犬獣人と冷たい風
【 犬獣人の親分視点 】
「ベスの親分!た、大変です、縄張り荒らしです!」
子分がボロボロの姿のまま、息を切らせて駆け込んできたのはオークの大群が東門を突破し第三地区に侵入したという知らせを聞いてからしばらくしてからのことだ。
このタイミングで縄張り荒らしとは面倒な事を。
だが放置しておくわけにはいかない。
俺の名前はベス。犬獣人だ。5年前に戦争に徴集されるのを嫌い、裏町に逃げ込んだ。
同じような境遇の犬獣人と、ハーフの犬獣人の集めて「犬人自由連合」という組織を作って縄張りを仕切っている。
縄張り荒らしを放置しては沽券に関わる。
舐められたらこの裏町では生きていけない。
「舐めやがって・・・どこの奴らだ!何人いる!?全員集めろ!ぶっ殺してやる!!」
そう意気込んで子分を連れて現場に向かった。
向かった先には人が倒れていた。それもかなりの数だ、一勢力分くらいはいる。
子分が言う「親分あいつです。」
子分が指す縄張り荒らしと思われる男は、倒れた男の胸ぐらを掴んで持ち上げて、水を掛ける。
目を覚ました事を確認すると何かを話し、再度殴りつけ、蹴りつけていた。
その姿にまず怒りが沸いた。
ここは俺たちの縄張りだ!
俺たちの縄張りで余所者が好き放題やりやがって。
頭に来て飛びかかろうとした俺を止める者がいた。
共に戦争から逃げ、以降兄弟分として縄張りを共に守ってきたジョンだ。
「ベスの兄弟・・・あれ、みっつ向こうの縄張りのハーフドワーフのザーノアとノリアの兄弟だぞ・・・ なんだあいつ・・・1人で10人以上・・・ぶっ飛ばしてやがる・・・化け物か・・・」
見ればジョンの足はガタガタと震え、尻尾はプルプルと震えている。
ジョンは〝アフガンハウンド〟という犬種の血を強く引く犬獣人で、俺たちの中では最も体格が良く強い。
いつも揉め事では最前線で暴れ、組織を支えてきた男だ。
そのジョンがここまで怯えるとは・・・あれは何者だ?
そう考えていたところ男はこちらに気づき、手を止めて声を掛けてきた。
「なんだ治してやったのに礼もいわず逃げたカスどもがお仲間連れてのお戻りか。
頭悪いな・・・少し考えれば数が増えたくらいじゃ勝てないのわかるだろうに。
ああ、おまえさんたちひょっとして此処いらを仕切ってるグループだったりする?」
「だ、だったらなんだ! 我らの仲間に手を出しやがって!我らは『犬人自由連合』だぞ!その覚悟があって我らの仲間に手を出したんだろうな!」
吠えたのはジョンと同じく初期からのメンバー チロ。
ビーグルという犬種の血を強く引く犬獣人で負けん気が強く、声が通る。ムードメイカー的存在だ。
腕も確かで、俺とジョン、そしてチロ。3人で力を合わせてここいらを仕切っている。
「知らん知らん。名前なんかどうでもいい。
ああ、おまえらのし・・・いや、言うだけ無駄か。良し、こうしよう 癒やしの水
もういっちょ・・・ 癒やしの水 」
「なっ・・・なにを・・・」「えっ・・・なんで、だ?」
さっきまで意識を失い倒れていたハーフドワーフの兄弟は水を浴びせられて目を覚ました。
男はそれを見て口角を釣り上げて言った。
「くくくっ、おいハーフドワーフ。1人当たり2人ぶっ飛ばしてこい。それが出来たら見逃してやる。
俺に向かって来たら即座に殺す。それとも子分が先か? 置いて逃げるか?
それならそれで構わない。くくくっ、あーっはっはっは。」
「ぐぅぅ悪魔かあんた・・・」
「ぐぐぐぐぐぐっ、ちっ、ちくしょう・・・・」
「なに・・・ちょっとしたお遊びだ。2人で4人ぶっ飛ばしてこい。ほら武器、返してやるよ。
それが出来たら解放してやる。新しい実験台が向こうから来たことだしな。」
「実験台だと!俺たちの事か!この野郎!」
「止めろ!ノリア、またアレをやられるぞ!
ほ、本当に4人だな?4人ぶっ飛ばせば解放してくれるんだな?」
「おまえらじゃねーし嘘は言わないさ。別に纏めて巻き込んでもいいんだけどな。そろそろ回復しないで連発しても俺は構わないぞ?」
「いや・・・やる!やるから堪忍してくれ! 行くぞ!ノリア!」
「ちくしょおおおおおおお、わかったよ兄貴!」
倒れていたハーフドワーフの兄弟は何故か急に俺たちに向かって襲い掛かってきた。
仲間の中へ斧を振るって突撃してくる2人。
子分に任せるには荷が重い。
ザーノアとノリアといえばハーフドワーフという存在と相まって此処いらではそれなりに聞かれる名だ。
弱い者を食い物にせず、子供にも優しい、そして子分を率いて大手の組織から縄張りを守っていると聞く。直接揉めたことは無いが、一目置いている存在だ。
前に出て応戦する。
ジョンはまだ震えて動けていない。チロと数人が前にでてハーフドワーフの弟ノリアに向かった。
俺の方にも子分が何人かついてくる。
「おい、待て!そいつなんなんだ!
手を貸す!俺らとやるよりあいつを倒そう!」
ハーフドワーフの斧を剣で受けながら声を掛ける。
縄張り荒らし相手ならば協力して立ち向かえばいい。そう声を掛ける。
「悪魔だ!出来るか! 見てわかんねーのか、子分が人質に取られているようなもんなんだよ!」
ハーフドワーフの男はそう叫び斧を振るう。
ならばあいつを先に倒せばいい。子分を向かわせて・・・
そう考えて男を見ると、どこからともなく氷の矢を作り出していた。
直後、その矢はハーフドワーフの弟を相手取るチロたちに向かって飛んでいった。
「チロ、危ない!」
俺は必死で声をかけた。だが遅かった。ハーフドワーフの弟の斧を捌くのに必死だったチロは避けることが出来ず肩に直撃し、矢に肉を削られた。
そこを突かれハーフドワーフの弟の斧に切り飛ばされた。
地に伏せるチロ。頭に血が上るのが分かる。
「チロォ!!!くっそぉ!おい、お前ら先にあの縄張り荒らしをやるんだ!」
怒りを抑え冷静に子分へと声を掛けると、子分たちは一斉に縄張り荒らしへと突撃していく。
「おいおい、ノルマを課したのにそりゃ無いぜ。 俺がやった分はノーカウントだからな。」
その言葉にハーフドワーフ兄弟は顔を顰め、子分に向かって斬りかかっていった。
後ろから襲われ子分たちの足が止まる。
「くくくっ、はっはっは、いい心がけだな。よしご褒美をやろう。
癒やしの水
癒やしの水 」
縄張り荒らしが魔法を使う。
水が空から現れて落ちる。それを浴びた男が目を覚まし立ち上がってきた。
さらに2人敵が増える。
「嘘だろ・・・あの水、回復魔法か・・・しかも魔力・・・どんだけ・・・何回目だよ・・・」
「くくくっ、おーいハーフドワーフ、指示だせ、指示。ノルマは2人づつだぞ。
4人で8人だ。」
「ちっくっしょおおおおおおお!!! てめえらぼーっとしてんな、こうなりゃ『犬人自由連合』の連中をぶっ飛ばさなきゃどうにもなんねぇ、やっちまえ!」
「「 ! おおっす!」」
縄張り荒らしが笑いながら言い、ハーフドワーフの弟が怒号を上げる。
起きたハーフドワーフ兄弟の子分は俺たちの子分に向かって突っ込んでくる。
迎え撃とうと構える子分に氷の矢が刺さる。 その数、4本。
撃ったのは縄張り荒らしの男だ。
「ふむ・・・レベル1で2本、レベル2で4本・・きっと5で10本だな・・・微妙なところだ。
2で保留だな。他に廻そう。」
そう言って再度4本の氷の矢を作成し子分に向かって飛ばしてきた。
遠距離攻撃を避けるため、目の前の2人に集中出来ず乱戦になる。
後ろで魔法を放つ男に気を取られて子分たちは乱戦模様になっていく。
数で勝るのに仕留めきれない。
早く向こうに応援に行かなければ!だが今は余裕が無い、くそぅ。
「ジョン!ジョーーン!! 大丈夫か!? 頼む、子分を、子分たちを!」
叫ぶがジョンの耳には届かない。普段見せない顔で怯えたままだ。
そこへ目の前のハーフドワーフ兄が声をあげた。
「だ、旦那!頼む数で負けてる、もうな、もう何人か! 起こしてくれ、頼む!」
「誰が旦那だ、どう見てもお前らのがおっさんだろうに。まぁいいけどよ、何だよキツいのか?」
「こいつらは犬獣人の集まりだ。獣人は身体能力が高い。囲まれるとキツい、特にこのベスってのとジョンってのはかなり手強いんだ!」
「ふーん、犬獣人ねぇ・・・なんか思ってたのと違うんだよな。犬って自分で毛並みを整えないのか?
まぁいいや、飽きた。
癒やしの水
癒やしの水
癒やしの水
サービスだ。ノルマは無しでいい。そのベスってのは俺にくれ。あとは7人もいりゃ充分抑えられるだろ?俺がその強い犬と遊んでる間、抑えてこい。
ハーフドワーフ!!指示だせ、指示!」
「「「おおおおおお」」」
縄張り荒らしは凶悪な顔で唇を釣り上げ、顎先でハーフドワーフ兄弟の子分に指示を出す。
その指示を聞いて彼らの子分はハーフドワーフ兄弟が指示を出す前に怯えるように走り出していく。
混戦となる集団を軽々越えてに大剣を持った縄張り荒らしが俺の前に現れた。
「ふむ・・・う~む、柴か? 柴犬っぽいな・・・お前柴犬の獣人か?」
男は大剣を構えたままこちらを睨み付けてくる。
思ったよりも縄張り荒らしは若い。だがそれ以上に怖い。なんとも言えない迫力がある。
獣人としての本能に訴えてくるものがある。この男は危険だ!
だが群れのボスとしては舌を向くわけには行かない。気合いを入れて向き合った。
「し、シバっていう犬獣人の血をつよく受け継いでいるのは確かだが、それがな グハァ!!」
「割と好きな種類の犬種じゃねーか、ぶっ殺すぞこの野郎。」
シバという言葉を聞いた瞬間に顔を殴り飛ばされた。
強烈な一撃が頬ごと身体を地面に叩き付ける。
「ぐうぅぅぅ、理不尽な・・・」
縄張り荒らしは踵を返し、ジョンへと向かう。
横にいるハーフドワーフ兄も驚き、そして怯えた顔をしている。
「そっちがジョン?」
「ああ、そうだ、です。」
「なんだデカい体型をしてる割に縮こまってるな。どうした・・・?
お前は・・・長毛種か? ん~あんまり細かく種類が分からんな。毛並みが汚くてよく分からん。
ちゃんとブラシでといでるか?」
縄張り荒らしはハーフドワーフに確認を取るとジョンの方へと向かう。
ジョンは戦闘が始まってからも怯えて動けない。
その怯えて動けないジョンを、ジョンより一回り小さい縄張り荒らしは舐めるように観察する。
190センチ近いはずのジョンは、180センチ前後の縄張り荒らしに対して小さくなってしまっている。
「お前は何の犬種なんだ?」
「あ・・・」
「・・・!? あ?」
「あふがんはうるど、だ、で、す」
「あふがん?ああ、アフガンハウンドか、猟犬だな。デカイ奴だ。なるほど、だからこんなデカイのか・・・なんか偉い怯えてるな?
ふーん、まぁいいや。お前は幹部か?」
ジョンがおずおず頷く。今にも泣きそうだ。あんなジョンは初めて見た・・・
「ふーん、じゃ部下を止めてこい。もう終わりでいい。
ハーフドワーフ、お前の方も止めろ。
仕切り直そう。」
そう言って縄張り荒らしは倒れた俺の所へと歩いてくる。
「 癒やしの水 」
そして頭から水をぶっかけられた。
「殴っただけだからそこまで酷いダメージじゃねーだろ。起きろ、それで子分たちを並ばせろ。」
「へ!?」
「へ、じゃねーよ。子分を止めさせろ。動きが全員止まったらさっきの垂れ耳も治してやる。」
「ほ、ほんとですか! おい!おまえら、やめろ!
すとーっぷ、すとっぷだ!」
その言葉を信じて俺は子分を止めに入る。
ハーフドワーフ兄弟も止めたので、乱闘は終わりをみせる。
だが何人かはかなり頭に血が上り興奮していたようで、声が届かずしつこく続けようと取っ組み合っていたが、双方の幹部で叱りつけて止めた。
綺麗に左右に分かれたところで、縄張り荒らしはチロを治してくれた。
チロの傷が綺麗に塞がり起き上がる。
「ふむ、垂れ耳か・・・確か耳の病気になりやすいんだよな。ちゃんと掃除してるか?」
「な、なんだお前は突然! ここは我らの縄張りだぞ! 出て行け!」
チロを眺めていた縄張り荒らしに向かってチロは噛みついた。
止める間もない。チロは引く犬種の血のせいか、短気で好戦的な部分がある。
「あー、ワンワンうるせーなぁ。お前は何だ、小型犬か?ポメか?チワワか?」
「ふー!馬鹿にするな! ビーグルだ、ビーグルの血を強く引いてる!」
「は!?ビーグル? 嘘だろ・・・スヌー〇ーのモデルにもなった賢い犬じゃねーか。どこがだ!嘘吐くんじゃねーよ。駄犬が!」
「だ、駄犬だとお!?嘘なんて吐くか! 見ろこの耳、この毛並み!見て分からないのか!」
「犬獣人自体初めて見たのにそんな細かいところまでわかるわけねーだろ。
毛並みなんて薄汚れていて区別がつかん。
うん、おまえら再教育けってーい。」
縄張り荒らしがハーフドワーフの一味に手であっちに行けと言うように振る。
蜘蛛の子を散らすように奴らは離れて行った。
「待った、チロ、違うんだ!治してくれたんだよその人、話し合うんだ」
必死でチロに声を掛ける。
チロは先に倒れたからまだ知らない。目の前の男の恐ろしさを。
謝るんだ、謝れば許してくれるかもしれない。
「残念、遅いよ。 お前ら連帯責任な、 『 吹雪 』 レベル3だとくと味わえ!」
犬獣人が並ばされたど真ん中チロが蹴り飛ばされ、そこを中心に嵐が巻き起こり、ぎゃあああああという多数の悲鳴が響き渡る。
冷たい風が皮膚を切り刻み、その声が子分の声だと気づくのに数秒必要だった。
氷の粒が全身を打ち付け、気づけば立っていられなくなり地面に横たわった。
地面もまた冷たく冷え切り、眠ることさえ許されない。
なんとか身体を起こし、見上げれば少し向こうでハーフドワーフ兄弟の率いる一味の面子が青い顔で見ていた。
よく分かった。この縄張り荒らしには逆らってはいけないのだ。
獣人の誇り、気高き俺の尻尾がさっきから震えて止まらなくなった。
どうもイゾウ視点以外だと書きにくくて。
金と時間に余裕があったら書き直したい・・・




