懲罰房 来客
気持ちを切り替え、懲罰房内で1人、黙々と氷魔法、そして水魔法の練習をしていた。
特に水魔法、覚えるには数をこなさなければならない。
音を立てないように注意しながら水を作り、操作する。
そこに来客があった。 腹具合から考えて時刻はおそらく夕刻に差し掛かる前後だろう。
昼飯を食ってから、それなりの時間を魔法の練習に費やしていたはずだ。
〝看破〟のスキルに反応があった。
近づいてくる者が分かる。
ただそれだけのスキルなのだが、充分に便利なスキルだろう。
慌てないで対応出来る。
手を止めて来客を待つ。
水も氷もトイレに放り込んでしまえば、何をしていたかなんて誰にも分からない。
ベッドに腰掛けて来客を待つ。
夕飯にはまだ早い。
丸一日たっていないが、出してくれる可能性もある。
夕飯は宿舎の戻って取るようになるのかもしれない。
足音を確認しながら様子を探った。
・・・・4,いや3人だ。
最近は足音で人数を判断できるようになってきている。
静かに独房の鍵が開き、人が入ってくる。
「おっ、すげー美人。」
顔を見せた女性の姿を見ての感想だ。つい口から声が出たほどだ。
それくらい清楚な美人がそこにいた。
その女を先頭に、後ろに、少し嫌な感じの雰囲気を持った女、そしてボディガードだろう、少しゴツめ、逞しい体躯をした、40後半~50前後の男を従えている。
女は立ち振る舞いに品格がある。 見るからに高そうな仕立ての服を着込み、かといって派手すぎず、地味というほどではないが、冒険者ギルドの講習生などとは住む世界が違うことを感じさせる。
清楚な令嬢、高嶺の花、そんな雰囲気を感じさせてくれる。
綺麗に手入れされたストレートの髪は長く伸ばしたまま綺麗に整えられ、
そこにいるだけで目が奪われる。
男、そしてもう1人の女は事務服に身を包んでいるが、どちらもただの事務員には見えない。
何かと問われれば、男はヤクザだ。 事務員を装っている経済系のヤクザにしか見えない。
ちょっとインテリぶってるが、うまくいかないと切れて暴れ出しそうな雰囲気を持ったおっさんだ。
こちらは堂々と片手剣を携帯しているので、ボディガードで間違い無いだろう。
女はと問われれば、メンヘラ系呪術師だと答えたくなる風貌をしている。
目の下にクマがあり、病んだ雰囲気を全身から醸し出している。
フードを被って大釜を煮て、その前で掻き回せていた女を、事務服を着せて、無理矢理連れて来ているような感じだ。場違い感が半端なく、そして怪しい。
特に目がヤバい。あの目で見られるととても嫌な感じがする。
そんな従者を2人連れて訪ねて来た女に心当たりが有る。
この辺りの話は、師匠を含む教官たちから散々聞かされている。
まずこの冒険者ギルド支部、ギルドマスターは表に出てこないらしい。
通称 〝白ウナギ〟 と裏で呼ばれており、何でも種族的に珍しい種族なのだそうだ。
細かい事は知りようが無いが、それでもギルドが廻るくらいだ、能力は高いのだろう。
いつも自分の部屋で仕事をし、生活しているらしい。
当然こちらでは無い。 ついでにギルマスは男だと聞いているので間違い無く違う。
そんな表に出てこないギルドマスターの代わりに、ギルドの顔として万事を仕切っているのがおそらく目の前の女。
通称 〝 お嬢 〟
どこかの伯爵の直系の孫とかで、まごう事なき貴族の血筋だ。
若くして ギルドのサブマスター、略してサブマス、その役割をこなしているらしい。
最も、実家から専属事務員として、辣腕の事務方内政系の側近を複数連れてきて、仕事をさせているらしいが。
それでも20歳でここに送り込まれ、あっという間に出世したのだから仕事が出来る人なのだろう。
傀儡である可能性も、あるといえばあるのだが、それでもその立場を保っているのは大した事だ。
少なくとも、サブマスとしての役割はこなせているのだから。
この初心者講習も、この女が先頭に立って始めさせたものだと、講習内で散々教えられた。
「あら、かなりヤンチャな坊やだと聞いていたけど、気の利いた出迎えの言葉を言えるのね。」
「・・・失礼。つい思ったことを口にだしてしまう性分でしてね。気に障ったなら謝罪しますが、偽らぬ本心なのでご容赦頂けたら幸いです。」
教官たちから散々、もし会ったら粗相の無いようにしろ、と口を酸っぱくして言われている。
なのに、早々に失言をしてしまった。
取り繕うように頭を下げる。
「・・・そう、謝罪は必要無いわ。初めましてイゾウさん。私はこのギルド支部のサブマスターをしている者よ。 」
謝罪は必要無いらしい。美人の自覚はあるのだろう。
確か二十歳でギルドに赴任し、今5年目だという話だ。 当年25歳。
俺好みの超美人だが、気をつけないとイケない。この世界でその歳は完全に行き遅れに足を突っ込んでいるはずだ。
10代で結婚も珍しくないという貴族の世界では尚更だ。
余計なことは言わないように注意しながら、なんと答えるか考える。
「サーヤ様、で宜しかったですか? サブマスター自らこんな所まで何用で?」
「あら、名前も知ってるのね。とはいえ、ここでは貴族の子弟ではなく一介の職員、サブマスター、もしくはサーヤさん、で構わないわ。」
そんな言葉を聞いても白々しいなこいつ、としか思わない。良いと言われたとしても、普通はそんな風に呼べるはずが無いのだ。
「では、サブマスターどの、俺なんかに何用でしょう?」
軽く返したイゾウの言葉に後ろの男の眉がピクリと反応した。
この辺りなら問題無いらしい。貴族の正解が分からない。
正直、早く帰って欲しい。
「あら、随分な言いぐさね、用が無ければ来ちゃ駄目なのかしら?」
「・・・懲罰中なので。
独房ですし、狭いところだ、サブマスターどのが見回りにくるような場所では無いと思います。
それに反省するために入っているので、人と話してたら罰にならないのでは?」
「それは建前だから大丈夫よ、 最終的にここに入れる許可を出したのは私だし。
女の子を助けるために講師を殺そうとしたって聞いたから・・・興味を持ったのよ。
一目見ておきたくてね。 相手の子は・・・・恋人_?」
「残念ながら。
今の所、こちらの片思いですね。」
今の所はね、バリバリフラグは建てた。
後はここを出たら回収していくだけだ。
懲罰!? 屁のつっぱりにもならんですよ!
「そう・・・上手く行くといいわね。
あまり時間もないし、率直に聞きたいんだけど、その子が好きだから助けたの?
もし仮に、攫われたのが私や、後ろの彼女みたいに初対面の相手だったらどうしてたかしら?」
「難しい質問ですね。
サブマスターどのなら、無条件で助けますよ。」
心の中で、貴族の娘だしな、と悪態を吐く。
もっとも見た目は好みなのでおそらくフラグを立てるために助けようとはするだろう。
助ける手立てがあるかどうか別として。
「あら、ありがとう。それは何故?
彼女は駄目なの?」
「ええ、彼女は無理だ。 ・・・こう、向き合っていて、そっちの彼女嫌な感じがします。
今も何かされているような・・・
背中がざわつくというか、ゾクゾクくる、そんな嫌な感じが、ね。する、んですよ。
正直見られているだけで冷や汗が止まりません。」
誰も見てなければ即、排除に動くだろう。
それくらい嫌な感じがする。
最も、それだけで今、動くほど間抜けでは無い。
とりあえずは様子見だ。
「あらあら、さすが・・・鋭いわ、想像以上ね。
〝聖剣〟に認められただけのことはあるわね。
その嫌な感じ、正解よ。
少し読んであげて。」
「ハイ
イゾウ 18歳 男 健康体
初級剣術 : レベル3 初級槍術 : レベル2 初級大剣術 : レベル5
初級斧術 : レベル1 初級棍術 : レベル1 初級格闘術 : レベル4
初級弓術 : レベル5 初級杖術 : レベル1 初級投擲術 : レベル3 」
「・・・・」
女が突然俺の方を見ながら、俺のスキルを読み上げ始めた。
最初は何だコイツ、としか思わなかった。
だがそれは、俺の右目に映る武術系スキルの表示と同じ内容、何も変わらないモノを読み上げている、ように見える、聞こえる。
鑑定は受けていない。なのに俺の鑑定結果を知っている。
なぜだ?見えているから。
そのスキルの存在は聞いている。 〝鑑定眼〟だ。
転生物で多くは最初に与えられるチート。
それがあればどんなにいいと考えたことか。
つまりこの女は、俺が見えるものと同じモノが見えている。
顔が歪み、背中に冷たい汗が流れていくのが分かった。
その俺の顔を見た女がニンマリと笑う。
「その顔は心当たりがありそうね。それにしても凄いスキルね。
講習生の平均を遙かに超えているんじゃないかしら?」
「そうですな、普通の講習生は初球のレベル1をいくつか覚えられれば良いもの。
この男はもう中級にいくつか届く。
確か報告では講習前に持っていたのは 初級格闘術のみ。
先日の鑑定では武術は殆ど、まだレベル1だったはず。」
「凄い成長速度ね、何か心当たりでもあるかしら?」
サブマスの声に男が答え、それを聞いたサブマスはとても楽しそうに俺に問いかけてくる。
「さぁ・・・突然知ってる単語が並べられたから驚いているだけですよ?
それがどうかしたんですか?」
精一杯の無表情を作り答えた。
「そう? じゃもう少し続きはあるかしら?」
「ハイ。 まだ続きます。
計算 : レベル4 指揮 : レベル2 料理 : レベル1
演奏 : レベル1 騎乗 : レベル2 工作 : レベル1
隠密 : レベル5 看破 : レベル1 ・・・・・・」
その後も女の読み上げは続いた。
ギルドの講習で得たであろうスキルをどんどん読み上げていった。
当然隠そうと考えていた 職業アビリティ も全て読まれた。
そして最後に
「
魔力操作 : レベル5 魔力感知 : レベル5
初級水魔法 : レベル3 中級氷魔法 : レベル2 スキルは以上です。」
と続いた。どうやら俺の眼の表示と違い、魔法の種類までは見えないようだ。
代わりに魔法がレベルで見えている。
俺の眼には魔法はレベル では無く 魔法名が移る。
そこに隔たりがあるようだ。
だが今はそこは問題では無い。
目の前の男女は最後の魔法のレベルを聞いて驚いている。
おっさんと美女が顔を見合わせて止まっていた。
何がしたいのか知らないが、早く帰って欲しい。
「で・・・何が言いたいんですか?」
「す、凄いわね、まさか、氷魔法が中級に達しているとは思わなかったわ。」
「私にはなんの話だか、さっぱりなんですが?」
「とぼけても無駄よ? この子の持つ目は、『 鑑定眼 』
ギルドの鑑定の道具よりも、少し細かく見えるの。
その反動で少し病んじゃってるけどね。」
そんな予感はしていたがやっぱりだった。
『鑑定』 というスキルがあることは聞いていた。
だが、ギルドにそれが出来る奴がいるとは今の所聞いていない。
まだブラフの可能性もある。 もしくは師匠達も知らないか、だ。
「それは凄いですね。それが本当ならオークの上位種と戦って随分上がったことになる。
次に鑑定の道具を使うときが楽しみです。」
「あらあら、まだとぼけるのね。もっと、野生児みたいな子を想像してたんだけど、理性的な部分も持ってるのね。なら、お互いの為に、腹を割って話さないかしら?隠し事は無しで。
と言っても困るわよね。
もし、嘘を見抜く魔道具がある。
そう言ったら、少しは本当の事を言ってくれるのかしら?」
「なっ」
「あら、今日1番良い反応ね。」
「くそっ、ブラフかよ。」
「いいえ、あるわよ。
アナタ、さっきからずっと嘘で反応してるわ。 ねぇ、別に害しようとか、殺そうとか、取って食おうという話じゃないわ。
これでもギルドのサブマスター。話によっては優遇してもいいの。
どうかしら?」
「そっちの目的を先に聞かせてくれたら、話しますよ。」
「あら、アナタって聞いてた話と全然違うのね、優秀だわ。
噂だともっと乱暴者で、話なんて出来ないくらい短絡的だって聞いてるのに。
でも駄目よ、アナタ。 話を聞いたら、それに合わせて答えるつもりでしょう。
ちゃんと話が聞きたいの。
でも、もし内容によっては、父や祖父に口添えしてあげてもいいわ。
勇者に成りたいのならば、力になれると思うわよ。」
ああ、やっぱりそっち絡みか。
そして先を読んで潰されている。困った。
つい反応してしまった自分が憎い。
若返ったせいか、色々反応が良い、良すぎるのだ。
当然それが良いこともあるのだが、今は悪い方に出た。
嘘の魔道具か、その可能性は考慮していなかった。
素直に話すしかないか・・・
「勇者? 有り難い話ですけど、勇者に成りたいなんて気持ちは全くないんですよ。
是非確認してみて下さい、その魔道具で。
勇者を欲しているならユリウスっていう名の講習生がいます。
そちらをお薦めします。俺よりも全然優秀ですよ。」
「ユリウス? ああ、元兵士の子ね、その子は他の貴族が後ろにいるから、論外ね。
他の貴族の子に声をかけるのは問題になるから出来ないわ。
それにその彼が勇者になるのは、多分難しいわ。
それで、勇者に成りたくないんだって、反応は?」
「嘘は言ってないようですな。」
「あら、本当に勇者を目指してるわけじゃないのね?」
サブマスが男に振り向いて確認した。
どうやらその魔道具は男が隠し持っているようだ。
そういやチラチラ後ろを確認していた、気づくのが遅かったか。
間抜けなイゾウめ、くそっ。
「ええ、全くですね。」
「じゃー何をしたいのかしら?」
全く放っておいて欲しい。
なんでいちいち俺に干渉するのだろうか。
間違い無く聖剣を振り回したからだ、ポンコツ兵器め。
何をしたいのか。
氷の神の願いを叶えるのだ。
他のことで煙にまけるかどうか、難しいな。
俺の本心でしたいことは、ハーレムとか他の神を助けたいとかじゃない。
氷の神の頼みを聞きたいだけだ。
他はおまけ、ちょっとした役得に過ぎない。
多分、嘘を暴く魔道具に反応する、可能性が高い。
「先に、ユリウスが勇者に成るのは難しい理由を教えて下さい。
・・・・友達なんで、応援してやりたかったんで。」
「良いわよ、その代わり、ちゃんと話してくれるなら。」
「ちゃんと話すのは良いですけど。少しの間他言無用でお願い出来るなら、そう約束してください。
でなければ無理ですね。
世の中には殺されても言えないことがある。ご存じでしょう?」
「あら、条件をだすの?」
「条件というか、師匠、教官長達に、まだ話していないことなので。
師匠に話す前に、ここで話したことが広まって、他人の口から師匠達の耳に入るの、は不義理じゃないですか。
懲罰房を出たら話しをしようと、此処にいる間に考えていました。
少しの間、俺が師匠達に話す間だけでいいので、ここだけの話にして欲しいんです。」
「義理堅いのね、そうゆう理由ならば構わないわ。約束しましょう。
2人にも、他言を禁じるわ。
これで良いかしら?」
サブマスは後ろの2人に言い放ち、ふたりはコクリと頷いた。
口約束だが信じるしか無い。
「ユリウスさん、という子、アナタのお友達が勇者に成り難いのは簡単よ、他の派閥の貴族が妨害するから。
その子の親の貴族はね、強引で有名なのよ。
とても優秀で強い貴族。でも、だからこそ敵が多いの。特に潜在的な敵が、ね。ああ、私の言うこれも内緒にしてね、交換条件、とでもしてもらおうかしら。
その子が勇者に成ってみなさい。さらに発言力が強まってしまう。
それもあって、私もアナタに声をかけておこうと思って見に来た部分も有ることを否定しないわ。」
「そんなもんですか・・・」
「そんなものよ。同期のアナタが先に勇者に成れば、同期のユリウスさんという子にはしばらくその席は廻ってこない。 基本的にこうゆうのは持ち回りなのよ、二番手以降は根回しに時間が掛かるわ。
〝聖剣〟でも使えれば、強引にねじ込める。そんな理由でも無ければ、ある程度順番になるわ、貴族の力関係のね。
こんな説明で、理解出来たかしら?」
「ええ、この講習会の同期から1人、勇者が出る。
するとその期の者達からは先に1人出ているから、別の条件の者を選ぼう。という話に持って行けるという話ですね。」
要はユリウスの上の貴族の足を引っ張りたい。
それには〝聖剣〟を使える俺を勇者にするのが手っ取り早い訳だ。
正統な理由があれば、権力に抗える。
違うな、別の権力で抗うわけだ。
そして俺がユリウスの上の貴族に憎まれる、と。
「そうね、理解が早くて助かるわ。」
女が頷くのをみて虫酸が走った。
そうやって、貴族の権力の道具にしてきたから、この世界の勇者の名前には、価値が薄い。
〝養殖(されて作られた)勇者〟しかいなくなったのだ。
それでも俺は、好みの美人は憎めないがな。
目の前の女が悪いわけじゃ無い、やってるのは貴族の子、孫では無く、貴族家の当主達だ。
多分汚いじじいどもだ。そっちの方が憎みやすい。
最悪殺しても心が痛まない。
気持ちを切り替えよう。




