虎梅
男が槍で突き殺したオークから投擲用のナイフを回収し、血を拭ってしまう。
肩で息をする男の肩を叩き、一緒に残る3人の所に戻った。
ライアスと女魔法使いの〝 炎の矢 〟の援護を受けて女講習生はオークを既に倒し終えていた。
だがそれだけでは満足いかなかったのか、目を血走らせ返り血を浴びながらオークの死体を手に持った片手剣で刺し続けていた。
異様な光景に俺たちの動きも止まる。
ライアスたちもどうしていいかわからないようだった。
「ちっ、どーするよあれ」
ライアスが吐き捨てるように言ってきた。
「やらせといていいんじゃねーの。
オークにトラウマでもあるんじゃね?吐き出させた方が後々マシになるだろ。」
「トラウマね・・・・なんか知ってるのか?」
「いや、知らん。知らんけどよくあるだろ。
村がオークに襲われたとか、オークに家族を殺されたとか。」
オークに犯されたとかな。そこから立ち直ったなら大した物だ。
「あー、なるほどな。俺の村も何度かオークに襲われたな。返り討ちにしてやったけどよ。」
「くくくっ、お前がいるとこに来るとは間抜けなオークだ。」
どうりでオークとの戦いに慣れていると思った。
2匹相手にライアスは余裕の対応だ。
持って産まれた強さかと思えば経験値も積んでいる。
「お前のとこに来ても返り討ちだろ?
聞かせろよ、なんか武勇伝あんじゃねーのか?」
「ああ、悪いな。俺ここの講習受ける前の記憶がないんだわ。
何かやってたんだろうとは思うんだけど、兵士に保護されるまでの事全く覚えてないんだ。」
「マジかよ・・・」
俺の過去を聞いてライアスですら言葉が出てこないようだ。
横で聞いている2人も驚いた顔をしている。
ごめんね、全部嘘なんだわ。内緒だけどな。
「それはそうとこれからどうするの?教官に報告に行ったほうがいいんじゃないかしら?」
女魔法使いが尋ねてくる。俺に聞くなよ・・・
「ああ、近くで見てるから落ち着いたら出てくるよ。それは置いといて先に隊列とか次にオークと戦うときの動きを決めよう。
毎度突っ込まれて行かれたらたまったもんじゃねえし。」
俺の言葉を聞いて3人は周囲を見回してキョロキョロ探し始めた。気づいていなかったらしい。
それで見つけられるなら俺もとっくに見つけている。
「マジかよどこにいんだよ。」と言いながら来た方向を眺めるライアス。
同じく2人もそちらに振り返ってしまい、話が進まない。
女魔法使いに袖を引っ張られて「どこにいるのか教えなさいよ。」と言われたが
来た方角のどこかに隠れている。としか言いようがない。
「意地悪しないで教えなさいよ!」と言われても
「視線を感じるからいるのはわかる。でもどこにいるのかはさっぱり見つからない。」が答えだ。
このギルドの教官はどいつも元高ランクの化け物だ。
駆け出しの俺たちに見つかるような間抜けはいない。
そうこうしてるうちに女の手が止まる。
怒りが身体を動かしたとしても、体力が無限に続くわけではないようだ。
疲れで手が止まった。
肩で荒い呼吸を繰り返しながら周囲を見渡し、項垂れて泣き出した。
それに気づいた3人がこちらに戻ってきたので、女は放っておいて改めて3人に話を振る。
「前と後ろをわけよう。お前ら弓の腕はどうなんだよ?」
「見ただろ、あんま得意じゃねーよ。」「同じく。」「私は魔法使いよ。」
「じゃ魔法は?どの程度届く?」
「火魔法は使えるが剣のが得意だな。」「風魔法が少し、だが時間がかかる。」「火と風よ。アナタの弓よりは短いわね、少しだけど。」
ちっ全員普通に魔法か使えやがる。俺はまだだってのに。
「前衛と後衛だったらどっち希望だ?」
「前だな、ちまちまやるのは趣味じゃねぇ。」「前衛。」「魔法使いだって言ってるでしょ。」
「あー・・・じゃ、提案だ。ライアスとそっちの彼が前衛で、彼女を中衛に置こう。」
地面に縦に〇を少しずらして2つ書き、1番前にライアスを、次の〇に槍の彼と指す。
当然槍が少し後ろになる。
その後ろに少し話して1つ〇。
「・・・ナードだ。 ナードと言う。」
そっちの彼呼ばわりが気に入らなかったのか、やっと自分で名前を言ってきた。
いや別に今日だけしか組まないからいちいち喋らん人にまで聞きませんよ?
「ナードね、宜しく。イゾウだよ。」 「・・・・知っている、宜しく頼む。」
名乗られたので名乗り返したらあっさり返された。なんで知ってるかなー、彼とは別に過去に揉めたことは無い。代わりに接点も無い。
ライアスも名乗り、足引っ張るんじゃねーぞとか言い放ち、ああのひと言で終わった。彼はライアスを相手にする気はないようだ。
ライアスもまたひと言多い。シグベルと似ている。デカイもの同士同族嫌悪って奴だと思う。俺はそのデカさが純粋に羨ましい。
話が合う感じといい彼ら2人は俺から見たらよく似ている。
「クィレアよ。魔法使いクィレア。覚えておきなさい。」
便乗して女も名乗ったので、ハイハイと返しておいた。
ぷりぷり怒っていたが真面目な話の最中なのでスルーだ。
「で、イゾウはどーすんだよ?」
「ああ、話を戻すか。2人の後ろを彼女にして中衛な。そのすぐ後ろに俺がつくよ。で後ろがこっちの彼女な。」
「クィレアだって言ってるでしょ。名前で呼びなさいよ。」
女魔法使いがプリプリ怒り、槍使いの講習生がうんうん頷いている。
そんなこと言われても知らなかったんだから呼びようがなかったろうに。
真ん中に書いた〇の斜め横、少し下げ気味に〇を書き、、少し間を開けて最後の〇を書く。
基本的には 2 : 2 : 1 システムだ。
ライアスは前で暴れたい、俺は効率良く経験値を稼いで女相手に良いところを見せたい。
ナードは槍だから場所を考える必要があるし、魔法使いも前にだせない。
泣いてる女は手札を知らん。今は話にならない。
「はいはいクィレアね。クィレアもナードも呼び捨てで呼ぶぞ。そっちも面倒だから呼び捨てで呼んでくれ。
話を進めるぞ、俺は最初弓で援護、クィレアは魔法な。彼女はその守り。で、また暴走しそうになったら俺が引き摺り倒して止めるさ。その為にも近くにいる。」
「ふーん、任せて良いのか?」
ライアスが言う。お前に任せたら殴りそうだから~とは言えない。
「ああ、突っ込まれるとやっかいだからな。俺が抑えるよ。
弓で最初に打ち込めば、逃げるか、向かってくるかになるだろ。初手は俺が。戦いやすい場所は前の2人で決めてくれ。」
「おう、弓で打ち込んどいて寄ってきたら切り殺すのな。」「了解した。」「私は魔法で近寄らせなければいいのね。」
そんな感じで打ち合わせは問題無く進む。多分暴走した女以外は考えられる頭はあったのだと思いたい。
だが女魔法使いから抑えつけることにはクレームが入った。
「ちょっと女の子相手にあんまり酷いことは」「ああ、鎧の上から抑えつけるだけにするさ。なるべくな。」
「そ、そうあんまり無茶なことは駄目よ、絶対駄目よ。」
文句があるならお前が抑えればいいのだ。多分それをさせると女2人が戦力外になるから言わない。
俺なら片手で引き倒せるし、ちょっとお触りまで出来る。鎧のせいで楽しくないけど。
「わかったわかった。暴走して変なことしなきゃ何もしないって。
で、先に2人がオークと交戦だけどな。俺も混じるから少し廻してくれよ。」
主にライアスに向かって言う。ほっとくと1人で全部殺そうとしそうだし。
「早くこねーと全部真っ二つにするからな。」
ライアスがにたにた笑いながら言う。脳筋は単純だ。
どうやら同意を得られたようだ。
「話は纏まったようだな。」
ブロル教官が姿を見せず空から声を掛けてきた。
「ええ、問題無く。」
他のメンバーは驚いているが俺は側に来ている事には気づいていた。かなり近くに寄ってからだったが。
いちいち説明する気は無い。そのうち来るとは伝えておいたし。
気づかなかったってことは彼らもまた、その辺りのスキルを持ってる奴はいないということになる。
一応確認はしておきたかった。自分の眼で。
教官に「イゾウは気づいていたぞ。」と言われたクィレアこと女魔法使いが「気づいてたなら言いなさいよ。」と脇を突っついてきたが放っておいた。皮の装備のおかげでくすぐったくも無い。
その後エクル教官が馬車を連れて合流した。
オークは食えるので馬車に乗せる。切り刻んだオークは正直食べたくは無い。
この間引きには、砦を越えて北上してくるオークの集団に合流させない事と、防衛戦を行う間の食料確保を兼ねているので贅沢は言えない。
オークは低能だが本能的に強い者に従う
集団を率いて砦を抜けてくるような魔物は、簡単に小集落を飲み込んでいく。
その後数回、オーク以外の獲物を狩って馬車一杯まで積み上げてから狼煙を上げてギルドの馬車を呼んだ。
その間、女の講習生は生気が抜けたような顔で項垂れているだけだった。
二度目の野営なのでしっかり食事も取ることになった。
狩った獲物を流用すれば食材には困らない。
火を起こし、水を汲んできて煮込めば食える。味は期待できないが、調味料が乏しいのが悔やまれる。
エクル教官が食べられる草を摘んできてくれたので、野菜も添えられた。肉と草しか食えないという野性的な生活なのだが、街にいても実は変わらない。
講習中は肉と草ばっかり食べている。
この街では
麦は貴重だ。米は存在すら確認出来ていない。
俺はこの機会にエクル教官から食べられる野草を教わっておきたかったが、男3人はブロル教官によって獲物の血抜きに廻されていた。
血抜きは大事だよね、でもおかしいな、俺の方が多分料理上手だよ。料理のスキルもあるし。
女だから料理がうまいとは限らない。女魔法使いが作った食事はあまり美味しくなかった。
「・・・・・ごめんなさい」
教官が見張りに入ってくれて、班員全員が食事を済ませ休憩をしていると、女の講習生が蚊の泣くような声で謝罪をした。顔は俯いたまま下を向き、表情は見えないが泣いたままでの言葉であろう。
全員聞こえていたが特に誰も反応しなかった
皆なんと言って良いかわからない。
俺も当然わからない。
何についての謝罪かさえも理解出来ない。謝るならちゃんとその辺も、な。
「は! 謝るんじゃねーよ、仲間のミスなんざ織り込み済み、起きて当然じゃねーか。
一緒に行動する以上、全員でカバーするのが当たり前なんだよ。だからいちいち謝んなや。
んなこと良いからてめーもいい加減参戦しろっての。」
ライアスがぶっきらぼうに言い放った。
一応ちゃんと考えてるんだと感心したもんだ。
「でも・・・・わたし・・・オークが・・・・」
「イゾウが言うには虎梅とか言うのがあんだろ?おーくによ。
次からはイゾウが止めてくれるつーから問題ねぇよ。」
ライアスは手のひらをひらひらと振りながら話は終わりだとばかりにそっぽを向く。
女は急に顔をあげてこちらを見る。
「なんであんた私の事知ってるの!?ストーカー!? キモい!!!」とでも言いたげな顔だった。
頭はボサボサ、顔は涙でぐしゃぐしゃでホラー映画の女の幽霊のように見える。
「トラウマな、トラウマ。よく知らんけどオークとなんかあるんだろ?
オークを見つけたら君の事いつでも抑えられる位置に動くからね?
次は突っ込まないで、弓でまず先制して迎え撃つから、おっけー?」
「あ、はい・・・迷惑掛けてごめんなさい。昔オークに」「ああ、辛いことは言わなくていいよ。聞くんなら帰ってからにしよう。馬車が見えた。」
話を聞いてあげても良かったのだが、俺の視界にはギルドの馬車が獲物の回収に来たのが見えた。
関係無い職員の前でまで昔何があったかなんて話さなくてもいいだろう。
俺を含む4人は立ち上がり、野営の場を片付けながら馬車の到着に備えた。
少し考え込んだあとに彼女もまたのろのろと立ち上がり片付けを手伝い始める。
二度の休憩を取り、昼飯を取った。
日が暮れるまでは狩りを続けるらしいのでもう2回か3回馬車に満載くらいは獲物を狩れるだろう。
講習生を殴るよりも、生き物を殺したほうがレベルの上がりが早いことをこの休憩中に確認出来た。
この機会にあげられるだけレベルを上げておきたい。
どこまでレベルがあげられるか楽しみだ。
初レビュー頂きました。ありがとうございます。
途中でぶん投げないように喧嘩稼業という漫画を手本に頑張りたいと思います。




