独り酒 悪酔酒
「もろに反応したなぁ、はぁ、セレナかよ、よりによって・・・」
セレナが階段を降り、夜に消えていく姿を、ため息を吐きながら屋上から見送っていると、近くの建物の陰からナードが姿を現し、俺のいる建屋に入る。
階段を登り屋上に顔を出し声をかけてきた。
「大丈夫か?」
「あぁ・・・まさかセレナが来るとは予想外だったわ。」
「言われた通り、尾行させているが女子寮には入れない、今日はそこまでだ。」
「その前に誰かと接触したらいいんだけどな。」
俺の言葉にナードは頷きを返す。
今夜は確かに1人で飲みたい気分だった。
それは単純に考え事をしたかった。
だがそれだけでは無い。
もしかしたら誰かが接触してくる可能性を考えてだ。
講習中は常に誰かと行動している。
それが1人になったならばこれ幸いと声をかけてくる者がいる、かもしれない。
痛めつけた講師からどこまで聞いているのか?
俺がどこまで調べているのか? 把握しているのか?
唆した奴がいるのならば当然気になっていることだろう。
探りを入れる奴が現れるかもしれないと罠を張って待っていた。
この建物のこの場所でこそ1人で飲んではいるが、周囲の建物にはナードを含め3人が潜んでいる。
いまはそのうちの2人がセレナの後をつけている、そう手筈を整えて構えていた。
セレナに俺がここにいると教えたのも俺の派閥の誰かだ。
聞かれたらこっちの方に行ったと言うように伝えてある。
ユリウス、シグベル、ノリック、ライアス辺りいつもの夜飲む面子には1人で飲みたいと伝えてある。
性格的に彼らはそれで特に問題がないだろう。わざわざ1人の所を訪ねてこない。
引っかかるとすれば、それ以外の奴らだ。
思ってもいない奴が釣れちまって少し驚いた。
「で、どうする?」
ナードが問う。俺のセレナに対する気持ちなどお見通しだ。
これで気を遣ってくれているのだろう。
「いくつか嘘を言ってるからそれが広まってたら、話の出所を当たってもらいたい。
相手がセレナだからマナとか12班の面子に言うならセーフ。
ユリウスの取り巻きに広まってたらアウト、かな。」
「いいのか?」
「いいよ、仕方無い。そこから誰がセレナにやらせたか、それを知りたい。
まず1つ、 『教官長に〝聖剣〟を返した。』と言っておいた。これが嘘だ。
俺の手元に無いが、教官長のとこにも無い。これは講習生が知る必要の無い話だ、詮索するな。
ま、小さい嘘だけどな。俺が持ってなければ師匠であり、元の所有者のところへ戻るのが普通。
他の奴にはその話は答えて無いから・・・もしそれが広まったらセレナから、だ。」
「了解した。」
「2つ。『両手両足、男性器を切り落とした』と言った、これも嘘だ。微妙なとこだけどな。」
「そうなのか?それくらいはイゾウならやるとみんな思うと思うぞ。」
「・・・・・正解は『両手両足に汚ぇ一物、顔と喉を切り刻んだ。』だ。
判断が難しいがそれで広まってれば、教官に聞いたんじゃなくて、セレナに聞いた、もしくはセレナから伝わったになる。セレナを情報源に使ってる、ならそれで一応判断してくれ。
多分教官たちからは怪我の状況なんて伝わらないだろ?」
「まぁそうだな、普通は聞いても教えてくれないだろうな。」
「 あの時壁を切って助けに飛び込んだ、直後にしたのは一物を切り落とした事だ。
最初に2人、実行犯だ。レイプしようとした奴のな。
もう1人は悠々と眺めていやがった。余裕こいて酒をあおってやがった。
今思い出しても頭に来る・・・あの面・・・殺してやりたい。
あの部屋の中には今思えばそれなりに色々置いてあったと思う。
じっくり見れたわけじゃないが、多分潜伏できる程度の備蓄・・・それに近い物は有ったと思う。
切り落としたカスのわめき声が煩くてな、先に奴らの喉を潰したんだ。
それを見てたもう1人が一気に顔を青くして、『協力者がいる』と、『唆されただけなんだ』とか言いやがった。」
「・・・助かりたくて適当なことを言ったんじゃないか?」
「正直なところその可能性はある、だがその態度にすげー苛ついてな。
あいつは交渉でもすれば自分は助かるとでも思ってやがる顔をしてた。だから本当の可能性もあると思ってる。唆した奴を売れば自分は助かる、そんな顔だった。
あいつは両手両足を即、斬り落としてやったよ。〝聖刃〟でな、ザスッと。
オークグラジエーターなんかと違って、低ランクの魔法使いは脆いもんだ。あっという間にダルマになった。
そいつが失敗だったな・・・
泣き喚いて質問にも答えられなくなった。使えないから喉と顔を切り刻んだあとに、そいつのも落としてやった。だから真偽はわからん。
でも多分いるだろうな、協力者。」
「何故だ?」
「半分は勘だけど、低ランクの冒険者、講師のバイトをするやつが隠れ家なんて用意出来ると思うか?
それと・・・」
「・・・それと?」
「んー・・・いや、こっちは想像でしかないからまだだな、俺の願望が入っちまう。
だから無しだ、もう少し当日の状況を調べてからだな。」
「了解、他にすることはあるか?」
その後ナードと少し話し、独り酒へと戻る。そして考えた。
セレナの事はもういい。
そっちはプランBに入る。
今ならそちらの方が可能性が高いだろう。
盃を持ったまま屋上の縁と向かう。上からナードたちを見る。
ナードは2人の男と話している、報告を聞いて次の指示を出しているのだろう。
それを見て、近いうちに今の派閥は正式に解体することになるだろうな、と考え、手に持った盃を空けた。
そして考え事を続けるために酒樽の前に戻る。
☆★ ☆★
まだ昨日のことだ。
話がしたいので時間を作って欲しいと言われ、暇を見てナードの部屋に向かった。
ナードは同室の者の介入を嫌い、外に出て人気の無い場所に連れだって向かった。
「すまなかった。俺が目を離したせいだ。」
人のいない場所に着くとすぐに、そう言ってナードは頭を下げた。
「おいおい止めろって、お前のせいじゃないよ、っていうのは違うか。
目を離したのは良くなかったが、元々俺が押しつけた話だ。
俺が班から抜けないのが最善だった。
俺の方こそ、悪かったよ。色々済まない、それとありがとう。」
そう言って頭を下げて礼を言った。
元々、マナが講師に口説かれているという話は、俺1人では目が届かない話だ。
班長の責務を負いながら、オークの討伐、班員の指示。講師を相手に独りで全てこなすのは難しいと判断した。
当初セレナとマナの2人には、恋人の振り以外にも、班のメンバーには全て話して、さりげなく距離を取って話しかけられないようにするという提案をしていた。だがマナとセレナが話を広める事を良しとしなかったために俺個人で対応することになった。
引き受けたのはいい、だがそれは難しい。
俺は独断で勝手に協力を頼んだ。
話した相手はアベニル、ギュソンの兄妹2人と恋人になった呪い娘チカチーノ。
そして目の前にいるナードだ。
まずせっかく彼女になったチカチーノに誤解をされたくないという気持ちが強く、先に話をしておいた。その上で了解をもらっている。
彼氏が他の女を庇うなんて面白く無いだろうに、快く了承し、手伝うとまで言って気を遣ってくれた彼女はとてもよい子だ。その流れで一緒にいたアベニルにも話した。
ギュソンとナードにも話したのは、そのアベニルに薦められたからだ。
曰く、理由が分かっていないと男は変な風に感じ取り、場を壊す動きしかねないという話だ。特にギュソンを心配していた。
兄貴はいつも信用が無い。 だが俺も同感だったのでお願いした。
4人には念入りに口止めをし、決して表には出ず、俺と同調する動作をお願いしてあった。
あくまでも俺が動く。それに対し、4人が動くという流れだ。
講師がマナを口説きに来る、まず話しかけた時点で俺が邪魔をし、マナの盾になった。
次に盾になっている俺にギュソンとナードが話かけ、講師の話を退けた。盾が増え、分断する。
その間にアベニルとチカチーノがマナに声を掛けて、移動させ少し距離を取らせた。
単純だが効果はあった。
セレナは困惑しながらもそれに乗り、ジスナは空気を読んで追従した。
クィレアは全く気づかずも男どもと共に俺に話しかけて、自然と壁の1枚となっていた。
幽木女も薄々気づいていただろう、邪魔にならないように上手く振る舞っていたと思う。
俺が消えるまでは上手く行っていた。
今思えばその流れが講師が俺を排除する動きを加速させる要因になったのだろう。
大元である俺の援護を頼んでいた班員は俺が消えると上手く動けなくなった。
俺が消えた後、その流れでセレナたちがそのまま班員を頼れば別だったかもしれない。
だがセレナが頼ったのはユリウスだった。
これが悪手だったのだろう。
ユリウスがマナを庇う、それがユリウスの班のメンバーの癇に障わった。
他班のメンバーがユリウスを頼って来る、それを面白いと感じる訳が無いだろう。
自然とユリウスがマナたちを庇う妨害を始めたらしい。
それでもマナは1人で頑張って拒否していたらしい。それを見て12班のメンバーも皆フォローに入る。
特にアベニルが頑張ってくれたらしい。
その結果、講師は力尽くという手段を取ったのだろう。
という話を改めてこの時聞いた。
「なるほど、よく分かったよ。
クソ講師どもは切り刻んである。教官が飛んできて殺す前に止められちゃったけどな。
ナードも殴りたかっただろうけど、俺が代表してやったって事で納得してくれ。」
「ああ・・・それは構わない。
懲罰、はやっぱりその事なのか?」
「表向きは独断での単独行動って事になってるけどな。
講師に手を出したのがマズかったらしい。かなり言われたわ。
口止めもされたけどな、まぁ当事者にはいいだろう、他には言うなよな。」
「ああ、了解した。」
俺の二度にわたる単独行動は問題になっていない。
1度目は講師に騙されたから。
2度目は班の仲間を救うためだ。
情状酌量の余地があったらしく、とりたて騒がれなかった。
問題は講習生の俺が講師を死刑にしたことだろう。
魔法課の教官はもとより、一部武術課の教官にもだいぶ問題視されたらしい。
俺は〝聖剣〟を使って講師達を嬲り殺そうとしていたところを師匠を始めとする教官たちに取り押さえられている。
〝大地探索〟の魔法を使い位置を特定し、即座に飛び出した。
どこかの建物に隠れてマナを襲おうとした連中の、事に及ぶ直前、マナが殴られ蹴られ無理矢理裸に剥かれた所に、建物の壁を〝聖剣〟で切り落として飛び込んだ。タイミング的にベストだった。
そして怒りのまま即座に切り落としてやった。ナニを。
実際はこれがマズかった。壁を切り落として飛び込んだばかりに教官たちに現場の位置を悟られてしまったのだ。
これ幸いと裸のマナを抱きしめて〝聖剣〟を操作していたことも悪手だった。
俺が飛び出した報を受けた教官たちが、殺さず生かさずじっくりいたぶっているところへと駆けつけてきた。有無を言わさずにマナごと俺を取り押さえたのだ。
マナを抱えているために抵抗することも逃げることも出来ず、講師を殺す事も出来なかった。そのまま取り押さえられた。この時に抵抗していたならばセレナは助けられなかった可能性が高い。
セレナを助けたのはその後だ。
状況説明に時間が掛かり、もう少し遅れたら危なかった。
ただし、教官たちが駆けつけた事でマナが襲われかけていた事は伝わっているし、セレナの怪我の状況も見ている。
武術課の教官たちは最終的には意義を取り下げてくれ、独房で一日の刑で済んでいる。
魔法課はそれでもまだ色々言ったようだが、ギルド本部の一喝で黙ったと聞いた。
俺がギルド本部と裏取引をした結果だ、ザマーミロ。
「魔法課の講師は次回から本部が選考するって話になってるらしい。」
「ほぅ。」
「魔法課の教課長 と 魔法課の老教官はあの3人を選考した責任で減給だってよ。」
「・・・温い処分だな。」
「だな、でもよ、話によるとそれで魔法課に在籍してる奴、魔法課の老教官弟子って講師が養えなくて失職するんだって。
逆恨みされないように気をつけろって言われたわ。」
「いいのか?」
「問題無い、講習が終わればもう講習生じゃない。
相手も講師じゃ無いからな。冒険者同士の喧嘩で済むさ。」
俺がそう言うと、ナードは愉快そうに笑った。
するとナードは真面目な顔を作り俺へと向き直る。
「で、だ。イゾウ、いやイゾウさん。
真面目に聞きたいことがある。」
「なんだよ止めろよナード、改まって。
俺たちはなんだかんだ一緒に戦った仲間だ、いわば戦友だろ?
名前なんて呼び捨てでいいじゃねーか。
呼び捨てで、そしたら何でも答えるよ。・・・あぁ、口止めされてない範囲でな。」
「ああ、わかった。・・・イゾウ、聞きたい事がある。」
「何だ?」
「イゾウは勇者に成るのか?今後どうするのか?それを教えてほしい。」
「今後・・・ね。南門の防衛時に少し話してたと思うけど・・・
もし俺が勇者を目指す、そう言ったら?」
俺は少し斜に構えて言った。
「・・・力になりたい。俺を部下にして欲しい、そう言うつもりだ。」
ナードは力強い目を俺に向けた。
「そうか・・・せっかくの申し出だが他を当たってくれ。俺は勇者を目指していない。
知らん奴のための人助けなんて御免だし、勇者に成って、貴族やなんぞから餌をもらう、そんな生き方もまっぴらだ。
折角強く生まれたのに、金魚鉢の中で餌を奪い合って生きてても面白く無ねぇだろ。
金魚鉢の外に出て貴族が食ってる飯が食いてぇよ。
暴力、金、女、そして美味い飯に美味い酒。強い武器にすげぇ魔道具。
俺が欲しいのは普通の男となんら変わんない、だがもっと欲張ってる。そんなとこだ。」
「そうか、ではどうするんだ?」
「どうもしないさ。強さを求めて、金を求める。
必要であれば頭も下げるし、後が無ければ靴でも舐めるさ。
でも腹の中では笑ってやる。笑って見下して、後で殺してやるさ、利子利息たっぷりつけてな。
そうやって・・・考えて生きる。
嫌なことも耐えるし、我慢もするさ。苦労や困難なら乗り越られるよう力をつける。
南門の防衛任務の時に言ったけど、しばらくは本部で講習を受けるつもりだ。
将来的には〝商会〟を作って荒稼ぎ、かな。
それまでは稼ぐ方法を探るために色々見ておきたい。」
「そうか・・・」
「あぁ、冒険者の講習を一緒に受けているお前にこんなこと言うのはどうかと思う。
だが本音で頭を下げてきたお前にだから・・・本音で言うぞ。
冒険者で稼げる金なんて知れてるだろ?どう考えても冒険者より、商人のほうが金持ちの比率が高い。
どこの世界も稼げているのは一部だろ。だが、その一部の割合が違う。
勇者もな、稼ぎより面倒とか苦労が多そうだ。」
ナードは少し考えこんだ。
「ま、ここまで言ったらはっきり言うか、ナードよ。
貴族に仕える勇者さまが貴族の、稼ぎを越えて稼げると思うか?
勇者さまがもらえるのは貴族のお財布と機嫌次第だぜ?」
「貴族に仕えればそうかもな・・・」
「そういうこと、それを世間は〝養殖勇者〟と呼ぶ。
格好悪くてな、そんな名前で呼ばれたら、呼んだ奴みんな殺しちまうわ、〝聖剣〟引っ張ってきてな。」
「そうか・・・お前らしいな。」
「くくくっそうか、そう思うか、まぁそう言うことだ。俺は勇者を目指さない。悪いな。」
「いや・・・それについては納得した。
であれば改めて、イゾウ、お前個人の下につきたいと思う。頼む。」
「・・・あれ!? お前ちゃんと話聞いてたのか?」
その後互いに腹を割って話しあった。
結果、いくつかの条件を出し、それを飲んでナードは俺の下についた。
友人関係では無い。
ナードは俺の共犯者となった。
☆★ ☆★
屋上から下を見れば建物の陰にナードが隠れている。
〝看破〟のスキルのある俺にはすぐ居場所のわかる拙い隠れ方だ。
まだ〝隠密〟には至らない。だが続けていればそのうち〝スキル〟を得るだろう。
近くの建物には同じように2人隠れている。
〝看破〟のスキルが有り、上から見ている俺にはよく見える。
彼らもナードと同じく勇者にならないという俺に個人的に下につくと言って来た男達だ。
ナードと同じく1つ条件を飲ませて認めた。
今はこうして唆した犯人捜しを手伝ってもらいながら結束を固めている。
もう少しして誰も来なければ今日はお開きにする予定だ。
4人で改めて少し飲もうと思う。
俺が1人で対処を考えたりしようと思ったのは、彼ら、そして彼らを含む今後俺の配下に対する気持ちの変化が大きい。
必要であれば使い捨てる。その覚悟が要る。
だが出来ればそんな真似はしたくないのが本音だろう。
この葛藤が大きい。
彼らを上位種に当てる訳にはいかないのだ。
死ぬ。
間違い無く死んでしまう。
なるべく最善の策を模索していきたい。
3人に出した条件は 講習終了後、どこかのパーティ、もしくはクランに入ること。俺とは別行動を取ることだ。
出来れば大きいところが良い、有力なところが良い。
将来、内側から食い殺すために今から仕込んでおく。
とまでは言わないが、多人数組織の経営、運営のノウハウを学んで、こちらに流して欲しいと頼んである。
もちろん人材でも構わない。組織の穴でも構わない。
いくつかのパーティを渡り歩いても問題無い。もっと大きな組織に移ってくれたら最善だろう。
組織内で出世してくれても全然問題無い。その頃抜けたいなんて言いだしたら、それまでのことを語って脅すだけだ。その頃には互いに腹も決まっているだろう。
俺はイゾウ、ちょっと本気で動いてみようと考え始めている、元異世界人だ。
感想ありがとうございます。
つい反応してネタバレしないために返信は控えていますが有り難く目を通しています。
励みになりますm(_ _)m
今週末は温度差にやられて体調不良なため
土日は法事が入っているため更新は難しいです。
申し訳ありませんが、宜しくお願いしますm(_ _)m




