表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界(この世)は戦場、金と暴力が俺の実弾(武器)  作者: 木虎海人
序章 この世は戦場、小金持ちは悪人の鴨と葱
7/196

初心者講習会 ①


そうあの時、家族には手を出されなそうだ、それなら安心して成仏できるとか考えた。

今、思い返すと殺されたことで冷静じゃなかったのだろう。

せめて思い残すことなく綺麗に成仏したいとかわけわからないことを考えていた気がする。


そんなとき、どこからか声が聞こえたんだ。

俺はその声に従って





ガッ


頭部に痛みが走った。


これは殴られた痛みだ。

「おい、コゾウ!聞いているか!」


顔を上げるとそこには前世で最後に見たときに、木刀振り回して大暴れしていた傷顔のヤクザが目の前に来ていた。

死んだときのことを思い出していたら自分の世界で思考に耽っていたようだ。

ボーっとしていたのだろう、少なくとも話を聞いているようには見えなかったのだと思う。

それでこのヤクザに殴られたようだ。

おっと、ヤクザ改め傷顔の教官だ。あの時は高そうなスーツのまま木刀で倒れているあの馬鹿男を背中越しに殴りまくってて怖かった。

今は建築現場で着るような作業服を着てる。

なのにそれでもヤクザに見えるという不思議。全ては顔のせいだ。



最も暴れてたアレも半分は演技だろう。

1人が切れて

1人が止める

最後の1人が諭す。

3人組ならばそんな感じの分担になるはずだ。

多分あの後、子分のジャージどもも巻き込んで暴れて、徹底的に怖がら(ビビ)せた後に髭が止めに入る。

そしてそれまで黙っていた最後の1人、初老のヤクザが殴られていたお馬鹿に話しかけるわけさ。

普通なら理不尽な要求を

それこそ天からの救いのごとく魅力的に提案して堕とす、よくある手口だ。

最後まで見れなかったが多分そんな感じであの馬鹿男も使い捨てられるハズだ。

そう考えると少し溜飲が下がるな。



「あ、はい。すいません。」

とりあえず謝る。また思考がそれていた。

基本的にミスした場合、沈黙は駄目だ。

沈黙は金なりというが、それは時と場合による。

かといって喋りすぎも良くない。

余計な墓穴を掘る可能性が高くなる。

素直に謝って様子を見ながら喋りすぎない程度に話そう。



「ガハハハ、なんだコゾウ聞いてなかったのか?」

スキンヘッドハゲ髭が豪快に笑う。

こっちは前世と少しイメージが違う。

あっちでは眉間に皺が寄って渋く語っていたのに、こっちでは豪快に笑うおっさんになっている。

とても愉快そうだ。

おかげでつい油断しそうになる。

厳ついおっさんが良く笑って豪快に話してくれるとこっちまで楽しくなってしまうのだ。


「すいません、聞いていたんですが理解が追いつかなくて、考えてたら聞き逃してました。」


「ガハハハ、そういやコゾウ記憶が無いんだったな。兵士の奴らから聞いている。

理解がおいつかねーってか!じゃーしょうがねぇな。

まぁどっちみち部屋を移って詳しく話すつもりだったからな。そっちで最初から話そうや。」

そう言ってこのガハハ髭は傷顔の教官を促して別室に移動した。



2人の後ろを歩きながら観察するが、死んだときに見たヤクザに本当にそっくりだと思う。

もしかしたら細かい違いはあるのかも知れないが、死んだあのときにそこまで見れていないし、覚えてもいない。

よく似ているということしかわからない。


つまり怖くて仕方が無い。

さらにこの傷顔の教官は殴って教え込む性質(たち)だと見た。

既に殴られたしな。

それはまさに暴力で教育するというヤクザそのものの行動に思えるし、今の見た目通りの現場のおっさんの振る舞いらしくも思える。

昔の土方系はヤクザみたいのがいっぱいいたのだ。

正確にはヤクザが土建屋だったりもした。今もあるかも知れないが。

ダムとか作ってる所に監禁して働かせるイメージがある。

通称タコ部屋って奴ですね、死んだらダムの一部になるのだ。


昔はヤクザみたいに見えるファッションが輝いていて、それがかっこいいと思われている時代があった。

ヤンキー上がりみたいなおっさんは今もそっち系統に進む傾向があると思う。

若い頃に土方系の仕事のバイトもしたことがあるが、その時点でもまだ普通にスパナとかバールとかがよくヘマした奴に向かって飛んでいっていたよ。

これはマジだ。人に向かって飛んでた。当たらないようにだったけど。

今やってたら即労働問題だけどな。

ちなみにこの工具が飛んでくる、というのは見込みのある奴にやる場合もあるし、見限られた場合にも起きる。

なのでそこは注意したほうがいい。

俺可愛がられてる、とか思ったら本気で疎まれていたりもするから気をつけて欲しい。


または命の危険のあるような仕事をしていると、間違え(ミスし)たら大惨事なのでかなりきつめに怒る場合がある、同じ事を起こさせないために心根にたたき込むのだ。

それが正しいとは今も思ってはいないが、当時少なくともそこは理解は出来た。





兵士に連れられてここ、冒険者ギルドの支部に来たときは何もない部屋に案内されて面通しをした。

身元不明だからといって雑な対応だな、椅子くらい出せよと少し嫌な気分にはなった。

どうやらあの部屋は本当に面通しをするだけの予定だったらしい。

次に案内された今いる部屋にはきちんと椅子とテーブルがある。簡易な木の椅子とテーブルだ。

それなら別に教官が来ないで職員の人に案内して欲しかったと思うが、この椅子のある部屋に来てまた1つ問題が発生した。

これ本当に椅子に座ってもいいのだろうか、という疑問だ。


就職面接とかなら「どうぞ」と言われてから腰掛けるものだが、この場合何が正解だろうか?

座った瞬間に切れるかもしれない。そんな不安がある。

だって理不尽だもん。特に顔が職業ヤクザって感じだし。

促されたら座るしかないのだが、腰を落とした瞬間に


「てめぇ何座ってやがる!下っ端は立ってろ!」


とか、言いだしかねない。超理不尽だ。

特に傷顔の教官は木刀振り回して大暴れするイメージが拭えないのだ。


理不尽に怒る、それは裏稼業の教育でもあるのだ。

会社組織も基本縦社会だが、裏稼業ではもっと厳しい縦社会だ。

親分が黒いモノでも白と言ったら白になる、そういう世界だ。


そのためにいきなり切れる可能性がある。

上下関係を解らせるためには最初が肝心、良くある話だ。


「俺たちの稼業は言葉を違えただけで指が飛んだり命取られたりするんだ、楽じゃねーぜ」

とか昔読んでたストリップするヤクザ漫画のキャラが脳内で勝手に喋った。

ちなみにストリップで間違いない。確か何度か漫画の中でしてたはずだ。


そんな事を考えていたら、教官2人が部屋の手前の席に陣取り、奥の席に座るように促されてしまった。

さぁどうするか・・・まぁ座るしかないんだけど。

出入り口に近い方を塞がれた形になる。


これ軟禁って奴じゃ無いですかね?


部屋の中にヤクザが2人、ドアに近い方に座っている。窓は無い。

他に出口も当然無い。

俺ピンチ、みたいな?














恐る恐る椅子に腰掛けたが特に怒鳴り出したりはしなかった。


セーフ。


いやまだわからない。


そんな俺の心配を他所にこの2人は普通のテンションで話に入った。

最初に口を開いたのは傷顔のほうの教官だ。

そういえば名前を最初に名乗っていたが、緊張していたので聞き逃してしまった。

流石に名前を聞き直す度胸は無い。

しばらく傷顔とガハハ髭でいいや。

間違ってその名前を出さないように、呼ぶときはどっちも「教官」とか「教官殿」とか言っておけばいい。



「ふむ、なかなか体格は悪くはないな。剣術か槍術でも嗜んでいたか?」


「すいません、覚えてないです。が、多分そうゆうのはやっていないかと思います。」

やってたのは空手と柔道だ。あとは趣味でトンファーとヌンチャクは振り回していた。

こっちはあくまでも趣味だ。

トンファーでサンドバッグを叩いていたら指導員にネチネチ怒られた。

だからあれは趣味だったのだ。

竹刀や木刀くらいなら触ったことはあるが剣術なんかはやっていなかった。

今考えると剣道でもやっておけば良かったか?

でも防具を揃えたら結構なお値段しそうだ。


「そうか・・・全然覚えていないのか?」


「頭を殴られたことと、どっかに連れてかれそうになったくらいです・・・」


「ガハハハハハ、それで身ぐるみ剥がされて捨てられてたってわけか!情けねぇなぁガハハハハハ」


「あはは・・・すいません」

しかしこのハゲ髭はよく笑う。おっとガハハ髭だったか、統一しないと。間違える。


「ふむ・・・肌つやも悪くないな、特に問題もあるまい。

まぁいい。冒険者ギルドに登録する説明をする。

登録は別に強制ではないが、ひとまず話を聞いてどうするか考えるがいい。

どちらにしろ身元の保証が必要なのだろう。」


「はい。」

なるほど、それを説明しようとしてくれてた訳か。なのに俺は聞いて無かったと。

素直に頷いて続きを聞く。


「まず最初に冒険者ランクを説明するぞ。記憶が無いのだろう、頭に入れておけ。

ギルドに登録するとその貢献度や達成率、その他実力などを考慮してランク分けされる。

これは依頼を受けるときの指標にもなるが、それ以上に立ち入れる区分の仕分けでもある。

これは世界中どこにいってでも冒険者ギルドがあるところなら統一されている。

例えばこの街の冒険者ギルドの本部は第2防壁を越えた第2区画の中にある。

第2区画の中に入るためには上から数えたら7番目のランク以上であることが必要になっている。

それ以下のランクの冒険者は本部に行くことも出来ないって訳だ。ここまではいいか?」


なるほど。立ち入れる範囲をランクで判断されているわけか。

確かこの街は内側に行くほど安全だと兵士が言っていた。

安全なところで生活したければ冒険者のランクを上げる必要があると。


「はい大丈夫です。ちなみに最低ランクだと上から何番目になるんでしょうか?」


「最低だと10番目だな。つまり冒険者のランクは10段階だ。

冒険者として登録した者は10番目、H ランクという表記になる。

8~10番目までのランクの冒険者はここ第3区画までしか入れない。

依頼を受けるのもこの支部でしか受けられない。資格が無いのに本部に行けばその場で捕縛される。」


前世いうところの不法侵入、いや不法滞在になるのか。

となると強制送還とか罰金刑ですかね?人の命が軽ければ死罪もありえるのか。

俺が司法なら奴隷は財産とか言ってガンガン犯罪奴隷の沙汰を出しそうだ。


「で、だ。ここからが選択肢(本題)だ。

本来ならこのまま冒険者としての登録()()()して個人の裁量で生きるという方法もある。

が、コレは貴様には出来ん。これは身元の保証がある人間が取れる選択肢だ。」


「なるほど、どこかの組織に所属して身元が保証されている人が冒険者としても登録しておく場合ってことですか?」

副職とか副業とかそんな感じか。


「それもあるが大半は出身の街や村で身元保証がされているからな。元の居場所から逃げ出して来た者でも無ければ問題なく登録だけなら出来るのだ。

だがギルドではなるべく別の話を薦めている。貴様にこれからするのと同じ話だがな。

登録だけをするのは貴様の言ったような奴か、貴族の子弟とか裕福な商人の次男三男で初期費用を充分に用意出来るような奴らだ。専用の奴隷がいたり、護衛を雇えたり。

もしくは先輩冒険者とのツテがあるとかだ。そのまま先輩冒険者の元で学べるのならばそれはそれで構わない。」


なるほど、戸籍や住民登録みたいなのがあるのか。

そりゃー転生した俺には持っていない物だ。


「ではどうすれば良いか、それは冒険者ギルドが行う初心者講習を受ける、という方法だ。

これは一月半、個人差もあるが大体40日前後だな、ここで寝泊まりして訓練をし、冒険者としての知識と技術を学ぶという方法だ。」


あー、なるほど。

だから()()なのか。

普通ならギルドの職員とかそうゆう呼び方になるはずだ。

つまりこのヤクザが指導してくれると。

うわー・・・・・・


あははは・・・・超嬉しい(棒読み)


「それが1つなのですね。となるともう一つは?」


「ガハハハハハ、そりゃー身元の保証を諦めて街を出て行くっつー選択肢だ。

街の外は怖いぞぉ、お前は運良く何にも会わなかったがオークはでるは、ゴブリンは出るわ、盗賊はでるわな。

ガハハハハハ、そういや盗賊には会ったんだったな。

ま、残りたいなら講習を受けろ、嫌なら街から出ろ。早い話がそうゆうこった。」


ガハガハガハガハうるせぇなぁ、何がそんなに面白いのか。

そんな面白い選択肢はなかったと思うのだが?

しかもそれって実質1択だ。


ここで駄目な事が他所の街や村に行って受け入れてくれるとは思えない。


「・・・・・・講習受ける選択肢しか無いと思うんですが・・・」

俺がそう言うと2人はにやぁと笑った。


いやこの人たち笑う顔まで怖いよぉ・・・



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 生前の話、特にヤクザや社畜の事はもう勘弁して欲しい。 文句を言っても今更何も出来ないし、そっちでやり直せないし、全く興味がない。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ