路地裏
「全く、歩いているだけで何で突っかかってくるのかね?」
地べたには複数の襲撃者が転がっている。
オークでは無い。汚いが人間だ。
講師の指示で現在単独での任務に当たっている。
第三地区の東門に近い南東エリアのスラム街。
講師がここにオークがいると言いだし、単身で討伐可能という条件で俺が選ばれた。
俺の班はユリウスに任せ、別行動を強いられている。
スラムに入り込んでこれで6度目となる襲撃に苛々が募り〝魔剣グラム〟が既に解禁されている。
当初は人間が相手と言うことで手加減していたが、容赦なくぶっ飛ばすことにした。
うっかり死んだとこで俺には関係ない。
無法地帯で生き方など選んでいても仕方が無いだろう。
魔力を注いだ〝魔剣グラム〟は重く、鞘に入ったままでも振り回すだけでかなりの威力になる。襲撃者たちはまるで車にでも轢かれたように弾き飛ばされ呻いている。
手っ取り早くて楽でいい。いい武器をもらった。
ついでに彼らからお財布も頂いて懐が一気に温かくなった。ほくほくである。
大して入っていなかったので雀の涙だけどな。
裏町に住んでる人間が大金を持ち歩いている訳が無い。
(おっと、見られてるな。数は・・・3か。)
襲撃者を始末して気持ちを切り替えた俺の看破〟のスキルに、物陰に隠れる3つの人影が反応がした。
姿形まではわからないが、そこにいるのだけはしっかり分かる。
〝魔剣グラム〟を肩に担いだままその人影の前に躍り出た。
ズバッと行くぜ!
「「「ヒィィィィィ」」」
身を翻して飛び込んできた俺を見て、隠れていた子供が腰を抜かして泣き出してしまった。
「・・・・・子供か・・・こんなとこで・・・何してる?」
かなり汚い格好した子供が3人。俺に驚いて泣きじゃくってしまった。
物陰に息を潜めて隠れていた子供の前に、格好つけて派手に登場し、驚かして泣かしてしまった大人が1人。
なんかいたたまれない気持ちになってしまう。
油断させて財布でもスろうと狙ってるんじゃ無いかと警戒し、しばらく様子を見たのだが、地面に蹲って泣いたままでいて一向にその気配は無い。
「あー、マジか・・・俺やっちゃった系・・・?」
そのまま放置していくのも憚られたので、支給された干し肉を3つに切ってくれてやった。
かなりお腹を空かせていた様子で貪るように食べている。
干し肉を口に入れた途端に泣き止んでいる。現金なものだ。
俺の非常食だったのだが仕方が無い。
前世では結婚して子供もいた。
泣いている姿を見て自分の子供が泣いている姿を思い出してしまった。
放置して先を進む気にはならなかった。
自分の子供は元気だろうか、ちゃんと財産分与を受け取って平和に暮らしているといいのだが。
そんな感傷に支配され、何の肉かすら分からない干し肉をあんまりうまそうに食べている姿を見て、ついもう2切れ追加で分けてしまった。
餌付けだなーこれ、あんまり宜しくは無い。
癖になるとお互いに良くない。
「おじさん、お肉ありがとう」
食べ終わった子供が礼を言ってくる。
その程度の常識はあるようだ。小汚くて可愛くはないけどな。
「ああ、気にするな。それよりオークを探してるんだけど見なかったか?
オークをやっつけに来たんだけど、知ってたら教えてくれ。」
元々おっさんだったのでおじさん呼びには慣れている。
子供から見たら大人は全て等しくおじさん、おばさんだ。
お兄さんお姉さんは少しだけ上の世代だけを指す。
それを理解出来ない大人は痛々しい。
いい大人なのに子供にお姉さん呼びさせてるおばさんとか見ると、もうね。
鼻で笑っても俺は悪くないと思う。
「オークは前にはいってきたけど、みんなでやっつけて食べちゃったよ。」
「うん、おいしかったー」
「みんなでやっつけると少しだけどご飯がもらえるんだよ。」
「ねー」
マジかよ、異世界の裏町逞しいな。侵入して来たオークを食料扱いかよ。
「ほー。そりゃー凄いな。この辺りにも強い奴がいるんだな。そいつが狩ってるのか?」
「ううん、みんなでとびかかるんだよー」
「何人か死んじゃうんだけど、食べられちゃうよりいいからって」
「うえじにするか、やっつけてたべるかってみんないってるよ」
「・・・・」
何人かは死ぬのが前提か。まぁどうしようもないから英断といえば英断なのか。
それにしても世知辛い。こんな子供にまでそう思わせるのかよ・・・
転生してすぐ裏町に放り出されないで本当に良かった。
「そうか、じゃー」
「いたぞ、あそこだ!」
「ん、なんだありゃ!?」
子供にもう少し聞きたいことがあったのだが、怖い顔をした男たちが走ってきて取り囲まれた。
どう見ても平和的に話合いの出来る雰囲気では無い。
ガリガリに痩せた身体に、汚くみずぼらしい格好。手には木の棒や、錆びた鈍器を持っている。
先ほど歩いてるだけで襲って来た集団と同様の格好をした集団だ。
俺を囲むように立ち、今にも襲い掛からんとしている。
「どちらさん?」
俺が問うと、集団から2人の髭ダルマが進み出てきた。
ドワーフのようでドワーフでない。かといえ普通の人よりはドワーフに近い。
「貴様か!儂らの子分を殴り飛ばしてくれた上に、通行料も払わず、この辺りを我が物顔で歩き回ってるクソガキは!」
「なんだそりゃ。なんで街中を歩くのに金が掛かるんだよ。綺麗に舗装された高速道路ならまだしもこんなすえた臭いの充満する汚ねぇ道を歩くのに金なんか払うか!」
「このクソガキぃ!人様の縄張りに入り込んで訳の分からん能書きを!
その上 貴様ぁ子供を攫おうとしてやがったな!最近聞く子供狙いの人攫いとは貴様のことか!
この鬼畜生が! そんな子供でも必死で生きてるんだぞ!」
「なんだそりゃ、言いがかりも甚だしいな。俺は冒険者ギルドの講習生だ。指示を受けてこの辺りに迷い込んだっつーオークを狩りに来ただけだっての。」
「ふん、白々しい嘘を吐くな! 東門がオークに破られてまだ大した時間が経ってないのにこんなところまでオークが来るわけ無いだろうが!」
「ん?あれ? お前らさっきオークを殺して食ったって言って無かったか?」
「うん、たべたよー、ずっとまえに」
「またたべたいね」
「おいしかった」
「ずっと前かよ・・・で、あのおっさんは誰?」
「このあたりをまとめてるひと。はーふどわーふのおじちゃん。」
「はーふどわーふ? ハーフドワーフか、なるほどね。
つまりお前さんらがこの辺りの顔役で、ここを通るのに通行料がいるわけか?
なるほど、わかった。じゃーおまえらは少し向こう行ってろ危ないぞ。」
子供を離れたところへ送り出し、〝魔剣グラム〟を担いでハーフドワーフの前に立つ。
「フン、この人数相手に勝負になると思っているのかクソガキが!」
「当たり前だ、身ぐるみ置いていけってのは通行料とは言わないんだよぼけが!
そんなもん払うくらいならこっちがぶっ殺してやるわ!」
「おいてめえら!この生意気なクソガキに教育してやれ!」
「「「「 おおおおおおおお 」」」」
★☆★☆
「 癒やしの水 」
都合12人の暴漢を叩きのめし、回復魔法をかける。
12人もいると随分こちらもやられた。
全く汚い手で触りやがって、破傷風にでもなったらどうしてくれる。
回復魔法をかける前に水魔法で水を作り、先に傷を丁寧に洗い流しておいた。
水を作り水浴びをし始めた俺を見て子供たちは驚きの表情だった。
傷口を洗い流すのは基本中の基本だろうに。
こんな汚い街の住人だ、どんな菌を持ってるかわかったもんじゃない。
「おじさん・・・つよいんだね」
「くくくっ、こいつらが弱いんだろ。冒険者ギルドには俺より強い奴が一杯いたぞ。」
「ぐっ・・・このクソガキぁ・・・」
地べたに這いつくばったままハーフドワーフの男は激しく睨んでくる。
オークを狩ったという一斉に飛びかかる戦術はなかなかに恐ろしかった、危うく引き摺り倒される所だった。
特にこのハーフドワーフ2人はそこそこ使えそうな斧を持っていて、それを振り回して襲い掛かるかってきていたらかなり危なかった。
余裕ぶっこいて手下に先に襲い掛からせたのが最大の敗因だろう。
何度かしがみつかれたが、〝魔剣グラム〟を振り回すだけで枯れ木が折れるように手下どもは吹っ飛んでいった。
半分ほどぶちのめした後に大物ぶって出てきたので、被弾覚悟で突っ込んで早々にハーフドワーフの片割れを1人ぶっ飛ばしてやった。
そのあともう1人が半狂乱になったので少し手こずったが、奴の手下を盾にして順調に数を減らし、最後にサシで斬り合って叩きのめした。
街のチンピラのボスくらいなら技術で制せる事が確認出来た。
「くくくっ 安心しろ鞘付きだ。相当痛いだろうけどな。斬った訳じゃねーから簡単には死なねーだろ。」
こちらも何発か食らったが回復魔法で完全回復だ。
綺麗に回復した俺の顔をみてハーフドワーフがさらに悔しそうな顔をする。
うんうん、そうだろうそうだろう。俺はその顔を見たくて回復魔法を優先して覚えた。
転生して〝神の寝床〟として存在する俺。
高い魔力を持ち、運動能力も強化されていた。
ならばこそ最優先するべきは継戦能力だと思っていた。
死なない限り復活してくる俺。
回復しても回復しても魔力が減らない俺。
ダメージを与えた、後は頼んだとか思って死んでいく奴の前でこれ見よがしに回復する俺。
絶望するがいい。
最高だ。
「くくくっ、ま、質問に答えろ。素直に答えれば命までは取らない。
オークはどこにいる?俺としちゃオークを丸ごと第二東門までは運べない。討伐証明の耳だけ削げれば肉はお前らにくれてやるよ。腹減ってるんだろ?
ああ、あっちのガキどもにも食わせてやるのが条件だけどな。」
「ぐっ、さ、さっきも言っただりょ、東門が抜かれてまだそんなに時間がた、経って・・・ない。
オークがこんなとこま、で来てるわけな・・・いだろうぐぁ!」
かなり痛むだろうが声を上げて叫ぶ男。
嘘には聞こえない。
「ふーむ、困ったな。班から抜けてきてるから手ぶらじゃ帰れないんだよ。
オークじゃなくて良いからなんか魔物のいるところ知らねーか?」
「がぁ、くそっ、ほんと、に、オークを狩りに来たって言うのか?な、なん」
「ああ、聞き取りづらい。 サービスだ治してやるからちゃんと話せ、何言ってるかわからん。
〝 癒やしの水 〟」
「おお・・・治った。凄い、こ、こんな治癒魔法を・・・・」
ハーフドワーフの男は綺麗に治った自分の身体を見て驚愕している。
回復魔法かけたことないのか?
「おい、もう突っかかってくるなよ。したらお前の部下を殺して廻る。
俺は優しいから今の所誰も殺してない。が・・・・次は絶対に見逃さない。」
今の所、な。この後死んでも俺のせいじゃないよな?
俺のせいか。
うーん、正当防衛だからセーフで。
「あ、ああ・・・・わかった、しに、しないから子分に手を出すのはやめて、くれ。」
「うん、で、オークはどこに?」
「いや今も言ったけど本当なんだ。東門が破られたとはいえスラムにまでは一気にオークは来ないんだ。」
「それが分からん。何でだよ?」
「理由までは俺たちもわからない。 多分だがオークは人間を襲う。だから人の多い大通りを第二東門まで進むのってのが一般的なんだ。俺たちはその群れからはぐれたオークを狙ってる。」
「なるほどね。随分慣れてるけどよく襲撃ってあるのか?」
「ああ、慣れたもんさ。街を管理してる連中はこの辺り、第三地区なんて街として見てねーからな。
ちょっと不測の事態が起きただけで第三門を解放して魔物を第三地区の中に引き込むんだ。
それで第二門に集めた戦力で迎え撃つ。
第三地区を荒らされると困る勢力が勝手に間引いてくれるから、余裕で鎮圧出来るってわけさ。」
「なるほど、教官たちがすっ飛んで行ったのはそのせいか。」
南門の防衛任務後に、東門が襲撃されているという報告が入ったあと、教官は殆どが講師に指揮を任せて第三東門に文字通りすっ飛んで行った。
教官がいなくなったおかげで講師の指示に従わなければならなくなった。
俺の班の補佐に講師が2人、弓講師の美人ハーフエルフ リリィと魔法課のクソ講師がついた。
ユリウスの班の補佐に、最悪なことに魔法課のクソ講師が2人がついた。
この魔法課のクソ講師は3人でいつもつるんでいて、そのうちの1人がマナ狙いのクソ野郎だ。
南門での防衛任務中はずっとマナの盾になって講師から守っていた。
それを逆恨みして追いやられた可能性が高い。
今頃盾がいなくなって、苦労してるだろう。早く戻りたいところだ。
好感度上げるいいチャンスだったのに。
多分ユリウスがなんとか対応してくれるとは思うが不安は残る。
俺の班じゃなくてユリウスの班にいれておけば良かった。
多分俺の班員をフォローしようとすると、ユリウスの班員が焼き餅焼いて邪魔するだろうな。
うん、やっぱりもっと強めに躾けておくべきだった、あのクソ女どもめ。
「となると手ぶらででも戻らねーとまずいか。くそっ!」
「お前、いやあんた・・・本当に講習生なのか?」
「さっきからそう言ってるだろ。師匠の顔をに泥を塗ることになるがこれ以上オークのいないとこにいても仕方無い。」
「冒険者ギルドが講習生を単独で動かすなんて信じらんないんだがな・・・」
「ギルドの指示でも教官の指示でもねーよ。講師にクソ野郎がいてな。俺と親しい講習生を口説くのに俺が邪魔だったんだろ。そいつとその仲間3人掛かりで言われちまった。」
「なぁあんた・・・嵌められたんじゃねーのか?」
「嵌められた? オークを狩りに動いただけだぞ?」
「いや、アンタ講習生って事は単独行動禁止だろう? 例え戦争だろうが、任務だろうが講習生が単独で動いたら解雇もんの罰則じゃなかったか?」
「・・・・あ、そういやそんな話講習受ける前に聞いたことある気がする・・・」




