進化の秘宝
勇者に奥の手はないそうだ。
くそっ、特に手立ても持たないくせに回復だけ望みやがって。
一度負けて餌扱いされているくせに自己評価が高すぎる!
掛ける気が失せた。
〝悲しいときは身一つ、信じられるのは自分だけ〟
どこかの不死身忍者が言っていた。
他人を当てにするのは止めよう。
覚悟を決める。
死なない覚悟では無い。
出し惜しみをせず全力で突破する覚悟だ。
巻き込んでうっかり殺しちゃったら御免ね、の覚悟。
先ずは目の前のデカオークを全力で殺そう。
次に周囲の兵隊オークを蹴散らす。
最後に全部見てしまうであろう不幸な勇者、という名の役立たずを殺す。
勇者を殺す。
〝吹雪〟 は切り札にするつもりでいる。
部下になった者たちにも絶対に口にしないよう厳しく言ってある。
言ったら殺す、これも確定だ。
人目の無いところでしか使うつもりも無い。
代わりに人目が無ければガンガン使う。
自分と部下だけなら問題なく使う。
使わないと慣れない。
慣れないと使いこなせない。
多少は洩れるだろう。そこは仕方が無い。
だが勇者の口から広まったならば?
碌な未来が待っていない。
勇者よ、お前が悪いのだ、俺は悪くない。
決めた、この手順で行こう。
強い奴が必ず勝つとは限らない。
勝つのは諦めない奴のはずだ。
やり方はシンプルでいい、追っ手が追いつくまで時間が読めなかった。
長丁場になることを覚悟して、一定のペースを守って戦っていたが、それを気にせず、後先考えず本気で動く。
一度で良い、デカオークを下がらせてから、距離を取る。
距離があれば雑魚オークの中に逃げ込める。
デカオークの目的は俺だ。
俺が逃げたら追うだろう。
俺とデカオークの間に二匹、出来れば三匹オークを挟めれば魔法が発動する時間が稼げる。
雑魚オークの攻撃なら数発は耐えられる。
耐えられないのは両断される可能性の高いデカオークの大剣のみ。
デカオークの攻撃も二匹、間にオークを挟めば俺までは届かない。届いても僅かだ。
致命傷にはならない、と思う。
それで死ななければ 〝吹雪〟で一掃だ。
あとは〝吹雪〟を連打しながら、どこまで踏ん張れるか。
正確にはどこまで 癒やしの水 を挟んで〝吹雪〟連発できるか、だ。
少し長く息を吐き、覚悟を決めて構える。
デカオークも勝負どころと勘づいたようで、先ほどまで周囲へと振り撒いていただけの殺気が鋭くなり、俺に突き刺さるようになるのを感じる。
互いに構えたまま摺り足でじわじわとにじり寄る。
リーチは俺の方が短い。
長さを代償に俺の軌道は内輪を通る。
距離も短い。
懐に入り、内側から崩せば勝てる。
大きい動作の方が強いというのは思い込みだ。
最短を最速で行く方が強い。
恐れ、鈍らないように自分に必死で言い聞かせる。
雑魚オークならば一太刀で両断だ、だがデカオークは一撃では殺せない。
最小限で動き、連続で細かく繋いで斬って刻む。
俺の方が体躯が小さい以上距離を詰めない限り、攻撃は通らない。
デカオークが振りかぶった。
奴はあくまでも強く切りつけてくるようだ。
大剣が振り上げられた瞬間に全力で懐へ向かい前に出る。
こんなときは重さのある〝魔剣グラム〟が疎ましい。
何も持たないときよりもいくらか足が遅れる。
だが〝魔剣グラム〟でないと受けられない。
上から俺の身体と同じかそれ以上に大きい大剣が勢いを乗せて振ってくる。
ビビるな、ビビるな、自分にそう言い聞かせながら相手の剣の根元を、グラムの腹で受け止めた。
前に出る勢いは止められて失った。
だが距離は詰めた。
この距離は俺の距離だ。
俺のリーチと、〝魔剣グラム〟の生きる距離。
奴の4メーター近い体躯に繋がる両腕では持てあますであろう距離だ。
中に入れば回転の速い小さい俺が有利になる。
受け止めた奴の大剣を捌き、腕を畳んで〝魔剣グラム〟を振るう。
先ほどまでは慣れない巨人との戦いだ。
だがこの距離ならばでかい的でしか無い。
デカオークは連続で斬られ受けに廻る、だがこちらの攻勢は止まらない。
斬る
斬る
斬る
斬る
斬る
一撃では殺せない。
ではどうするか。
決まってる、先端からだ、手を斬る。
足を斬る。
特に足、腕もしっかりと。
後で影響するからな。
すぐに効果が無くとも、小さな差の積み重ねが後で効いてくる。
後のことは考えない。
今はとにかく斬る。
デカオークが下がるまで。
一度引かせれば、距離を取れる。
下がる前にこちらが下がれば、向こうに後ろからの攻撃の機会を与えることになってしまう。
俺はとにかく無心で剣を振った。
体感で数分間の連続斬り。
優位な位置をとっての斬り合い。
三合に二合は奴の身体を斬っただろう。
だがデカオークは一歩たりとも下がらず耐えきった。
耐えきられた。
そして俺の身体に全力行動の反動が来る。
殺し合いという非日常の緊張感からか、かなり早く動きが鈍る。
「くそっ!」
急に重くなった身体に鞭を入れて動く。
大丈夫、まだ動ける。
そう自分に言い聞かせたが、耐えきったデカオークの力を溜めた反撃を許してしまった。
耐えに耐え、溜めた反撃の強烈な一撃。
動きが鈍った俺を狙い澄ました一撃が襲う。
なんとか〝魔剣グラム〟で受けたが、受けた姿勢のまま後ろに大きく弾かれた。
詰めた距離が一瞬で開く。
両手両足、そして全身を斬りつけられ、血塗れになりながらも不適に笑っていた。
いや、笑っているように見えた。
「さぁ第2ラウンドだ」とか「次は俺の番だぜ!」などと言うセリフが似合うだろう、ワイルドな姿だ。
この状況で目の前のデカオークがそんなセリフを言ったら、面白すぎて友達になりたくなってしまうかもしれない。
残念ながらそんなユーモアさはオークにはない。
一瞬見惚れたがその顔はすぐに凶悪に歪み、俺の全身に嫌悪間が走る。
やっぱりオークはオークだ。
気合いを入れ直し備えると、
デカオークが何かに気づいた。
俺の後ろ
人だ。
人が居る。
いつの間にか路地の入口に人が居る。
「イゾウくん!」
おお、アンタは
一緒に東門から撤退した2人、そして彼らのクランのメンバー。
さらに喧嘩別れした兵士の顔もある。
何で此処に?
(主 ! 〝咆哮〟だ、主以外耐えられまい!)
考える間も無く、土精霊の子鬼もどきの声に反応し、前を見るとデカオークが大きく息を吸い込むところだった。
数が増えたから、行動阻害攻撃か、シンプルだが利にかなっているな。
「させるかぁ!」
つい熱血漢っぽい声をあげてデカオークへと斬りかかった。
デカオークは息を吸い込むのを中断し、大剣で受けた。
なるほど、お前の咆哮も俺の〝吹雪〟と同じで溜めがいるわけだ。
ちくしょう、それを知ってりゃ最初のときにも必死で防いだのに。
今度は打ちあわず、鍔迫り合いになる。
腕力では負けていたが、腕を随分と切り刻んでやった。
今なら勝てる。
そう思いじわじわ押し込んでいくと、デカオークが小さく吠えた。
それを合図に周囲のオークが路地裏へと突撃を開始する。
路地裏の入口を数人で塞ぎ、応戦するようだ。
入口を塞ぐのは良い考えだ、だがそれをやられると俺が逃げ込めない。
逃げ込むスペースが無い、酷い。
(部下にニンゲンを任せて、コヤツはあくまでも主を食べるつもりだ)
(この後に及んでまだ餌扱いすんのかよ)
俺は結構、情が移っている。
経験値的には残念だが、引いてくれるなら見逃しても良い程度には。
全力で戦ったら強敵と書いて〝とも〟で良いんじゃ無いかな。
こんな形ではなく、次は正々堂々戦おうぜ。
できれば誰も見学者のいないところでさ。
(それは無理だ、主、さっきニンゲンを食ったオークを見るがいい)
拮抗する鍔迫り合いの中、ちらりと横目で食われた人攫いを見る。
無様な最後だ、俺は絶対あんな風に死にたくない。
(ニンゲンじゃない、食べたオークを見るんだ)
(オーク・・・あ、なんだありゃ)
人攫いだった者を咀嚼しているオークの一部が変色していく。
緑色だったオークが鈍色を含んだ薄緑色へ。
(進化だ、人を食ったオークはハイオークになる。)
まずい、確認した人攫いは5人。
1人は路地裏で俺が殺した。
路地に突っ込んですぐの所で1人死んだ。コイツに噛みついてたオークは既に〝吹雪〟で一掃している。
残る3人の人攫い。
こいつらはセンタロートを少し進んだところで死んでいる。
結構な数のオークに食いつかれていた。
人攫いを食ったオークの半分くらいが変色し始めている。
(人を食ったオークの全てが進化するわけじゃないのか)
(その辺はよく分かっていない。だがオークとハイオークじゃ強さが違う。)
(くそっ、よく知ってるよ)
「気をつけろ!何匹か進化してる!ハイオークが混じるぞ!」
路地裏の入口で戦っている集団に声を掛ける。
何人かが返事をしたから大丈夫だろう。
(しかし、雑魚が俺に向かってこないのは何故だ。)
楽でいいいけどな。おかげで目の前のデカオークに集中出来る。
(そりゃ主を殺したオークが進化するからだ。目の前の上位種がそれを許さない。)
(どうゆう事だ、意味がわからん)
(主は魔力が多い。そして強い。主と戦えば魔物にも経験値が入る)
(なるほど、魔物にも経験値という概念があるのか)
(本能的にだろうがな。おそらく主を殺した魔物は進化する。
想像だが主の一部を食うだけでかなりの魔力を得るはずだ。
目の前の上位種はそれを狙っている。)
(俺を殺して更なる上位種か、笑えないな)
〝神の寝床〟 まさかそんな弊害があるとはな。
俺を含め、〝神の寝床〟を魔物に殺させるわけにいかなくなったじゃねーか。
(もしかして戦っただけで経験値入るのか? 一部食っただけで進化する? )
(逃がさなければ問題無い。 もしくは主が逃げるかだ。
だがこの上位種とは随分戦った、可能なら殺しておいた方がいい。)
マズいな。さっき練習に使ってたハイオーク、見逃した。
しかも名前までつけた。
奴の名前は〝ヒース〟 若い頃ベースを演ってた俺が憧れてたベーシストの名だ。
異世界っぽいのでつい名前をもらった。
よく考えたらオークに名前をつけるなんて怒られるかもしれん。
異世界だから堪忍して欲しい。
しかも最後の戦いでしぶとく粘られて噛みつかれ、少しだけど食いちぎられている。
腕の肉をほんの少しだったし、すぐ回復魔法で治したから気にしてなかったが。
(主、それは色々マズいんじゃないか・・・)
(あー・・・やっぱり?)
(間違い無く上位種に進化してる。)
元がハイオークだし、あいつもでかくなるのだろうか。
うん、俺にいたぶられて進化したら、当然俺を殺しに来るよな?
失敗したかも。




