奪還
走りながら聞いた堕落した土の小精霊の話では、
精霊として下位に位階する小精霊は魔法の才能や知識が多少あるが、自分では使えないらしい。
小精霊が魔法を使う方法、それが人間との従属関係。
従属した精霊の属性とレベルに応じて、魔法が使えるらしい。
対価として人間側の魔力を必要とする。
ただし色々制限がある。
これは後日詳しく聞くが、今聞いた話だと小精霊ではあまり強い魔法は使えないと考えておけば問題無いと。
今は強い魔法が必要なタイミングだったんだけどね。
ま、居場所がわかっただけでも有り難い。
追従する間は周りを見てもらい、使えそうな魔法があれば教えてくれるように頼んだ。
使役する人間側の属性の向き不向きは問われず、精霊の属する属性の魔法の一部のみが使えるらしい。
小精霊は基本的に自我が弱いらしく、〝精霊眼〟を持つ者に勝手に引き寄せられてくるらしい。
それで俺を見つけた、と。
下位のあまり強くない精霊は好んで人間に従属することも多いらしい。
ピクシーみたい奴はバリバリ自我あったように見えるけど。
聞くと話が長くなりそうだから後日だ。
何しろ俺は走りながら聞いているのだ。
奴らは浮いているからいいが、俺は走りながら、さらに飛んだり跳ねたりしているので聞くだけに集中出来ない。
視線の先に5人ほどの集団を犬獣人3人!? 3匹が追いかけている姿が見えた。
紛らわしいが獣人も人で。
土精霊が制御して俺の脳裏に映した魔法の状況と同じだ。
魔法が制御された瞬間からこの事は理解出来ていた。
前を動く7つの点が、 人攫い5人 + 攫われた2人
後ろから追う3つの点が犬獣人3人だ。
絵面が見えたわけでは無く、知り合いが分かる、というか判別出来る魔法のようだ。
抱えられた子供2人と、追う犬獣人が判別できた。
そこまで分かればあとは理解出来る。
分からない5つの点、それが人攫いだろう。
それにしても犬獣人は意外と有能だった。
先に見つけて追いかけていたようだ。
匂いを辿ったのだろうか?
ただし良くない点もある。犬獣人の幹部3人だけで来ていることだ。
仮に犬獣人が匂いで追えるのならば、犬獣人を振り分けて、各班に1人いるチームを作るべきだっただろう。
今日無理矢理俺に纏められた親しくも無い連中だから仕方無いといえば仕方無いが。
今後厳しく教えなければならない。
俺は彼らがいる方向の2階建て程度の建物を選んで建物を飛び移ってきた。
屋上を走り、柵を越えて次の建物に飛び移る。
気分はパルクールの選手だ。
2階建てばかりではないので直線距離よりは少し遠回りしているが、下で道をウロウロするよりは早い。
何軒かの屋上を飛び移り、追いかけっこをしている彼らの前に出るように建物を超えていく。
重力を効かせて壁を斜めに駆け降りて、犬獣人が追っていた集団の前に出た。
汚い男が5人、その中に子供を抱えている奴がいる。しかも2人。
脇に簀巻きにされ、猿ぐつわをされた子供を抱えている。
ビンゴだ、魔剣グラムで即座に凪いだ。人攫いと話すことなど無い。
さくっと1人始末する。
胴体は子供を抱えているから不味い。
子供を抱えたまま逃げる事も出来ない男の頭を吹っ飛ばしてやろうとした所、男はあろうことか子供を盾に、前に差し出して来た。
それを見て慌てて剣を止める。
さすが悪党やることが酷すぎる。
なるほど、こうゆうことを平気でやるから犬獣人たちも捕まえきれないのか。
「旦那!」
犬獣人の幹部ジョンが叫ぶ。アフガンハウンドの犬獣人だ。
おかしいなおまえらさっきはボスって呼んで無かったか?
ハーフドワーフの方に寄せるの? ボスで良いんじゃねぇかな?
お前ら今の俺よりどう見ても年上だよな?
それとも隠しきれない加齢臭でも出てるのだろうか。
自分で言って苛々してきた。
後でお・は・な・し・だな。
「囲め! 進ませるな!」
「「おう!」」「ワン!」
俺が叫ぶと犬獣人3人は、1匹吠えて返事をしやがった。
後で個別にお仕置きだな
(追いついたな、魔法の効果を切るか?)
子鬼の精霊が脳内に話しかけてきた。なんだこりゃ念話か?
まぁいい。ちょうどチラチラ見えてうざくなってたところだ。
(ああ、見づらい、消してくれ、もういい。)
〝大地探索〟の視点と、今見てる視点が両方見えている。
集中しているから今の視界でも問題無いが、正直無い方が良い。
逃がすつもりは無い。見つければこの画面はもう用済みだ。
最悪再度使えばいい。
(うん、念話だ。伝えたいことだけ強く思うといいだろう。今は余計なことまで伝わってきてちょっと五月蠅い)
(初心者に無茶言うな)
(あと、ウンディーネさまは難しいと思うよ、イゾウの思うような半裸じゃないし。)
「何だと!」
つい叫んでしまった。
聞こえていたのか!まぁそこは強く思ってたから仕方無いと言えば仕方無い。
なんでこのタイミングで言うかなこの馬鹿精霊め。後で言え、後で。
俺が叫んだことで犬獣人たちは一瞬、ビビって固まってしまった。
その一瞬を見逃されず、人攫いの1人がビーグルの犬獣人 チロに斬りかかった。
ワンと返事した馬鹿犬だ。犬獣人の中で1番身体が小さい。
チロが持っていた武器で応戦する。
その隙を突いて人攫いがチロの横を抜けて逃げていった。
最後の男が走りながらチロにナイフを投げつけた。
チロがそのナイフを大きく避けると、斬りかかった男がチロに一太刀入れて反転して逃げていった。
「ちっ、逃がすか。」
「ボス、あいつらの武器、気をつけて下さい、毒が、毒がぬってあり、ます。」
アフガンハウンドの犬獣人ジョンが叫ぶ。
なるほど、それで仕留めきれないのか。
さすが人攫い、汚い、汚すぎる。
「ベス、ジョン、追え!俺もすぐ行く!
チロ、治すから他の奴らを呼べ、探せ、集めて囲むぞ!」
まだ動ける犬獣人2人に追わせ、チロに〝 癒やしの水 〟をぶっかける。
毒の状態までは知らん。
水魔法で治らなくても、あいつらを捕まえれば解毒剤くらいあるはずだ。
でないと脅しには使えないからな。
毒と解毒剤はセットで使う物だ。
チロに壁に矢印を書くからそれを見て追ってくるように伝えて走った。
その後は路地を行ったり来たり走った。
俺が事前にいくつかの縄張りを荒らしたために妨害がいなかったのが悔やまれる。
先に倒してなければ、彼らに足止めされた場所を何カ所も通った。
失敗した。
そして奴らは逃げ慣れていた。
対し俺は追いかける事に慣れていない。
犬獣人たちもそこまで慣れていないのだろう。
ここで犬の本能を発揮して欲しかったがそう上手くも行かなかった。
転生して強化された身体に、おそらくレベルが上がって強くなった分を合わせても捕まえきれなかった。
逃げることに慣れた奴らは、それ相応の用意をしている。
三世ととっつあんの追いかけっこのように小物で惑わされ、小道に入られ手こずっている。
マキビシのような者をまかれたり、投げナイフは勿論、吹き矢まで持ってやがった。
その上連携もしっかりしていた。
多分大して痛くはないのだが、毒が塗ってあると聞かされているため、どうしても一手遅れてしまう。
逃がしさえしなければ援軍が見込めるので、焦らず追いかけた。
数で勝れば囲むのは容易だ。
それは向こうも理解しているようでどんどん焦っているのが伝わってくる。
何度目かの鬼ごっこに焦れていると、少し離れたところでハーフドワーフ兄弟たちの声が聞こえた。
こちらにどこにいるかを問いかける声。
複数だ、合流して追いついてきたのだろう。
そういえば壁に矢印は書けていない。
「こっちだ!ここにいるぞ!」
「ワオーン! ワオーン!」
ベスとジョンが叫ぶ。遠吠えっぽい叫びだった。
今回は仕方無い。犬が仲間を呼ぶなら吠えるだろう。
セーフだ、許す。
ベスとジョンの仲間を呼ぶ声を聞いて、人攫いは覚悟を決めたように頷き合って逃げた。
センターロードへ向かって。
最悪だ。 オークがいるところへ逃げ込もうとしてやがる。
「追えー! センターロードだ! 出すな!面倒になるぞ!」
ハーフドワーフたちにも聞こえるように願って腹の底から声を出して叫ぶ。
最後尾の1人が足止めの投擲ナイフを投げてきたがもう知った事では無い。
構わず突っ込んで左腕で払う、少し切れた。
盾も置いてきたのが失敗だったようだ。
元々防衛戦がメインだったからな、荷物になると言われたのだ。
馬鹿講師に。
だが毒になるよりもオークの群れに行かせる方がまずい。
そのまま〝魔剣グラム〟で上下に分断する。
人攫いはこれで残り4人。
「「旦那!」」
「馬鹿野郎! 先に追え!」
ベスとジョンが駆け寄って来たので叱り飛ばす。
切れた傷口を吸って、ぺっと吐き捨てた。
そして水魔法で水を作り洗う。
すぐに走る。
回復魔法は後だ。
今は切り傷に構ってる場合ではない。
オークの群れに突っ込んで人攫いが死ぬのはいい。
だが子供2人は駄目だ。
縛られてる状態だ、逃げようがない。
俺の目の前で子供が死ぬのは見たくない。
どうもあいつらを見てると前世での自分の子供の姿を思い出すのだ。
生まれ変わるのはいい。
だが思い出までは捨てたくない。
思い出した顔が泣き顔になるのは嫌だ。
必死で追う。
またもマキビシが蒔かれていた。
姑息な奴らだ。
飛び越えて進む。
その先に見えたのは先頭を走る人攫いの男が、センターロードに飛び出し、オークに激突する姿だった。
子供を1人抱えていた男だったために、激しくぶつかった勢いで子供を落とす。
その衝撃で簀巻きにされた子供が転がり、止まったあとの足の間から水が零れた。
うん、仕方無いな、子供だし。見なかった事にしてやろう。
走りながらそう考えていたら、周囲のオークの足が止まり簀巻きにされた子供に反応して近寄ってくる。
あ、やばい、オークは女に反応する。
まさか聖水に・・・・
なんて奴らだ。
「おい、オークに攫われるぞ、押さえろ!」
犬獣人、人攫い、どちらにも聞こえるように叫ぶ。
どっちがマシとは言い難いが、どちらかと言えば人攫いの方が今逃がしても後で助けられる。
撤退するオークに連れて行かれたら助けるのはかなり困難になるだろう。
別の人攫いがなんとか簀巻きの子供を抱えて逃げた。
なのに馬鹿が、この後に及んで北に逃げた。
反対方向に向かう。
それを反応したオークが追う。
オークとぶつかった人攫いは、複数のオークに生きたまま食いつかれていた。
オークは人間も食べる、物理的な意味で。
生で見るとエグい。
だが人攫いなど助ける理由もない。
人攫いの仲間も食いつかれている仲間を助けには行かず、もう1人の子供を抱えたまま、先に逃げた仲間を追った。
このまま第三地区北のエリアに逃げ込むつもりだろう。
が、すぐにオークに囲まれた。
足を止めたオークが多い、マズいな。
とりあえず人攫いに後ろから追いつきそうなオークを斬り殺す。
南門の戦闘でも多少レベルが上がっているために雑魚オークなら問題にならない。
人攫いの足を止めたオークはそのままだ。
前門のオーク、後門の俺たち。
上手く囲む。
まぁ俺の後ろにもオークがいるからさらに囲まれてるんだけどね。
『 氷魔法 : 吹雪 』で一掃したいところだが、どこに出しても子供2人か、もしくはベスとジョンを巻き込んでしまう。
どちらも今、選択したくない。
仕方無い。
「おい、一時休戦だ、オークを先に仕留めるぞ!」
人攫いに声を掛ける。
「こっちのオークを始末するから、前のはなんとか耐えてろ!」
「わ、わかった!」
3人の人攫いが頷いた。この状況では他を選ぶ余裕は無いだろう。
頷いた瞬間に子供を抱えた人攫いの首を凪ぐ。
「ベス、確保しろ!」
「え、あ、はい、了解。」
「ひっ、きょっ、共闘は!?」
人攫いが素っ頓狂な声を上げる。
「するか、バーカ。」
続いてもう1人の足を切り落とす。
胴体を狙って子供ごと両断は嫌だ。
足を凪いで切り落とした。
切られた痛みで子供を落としたので、そのまま人攫いはオークに向かって蹴り飛ばしてやった。
倒れ込んできた人攫いに食らいつくオーク。
しばらくそちら方向は時間が稼げる。
子供はジョンがしっかり確保した。
もう1人の人攫いがわめき声をあげながらベスに飛びかかり、子供を奪い返そうとしていたので背中をザックリと凪ぐ。
そしてさっきと反対側のオークに向かって蹴り飛ばしてぶつけた。
オークは深く考えない。
人攫いに向かって食らいついている。
仕上げだ。
今自分たちが飛び出してきた路地の方向に向かって『 氷魔法 : 吹雪 』を放つ。
この方向に移動してきたオークを 『 吹雪 』で一掃する。
即座に反転してオークへと斬りかかる。
「吹雪が止んだら、ガキを抱えて一気に走れ!」
「りょ、了解!」
「ぼっ、じゃない旦那は!?」
「すぐに追う、俺1人ならこの程度問題無い!」
そんなはずも無いがここで言葉を濁せば不安になる。
最悪自分を中心に吹雪を連打で乗り切る手も残ってる。
それより呼び方を統一しろっての。
大剣を生かして、〝魔剣グラム〟を横に大きく振り回す。
ベスとジョンを中心に半円を描くように。
彼らは『 吹雪 』の範囲ギリギリまで下がらせる。
魔法の発動距離ギリギリで待機なんて怖くて仕方ないだろうが緊急時だ、許せ。
グラムに当たり弾けるオーク。
食いついていたオークも纏めて弾き飛ばす。
『 吹雪 』の発動時間は体感で15秒ほど。
それくらいの時間は稼げる。
寄ってくるオークを何度も弾き飛ばしていると『 吹雪 』が止んだ。
「走れ!」
指示を出し、2人が走ったのを見届けてから自分も反転して走る。
オークも易々と行かせてはくれない。
走る2人に向かって横から何匹も飛びかかろうとするオークがいた。
当然だ、なので俺が後を追う。
走りながら投げナイフだ。何もコレは人攫いだけの特技では無い。
〝氷の精霊眼(劣化)〟のアシストを生かし投げる。
オークのようにデカい身体を持つ者の動きを止めるにはどうしたらいいか。
腕や足に刺さっても止まらない可能性がある。
脂肪が厚い。動きを止められない不安がある。
目だ、眼。瞳。eye。
走っている最中に目を撃ち抜かれたらどんな生物も動きが止まるだろう。
俺は寄ってくるオークの目に容赦なく投げ込んだ。
その数、6匹。
おかげで投擲ナイフが残数0に。
6本しか持って来ていない。
次はもう少し多く持ち歩こう。
ナイフが無くなったので、飛びかかるオークには蹴りをぶち込み、平手で弾いて飛ばす。
今は殺すよりどかす、が優先だ。
犬獣人2人も理解してるようで上手く飛びかかるオークを避けて走る。
幸いなことに犬獣人は人攫いよりも健脚だった。
子供を抱えたまま頑張って走った。
なんとか路地に辿り着く。
犬獣人2人と子供2人が路地に入ったことを確認し、俺は路地の入口で反転。
後はここで踏ん張るだけだ。
「走れ!」
短く叫んで振り返り、寄ってくるオークを切り捨てる。
すると視界の先にデカい魔物がいつの間にか現れていた。
(やばいよ主殿、アレは上位種のオークだ。どう見繕っても主より強い。)
子鬼が騒ぐ。ヤバいのは見て分かる。
上位種か、面倒なタイミングで。
そいつの右手には俺の背丈くらいある大剣が。
左手には戦利品なのか傷だらけの人間を握っていた。
普通のオークの倍4メーター近い背丈の、見上げるサイズのオークだ。
そいつがゴツい鎧を着こみ、睨み付けてきている。
オークでは無くオーガだと言われても信じてしまえそうだ。
だが全身傷だらけで、脇腹が抉れている。
オーク側の被害も大きいようだ。
状況的にこの上位種も逃げて来たのだろう。
つまりコイツを追ってる奴がいるはずだ。
子供を連れた犬獣人がここから離れたら逃げの一手しかないな。
貧乏くじだが時間稼ぎに徹するしか無い。
そう判断すし、構える。
頼むぞ〝魔剣グラム〟、お前が折れても俺は守ってくれ。
いや折れたら守れないか。
その巨大なオークは俺の後ろを走る影をギロリと確認し、こちらに向きなおる。
大きく息を吸い込む、そして咆哮る。
(〝咆哮〟だよ、耐えて!!)
(耐えろって!? どうすんだよ! 具体的に言え!)
巨大なオークが放った巨大な咆哮に全身が震える。
身を切るような衝撃が通り過ぎたが、なんとか全身に力を入れて踏ん張って耐えた。
ふぅーっ、ふぅーつと肩で息をしているが、なんとか耐えた。
耐えたと言ったら耐えたのだ。
少しふらつくだけだ、少しな。
だが耐えれたのは俺だけだったようだ。
ドサリという音が2つ響き、首だけで振り返り確認するとベスとジョンの2人は少し先の道で地に伏せて痙攣していた。
倒れた犬獣人2人の横で子供2人もまた横たわり痙攣している。
これ子供は死んだんじゃないか?
いや、痙攣しているという事は生きているだろう。
時間稼ぎをしても無意味になった。
生きるためには殺すしかない。
巨体のオークの左手の人間は気になるがもう構ってられない。
「 『 吹雪 』 」
俺は咄嗟に上位種のオークに向かって今出来る最強の攻撃を放つ。
大剣持ち、ということで B のオークグラジエーターが正解となります。
感想にコメントいただいた方ありがとうございます。
それ以外の感想も全て目を通しています。
ありがとうございます、厳しい意見も励みになります。
あんまりキツいこと言われなくて助かってます(笑)
何というか、余計なことを書かず(先の展開とか、考えていること)返信しようとすると、定型文の返信みたいにしかならなくて本文を書く以上に時間を取られるので控えています。
逃げてます、かも・・・
返信難しいです。
それも含めてのんびりということでひとつ・・・m(__)m




