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サポートキャラになりたい

作者: ゆいと




 近代日本を舞台に作成された恋愛シミュレーションゲーム「憧れの青春☆ラブで溢れる学園生活!」はその手のゲームを趣味とする者の間では大変好評を得た作品だ。

 舞台はタイトルの通り高校。主人公はごく一般的な家庭で育ったありふれた設定。

 某有名作のように、日々自分のパラメーターを上げながら顔が整った攻略対象たちと出会い、時には支え、時には切磋琢磨しつつ三年間を過ごす。

 最終目標は卒業式に告白を受け、進学なり就職出来ればハッピーエンドだ。

 作画は有名イラストレーター、声優も有名どころから新進気鋭の若手まで起用しフルボイス。

 部活やアルバイト、学校行事からデートイベントまで他社に引けを取らない充実仕様。


 何がこの作品をヒットさせたか、それはターゲットの幅の広さ。


 主人公は男女から選択でき、選ばれなかった性別が攻略対象の情報やかけ橋となる幼馴染のサポートキャラとなる。


 そして恋愛対象は総勢9名、相手の性別は問わない。


 なので、普通に恋愛しても良し、女の子同士の百合の園を求めても良し、男の子同士の秘めたる薔薇の園を覗こうと自由である。

 ちなみに対象年齢は18歳以上、美麗イラストで描かれる濡れ場は、選択肢次第で見るも良し、純愛を貫くも良しとエンディングに支障が出ない親切仕様。


 そんな世界に生まれ変わったと気付いたのは、母親達がお隣の子供同士を遊ばせようと家の前で紹介された時だった。

 齢三歳、ビビビと何故かゲームの記憶だけが蘇る。

 小さな脳が耐えられる筈もなく、何故か紹介された相手の子供と共に気を失った。


 そんな二人もついに高校生となった。


 四月に行われた入学式を経て、やはりここが恋愛シミュレーションゲームの世界観であると確信した。

 自宅から徒歩十分の好立地な学校は、学力的に考えても一番魅力的だった。

 幼馴染をそれとなく他の学校へ入るよう誘導していたのに、何故かお前が行けと言われる始末。

 男女の枠を超えてうち解けた幼馴染は容赦がない。

 今日も今日とて、何故か登校するのが一緒なのだ。


 赤い屋根の家から出てきたのは髪がボブスタイルの赤川 茜。

 青い屋根の家から出てきたのは雰囲気イケメンと良く言われる青山 葵。


 お互いがお互いを意識した途端にため息が出た。


「おはよう葵、そろそろ好きな人できた? 」


「おはよ茜、お前こそそろそろ本命を絞ったか? 」


 並んで歩きつつお互いに情報を探る。

 茜も葵も攻略などする気もなく、サポートに回りたい気持ちは同じだった。

 お互い前世プレイしたゲームというのはわかっていたが、茜は男の子同士のBLルート、葵は女の子同士のGLルートしか知識が無かったのだ。

 恥を忍んで幼馴染に知識について告げれば、お互い記憶持ちだと分かりスルスルと話は進んだ。

 そして普通の恋愛ルートがわからない事に揃って絶望する。

 下手に動けば同性愛。二人ともサポートに回りたい気持ちで合致した。


「葵、私は地味ーに目立たない青春を謳歌したいのよ。可愛い幼馴染の為を思って、食われ「お前の何処に可愛いがあるのか俺にはさっぱり分からん。さっぱりわからん! 」


「何二回も言ってんの頭おかしいの馬鹿なの? 」


「お前が食われろ!! 」


「あんた人を何だと思ってんのよ! 」


「幼馴染を男に売り飛ばそうとする悪女だろ! 」


 ギャーギャーわーわーと騒いで登校するのはもはや毎朝恒例となっている。

 二人が学校に着く頃、校門では生徒会による制服チェックが行われていた。

 葵の顔が生徒会の存在を理解して引き攣る。

 茜は顔を下げて通り過ぎようとする葵の腕をつかみ、爽やかに挨拶をする生徒会長へ話しかけた。


「黒崎先輩、おはようございます!」


「ああ、赤川さんと青山君。おはよう。今日も仲が良さそうで何よりだね」


「……おはようございます」


 葵の声が茜に対するそれよりも大分小さい。

 しかし黒崎はそんな葵の態度には慣れたもので、爽やかに笑って流す。


「赤川さん、この間は突然生徒会の仕事を手伝ってもらって悪かった。今度お礼に何か奢るよ」


「え、あんなちょっとしたお手伝いでそんないいですよ!そんな事よりこの葵を

「茜、遅れる。すいません黒崎先輩。また今度」


「わかった、用事があるようならまた今度にするよ」


 苦笑するような黒崎の言葉を背中に聞きながら茜は葵に引き摺られるように玄関へ入っていった。


 靴を履き替え三階の教室へ向かう。

 サポートキャラと主役という間柄にあるので、もちろんクラスは同じ。


「お前、隙あらば俺を推すのやめろよ」


「あら?そんなこと言った?」


 言う前に止められたし未遂でしょという茜の言葉を聞いて葵は茜の頭をベシリと叩く。


「大体、あの人俺に一ミリもそんな気は無いだろ」


「最初は大体そんなもんでしょ」


 そこをどう仕上げていくかが私の腕の見せ所などと言う茜は、黒崎が自分に向ける興味ある視線に気付いていない。今は面白い後輩くらいしか思っていないようだが、このまま進めば恐らく……と考えていたところで葵は自分にぶつかってくる人物に意識をとられる。


「あいたー!すいませんすいません…って何だ葵君か。おはよ」


「何だとはなんだ。俺はぶつかられた被害者だぞ橙。おはよう」


「もー、気をつけないと怪我するよ?みかんちゃんおはよ! 」


「おはよ茜ちゃん! 」


 ぶつかって来たのは橙 みかん。明るく活発な彼女は周囲不注意が多く、度々ぶつかっている。

 茜、葵と同じクラスメイトでもあるが、茜を盾にしようとしても突然ぶつかられるのは大体葵だったりする。


「葵君いつも悪いねー! なんでぶつかっちゃうかなぁ」


「みかんちゃん、葵は大丈夫だけど自分を心配しなさいね。階段だったり危ない人だったら笑えないよ」


「茜お母さんごめんなさい」


「よしよし」


 仲はとても良いみたいなのだが、頭を撫でる茜と撫でられるみかんはどう見ても恋人のような空気はない。

 イベントは茜にこなさせようとした筈なのにどうしてこうなったと葵は頭を抱えたい限りである。


「葵君にぶつかったら茜ちゃんに悪いもんね」


 にやにや言うみかんに対し茜が無言で渾身のチョップをお見舞いする。


「いーたーいー! 」


「もっとやれ茜。俺は茜の物じゃない。どちらかと言えば指示する側だと言うことを教えてやれ! 」


「制裁!! 」


「!!何故、俺の足を踏むんだよ痩せろポッチャリ! 」


 葵の発言に何故かみかんまでもが足を踏もうとする。

 葵はクラスまでダッシュする羽目になったのだった。


 教室まであと一歩の所で葵は呼び止められる。


「葵君、朝からそんなに何を急いでるの? 」


 声のする方を見れば、校内きっての美少女と名高い紫野 まどかがクスクス笑いながら見ている。

 最高学年にいる彼女から見れば葵などヒヨコのようなものなのか、からかわれることもしばしばである。


「あー、いや、特には、ないっす。えーと、部活の連絡か何かですか?」


 葵はサッカー部、まどかはマネージャーである。


「お昼休みの集合、忘れてない? 」


「……あ、もちろん、覚えてました」


 あからさまに忘れていたことを誤魔化す葵にまどかはやっぱりねと言った顔で見てくる。

 今日は次回の練習試合へ向けて、昼にミーティングを開くと言われていたのを葵はすっかり忘れていた。

 そこへ追いついた茜がまどかを見つけ、自然と葵の隣にやって来る。


「まどか先輩、おはようございます」


「おはよう、茜ちゃん」


 ちなみに茜もサッカー部のマネージャーである。

 サッカー部に男性の攻略キャラがいないのにと葵は不思議に思ったものだが、茜は葵に付き合ってサッカーを見ることが多く、サッカー自体が好きであるのでまぁそんなものかと納得した。


「先輩、この忘れっぽいアホは私がちゃんとお昼に連れて行きますから。ご安心下さい」


「茜、なぜ俺とまどか先輩の会話内容を知ってるんだ。お前やっぱりまどか先輩が

「毎度あんたが忘れるから心優しいまどか先輩直々に教えに来てると言う自覚はあるのかしら?また足を痛めたい? 」


 茜のただならぬ圧に葵は気圧されて謝罪を口走っていた。

 まどかは笑いながらことの端末を見守りつつ、口を挟んだ。


「茜ちゃん、葵君はうちの部の未来のエースになるかもしれないんだから、足はやめてあげてね? 」


「先輩?! そこですか?! 」


「葵君は罰を与えられないようにしっかりとしてね」


 じゃ、と立ち去っていくまどかの後ろ姿を周りの男子生徒が見惚れているが、彼女は慣れているのか気にも止めない。


 立ち去る先輩の姿が見えなくなってから、茜は葵の肩を叩く。


「見惚れてんじゃないわよこの鈍感! 」


「いやこんな周りを虜にしながら立ち去るのって中々見れない……って鈍感って何だよ」


 ぶつぶつ言いながら二人揃って教室へ入る。

 茜の姿を見た一人の生徒がノートを差し出した。


「赤川、ノート、助かった」


「紺野君、こんな直ぐにいいのに」


 笑いながら受け取り、何故か飴まで紺野に渡す茜を見て葵はどこの世話焼きばばあだと呟けば茜に欲しいなら素直に言え!と飴を顔面に投げつけられた。


 二人はこうして今日もお互いをサポートしつつ、無意識に相手を妨害して青春を謳歌する。




 おしまい。














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