕まえるなんて、びっくりしたわ」

 白井玲子は興奮していた。


「その情報は、何処から入手したの?」


「マイアからよ。彼女がメールで詳しく書いてくれたのよ。しかも、画像までつけてくれたわ。真美の腕ひしぎ逆十字は、完璧に決まっていたわよ。それに、真美の背中のセミヌードも見せてもらったわ」


 玲子の話し方から察するに、マイアは、とんでもない画像を、玲子に送ったようだ。真美は、思わずため息をついた。


「ところで、真美は腰のところに、星形のピンク色の痣があるのね。実は、私も腰のところに、真美と同じような星形でピンク色の痣があるのよ。びっくりしたわ。まるで姉妹のあかしみたい!」


 玲子の話し方は無邪気だったが、真美には、玲子が今、すごく大切なことを言ったような気がしてならない。真美は、何かを思い出そうとしていた。だが、それが何なのかが、漠然としている。


 真美の腰にある星形のピンク色の痣は、真美が七歳のときにできたものだ。事故に遭い、ある国立研究所で最先端の治療を受けたときにできたものだ。その治療の副作用として、真美は時間を止める能力を身につけた。


 それでは、玲子の腰にあるピンクの痣は、いつできたものなのか?


「玲子、玲子の腰にあるピンクの痣は、いつ…」

 真美が尋ねかけた丁度そのとき、

「真美、ごめん。今からリサイタルが始まるのよ。また、近いうちに電話するわ」

 そういって玲子は、電話を切った。



 白井玲子にも、真美と同じく、星形でピンク色の痣があった。本当に偶然なのだろうか?

 真美は、必死に何かを思い出そうとしていた。その『何か』は、喉のところまで出かかっていた。


「そうだ!」

 真美は思い出したように電話帳を調べた。『ケン』という友達の電話番号を見つけ、すかさず電話をかけた。ケンはアメリカのラスベガスに住んでいる。向こうの時刻では朝の六時半だった。


 電話のコールが鳴り響く。

(ケン、電話に出て…お願い)

 真美はケンが電話に出てくれることを懸命に祈った。


 八回目のコールの後に、ケンに繋がった。


「こんばんわ、ケン。朝早く電話してごめんね」


「おはよう真美…」ケンはまだ、目が覚めていないようだ。寝ぼけた声のように聞こえる。


「いきなり質問するけど、ケンの背中の腰のあたりに、星形の痣があるかしら?」

 唐突な質問だった。変な女の子と思われたかもしれない。それでも真美は、ケンに尋ねたかった。ケンしか尋ねる人がいなかった。


「あるよ。星形のピンク色の痣だろう?」

 やはり…。驚きと言うよりも、真美の予想どおりの答えだった。


「でも、腰のあたりでなく、僕は、右太ももの裏にある」

 そして、さらにケンは、驚くべきことを言った。

「真美、ミラクル・チルドレンに出会ったのだね?」



 今から一年前に、アメリカのラスベガスで、ケンが『ミラクル・チルドレン』について説明してくれた。


 真美が七歳の頃、同じ事故に巻き込まれた子供たちが、全部で四人いる。その子供たちは瀕死の重傷を負い、当時は誰もが助からないものと覚悟した。だが、それらの子供たちは、同じ研究所に収容され、特別な治療を施された。そして、命を最優先に治療したため、副作用が生じた。その副作用が、なんと特殊能力だった。そして四人のうちの二人が、真美とケンだった。


 真美は時間を止める能力を身につけ、ケンは人の心を覗ける能力を身につけた。残り二人も、何らかの特殊能力を身につけているはずだ。


 以前、ケンに聞いた話では、そのうちの一人はすでに亡くなっているとのことだった。とすると、残り一人は…。


「それじゃあ、玲子も…、私の友達の白井玲子も、ミラクル・チルドレンなの?」

 真美がケンに尋ねた。


 ケンは、電話越しに真美の心を覗いた。ケンには読心力がある。白井玲子というケンのまだ見ぬ女性に対する真美の想いを、ケンは感じ取った。そして確信した。


「白井玲子さんがピアノを演奏すると、奇跡が起きるようだね。それが彼女の特殊能力だよ」


 ケンの説明を聞き、真美は、一年前にケンに言ったことを思い出した。

『私は、まだ見ぬミラクル・チルドレンと、必ず友達になれる。そして、私が困ったときには、必ず力を貸してくれる』


 一年前に、真美がケンに言ったことが、現実となった。ミラクル・チルドレンの白井玲子は、真美が困ったときにいつも力を貸してくれた。ラスベガス・マラソンで真美に力を与えてくれた。ナイロビでは、マアンギに会わせてくれたし、空港のラウンジにいた人たちを助けてくれた。


(玲子、ありがとう。玲子に出会えて良かった)

 真美は、新たな絆ができたことを喜んだ。真美にとって玲子は、まさに姉妹のような絆で結ばれていた。

 玲子のことを思うと懐かしい気持ちになる。それは中学時代の同級生だったためだと今まで真美は思っていた。だが、七歳のとき、真美と玲子は出会っていた。同じ病室で共に生死の境をさまよっていた。

 そのときの記憶はないが、真美の体が玲子を覚えていた。だから懐かしい気持ちになるのだった。


(玲子、またいつか、必ず会えるね)

 玲子とは、この先何度も会える。たとえ玲子がオーストリアにいても、必ず会える。

 だって、二人は強いきずなに結ばれているのだから。

 そう感じることができて、真美は幸せな気持ちになった。



   *****



 日本に帰国して三か月経った頃、真美は日本陸上競技連盟から二通の手紙を渡された。


 一通はケニアからの手紙であるが、もう一通はイギリスからの手紙だった。手紙の差出人は二人とも真美の知らない人だ。


「なぜ私に手紙が来たのだろう?」

 腕を組み、黒い大きな瞳をクルクル回しながら考えたが、思い当たる節が見あたらない。


「まあいいや。とりあえず読んでみよう」

 能天気な真美は、まずはケニアからの手紙を読むことにした。


 封を開けると、英語でぎっしりと書かれていた。知らない単語があった為、真美は辞書を片手に翻訳した。



 初めまして、篠原真美さん。

 私の名前はキサンバ、十七歳の男性です。

 あなたは私の命の恩人です。

 どうしてもお礼が言いたくて、手紙を書きました。

 住所が分からないので、日本陸上競技連盟に送りました。真美さんに届くといいのですが…。


 真美さんがナイロビ・マラソン大会に出場する前までは、私は絶望の淵にいました。

 私は十歳のとき、白血病にかかりました。

 ドナーも見つからず、体力は衰える一方で、生きる希望が失せていました。

 でも、二ヵ月前、私の骨髄に適合するドナーが見つかったのです。

 それは、まさしく奇跡でした。

 ドナーの人と話をしたところ、

「ナイロビ・マラソン大会で、真美の懸命に走る姿に感動した。そして、真美からドナー登録を頼まれた。感謝の相手は、僕では無く真美だ。真美に感謝してほしい」と、言われました。

 恥ずかしながら、私は病室で寝ていたため、ナイロビ・マラソン大会でのことは、知りませんでした。

 早速、真美さんのことを知るために、ナイロビ・マラソン大会を録画したDVDを、友達に取り寄せてもらいました。モニターに映し出された真美さんの姿を見たとき、私は感動しました。涙があふれて止まりませんでした。

 東の島から来た体の小さな真美さんが、『骨髄バンクにドナー登録を』と書いたメッセージを付けて、懸命に走っている。大きな体の人たちに負けずに、先頭を走っている。しかも、右足が痙攣しているのに、決して諦めない。

 坂を転がり、最後は獣みたいに両手も使って駆けていた。

 そして、勝利者インタビューでのうったえは、まさしく私たちの思いを代弁してくれました。


 ありがとう。真美さん。

 あなたのおかげで、私は健康になりました。

 私も真美さんのように、これから一生懸命生きていき、人のために役立つことをしたいと思います。

 何年後になるか、それとも何十年後になるか分かりませんが、私は必ず日本に行きます。

 そして、真美さんに会い、元気になった私の姿を見せようと思っています。

 いつか、真美さんが困ったとき、私が真美さんを助けられるように、必ず強くなります。

 それまで元気でいてください。



 手紙を読んだ後、真美は思わず嬉しさがこみ上げた。


「私のやったことは、無駄ではなかった。尊い命を救うことができた。マアンギ、良かったね。キサンバが助かったよ。ケニアの未来を担う若い男の子だよ」

 真美は幸せだった。


「キサンバ、まだ見ぬ私の友達。いつか君の元気な姿を見られるのね」

 真美は、キサンバと会える未来を、楽しみにした。


(そのとき私は、どうしているのだろうか? きっと高校を卒業し、社会人となっているはずだ。もしかして、結婚しているかもしれない。誰と結婚するのだろうか?)

 そんな想像を働かせ、真美は明るい未来を待ち焦がれた。



 しばらくして、もう一通の手紙があることを、真美は思い出した。その手紙は、イギリスから送られた手紙であり、ケニアからでは無い。


「不思議だな? 何故、イギリスから手紙が来るのかな?」

 疑問を感じながらも真美は、封を開けて手紙を読んだ。



 初めまして、篠原真美さん。

 私はアリス。ロンドンに住む十六歳の少女です。

 昨日まで私は、ロンドンの病院に入院していました。

 どうしても真美さんにお礼を言いたくて、手紙を書きました。

 真美さんは、何故イギリスから手紙が届いたのか、不思議に思われているでしょう。

 実は、奇跡が起きたのです。

 全て、真美さんのおかげです。


 私は白血病でした。十年近く入退院を繰り返していました。そして、少しずつ体力が無くなり、未来を諦めかけていました。

 そのとき、突然、私の骨髄に適合するドナーが見つかったのです。

 まさに、奇跡でした。

 その人は名前をジェームスといい、二ヵ月前に、ケニアのナイロビを旅行していた人です。

 ここまで書けば、真美さんも謎が解けましたよね。


 そうです。ジェームスさんは、ナイロビ・マラソン大会で、真美さんから骨髄バンクのドナー登録をお願いされたのです。

 ジェームスさんは旅行から戻ると、早速、ロンドンの骨髄バンクにドナー登録をされました。

 その結果、私が助かったのです。

 ジェームスさんは、いろいろと真美さんのことを、教えてくれました。


 マラソン大会のときに真美さんは、坂を転がり、四足で走り、銀行強盗を退治されたそうですね。しかも、マラソン大会の二日前には、暴走したタンクローリー車に乗り込み、意識の無い運転手を救出し、大事故を未然に防いだと聞きました。まるで、スーパーマンのようです。

 そのことをジェームスさんに言うと、

「真美は体の小さな女の子だ。決してスーパーマンでは無い。でも、真美は決して諦めない。信じられないほど諦めが悪い。だから、最後までやり通せたのだよ」と、教えられました。

 真美さんの走る姿を、私も見たかった。

 今、ケニアの友達にナイロビ・マラソン大会の映像を捜してもらっています。きっとそれを見れば、私にも諦めない心が芽生えると思います。


 真美さん、ありがとうございます。

 あなたのおかげで、私は元気になりました。

 人生に希望が持てるようになりました。

 ところで、私は現在、看護士を目指しています。

 病気で苦しんでいる人を助けたい。

 一人でも多くの患者さんに、笑顔をあげたい。

 これも、真美さんの影響です。

 真美さんは私の目標です。

 いつか、真美さんに直接会い、『ありがとう』と言うために日本に行きます。必ず行きます。

 それまで、元気でいてください。

 あなたを尊敬するアリスより



 手紙を読み終えて、真美は不思議な気持ちになった。

 元々は、『マアンギに勝ちたい』ただそれだけのために、懸命に練習してきた。


 ケニアに行き、マアンギの死を知り、ナイロビ・マラソン大会に出場した。

 その結果、ケニアだけでなく、イギリスの白血病患者にも、希望を持たせることができた。


「人間の縁って不思議だなぁ。昨日までは赤の他人だったのに、今日は友達になっている」

 真美は、縁がつながるのが嬉しかった。絆が深まり、多くの人と友達になれる。それは、真美にとって、かけがえのない素敵なことだった。



 真美は早速、二人にメールで連絡することにした。

 二人ともメールアドレスを記載していたため、世界の何処にいても、メールの内容はあっという間に伝わる。


 まずは、ケニアのキサンバへ、メールを書いた。



 キサンバへ

 真美です。

 今日、日本陸上競技連盟から手紙が届いたよ。ありがとう。

 私やマアンギの願いが叶ったのね。

 とても嬉しい。

 これからは、あなたの命を十分に使って、有意義な人生を送ってください。

 決して『助かった命だから人のために生きなければならない』などとは、考えないでください。

 あなたの命です。あなたが自由に人生を決めてください。

 それが私の願いです。


 ところで、今日、キサンバからの手紙と同時に、ロンドンに住むアリスからも手紙をもらいました。

 アリスは十六歳の少女です。

 アリスも白血病だったのですが、三か月前にドナーが見つかり、元気になったとのことでした。


 キサンバにお願いがあります。

 アリスがナイロビ・マラソン大会のDVDを見たがっています。

 もし可能ならば、アリスへDVDを送ってあげてくれませんか?

(ついでに、私へも送ってくれると嬉しいです)

 アリスも、ナイロビ・マラソン大会がもとで、ドナー登録をした人から助けられました。もしかして、あなたたち二人は良い友達になるかもしれません。

 私は、キサンバがいつか日本へやって来る日を、楽しみに待っています。

 それまでお元気でいてください。

 キサンバの友達、真美より



 キサンバにメールを送った後、続けて真美はロンドンに住むアリスにメールを書いた。



 アリスへ

 真美です。

 今日、日本陸上競技連盟から手紙が届いたよ。ありがとう。

 ロンドンから手紙が届いたので、私は驚きました。

 私は元々、アンダー20世界陸上競技大会の女子三千メートル走で、ケニア代表マアンギに勝つために練習していました。

 しかし、私がケニアに着き、マアンギが白血病で亡くなったのを知りました。

 だから、マアンギのような子を一人でも多く救うために、ナイロビ・マラソン大会で骨髄バンクへのドナー登録を呼びかけました。

 今回、アリスが助かったことは、とても嬉しい。

 私やマアンギの願いが叶ったのね。

 天国のマアンギも、喜んでいるはずです。


 ところで、今日、アリスからの手紙と同時に、ケニアのキサンバからも手紙を受け取りました。

 キサンバは十七歳の男性です。

 彼も白血病だったのですが、三か月前にドナーが見つかり、元気になったとのことでした。

 しかも彼は、ナイロビ・マラソン大会のDVDを持っています。

 現在、キサンバに、DVDをアリスに送るよう依頼中ですので、楽しみに待っていてください。


 アリスは看護士を目指しているのですね。

 将来の目標を決めるのは、良いことだと思います。

 精一杯生きて、人生を楽しんでください。

 それが私の願いです。

 私は、アリスがいつか日本へやって来る日を、楽しみに待っています。

 それまでお元気でいてください。

 アリスの友達、真美より



 アリスへの手紙を書き終えたところ、キサンバから早速メールの返信が来た。しかも、「ロンドンのアリスにDVDを渡すので、連絡先を教えてほしい。僕と同じように、真美が起こした奇跡で助かったアリスと、僕も話がしたい」と、書いてあった。


(この二人はもしかして、仲の良い友達になるかもしれない。いや、きっと友達になるだろう。だって二人は、共通の絆で結ばれているのだから)

 真美は確信した。そして想像した。


(キサンバとアリスとが、二人一緒に日本にやってきたら、どうしようか? もしかして数年後、二人が結婚し、新婚旅行で日本に来るかもしれないなぁ)

 真美は、能天気に未来を想像し、それだけで幸せな気分に浸った。



 真美には、マイアやブラウンからもメールが来ていた。さらに、マアンギの高校のクラス委員であるカマウからも手紙が来た。

 真美は、彼ら一人一人に丁寧に返事を書いた。慣れない英語だが、辞書を片手に頑張った。


 さらに数週間後、今度はドバイに住む少年から手紙が届いた。

 手紙の内容を見ると、なんと、マイアのお父さんが、真美やマイアの行動に共感し、ドバイで骨髄バンクへのドナー登録を多くの人に呼びかけたとのことである。


 ドナーによる骨髄移植により、白血病を完治したドバイの少年から送られた手紙だった。



 真美を取り巻く絆は、確実に大きくなっていった。


 かつて佐々木かおりが言ったように、真美には言葉の壁など問題ではない。真美が懸命に走ることで熱意が伝わるのだ。それは、真美の純粋な行動であり気持ちだった。



「気持ち良い青空だな。どんぐり公園でも走るか」

 真美はランニングウェアに着替え、近くの公園に行った。



 どんぐり公園は、真美の家から歩いて十五分ほど南にある。正式な名前は、第二森林公園というが、どんぐりが沢山とれるため、近隣の子供たちは『どんぐり公園』と呼んでいる。


 公園には多くの木々が植えられている。まるで、森の中にあるような公園だった。

 秋風に吹かれて、赤や黄色の枯葉が舞い散っていた。それが太陽の光に照らされて、美しい光景を彩っている。


 空の青も、枯葉をひときわ鮮やかに見せている。


 軽く準備体操をした後、真美が走りだした。

 涼しい秋風が頬に伝わる。


『ハーハースースー、ハーハースースー』

 真美の呼吸が聞こえる。命の息吹である。


『ハーハースースー、ハーハースースー』

 真美は走る。みんなの願いを込めて。

 真美は走る。みんなに希望を与えて。


 今日も真美は、みんなの幸せを願い、走り続ける。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

これにてケニア編は完結です。


でも、真美の物語はまだまだ続きます。


また、お会いできる日を楽しみにしています。

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