悪人も恋はする
ジスナを戻しセレナたちを呼んでもらった、来たのはセレナ1人だった。
「よっ」
「よっ」
前と変わらず声を掛ける。こうやって接するのも久しぶりだ。
「様子をみたいってジスナさんに聞いたけどどうかしたの?」
「ああ、明日の実戦を前に、怖くて寝られなかったり、気持ちが昂ぶって暴走していないか班員を確認してるんだ。呼びつけて悪い、女子の宿舎まで入れなくてね。」
「へー、やっぱり班長さんとしてちゃんとしてるんだね。
んー、やっぱりいつもとは少し違うかな。でも大丈夫だよ、明日は頑張るね。」
「そっか、マナの方は大丈夫?」
「んーやっぱり少し興奮はしてるみたい。いつもより落ち着きはないかな。」
「そうか・・・一緒にで良いって言ったけど?」
「・・・ごめん、私が少しイゾウと2人で話したかったから。」
「・・・ふーん。何かあった?」
「別に何もないけど。って言ったら嘘かな、最近あんまり話せてなかったし。
イゾウ・・・怖い顔してた。」
「怖い顔か・・・心当たりが多すぎるな・・・
大体いつもなにかに怒ってるし」
「そう・・・いつもイゾウが怒っててもあんまり怖く感じなかったんだけど、今日は凄く怖く見えたんだ。」
それはきっと多少セレナにも怒りが向いてたからだろうな。
今も正直面白くはない。
ユリウスは真っ先に彼女たちを俺の班にいれた。
それは俺とセレナの信頼関係ではなく、セレナとユリウスの信頼関係だ。
ユリウスに俺とでも上手くやれると信頼されているから俺の班にいるわけだ。
出来ればセレナには自分の意志で一緒にいて欲しかったという俺の我が儘だ。
自分が先にセレナと親しくなったはずという、気持ちがまだ残っている。
「・・・・そうか怖がらせて悪いな。今日は色々ありすぎた。
正直班長なんてやりたくなかったし、やるならやるで単独でやりたかった。
ユリウスの班と組むことと、ユリウスのところと合わせて俺の班を作る状況になって・・・
それでちょっと切れたんだろうな。」
「・・・やっぱり嫌だったの?」
「うん、正直凄い嫌だったな。
尻ぬぐいって言ったらあの場にいたセレナには悪いけど、俺がするのではなく・・・自分たちでして欲しかった。」
「もしそうだったら・・・私イゾウの班にはいなかったね。」
「だろうね。」
「今日の色々・・・・は聞いたら教えてくれる?」
「別に隠してないから構わない。けど少し長くなるし今日は・・・まだ何人か確認しなきゃいけないからあまり時間とりたくない。今度にしてほしい。
多分既に噂にもなってるだろうし、誰かからさきに聞くかもな。」
「わかった。 でもやっぱりユリウスさんと一緒にやらないんだね、ずっと・・・一緒にやりたいって言ってたよ?」
ああ、よく話してたもんね、コソコソと。
「俺は俺だよセレナ。俺は・・・・ユリウスの付属品じゃない。」
「・・・・ごめん、なんか気を悪くした?そうゆうつもりで言ったんじゃ無いんだけど。」
「・・・・ユリウスの周りにいる奴らはすぐ、俺をユリウスの部下扱いするから・・・悪いけどその話、面白く無いんだ。
俺がユリウスの下につくことはないよ。」
「そんなつもりじゃ」
「俺、断ったけどさ、ユリウスと一緒にパーティ組んで活動するのも面白いとは思ってたよ。
今は面白くもなんともないな。・・・・・・絶対に嫌だ。
だからその話は止めて欲しい。」
「ごめん、もうちょっと上手く言えたら良かったんだけど・・・
止めるね。
でも本当にそんなつもりじゃ無いんだ。」
「どんなつもりでも止めてくれたらそれでいいよ。その話、もう聞きたくない。」
セレナがどんな顔をして喋っていたのかわからない。
俺は視線を合わせること無く、首を左右に振った。
「・・・マナの話ならいい? マナね、講師の人にちょっとしつこく迫られてて・・・・
ほら、魔法課の講師の人、いつも3人でいる。
それでユリウスさんに相談してたんだ。一応何かあれば対応してくれるって事になってたんだけど」
「ああ、俺のとこに来ちゃったからか。
それは悪い事したな。いいよ、班員としてならば俺が守るよ。
俺を盾にしてくれて構わない。」
なんだかなぁ、どうも感情的になって上手く話せない。
こんなつもりでは無かったんだが。
「ごめん。なんか上手く話せないや。久しぶりだからかな?
なんか・・・イゾウ少し変わったかな?私にはそう感じる。」
「講習も半分超えたし、お互い少しずつ変わったんじゃないかな。
右も左もわからなかったあの頃より、変わってはいると思うよ。」
「そうゆう意味じゃないんだけどなー。
マナのことは班長さんとしてはお願いしていい?
でも彼女とか・・・が不機嫌になるようだったらそこまではしなくても良いから。
出来るだけ・・・お願いします。」
「別に彼女はいないから大丈夫だよ。そこは昔から変わってない。
いたとしても俺は一夫多妻推奨派だから、困ってる女を助けるくらいでギャーギャー言う女はお断りだから問題無いよ。
なんなら俺が彼氏の振りしてもいいし。」
「それは・・・マナが嫌がるかも。」
「はははっ、違いない。 ま、手段の1つとして考えといて。
多分それが1番手っ取り早い。
俺は別に魔法課の講師に嫌われても問題無いんだ。」
「それは駄目だよ、私達のせいで教えてもらえなくなっちゃうよ?
やっと魔法覚えたのに!これからが肝心なところじゃない。」
「気にしなくていいよ。俺を〝落ちこぼれ〟扱いしたのは魔法課の教官で、言いふらして講習生に言ってまわってたのは魔法課の講師。多分それを頑張って実行してくれたクソ野郎でしょ?
とっくに修復不能な関係だ。今更魔法の講習なんて受ける意味も無い。
〝認可〟ですら魔法が使えても俺に与えられると思えない。
現状落第はもう無い。卒業資格は充分にある。
魔法課の講習なんて時間の無駄だから受ける気も無い。」
この初心者講習では、魔法の講習に関しては講習期間の半分を超えたなら受けなくても許される。
魔法職を諦めると教官に伝えればいいだけだ。
魔法は使えない者はどうしても一定数でてくる。出来ない者がいつまでも時間を費やすのは勿体ない。
それよりも自分の目指す役割の技術を習得した方がいい。
この任務が終わったら師匠に改めて伝えるつもりだ。
俺は残りの講習期間を武術の腕を磨く事に費やす。
ただそれでも講習生のほとんどは魔法を使える可能性にかけて、最後まで魔法の講習を受ける者がほとんどだ。それを別に俺は否定もしない。
魔法に関しては練習方法を教わっているのでそれを個人で行う。
これは講習が終わってからも変わらない。常日頃から練習あるのみだ。
〝水魔法〟〝氷魔法〟の才能に関しては2人の〝大魔道〟から御墨付きをもらった。
〝氷の使徒〟なんだから当然だろう。
今更魔法課の教官なんぞに師事する気にはならない。
そんな話を少しした。肝心な所を話さないのはいつもだが2人の大魔道の話もセレナにする気が起きずどうも会話がちぐはぐだった。
話がうまく出来ず少し気まずくなったのかセレナはマナを呼びにいき、そのあと3人で少し話しをした。
マナは割と機嫌が良く、「明日はオークをいっぱいやっつけてセレナちゃんをマナが守れるようになる。」と何度も繰り返し言っていた。
頑張って強くなって、セレナは勿論自分も守れるくらいに強くなって欲しい。
セレナがマナは無理しないでいいと言い、対し俺がマナも頑張れというのがポイントだったようだ。
何度も俺にマナも頑張ると言い続けていた。
マナがニコニコ顔なのに対し、セレナは少し微妙な表情をしていた。
講師に迫られている話は、マナからも聞くまでは正直なところそこまで酷くないだろうと思っていたのだが、かなり迷惑するくらい熱烈にアピールされているらしい。
てっきり少しアプローチをかけられている程度だと思っていたが、付き合えとしつこく迫られているらしい。おかげで魔法の講習が受け辛いらしい。迷惑な話だ。
最近は付き合いが薄くなって全然気がつかなかった。
前世の日本でもそうだったが、基本教える側が生徒に手を出すのは問題行動だ。
当然、冒険者が任務という形で講師として勤めている為に、ギルドの規約でも御法度だ。
普通そうなった場合は水面下で交流して、講習終了後に改めてという暗黙の了解がある。
ただしそれは両思いの場合だ。
マナは完全に拒否らしい。セレナにしか興味が無い女だ。俺の前でもはっきりそう言いやがった。
講師に興味が無い、セレナがいればいいと言っている。
俺も魔法課の講師が大嫌いなので今はその意見を尊重する。
俺を盾にしながら教官の前で口説かれて、迷惑だと一言言うだけで解決するだろうと伝えておいた。
その教官が俺の師匠だとなお良い。あとで伝えておこう。
さすがにそれで講師を解雇になるとは思わないが、それなりに怒られるはずだ。
まともな男ならそれで反省するし、それを逆恨みするならそれを理由に介入すれば良い。
講師を殴るには大義名分がいる。
★☆★☆ ★☆★☆
マナとセレナが戻り、入れ替わりに呪い娘チカチーノと聖職者アベニルさんが来る。
呼び出した無礼を詫びて、調子を聞く、2人とも特に問題はないそうだ。
若干チカチーノのほうが緊張気味なくらいだろう。
実戦を前に緊張するなと言う方が難しい。
「うん・・あのねイゾウさん、ずっと・・・ゴメンね、話しかけてくれたのに、逃げちゃって・・・
話しかけてくれたり、班に入れてくれたり、気にかけてくれたのにボク、イゾウさんの事怖がってて
ごめんなさいでした。」
突然チカチーノに謝られた。
別にそんなこと謝る必要は無いと思う。俺が勝手にしていたことだ。
「チカちゃんずっと気にしてたみたいよ。」
アベニルさんが言う。
「そうなのか、あー・・・俺の方こそしつこく話しかけてゴメンな。
怖かったよな・・・・うん、そうだよな、俺こわいよな・・・怖い思いさせてごめんね。
もっとこう、スマートに声をかけられたら良かったんだけど。」
「ウフフフ、イゾウちゃんには難しいわよね?」
「イゾウちゃん言うな。呼ぶなら呼び捨てで呼んで下さいよ。
そりゃー難しいですよ。怖がらせずに話しかけるのは。」
自然に女性に声を掛けるのは難しい。気がある女相手だとなおさらだろう。
「ううん、本当は嬉しくて話したかったんだけど、どうしていいかわからなくなって逃げちゃった。
追いかけて来てくれたのも、班に入れたのも感謝してます。ありがとうイゾウさん。」
「チカチーノもいい加減呼び捨てで呼べよ、構わないから。」
「あらあら、イゾウちゃんが私を呼び捨てで呼んだら私も呼び捨てにするわ。
でね、チカちゃんはなんでそんなにイゾウちゃんが優しくしてくれるのか聞きたいんだって。」
「優しくするのに理由がいるの?」
「チカちゃんの境遇は聞いてるでしょ?
聞かないと不安なのよ。優しくされ慣れていないから身構えちゃうの。」
「んー、理由ね。好きだから、ではどうでしょう?
優しくする理由にならないかな? ああ、ちゃんと恋愛対象としてね。」
「良いじゃ無い、私は素敵な理由だと思うわよ?ねぇチカちゃん?」
「そんな、ボ、ボクなんか、呪われてるのに!」
「そこは関係無いわよ。気にする人は気にするけど、しない人はしないもの。」
「ですね、俺は気にしませんよ。
チカチーノは俺に好かれると迷惑か?」
「迷惑じゃ・・・ないです、でもボクは、どう、していいかわからなくて。」
「別にどうもしてくれなくて構わないよ。
俺が勝手にチカチーノを好きなだけだ。ああ態度は変えないで欲しいな。
逃げられると大変だ。ま、逃げたらまた追いかけるけど。」
「・・・・もう、逃げないよ。」
「うん、それで気が向いたら俺のとこにおいで。
呪われてても呪われてなくてもちゃんと大事にするから。
呪いを解く方法も探すよ。
俺は冒険者としてあちこち見てまわるつもりなんだ。その時に一緒に探してみるよ。」
「でも・・迷惑かけちゃうし・・・」
「俺がそう思わないからこんなことは迷惑にならないよ。
むしろ距離を置かれるほうが迷惑だな。
それにこう言っちゃ悪いけど俺は一夫多妻でいくつもりだから他に妻は娶る予定なんだ。
それでも良ければってことになるし、それなら少しは気楽じゃないか?」
「うん・・・ボクは長生きできないだろうから他に奥さんがいてくれた方が・・」
「それは駄目。俺のとこに来てくれるなら呪いは解く。
死ぬときは俺が先。俺の女房には死ぬときに手を握っててもらう予定。
そこは譲れない。」
手が2本で足りなくなる可能性は今は考えていない。
「あら素敵、良いじゃ無い、死が2人を分かつまでね。
一夫多妻なら私も、ついでにもらってもらおうかしら。
そしたらチカちゃんと家族になれるわね。」
「なんだそりゃ・・・・」
「あら、イゾウちゃんは私が普通に恋愛して結婚出来ると思ってるの?
自慢じゃ無いけどそれなりに口説かれたことはあるのよ?」
「あるなら出来るんじゃ?」
「兄さんを見るまではね、ハイハーイ私と結婚すると兄がもれなくついてきます。
あんなんでもこの世にただ2人の家族なの。結婚の許可を取らないわけにはいかないわ。」
「え・・・何か問題が? 別にギュソンさんいい人だと思うけど?
ちゃんとアニベルさんの結婚について考えてくれるんじゃ?」
「ほらみなさい、あなたずれてるわ。普通は兄が出てくると引くるのよ。
あの脳筋が認めるのは、自分と殴り合えるような男だけなんだから。
結婚の条件に自分より強い男とか言い出しかねないでしょ!
前にちょっと良い感じになった人がいたんだけど、兄を紹介したら逃げちゃったんだから。
普通の人は尻込みするんだからね!」
「あー・・・言う、かな~そんな非常識なこと? うーん。
言わないと思うんだけど、なぜか言わないとは断言出来ないや。不思議だ・・・
なるほど、アニベルさん、とてもかわいそうですね・・・
まぁまだチカチーノと結婚するって決まったわけじゃないし。そのついで、なんでしょ?
その辺はのんびりいきましょう。巡礼中に運命の相手に出会うかも知れないし。
行き遅れたら・・・・責任とって脳筋兄貴と俺が殴り合いますよ。
いや別に俺が責任取らなくても説得手伝えばいいんじゃないか?」
言わないとは思う。思うけど意外と結婚のタイミングで男って変わるらしいからなぁ。
娘を取られるような心境になられたらどうなるか想像も出来ない。
「娘はやらん!」とか言って殴ったり、お茶をかけたり、そんな話だけなら耳にしなくもない。
前世では晩婚化してたからあまり聞かなかったけど、たまにネットの中では見たことがある。
結婚を許すつもりはあるけど、相手の根性とか、本気度を見るためにあえて一度殴って追い返すとかな。
殴られた相手は、傷害事件だ、あんな頭のおかしい義理親はいらないと思い、
殴った父親は、なんだあの根性無しは、本気じゃ無かったんだな、となる互いに不幸な話に拗れる。
「行き遅れって言わないでー、止めてー、神殿じゃ早い子は15でもう結婚するんだからね。
兄も私も、育った神殿で散々結婚はまだかって催促されて大変だったんだから。」
「まさかそれで神殿を出たわけじゃないですよね?」
「・・・」
目をさっと逸らされた。
マジかよ。
巡礼の旅とは一体・・・?
「い、いいのよ私のことは!
それよりチカちゃん、チカちゃんよ!
どうするの?お試しで付き合ってみたら?別にすぐ結婚とかそうゆう話じゃないんでしょ?」
「まー、そうですね。そうゆうのは生活安定してからの話でしょう。
1年半は借金でギルドに拘束されているようなもんだから準備期間を下さい。
その間に安定させてみますよ。」
「ふーん、ちゃんと考えてるのね?」
「勿論ですよ。」
「えーっと、じゃぁ・・・お願いします。」
もう少し色々説明するつもりだったのだが赤面したチカチーノが静かに頷いた。
この日の最後に異世界に来て初の彼女が出来た。




