懲罰房 意趣返し
「では、説明してもらえるかしら?」
「了解しました。
でも先に聞いて欲しいことがあります。」
「ええ、他言無用の事なら心配要らないわ、安心して。」
「それもですが、俺自身が全てを把握している訳ではない、という事を。先に。
色々、最近になって思い出したり、気がついたりしてるので、その時その時で話が変わる事があると思います。
今後も言ってることが変わる可能性が有ると、理解して欲しいんです。
と言っても、何を言ってるか意味が分からないと思うんですが、全部聞いてもらってからもう一度その事を思い出してもらいたいのです。」
「そう・・・心に留めておくわ。」
「では、まず結論から。
端的にいえば、俺は〝氷の神〟に出会ったんですよ。そして認められたんですよ。
と言っても信じてもらえませんよね、確認してください。」
俺が手のひらで 後ろの男を促すと、サブマスは勢いよく振り返った。
「・・・嘘は言ってません!!」
事務服をきたゴツい男が驚いて、目を見開いたまま答える。
良い反応だ。
さて、話ながらでも、攻め手を探していかないとな。
「まさか、本当なの? アナタって・・・」
「まぁ、その影響で色々あるんですよ。言えないことも勿論有りますし。
下手に喋ったら、聞いた人間が神罰で死ぬ、なんてことも無いとは俺には言えません。
それでも聞きたいなら止めませんが。
出来れば危ないことは言いたくないなぁ・・・」
聞いたら俺が殺すから、だ。これなら嘘じゃ無い。
俺は〝神の寝床〟 俺の振るう暴力は全て神罰だ。
つまり今までの俺の行いは全ては神罰だったのだ。
「嘘は、言ってません。」
男の声が静かに響く。サブマスは少し曇った顔で考え込んだ。
「・・・分かった、余計な詮索はしない。だから話せる範囲で教えて。」
「そうですね、難しいんですが。
出会ったとき、氷の神は死にかけていました。今はその傷を癒やすために眠りに就いています。
鑑定眼、といえど見えないと思いますが、俺の中で。
なので俺は魔力が高く、氷魔法の才能がある。 全て氷の神、その能力の一部を借り受けているから。
代わりに氷の神は長い時間を掛けて俺の中で眠る。いつの日か復活する、らしいです。」
俺の言葉に3人が絶句する。
おそらく聞きたい事とは、完全に違う話になっていっているのだろう。
まさか森羅万象を司る神の話が出てくるとは思うまい。
嘘を見抜く魔道具なんて用意しなければそこまで踏み込まなくてすんだものを。
衝撃が大きかったの3人の動きが止まった。
魔道具を持つ男の動きが止まっている、今のうちに嘘を少し混ぜておきたい。
「その影響でか、記憶がずっと曖昧で、今少しずつ思い出している状況なんですよ。
この辺は昨晩、色々あったからか、やっと思い出したところで。
オークの上位種と戦ったせいか、急に色々思い浮かんできましてね。
レベルアップの影響・・・ですかね。
ああ、氷魔法に関しては、信仰者が少ないから廃れかけている、そう聞いています。」
記憶の無いという嘘を混ぜ、男が再起動しそうなタイミングで本当の、神から聞いている話に変える。
記憶が無いという所だけごまかせればとりあえずは充分だろう。
実はバリバリ全部覚えている。
再度、男が
「嘘は言っていないようです。」
と答えたのを聞き、いくらか安堵し、続きを語る。
「推測も混ざりますが、信仰者の多い光魔法は使い手が多いと聞いています。
俺は氷の神に、信仰者が少ないことで力を失っていると聞きました。
もし、信仰者が増えれば、俺、じゃないですよね、失礼、私の使える氷魔法も増える、あ、いや強くなる、だったかな。と、言われました。
なので俺のやることは信仰者を増やすことですね。
あと、他の神を探して欲しいとも言われてます。出来れば信仰者の少ない神をと。
信仰する者が少ない属性、例えば水魔法、そして土魔法は使い手が少ないと聞いています。
なるべく早く神を見つける必要があるでしょう。」
「もし・・・・だけど、神が死んだらどうなるのかしら?」
「えっ!? それ聞く !? 聞いちゃいます!?
その概念が無くなると聞いてるので、氷は全て溶けてしまい、水は消えるんじゃないかな・・・
消えなくても浄化作用が働かなくなって、どんどん汚れてしまい、生き物は生活できなくなるとかじゃないかな?
土の概念が消えたらなんて考えたくないですよ。想像するだけで怖い。」
氷が無くなれば海の水位が上がるだろう。
水が無くなれば、乾いた大地だけが残る。
この辺は小学生でも分かる話だ。
大地が無くなったらどうなるか?知るわけが無い。そんな世界は存在できない。
知る必要も無い。
それを防ぐように頼まれている。
俺の神の言うことは絶対だ。最悪俺が死んだ後に起きるならば、それも知らんから問題無い。
「ちょっと、さらっと凄い怖いこと言わないで!
言えないことは言わなくて良いから。 あと言いにくければ、俺で良いわ。
話しやすい話し方でいいから、その・・・もう少し、気をつけて話してちょうだい。
それで、嘘じゃないのね?」
「ええ、どうやら・・・」
男が青い顔で頷いた。
勿論嘘は言ってない。ちょっと推測を混ぜているだけだ。
どうなるかなんて、実際には神が死んでみないと分からない話だ。
そこまで聞く時間は無かった。
「了解です。言葉使いはご容赦下さい。
なるべく気をつけますんで。
で、まぁそんなところですよ、勇者、は忙しそうなので。自分には難しいです。
信仰者を増やすにはいいかもと考えたことは有るんですけどね。」
残念ながら、勇者はそこまで尊敬されていない。
貴族の傘下の勇者、それが信奉する神を民衆が拝んでくれるとは思えない。
「そう、それで・・・」
「ちなみに、〝精霊視〟のスキルはありますが、〝鑑定眼〟では無いですよ。
人のスキルは分かりません。」
自分のことを、もっと深く見えているだけだ。
それもはっきり教える必要は無いだろう。
精霊眼(劣化) なんて話はする必要もない。
男がサブマスに頷く。 面倒臭いなこのやりとり。
そうなると話を変えてしまうのがてっとり早いか。
どこかに当たりがあり、はずれが有る。
話すポイントを探る。少し時間を稼ぐか。
「そんなわけで神様のいそうな場所に心当たりは有りませんか?
あと、信仰者を増やすのに、何か知恵があったら貸して欲しいんですが。」
「残念ながらいそうな場所に心当たりは無いわ。
今すぐそんな知恵も浮かばないわ。」
失敗した。
ならば次の手を。
「それは残念。
あーそういえば、なんですけど。まぁ手遅れか。」
なるべく意味ありげな表情を作って言う。
「何? どうしたの?
今更だから言えることは教えてちょうだい。」
サブマスは頭を抱えながら言った。頭でも痛いのだろうか?
自分から聞きたがったくせに変な反応だ。
残念ながら次の言葉でもっと痛くなるのだが。
「いやー自分、この話、人にするの初めてなんですよ。」
「・・・そう、それで・・・?」
「話した相手に何が起こるのか想像もつかないな、と。」
「え!? ちょっと、私達は他言しないって約束したじゃ無い。」
3人の顔が一気に青くなった。
ここがポイントだ。
「よく考えたらその辺の話、神様からなにも聞けなかったんで。
何が起きるか想像も出来ない。
もしかしたら何も起きないかもしれないし、人に喋ったら何か起きるかもしれないし?
起きてみないと何とも・・・ですかね。困った。」
そう言って、気まずそうに視線を切り、何か意味ありげな雰囲気を作る。
その姿を見て3人が焦り、騒ぎ出す。
意味が無いことを意味があるように言う。
詐欺師の手口の序の口だよね、嘘じゃ無いから問題無い。
だってどうなるかなんて俺だって分からないし。
脅しでは無く、ちょっとした嫌がらせだったのだが、かなり効果的だったようだ。
青くなった3人の顔を見て、少しスッとした。
どうにかしてくれ、と3人に泣きつかれたので、互いに協力関係を築かないかと提案した。
一応何も起こらないとは思うとは伝えたのだが、不安感を上手く煽れた結果のだろう。
嘘を見抜く魔道具なんて持ち出すからこんなことになるんだと思う。
好奇心、猫を殺すって奴ですね。
「俺の中に神がいるという話は信じてもらえたんですよね?
だったら俺と敵対しなければ問題無いんじゃないかな~、どうだろ?」
と言っただけだ。
向こうもおそらく俺を何かしら利用しようと考えていたのだ。
それが相互協力に変わっただけの話だ。
少ーしだけ譲歩してもらっただけですよ?
それでも3人はかなり安堵した顔になったが。
心が少しだけ痛んだので、フォローはした。
神を使った脅しは少しだけ罪悪感が沸くから不思議だ。
「協力を約束してもらえたのは嬉しいですが、本当にいいんですか?
正直、神の寝床だなんて言ってますけど、神罰なんて起こせませんよ?
ついでに言えば、神罰なんて無いと思ってます。あるんならとっくに落ちているでしょう。」
もし有るのならば真っ先に俺に落ちるだろう。
神の名前を使って好き放題、これからする予定だ。酒池肉林、ハーレムチートまっしぐらだ。
全知全能の神なんているのなら、それを先読んで俺を殺すだろうし、本当に神が、全知全能だというのならな、あの時氷の神は死にかけていなかった。
まぁそれでも心のどこかで現状は、とも思っている。
レベルが上がれば神罰に近いことが起こせるかも知れない。
「いまさらよ、こんな話聞いてそんなこと言っても説得力無いわ。
それに、アナタは記憶がないから知らないのでしょうけど、この辺りの古い貴族家はみんな、火、水、土、風のどれかの属性をシンボルに取り入れているわ。
四公爵家のことはどれだけ覚えているの?」
この国の貴族を急に振られた、それも最低限は当然講習で学んでいるし、この手の話は酒の席の話題にもなりやすい。
とは言っても詳しくは知らないが。
「現体制の 四公爵 二侯爵 という話ですか?」
この程度の話だ。
今現在、この国では王家を頂点に 四公爵 二侯爵がその下に横並ぶ。
四公爵 二侯爵の下に伯爵以下の貴族が在る。
二侯爵家は新興だ。
その勢いで王家、四公爵家が今は少し弱いと聞いている。
貴族の孫と、新人講習生の俺、間違い無く認識に隔たりがあるだろう。
「そう、その四公爵を筆頭に、それぞれの属性をシンボルにして、貴族家が連なっているわ。
最近は侯爵家の存在で少し入り交じってしまっているけどね。
古い家ほど、その属性の神を重んじているわ。
アナタの話、正直・・・・かなり重いわ。」
そう言ってサブマスは少し顔を歪めた。
伯爵家の孫、そこに何か感じ入るもののある話題だったようだ。
そんなデリケートな問題なら俺に変に関わらなければ良いものを。
「その二侯爵家にはシンボルは無いんですか?」
「どちらも光をシンボルにしているわ。今の神殿とも仲がいいし。」
と言いつつサブマスが少し忌々しそうな顔をしたのを見逃さなかった。
神殿、とやらも色々あるのだろう。
「そこは普通、光と闇に別れるべきでは?」
「闇をシンボルにする貴族なんているわけないじゃない。」
なるほど、それはそうかもな、貴族家も大変だ。
ならば俺は、思いっきり闇のシンボルも取り入れて、組織を作ろうと心に誓った。
「ま、氷属性の俺には関わり用のない話ですね。
切り替えましょう、話してしまったのは仕方無い。師匠達に話すのは止めた方がいいですかね?」
俺の方の問題はこちらだ。許可を得ないで勝手に話して神罰が無いと確証されるのも面白く無い。
そして氷はシンボルに使われていないという事実が少し堪える。
貴族どもがそんな扱いだから、氷魔法はの使い手が増えないのだ。
駄目だこいつら、早くどうにかしないと。
「軽いわね・・・そうね、止めた方がいいとは思うけど、するならば結果を報告してちょうだい。
こちらでも様子を見るから。」
「了解、どうしても話さないといけない部分もあるのでご理解ください。」
「そうなの? どうして?」
「んーと、俺の中に神がいる。これは俺と氷の神の相性が良いかららしいんですが、詳しくはわかりません。氷魔法の発現率から考えて多分かなり良いのだろうと自覚はしてるんですけどね。
問題は俺が死んだときの話になります。 絶対に次の寝床が必要だと言われてます。
当然相性の良い俺、の子供とは相性が良い、という可能性が大きい。
なのでなるべく子孫を増やして欲しいと言われてます。」
「・・・なるほど。神はどのくらい眠りにつくの?」
「そこは初めて眠りにつくらしくて、はっきりわからないと言ってました。でも、俺の寿命が先に尽きるのは間違い無いと。
なのでその辺の安定も必要なんですよ。
もう一つ推測なんですけど」
「何かしら?」
「氷の神は水の神の妹だと言ってました。なので、出来れば水の神を見つける前に子供が欲しいと思ってます。
妹と相性の良い俺の子供なら、もしかしたら・・・ってところですけどね。」
「・・・なるほど、その子も使徒になれる可能性がある、と言う事ね。」
俺は返事をせず、薄く笑って首を傾げた。
言いたいことは分かるだろう。
ギルドのサブマスター。伯爵の孫。美人。
と、来たら期待するのは1つだ。
俺にでも、俺の子供にでも利用価値をみいだしてくれれば儲けものだ。
子供を作ってまでは裏切らない、と思いたい。
最悪子供を作って、その子が取り上げられたとしても、貴族家に育てられるのならば、その子にとって悪くない人生になるはずだ。
貧乏で育つよりはずっといい。
最もあの手この手で介入は絶対にするだろうけどね。
お爺さん、種馬ですよ、小遣いくださいって。
その時代替わりしてるかもしらないけど。そしたらお義父さんだな。
そんな未来も楽しそうだ。伯爵家、寄生虫ルート。
「それで、そちらがここに来た目的、まだ聞いてないですけど。
俺に何をさせたかったんですか?」
本来の目的が在るはずだ。
それを聞いていない。
「そうね・・・この際だからはっきり言うわ。
ギルドに昨夜から問い合わせが来てるのよ、〝聖剣〟を使った講習生について。
今はこの周辺の貴族家や商家だけだけどね。
そのうち王都にも話が届いて、おじいさまからも問われるだろうから、先に調べておいて、有望ならばって考えていたのよ。」
その言い方だと有望じゃなかったみたいに聞こえるから不思議だ。
「下手に突っ込んだおかげで、やぶ蛇だったわ。」
「嘘を見抜く魔道具なんて持ち込むから・・・」
本来ならば、適当に誤魔化して追い返す予定だったのだ。
それを素直に話させたのが悪いと思う。
「失敗したわ。
でも協力してくれるのならば悪くない話なの。
冒険者ギルドを良くしたい。それに協力して欲しいわ。」
なんともな綺麗事が飛び出した。
おいおいこいつ嘘吐いてるんじゃねーか?と思って、嘘を見抜く魔道具を持つ男を見た。
だが睨まれただけで、何も答えてくれなかった。
ま、そりゃそうですよね、俺の部下じゃないし。
「別に上に全部話してくれても構わないですけど?」
「言えるわけないでしょ、それでなにか起きたら全部私のせいになるじゃない!」
そう言われて気がついた。別に神罰が起きる必要は無い・・・
何か起きたら、この話を聞いた、そのせいにされる。されてしまうのだ。
結果はこじつけで構わない。
魔女裁判と同じだ。
ならば言わぬが正解だろう。納得した。
「なるほど、じゃーあれですね。
上手い事言いくるめて手駒にしてあるとか報告してくださって結構ですよ。
俺の方もそれで他の貴族を突っぱねられますし。」
「あら、いいのかしら?」
「協力関係ですしね。
可能なら少し便宜を図ってもらえると助かります。
勿論ギルド運営、良くするためにも協力はしますけど、しばらくは講習を受けたいのでそっちを優先させて下さい。
俺に良くするは難しいと思うけど。」
悪くするなら得意だろう。
これは謙遜では無く、本気で思う。
「そうね・・・その方向でやってみましょうか。
具体的になにか便宜を図って欲しいことがあるのかしら?」
こうして俺はギルド内に協力者、しかもナンバー2を得ることに成功した。
これをもって行動を開始する事になる。




