また別の兄弟愛
〝聖剣〟を装備したイゾウは優位に戦闘を進めていた。
オークグラジエーターの大剣を防ぐことに集中することが出来るため。
そして〝聖剣〟の攻撃がオークグラジエーターに通るためだ。
イゾウの〝魔剣グラム〟の斬撃でもオークグラジエーターを傷つけることは出来たが、8枚の〝聖刃〟による攻撃の威力はそれを遥かに上回った。
剣術のスキルが低いために超重量の〝魔剣グラム〟を活かせていなかった。
その為に先の戦いでは決定打に欠け、倒せなかった。
だが今は、聖剣を手にしたことで決定打を得ている。
剣術スキルが低くとも〝聖剣〟の攻撃は鋭く強い。
攻撃が大きく通る。
オークグラジエーターは8枚の〝聖刃〟に対応出来ず、鎧は原型がわからないほど崩れ剥がれ落ち、四肢も血に塗れ傷だらけになっていった。
オークグラジエーターの振るう大剣はイゾウの両手の剣によって阻まれる。
傷つき疲弊し動きは鈍くなる。 劣勢に廻り、オークグラジエーターはイゾウに魔法を使う〝間〟を許すようになってしまう。
8枚の〝聖刃〟
〝魔剣グラム〟と〝聖剣〟本体での防御
水の回復魔法 と 氷の攻撃魔法
イゾウの優位はだれが見ても明らかだった。
「聖剣に大剣、さらに魔法。魔法剣士タイプかいいねぇ~」
眺めている冒険者の1人が言う。
それを皮切りに思うがまま冒険者たちが話し出している。
「あの魔法、水魔法か?それにしちゃ威力があるな。
聖刃ほどじゃないが上位種に効いてるだろ。」
「水、じゃなくて氷っぽいな。だとしたら結構レアだ。」
「元勇者さまの弟子で、サイモン教官の弟子でもあるんだってよ、それで二刀流か」
「いや、あれは二刀流にしては拙い。剣術だけなら大したこと無いんじゃないか?」
「なんだ嫉妬か?講習なんて一月くらいだろ?これからだよ、これから。
まだまだ若いじゃねーか。
はっ、そういやお前、元勇者さまに弟子入り断られてたっけか?」
「ちっ、うるせーな。」
「なんにせよあの聖剣、使えるだけでヤバいな。
あんなガキでも上位種を余裕で圧倒してやがる。」
「ああ、聖剣をあのガキに貸与されたなら勇者さまがたも立場なくなるんじゃねーか。
貴族が放っておかないだろ?」
「貴族だけじゃねー、あちこちのパーティーからスカウトが来るだろ。
先輩冒険者として色々教えてやるって奴が出てくるんじゃないか?」
「バーカ、誰の弟子になると思ってるんだ。
下手に先輩面してみろ、もっと先輩冒険者だった師匠の方怒らせるぞ」
「それより大魔道だろ、俺は手出し無用のお達しなんて大魔道から受けたのは始めてだ。
貴族からはちょこちょこ聞くけどよ。
貴族ほどの権限は無いだろうけど、街を焼いた大魔道のお達しだぜ?破ったらどうなるか、考えただけで恐ろしいわ。」
「そういや白の大魔道に魔法を教わる条件をクリアーしたのも講習生だって話だな。」
イゾウの動きはまだ拙い。それでも戦えるイゾウを評価していた。
最初は。
評価が良いのは最初だけだった。
「拙いな・・・あれじゃ聖剣の持ち腐れだ。」
「ああ・・・〝剣術〟レベル2か3、いって4ってところだろ。上位種の剣を受けるだけで必死じゃねーか。」
「ちっなんであんなしょぼいガキが聖剣に選ばれるんだっての。」
「聖剣に選ばれたつーのにダッセー奴だ。」
オークグラジエーター と イゾウ
両者の戦いがイゾウ優勢になればなるほど、イゾウへの評価が厳しくなった。
イゾウは聖剣を使える選ばれた者だ。
だが、扱えていない。
嫉妬が侮蔑を呼び、嘲笑へと変わっていく。
オークグラジエーターが片膝をついた頃には、イゾウへの評価は
「たまたま聖剣に選ばれただけのガキ」へと変わった。
全てはイゾウの隠れスキルの影響だ。
声の大きい者の声が通る。
それは前世でも異世界でも変わらなかった。
そこにいた強い者、だが聖剣には認められなかった者が言う悪意有る言葉が大きく目立ち、それまで悪く見えていなかった者の思考にまで影響が出る。
それはイゾウと接点が無い者ほど強く影響がでていた。
そして均衡は破られていく。
勇者の上、寄親の貴族に確認に出ていた者たちが戻った。
「ふー、すまんなもう一回言ってくれ。」
「良く聞こえなかった」と1人目の勇者アーネストが、そう聞き返す。
「はっ、オークの上位種、最後の一頭、討ち取れとの命令です。」
「白と黒、2人の大魔道と敵対することになるんだぞ?」
「はっ、構わぬとの仰せです。」
「こっちは構うんだよ、くそっ好き勝手言いやがって・・・」
勇者アーネストは大魔道と敵対したくない。
だがその寄親は敵対してでも上位種を倒せと言って来たのだ。
そこへ2人目の勇者ピーターと、その仲間たちが顔を出す。
彼が送り出した使者も戻ったのだろう。
互いに顔を見合わせてため息をつく。
頭を抱える命令だ、だが2人はその命令に従うしか無い。
「突撃する、準備しろ。」
「上の大魔道に気づかれないようにな。」
勇者の動き、それを空から見る大魔道が気づかないはずがなかった。
白の大魔道シルヴィアは勇者に憤る。
そして〝聖剣〟を得たイゾウを見て興奮した黒の大魔道リアマリアもまた戦闘態勢に入る。
勇者が幸運だったのは、勇者より先に手を出した一団が現れたことだろう。
勇者が準備に動き、冒険者にもその動きが伝わる。
だが彼らが手を出すことは出来なかった。
膝をつき、満身創痍のオークグラジエーター。
イゾウが止めとばかりに斬りかかった。
右手の〝魔剣グラム〟 左手の〝聖剣本体〟 そして8つの〝聖刃〟
全ての刃を向けて斬りかかる。
イゾウが全ての剣を攻撃に転じるのは〝聖剣〟を手にして初の事だ。
それまで丁寧に剣を受け、捌き、〝聖刃〟に任せ削っていた。
その全てを攻撃に転じ、込める。
「GYOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
そこへ飛び込んできたのは〝咆哮〟だった。
まだ若い〝咆哮〟
オークグラジエーターの〝咆哮〟よりも少し威力は落ちるだろう。
だが、斬りかかり全く警戒していなかったイゾウに、その若い〝咆哮〟は突き刺さった。
「ぐっ、はぁっ」
一瞬だが全身が硬直し、動きが止まる。
「くそっ油断した・・・ちっ、やっぱり来たか・・・ 〝ヒース〟!」
イゾウの視線の先、オークグラジエーターの向こう側。
自分の後ろ側に布陣し、眺める観客の反対側に、それと向かい合うように到着していた。
そこには3メータを越えるオークが一頭、こちらを見ていた。
血塗れで、傷だらけで、なのに別れたときよりも遥かに巨大に成長している元ハイオーク。
イゾウの練習相手として捕まえたハイオークが進化した姿で、そこに立っていた。
イゾウは直感でそれが〝ヒース〟と名付けたハイオークの進化した姿だと感じ取る。
「はっ、やっぱり進化してやがったか!」
同じく進化したであろう傷だらけの特殊個体の3メートルを少し切るサイズのオークを2頭従え、さらにその背後にはオークの集団がいた。
どのオークも傷だらけ。
何故か?
従えたからであろう、ここに連れてくる為に、力尽くで。
「くくくっ、なんだおまえ、従えてきたのか・・・1人で彷徨ってたのにな。
くっくっく、はっはっは、やっぱりおまえ・・・俺に似てるな。
俺と似たような事してやがる。」
だがその集団は襲ってこない。
身構えるイゾウの前に来たのはヒースと名付けたオーク一頭だった。
手には2本の装飾された剣を持ち、俺とオークグラジエーターの間に立った。
「ニンゲ・・・イゾウ」
「おお、言葉、覚えたのか?」
「スコシダ」
ヒースはコクリと頷く。
そして持っていた剣を1本投げ渡して来た。
「なにこれ?」
「ヤル、・・・カワリニ・・・」
そう言ってオークグラジエーターを見る。
「見逃せってか_?」
「アニジャ」
「あにじゃ、兄じゃ、兄者、ああ、兄弟なのか、ふーん。」
イゾウは少し考えた。
そして「いいよ。」と答える。
★☆★☆ ★☆★☆
【 イゾウ視点 】
短い打ち合わせが終わる。
短いのは内容が薄いからでは無い。
言葉が拙いからだ。
だが、今はまだ、だろう。
あいつらはそのうち、饒舌にしゃべり出す、そんな気がする。
そして俺とヒースは剣を交えた。
受け取った剣と残した剣、互いに抜いて打ち付け合った。
剣を合わせると同時にヒースが吠える。
それを合図にオークの集団が、人族へと一斉に向かう。
俺の後方からも男たちのむさ苦しい声が上がった。
少し前から戦闘準備をしていたのだろう、見ているだけの雰囲気では無くなっている事は気づいていた。
これは賭けだったが上手く大規模戦闘への流れになった。
俺とヒースは顔を見合わせてニヤリと笑う。
ヒースが俺に求めたのは、彼の兄 オークグラジエーターの命。
俺がヒースに求めたのは場の混乱。
俺は彼らを見逃す代わりに、自分がここから離れる機会を求めた。
ヒースはそれを了承する。
オークが人族へと突撃し、人族もオークへと突撃する。
両者が動き出した時点で互いに退いた。
ヒースは反転し、オークグラジエーターに肩を貸して走る。
共に行くのはヒースと同じく進化した上位種オークたち。
憎々しげな眼で俺を睨みながらもオークグラジエーターとヒースへと続いた。
彼ら二頭が殿として戦いながら逃げるのだろう。
俺はヒースとオークグラジエーターの背中越しにバレないようにそっと『癒やしの水』を掛けた。
そして戦場から去る。
部下にした奴らの元へと走る。
つもりが回り込まれていた。
走り出す前に、気づけば囲まれていた。
「説明して欲しい、何故見逃がした!?
一体増えたくらいならその〝聖剣〟で止めをさせただろう?」
人族側の戦力、それもかなり強い奴らだ。
2パーティほどの人数が俺の後ろに迫っている。
「見逃がす!? そんなつもりは無かったけど? えーっと、どちらさま?」
ヒースといたときは止めていた〝聖刃〟を周回させる。
これ見よがしに警戒しているような動きを頼んだ。
「アーネスト、勇者アーネストだ。」
「おお、勇者さまですか、それは失礼しました。
右も左もわからない若輩者につき、多少の無礼は許して欲しい。
ですが見逃したのは俺じゃ無くて、向こうですよ。
単に俺はもう限界なんですよ、今から1人であの集団と戦う体力が残ってなかった。
退いていくならそれが良かった。」
「そうか、〝聖刃〟が急に動いている。
さっきは止まっていただろう、何故だ!?」
「ああ、これ? 制御出来ないんですよ。
正直なところ最初から自分の意志で動いていませんし。」
「なんだ、と・・・制御出来ていないのか・・・・」
「敵意を感じると攻撃してくれるって感じですね」
「我々はさっきのオークを追いにきた。君に敵意は持っていない。」
ああ、俺じゃなくてヒースとヒースの兄貴の所にまっすぐ向かって来たわけか。
良い迷惑だ、無視して向こうをそのまま追えっての。
俺に話しかけたおかげ時間を無駄にするというのに馬鹿な奴らだ。
もう少し引き延ばしてくれよう。
「勇者様は無いかもしれませんが、他の人があるのかもしれませんね。戻らないんで・・・」
俺は浮いた〝聖刃〟を見ながら軽く言う。
さきほどヒースと相対するときは〝聖剣〟には何も指示を出さなかった。
〝聖剣〟も特に何も言ってこない。だが囲まれたときに指示を求められた。
多分何か違いがあるのだろう。
今は威嚇するように周囲を周回させている。
オークには敵意が無かった。
でも勇者たちには敵意がある。だから動いてますよ、という静かなアピールだ。
「待て、私はピエール。勇者ピエールだ。私も君に敵意など無い。」
「そう言われてもな・・・勇者様になくても従者のかたが誰か内心では俺にムカついてるとかそんなとこじゃないですかね・・・人の心までは制御出来ないでしょうし。
あー、じゃこうしましょう。
俺も勇者様の邪魔する気はないのでこっちに移動します。
皆さんは逆側を少し離れて移動してもらうってのは?」
俺は左に邪魔にならないように移動する。
勇者の一団も左に舵を取って少し迂回して進めば〝聖刃〟を浮かした俺が邪魔にならない。
彼らが戦る気ならと思って身構えたが、彼らは本当に俺を捕まえる気はないようだ。
ほんの僅かだが、少しだけヒースに時間を稼いでやった。
それで良しとしてもらおう。
足を引っ張るくらいならともかく、俺を殺そうとしたオークの為に勇者と敵対する気にはならない。
勿論、殺気に反応するというのは全部嘘だ。
彼らの中に赤く見える人はいなかった。
彼らが、オーク > 罪人 ならば今無理に争う必要は無い。
ただし後ろから攻撃されるのは御免なので、〝聖刃〟の準備は怠らない。
「良いだろう。みんな、彼に近づかないように廻ってオークへ向かう。
イゾウくん、君は良くやった、戻って大人しくしているといい。
あの上位種の首は我らが持ち帰ろう。
大丈夫、できる限り口添えはする、約束しよう。」
「え、なんで俺の名前を!?」
「ギルドの教官、それと大魔道から聞いたよ。
よく頑張った。大したものだ。」
「あー、っと。それはどうも、ありがとうございます。」
「では、な。」
そう言って彼らは左回りに迂回してオークを追っていった。
口添えね。
多少の擁護はしてやるから逃げるなってことか、釘を刺されてしまったぞ。
だが知らん。
勇者の一団が全員俺を通り過ぎた後、向きを変え今度こそ第3地区東南エリアの路地裏へと向かう。
部下の元へ。
「待て、イゾウ。」
「師匠・・・・」
教官長、極道コンビ、そして若い教官がそこにいた。
腕を組んだまま呆れたようにこちらを見ている。
くそっ、次から次へと。
〝隠密〟のスキルか、全然気がつかなかった。
〝看破〟のスキルはそういえば今回全然成長しなかったな・・・
声をかけてきたのは教官長だ。
「どこへ向かおうというのだ? 戻っていろと言われたようだが?」
「あー・・・っと、自分が来たのは南門だったもので、つい。そちらへ戻ろうかと。」
「ふむ、嘘だな。知り合って一月ほどだがそれなりに濃い付き合いだ。
お前が嘘をついているときはなんとなくわかる。」
「いやいやそんなことないですよ・・・嘘なんてついてませんよ。」
そこに極道コンビも言葉を続ける。
「〝聖刃〟、制御出来ていないも嘘だろう。
勇者の一団、警戒していたのか?」
えー・・・そこまで見抜いちゃうの?。
正解、普通知らないおっさんに声を掛けられたら詐欺か宗教の勧誘を疑う、警戒して当然だろう。
「ガハハ、限界でもう戦えない、も嘘だな、大嘘だ。
お前ずいぶん余裕あるな? 何故、オークを見逃した? ちゃんと理由を聞かせてもらうぞ。」
ちっ、そこも見抜かれてるか。
それも正解だ。
予想だが〝聖剣〟、魔力体力への回復速度アップとかのアビリティが付いている。
持ってるだけ、装備してるだけで回復していくのを感じる。
魔力なんてもうほぼ全快だったりする。
「南門・・・も嘘だよね。何故僕らにも嘘をつく?
本当はどこへ行こうとしてたんだい。
まさか先回りでもしようとしてたのか?
それは止めた方がいい。勇者の戦闘への横やりは不敬罪が適用される事もある。」
若い教官エクルンドも声をかけてきた。
正解だけど、流石にそれは俺を分かってないと思うぞ?
勇者の手柄の横取りとかな、それはちょっとない。
ふぅ困った。
「師匠・・・見逃してもらえませんか?
出来れば弟子になった縁で、という訳には・・・」
俺は奴隷落ちなんてしたくない。
奴隷になるくらいなら犯罪者として裏町に籠もる。
絶対に御免だ。
「駄目だな、見逃す訳にはいかん」
「どうしてもですか?」
「ああ、逃がせば災いとなって戻ってくるだろう。今なら始末出来る。」
俺が後々復讐しに来るのも分かってるのか、大正解だ。
特にあの3人の講師だけは絶対に許さない。
そこまで読んでいて、俺を始末するつもりだったとは・・・
そこは味方してくれると思ってたのだが甘かったか。
ああ、出来の悪い弟子を自分たちでって話か。
ギルドにどうこうは考えていなかったんだけどな。
仕方無い
(「おい、12枚だ。師匠と同じだけ散らしてくれ。」)
「『 了 』」
師匠たちに勝てるとは思わない。
だが始末されるわけにはいかない。
せめてまだ有能で使える奴だと思わせれば、心変わりもあるかもしれない。
「おお、イゾウ・・・まさかそれは、儂と同じ・・・」
「師匠、俺は死にたくない、奴隷にも落ちたくない。
申し訳ないが、全力でお手向かいさせてもらいます。」
そう言って構え、師匠たちを見据える。
右手には〝魔剣グラム〟 左手には〝聖剣〟本体。
先の戦いと同じスタイルだ。
現状これが最善の戦闘スタイルだろう。
だが師匠たちは腕を組んだまま構えを取らない。
「・・・・何の話だ!?」
「・・・あれ!?」




