独り酒 濁り酒
「そう・・・か。
やっぱ他に女を求める男は駄目か、一夫多妻が嫌なのか?」
この世界、男は死にやすいと聞いている。それは想像に容易い。
前世より危険が遥かに身近な存在な為、歳を取るほど男の比率が少なくなる。
一夫多妻は有る意味当然だと聞いている。
最もそれでも俺ほど極端に女を求めている者はいないだろうが。
「ううん、違うの、そこじゃ無いの。そんなのは当然だよ、イゾウが養えるなら何人奥さんを迎え入れようと文句を言う人はいない。 もっと・・・私の問題、なんだ。」
セレナは首を振って言った。
良かった、一夫多妻が気に入らず、例えば呪い娘がいることを問題にするようなら気持ちが一気に冷めるところだった。さすがにそれを言われてまではセレナを求めない。
だが、それならばまだ諦めるような時間じゃ無い。
「じゃーなんで?」
「だって、だって、釣り合わないじゃ無い!
聞いたよ、魔法、大魔道様に教わったんでしょ。ううん、別にずるいとかじゃなくてね、それって凄いんだよ!教わりたいって人一杯いるの。でもね、普通は教えてもらえないの。でもイゾウにとって何でも無いことで・・・
大魔道様だけじゃない、教官長だってそう、弟子になれないの。弟子にしてもらえないんだよ!
聖剣をイゾウが使ってるって聞いたとき、みんな驚いてた。でも班のみんなは凄い喜んでて・・・
その中で私、多分私だけが、心臓を押さえられたように苦しかった・・・
ああ、完全に置いて行かれちゃったなぁって・・・
そんなこと考えてたら、マナが連れて行かれちゃて・・・
なんとか助けたかったんだけど、私には助けられなくて・・・」
セレナは苦しそうに胸を押さえながら言った。
セレナは背もデカいが胸もデカい、ついでに尻もでかい。そんな胸がセレナの手に押されて変形する。
それを見て(クィレアのがデカいけど、形はセレナのが綺麗そうだ)なんて事が思い浮かんだ。
俺の欲情はともかく、これには少し驚いた。
正直なところ、手放しに喜んでくれるとまでは思っていなかったが、そこが問題になるとは思っていなかった。
喜び、まではいかなくとも多少なりとも祝福の言葉が聞けると〝聖剣〟については思っていた。
実際にチカは勿論、クィレア、ジスナ、アベニルたち女性陣は我が事のように喜んでくれた。
幽木女ですら驚いていたが、嫌みなどは言わずただ感嘆の声をあげていた。
マナも特に悪くは思っていないと思う。助けたとき、素直に腕の中で収まった。
襲われた恐怖もあるだろうが、セレナを助けるときまで、セレナの前に辿り着くまで抱きついて離れなかった。
おそらく〝聖剣〟に関してはビアンカが少し噛みついてくるかも、くらいにしか考えていなかった。
それでも嫉妬だろう、可愛いもんだ。
「釣り合い・・・ってなんだよ。
魔法が使えようが、聖剣が使えようが俺は俺だよ、前にも言った。変わらない。
・・・それに聖剣は教官長に返した。
緊急時だから俺でも使えたけど、今後俺がアレを使うには国に認められる必要がある。
だから俺に聖剣はもうついてこない。」
「うん、聞いた。でもね、それでもイゾウはいずれ勇者に成るだろうって。
そのとき私が・・・足を引っ張りたくないの。」
「んー? 意味がわかんないよ。今まで何度も先の話はしたじゃん。
俺は勇者に成りたいなんて言ったこと無いはずだ。」
「でもね、イゾウはね、今1番講習生の中で勇者に近いんだって・・・
聖剣を使える人、限られた存在、凄い人なんだって、
ユリウスさんとか、他の人よりも先にいるんだって、
だから私じゃ駄目、今のままじゃ駄目、ちゃんと、考えて・・・
ちゃんとした勇者になって・・・」
「・・・・・・・・」
セレナは泣きながら考えていることを伝えてくれた。
俺はそれが意味が分からず頭に入ってこない。
講習開始の前からセレナとは親しかった。それこそ何度も先の話をした。だからもう少し分かってくれていると考えていた。
〝聖剣〟を使っただけでこんなにも俺に対する見方が変わるものなのかと困惑する。
話が通じていない。
この感じに覚えがある。そして1人名前が出てきたな。
「・・・勇者ねぇ・・・
勇者を目指す?か・・・ 俺が?
それはひょっとしてユリウスが目指しているような奴か?
目に映る全て、それを守るような勇者、ってことでいいのか?」
セレナは俺の言葉に頷く。目に溜まった涙を拭って少し笑う。
その姿に苛つきを覚えた。
「・・・知ってるだろ、俺は勇者を目指していない。今まで何度も話したよ。それは今も変わらない。変わっていない。
例え勇者になったとしても、目に映るもの全てを守る勇者なんて俺には無理だ。」
「そうかもしれないけど、そうじゃない。そうゆう気持ちで、」
「くくくっ あぁ、そうか! そうゆうことかよ!
なるほど、もういいよセレナ。ご高説はもう結構、聞きたくない、止めてくれ。」
「・・・そう、ごめんね、また・・・怒らせちゃったかな?そんなつもりじゃ無かったんだけど・・・
最近、上手く話せなくなっちゃったね。」
「あぁ、とても残念だ。俺の声、もうお前には届かなくなったんだな、よく分かった。」
「えっ!?」
セレナが驚いた顔をした。まさかと思ったが自覚が無いようだ。
だが俺には心当たりがある。
思いっきり胸くそ悪い心当たりが。
「全く、誰に吹き込まれたんだか、その思考。
ユリウスか、と思ったが、多分違うだろうな。あいつには俺の声が届くんだ、まだ話が通じる。
あいつはあいつの理想を俺に押しつけたりはしない、代わりに俺の理想を否定しない、だからそれは絶対に無い。俺たちは対等だ。互いの思いに協力はするつもりだが同じ事をしろとは言わない。
いや・・・違うな、同じ事をする、そんな時も来るだろうよ。でもその範囲で互いに好きにやれる。
セレナ、お前の言い分はユリウスの理想を俺になぞらせようとしてるだけだな。
ユリウスこそ最高、ユリウスこそ究極、ユリウスこそ至高、ユリウスさまユリウスさまユリウスさま
くだらねぇな、反吐が出るわ。
じゃー誰だ? 誰にそんなくだらない考えを吹き込まれた?」
「えっと、何の話?私は」
「もぅいいよセレナ、自覚が無いのはわかった。
今のお前、俺の嫌いなユリウスにまとわりついてる女どもと根っこが同じになってる。1班の女どもと同じだ、まさか自分の班にもそんな奴が混じってると思わなかった、油断していたわ。
何を言っても通じない、俺の話を聞かない、ユリウスこそ最高、他が間違ってる。そんな感じだな。
俺が否定しても、今何を言っても聞き入れられないんだろ?
前は違ったのに。いつからそんな洗脳されたみたいになっちゃったのか。
お互い変わったのかと思ってた。だから話が噛み合わなくなってきた、そう思ってた。
でも違うな。セレナが変わった、変わってたんだ。
俺がお前に振られたのは分かったよ。
でも普通は振られた相手に勇者を目指せなんては話言わない。
それはなんだ?勇者になったら考えが変わるのか?
アホらしい、目指してどうするんだか、誰に、どうして、そんな話を吹き込まれた?」
まぁ大体、想像はつく。
不思議なことに俺に勇者に成って欲しいと思ってる奴がいる。
具体的に言えば勇者に成って、勇者を目指すユリウスとは組んで欲しくない奴だ。
仮に聖剣を持った俺がユリウスとパーティを組む、世間はどっちを上に見るか、だ。
やってみなければ分からない。そう、分からなくなるんだ。
それは困る奴がいるんだろう。
限られる。
「悪いな、帰ってくれ。元々1人になりたくてここに来た。
1人にして欲しい。」
セレナとは噛み合わなくなった。
少し前からだ。
何故か?
セレナがユリウスと話すようになったからだ。
おかげで俺とはズレが生じてきた。
ユリウスに影響を受けたから。有りえる。
だが違うと思う。
ユリウスと話すようになったからと言って、ユリウスだけと話す訳じゃ無い。
むしろユリウスが1人の女と長々会話が出来るとは思わない。絶対に邪魔が入る。
ユリウスと話しをするようになったセレナに、余計なことを吹き込んだ奴がいるわけだ。
「ん・・・でもさ・・・」
そう言い淀んだセレナの視線はテーブルとして使った木箱に置かれた盃を見ている。
盃は3個ある。それが言いたいのだろう。
「俺がどこで何していようと説明する義理はないはずだ。」
盃が3つある。それを責めるような目でセレナは見た。
だが責められるいわれは無い。 間違いだがビアンカメアリーあたりと飲むことでも想像したのだろう。
お前には関係無い、強めに切って捨てた。
「お前は断った、もうそれでいいだろ?
長々無駄な会話したくない。俺はお前に振られた。それでいい、戻れよ。」
かなり冷たい声で言う。
それを聞いてセレナの目からはさらに大粒の涙が零れる。
そして泣きじゃくった。
お前が俺を振ったのだ、俺が振ったわけじゃない。なのになんて面倒な反応だ。意味がわからない。
普通ならば泣きたいのはこちらだろう。
「ごめん、そうじゃない、違うの・・・
あのね、私ね・・・目が覚めてマナから話を聞くまで、ユリウスさんだと思ってたの。」
「ふぅん・・・」
まだ話が続くのかよ、そううんざりしながらも頷き返してしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私ユリウスさんだと思ったの、だから私にイゾウと付き合う資格なんてないんだって。
助けてくれたの、イゾウだなんて・・・思いもしなかった。
目が覚めて、魔法を撃たれて、焼けたはずの体が治療されてて・・・
夢かと思ったけど、治ってないところがあって、髪の毛が焼けて無くなっていた。
それで夢じゃ無いことに気づいた。
何故か・・・それをしてくれたのはユリウスさんだって・・・ずっと思い込んでた。
マナから聞くまでね、ずっとなの・・・・
イゾウが大魔道様に作ってもらった水を、あの水を・・・全部使いきったって
全部蒸発して、消えちゃうくらいあの水に無理矢理魔力を注いで、必死で助けてくれたんだって
魔力が凄いイゾウが、それでも倒れて意識を失うまで魔力を使って、大事な水を失ってまでして助けてくれたんだって、そう聞いて、聞かされて
そこで初めて助けてくれたのがユリウスさんじゃないって気づいたの。
違うよね、聞いても信じられなくて・・・
ごめんね、見損なうよね。私にそんな資格ないの。
目が覚めて、すぐに治療院の人にイゾウが懲罰房に入ってるから、後でちゃんとお礼を言うようにって言われたの、なのにそれを聞いて思ったのは、「あぁまたなんかやったんだな、イゾウらしい。」そんな風にしか思わなかった。
イゾウにね、お礼を言えって言われたのに、それでも助けてくれたのはユリウスさんだって・・・
思ってたの・・・
でも違うんだって・・・マナに聞くまで・・・私、わたし・・・」
「・・・・・ もう、いいよ、俺が勝手にやったことだ」
出来れば聞きたくない話だった。
それならどう好意的に取っても、俺に芽は無いだろう。
「駄目だよ、良くない。
イゾウが私達を助けるために単独行動して、そのせいで罰を受けたんだって。
マナを助けてくれたのも、私を治してくれたのもイゾウだって。なのに、なのに。」
「悪いけど・・・もう、それを聞いてもどうにもなんないよ。」
セレナを置いて俺は盃を置いた台に戻る。
そして盃に酒を注いだ。
最初は懺悔かと思った。
どうもそうじゃない。俺にユリウスのところへと好意的に送り出すように言って欲しいだけに聞こえる。
穿った俺の性格では、この話はそうとしか聞こえない。
ふざけんな、絶対そんな言葉言ってやらない。
「イゾウ・・・ごめん・・・」
酒に向き直った俺を追ってセレナが近づいてくる。
俺の前の位置に移動していく。
だがこの酒を飲ませる訳にも行かないし、何より一緒に飲みたくない。
「もういいよ、諦めた。だから話、止めてくれ。
悪いけど俺は、もう少しここで飲んでいくから、先に戻ってくれ。
ここに有る酒は・・・、俺と殺し合ったオークの分なんだ。お前に飲ませる分は無い。席も無いんだ。」
「オークの・・・分?」
「ああ、聞いて無いのか? 俺、上位種、倒せなかったんだよ。代わりに勇者のパーティが追っかけた。
んだけどな、逃げられたんだって・・・
今日それを伝えに来てくれたよ。」
「そう、なんだ・・・それで、オークの分なの_?」
「別に、俺がどうしようと自由だろ。
ただ・・・相手の気持ちになって考えてるだけだよ、対策を。」
「対策?」
「ああ、まず間違い無く、恨まれているだろうからな。また、来るだろうさ、殺しにな。
だから次は確実に殺すんだ。しつこい男は嫌いだ、それ以上にしつこい豚も嫌いだ。
その手段を相手の気持ちになって考えているだけだ。邪魔、しないでくれよ。」
「そっか・・・勇者様もイゾウの所へくるんだ、ね・・・」
「まだ何かあるの?言いたいこと有るなら言っていけばいいよ、ここまで来たら、聞く。」
「・・・うん、イゾウは、大事な者だけを守る人だって。周囲にいる人を守れるけど、興味無い者を足蹴にするだろうって。幸せになれるのはイゾウ1人だって。
ユリウスさんなら近くにいる人をみんな守ってくれるって。みんな幸せになれるって。」
「ふ~ん、斬新な解釈だね。誰に吹き込まれたんだか・・・
俺には守り疲れ、傷つき倒れたたユリウスが死んで、守られてただけの人たちが悪い狼に食い殺される未来しか見えないけどな。」
「酷い、そんなんじゃ」「はいはい、いいから続き続き。」
「・・・守られているうちはいいって。
でも守ってもらえない人には恨まれるの、その恨みはイゾウには向かない。そんな人たちはイゾウには勝てないから、そうすると憎しみは守られている対象に向かうって・・・
私が側にいればイゾウは私を守ってくれる。そんな資格、私にはないのにね。
きっと一緒にマナも守ってくれる。また助けてくれる。 でもイゾウはそれだけだって。
ユリウスさんなら、側にいるだけで助けてくれる。一緒にいる必要は無いって。
そこに特別扱いは無いって」
「・・・」
涙ながらに語るセレナの言葉に返事は返さなかった。
安い正義だな、と思う。
そんな事が出来る存在を俺は知らない。漫画、ゲーム、映画、小説、ドラマ。
創作の中ででも俺の記憶の中に、それが出来る奴はいなかったよ。
身体が1つしかない人間には、無理な話だ。
セレナのことはもういい。何を言っても俺が言っても伝わらないだろう。
問題なのは吹き込んだ奴がいる事だ。
セレナはユリウスに惚れている、そう思ったが今聞いて少し考えが変わった。
多分、ユリウスなら何が有っても必ず助けてくれる、と思い込まされている。
好きだった女、なのにその思考が凄く気持ち悪い。
身体張って、助けたのは俺だ。
比較するのも何だし、自分で言うのも微妙な話だが、ユリウスじゃ間に合わなかった。
〝大地探索〟が使える俺だから、ギリギリ間に合った。
マナは犯され、セレナは助からなかった可能性が高い。そんな目に合わせたくないがために飛び出したのだ。
だがそれでも、セレナのことをユリウスが助けてくれるらしい。
もう何と言っていいのか分からない。
その後は何も返事を返さなかった。
静かに盃を口に運び、頭の中で考えた。
しばらくして沈黙に耐えられなくなったセレナが言う。
「ごめん、帰るね。でも・・・イゾウにはちゃんと考えて欲しい。
みんなイゾウに、期待してるんだよ」
最後まで、的外れな言葉だった。
がっかりだ。だが1つ俺もセレナに用がある。
大事な話だ。
「ああ、最後に、1つ頼みがあるんだけど」
戻ろうとするセレナの背中に声を掛けた。
「うん、何かな? 私に出来ることなら。」
「ああ、マナを襲った講師、奴らに場所を提供した奴がいるんだ。
奴らは唆された、そう言ってたが・・・まぁそこは考えずらい。
そこまでは・・・考えなくていいと思ってる。
だがもし、何か耳に入ったら教えてほしい。」
「えっ!? どうゆうこと!?」
「そのまんま、だよ。部屋を提供した上で、マナを攫って逃げろって講師に言った奴がいるんだ」
「ほんとに?」
「ああ、聞き出す前に加減間違えて喋れなくしちまったから聞けなかったけどね。」
「その・・・助かりたくて、いい加減な事言ったとかは・・・」
「その可能性もあるね。
だけど両手両足、それに男性器まで切り落としてやったのに、そこで嘘を言うとも思えなくてな・・・
引っかかってる。」
「両手両足!! にだ・・・ん」
そこまで言うとセレナの顔は赤くなった。
羞恥心は残っているようだ。まだ誰かに手はつけられていないか?
「くくくっ、分かったろ?
俺が懲罰房に入ってたなんてのは自業自得なんだよ、別に後悔も反省もしてないけどさ。
だからそっちもそんなに気に病まなくても良いよ。
でもなんか分かったら教えてくれ。もし、手引きをした奴がいたのなら・・・
俺はそいつを許さない。」
それだけを言って返事も待たず、振り返り手をひらひらと振った。
そしてまた酒を口に運んだ。
さっきまで飲んでいた酒だ。
なのに今は少し苦い。
どっちも冷静じゃないって事で・・・




