弱みをネタに飯を食う
クィレアをからかって満足した俺は次へと向かった。
残る班員は8人。
ビアンカにかっこつけたはいいが、女子の宿泊する宿舎には入れないので物理的に様子を見るのは無理かも知れない。ちょっと格好いいこと言い過ぎたかも。
散々言っといて出来なかったとかかっこ悪いな俺・・・
先に居場所を分かりやすい男の班員のところへ向かった。
ナードもギュソンさんも部屋で武器の手入れをしていたので少し話して退散した。
良い感じで気合いが入っている。
彼らは殺る気だ。殺る気満々である。
安心して任せられる。
これで残るは6人。
残る女子はどうしようか、と思いつつ訓練所を回る。
もしかしたら眠れなくて身体を動かしている奴がいるかもしれない。
一通り回ったがそんな脳筋女はいなかった。
これより俺の女子部屋への潜入ミッションが始まる。
まずはみかんの段ボールを用意して・・・と思ったら幽木女が女子の宿舎から出てくるのが見えた。
両手には鞘には入っているが短剣を持っている。
修羅場か、修羅場なのか。
俺は〝隠密〟のスキルを発動し闇夜に紛れる。
幽木女の後をつけると雑木林の中に入っていった。
その外見と相まってよく似合う。
藁人形に釘とか打ち付けだしたらどうしようか。怖くて漏らしてしまうかもしれない。
そんな面白展開にはならず少し木がまばらなところで短剣を振り回し始めた。
時々零す言葉を繋ぎ合わせると、どうやら昼間誰かにコテンパンにのされた事が悔しくて仕方無いようだ。
女相手に酷いことするやつもいたもんだな。
ただの練習なら見ていても仕方無い。
さらっと声を掛けて次の人を探そう。
そう思って少し離れたところでスキルを解除し、足音をわざと立てて近づく。
「なんだこんなところにいたのか? 自主練か?せいがでるのは結構だけど明日に響かないようにしろよ?」
我ながらわざとらしい。
「なんで・・・アンタがこんなところに・・来た?」
「探しにきたに決まってるだろ。怖くて震えてるんじゃねーかと思って心配してたんだけど、その様子じゃ問題無さそうだな?」
「ハッ、今更ビビることなんかねーよ。昼間オークよりも怖そうな男にどれだけやられたと思ってるんだ。明日はオークを殺して殺して殺しまくって、レベルを上げて」
「俺にリベンジね。ま、いいけどさ。
その分なら大丈夫だな? 他の女はどこにいるか知らないか?寝る前に様子を見ておきたいんだが、女子の宿舎に入れないからよ。お前が外にいて助かった。」
「え!?わざわざ探しに来たの・・・か?」
「ああ、寝る前に様子見ておきたかったんだよ、全員な。
昂ぶって寝られない奴もいそうだしな、誰かさんみたいに。
気持ちは分からないでもないけど早めに寝ておけ、明日キツくなるぞ。」
「オレ・・・を? 探しに?何でだよ、何が目的だ?」
「別にお前だけじゃねーよ。班員全員の様子を見ておきたいだけだ。
お前がどう思ってるかは知らないけど、オレが今1番優先なのは班長の責務なんだよ。
今日明日はそれを完璧にこなしたい。
ああ、その上でな俺の班が1番活躍したいんだ。
色々複雑かも知れないがそれには力を貸してくれ。」
「え・・・ああ、ちゃんとやるって言っただろ。そそそそれは頑張る、けどっ
オレなんか数合わせて味噌っかす扱いかと、思ってた。
でもちゃんと班員扱いしてくれるんだな・・・」
「何言ってんだか、班員は全員平等だ。
諍いはあったけど、自分から進んで俺の班に来たお前には心情的には感謝してるよ。粗雑に扱うつもりは無い。ちゃんとお前が班員として責務を果たしてくれるならな。」
「べ、別にそれはちゃんとするけどよ・・・
優しくしたからってアンタのことを好きになったりはしないからな!
オレの心はユリウスさまにのみ向いてるから」
「ああ、それは構わない。うん、全然構わない大丈夫だ。気にするな、心配するな、安心しろ。」
痛女はクィレアだけで充分だ。刃物系キチ女は俺の手に余る。ユリウス担当でいい。
「なんかムカつくのは気のせいか?」
「気のせいだな。あー、一応聞いていいか?なんでそんなにユリウスが好きなのか?」
一応な、確認だ。
これで将来安泰だとか、金目当てだったらユリウスにそのまま伝えてやろう。
馬鹿正直にそこまで言うとは思わないが、断るときに好きな理由をユリウスが自分で潰せれば、手札の1枚にはなる。
それを生かせるかどうかはユリウス次第だ、そこまでは責任もてん。
「ユリウスさまはお優しいだろ、オレなんかにも他と変わらず接してくれる。
そんな男は今までいなかった・・・」
オレも別に他と変えてないけどな。キチ女で一括り、ゴミはゴミ扱いだ。
平等だぞ?
「ふーん、突き放せないだけだけどな。おかげで今日俺が介入するハメになった。」
「お優しいから選べないだけだ。」
「その優しさのせいで俺に何人痛めつけられてると思ってる?
一応言っておくけどな、俺はユリウスの部下でも子分でもねーぞ?
いい加減周りによく言い聞かせておけ?」
「・・・・・・・」
「ああ、お前もそう思ってた口か?
ハッキリ言っておくが、例えユリウスと付き合おうが、結婚しようが俺に舐めた態度取ったら殺すからな?
別に俺の方はそれが理由でユリウスと揉めても構わないんだ。」
「・・・・・・友達だって、ユリウスさまは言ってたじゃ無いか。」
「女房が子分扱いするのを放置する奴が友達か?俺はそんな扱いした上で友達だって言われると腹が立つがな。」
「・・・オレにはよくわかんねーよ・・・」
「わかんなくてもいいけど頭には入れておけ。
で、結局お前らの中でオレはユリウスの下、扱いなわけか?」
「オレはもうそう思って無い。
でも多分・・・何人かは、アンタと、でっかい男、あと魔法が得意な奴3人はユリウスさまの部下みたいなもんで、ユリウスさまと一緒にいるから成績がいいんだって言ってる奴はいる。」
オレと、シグベルにノリックか・・・
「それはアレか、講習中一緒にいるからか?もし一緒にいたのが俺らじゃなくてお前らだったら、俺たちと同じくらいの成績を出してたとでも?」
「・・・今思うとそんな訳ねーって分かるんだけど。あの時はなんか本気で思ってた、ゴメン。」
「洗脳でもされてるのかよ、お前ら・・・・」
「ゴメン」
やっぱりお前も思ってるんじゃねーか。
「もういいよ、お前を別に怒る気はない。
忘れるから明日一緒に頑張ってくれ。宜しく頼むよ。」
班員の間はな。
終わってからは知らんぞ。
「ああ、ちゃんと・・・やる。もう戻るのか?」
「何かあるか?あるなら聞くよ。」
「何かっていうか、このまま戻られると少し・・・気まずい。」
「まぁそうか。じゃ少し話すか。ユリウスの話題は止めとこう。それ以外で何か、じゃーここに来る前の話でも聞かせてくれ。」
キチ女が人を刺した話とか当事者に聞くと面白そうだ。
その辺を突っ込んで聞いてみよう。
オラワクワクすっぞ。
「ああわかった。オレは昔な・・」
そう言って話し始めた内容は悲惨のひと言だった。
この女、その容姿からは想像もつかないが昔はふくよかな美少女だったらしい(自称)
そこを悪い男に目をつけられてお決まりの林間学校だ。当時12歳。
それをネタに毎晩呼び出された。それが2年ほど続く。
そして徐々に病んでいき、刃物に依存するようになった。
刺したのは本当の話らしいが、複数プレイの最中だったので互いに口を噤んだらしい。
以降男避けに刃物を持ち歩き、男を避けるために飯も食わない。
正確には食ったら食った分を吐いているらしい。
そのせいで胸が小さくなったらしい。昔はかなりデカかったと自分で言いやがった。
なんと勿体ない。
現在は17歳、ここ3年ほどその痛い姿で過ごしてきたらしい。
ついに親に放り出されて冒険者になりに来たと。
んー3年もその姿の子供を面倒見てくれたならば親御さんは悪くないと思うぞ。
俺なら即日放り出す。
問題は何故それを俺にべらべら話したのか、なのだが、「ユリウスさまはこんなオレにもお優しい。」
結局コレが言いたかっただけのようだ。わざわざ揉めそうだからユリウス以外の話題を探してやったのに全く無意味だった。
本当馬鹿だな、コイツ。
真顔でマジマジと見つめていると、視線に気づいたようだ。
さっきまで完全に自分の世界に入って全部ぺらぺら喋ってくれた。
不幸な自分。
それに手をさしのべる優しいユリウス。
困難を共に乗り越えたら周りが祝福するとでも?
気持ち悪いお花畑だな、それは絶対にありえない。
「な、なんだよ、オレなんか変なこと言ったか?」
失言にまだ気づいていないようだ。
「お前なんでその話俺にしたの? 俺が聞いてユリウスに黙ってると思った?」
俺はお前の味方では無い。
「ユ、ユリウスさまはそんなことで差別したりしな」
「差別はしないだろうけど、それを聞いてお前を選ぶとは思わねーよ。」
幽木女はハッとした顔になる。
「ユリウス当人はともかく、周りの人間がそれを聞いてお前を選ばせると思うのか?
お前以外のユリウスを狙ってる奴がそれを黙って聞き逃すとでも?」
「・・・・・」
「特に一緒に王都から来た元兵士の奴らは絶対に許さないと思うぞ。
下手したらもう近づけないようにされるかもな。
試しに話してみようか?」
「・・・・・・・なんでそんな意地悪言うんだよ、オレはアンタを信用して」
「信用? 会ったばっかりじゃねーか。ちょっと優しくしたらべらべら喋りやがって。」
「・・・・怒ったのかよ?そりゃ面白く無い話聞かせたかもしれないけどさ」
「違う! そうじゃない、そこじゃない。
お前、男に襲われたんだよな?なのになんでそんなに軽く話す?武勇伝だとでも思ってるのか?」
「・・・・・」
「お前は俺を正義の味方かなんかと勘違いしてないか?
ユリウスとは仲間だけど、別にユリウスに合わせて清く正しく生きるつもりはねーぞ?
ユリウスの部下でもなければ、お前の味方でもない。」
幽木女の顔はどんどん青くなる。元々青白い顔がさらに気持ち悪い。
「お前を苦しめた男と俺、どっちが悪い男だと思ってんの?
そいつらはお前に刺されたみたいだけど、俺を刺せると本気で思ってるのか?
お前が多少強くなったときに、俺がいつまでも今の強さだと思うか?」
「・・・・・・」
「どんな状況で刺したかまでべらべら喋っておいて、同じ状況でお前を抱くとでも思うか?
するなら両手縛ってからだな。抵抗できないように四つん這いにでもしてからするか。
なんなら手足を切り落とそうか?」
もう返事は無い。眼を見開いて地面の一点を見つめたまま震えている。
さぁ仕上げだ。
「黙ってて欲しいか?」
幽木女は震えながら頷いた。
★☆★☆ ★☆★☆
人間型召喚獣の手札が1枚増えたので彼女にはジスナを呼びに行かせた。
あの後も少し脅しはしたが最後に少し餌をあげて、顔色はいくらか戻った。
少なくとも明日の任務が終わっても使い潰すつもりはない。
今日慌てて手を出すつもりはないし、そこまで酷いことをするつもりも無い。
精々長く利用するつもりだ。
どう考えてもユリウスと報われる未来など有りえないから俺に使われるほうが有意義だ。
放置しておけば最終的にユリウスを刺そうとして周りに殺される未来しか見えない。
それを未然に防ぐのだユリウスにも彼女にも俺は感謝されるべきだと思う。
しばらく待ってジスナが来る。
餌をもらいに来る犬みたいな表情だ。
そこまで俺も鈍くない。
コイツは散々セクハラされたのに、俺なんかのどこがいいんだか。
トラウマがでかいんだろうなとは思う。
今夜は決戦前でどんな人間も気持ちが昂ぶっているだろう。
せっかくだから一気に攻めることにした。
今夜、同じ手段でもう一枚手札を増やす。
ジスナにはセレナとマナを呼んでもらう。
ジスナは元々そのつもりだったようで、拍子抜けするくらいすんなり従った。
聞けばなんでも話したし、特に脅かすようなことをしなくても従うと言う。
彼女のトラウマの相手は人間では無い。
恋愛も結婚も既に諦めているようで、自分は汚れていると平気で言い放った。
俺は別に問題無いと思ってる。
どこかの世紀末覇王じゃないが、汚れたままで問題無い。
格好いい物語の主人公ならそれを見捨てないんだろうが、生憎俺にはそれは無理だ。
トラウマを含め全てを抱えてやろうとまでは思わない。
トラウマの種を利用して生きる目的を与えてやるだけだ。
最終的に一通り(神様関係以外)の目的を話し、共犯者として近くにいてもらうことに成功した。
彼女はなるべく多くのオークを殺してから死ぬつもりだったと言う。
俺はそれにオークを絶滅させるから手伝えと答えた。




