初陣へ
装備を整えて間引きという初陣に向かう。
班毎にギルド所有の馬車に乗り、第三南門を出て各地に散った。
予想通り馬車は狭かったが、操馬はギルド職員が行い、教官2人は馬での移動だった。
屋根の無い荷馬車に左右に別れて向き合って座る。
簡易座席がついているだけで荷車と変わらないのだがギルド基準では移動用の馬車だ。
自衛隊の乗っているトラックが羨ましく思える。せめて幌が欲しい。
俺とライアスが向かい合って座る。
デカイ奴が目の前だと圧迫感があり、さらに狭く感じる。
俺の横に魔法使いの女が座り、もう1人の女性がその横に座ったらかなり狭い。3人座ればきつきつだ。
ライアスの横は少し間が空いてもう1人の男。
正直あそこに座りたかった。
隣の魔法使いと密着出来て悪い感触では無いが、鉄の鎧を着けている女だったら鉄の感触しかしなくてもっと苛ついたかもしれない。
対面のライアスはよく喋るのだか、横の魔法使いは全然喋らない。微妙な雰囲気の中馬車は走った。
道中所々で教官の合図を受けて馬車を止める。
エンカウントせず、隠れている動物や小魔物を弓で射殺した。
班員はあまり弓が上手くなく、仕留めたのは殆ど俺の矢だ。
人は散々傷つけてきたが、生き物を自分の手で殺すのは初めてだった。
もっと動揺するかと思ったが、右目が少しだけズキンと痛んだだけで特に何も感じなかった。
一度殺してしまえばその後は何も感じる事無く矢を射続けた。
殺す事よりも、殺した獲物を馬車に積む方が心に来るモノがあった。
見た目もグロく、さらに血なまぐさい。
狭い荷台がさらに狭くなる。布を口に当てて耐えた。
中型犬ほどの大きさがある兎に、飛べない角の生えた鳥、兎並の大きさのねずみ。そしてゴブリン。
ゴブリンは小学校低学年児童くらいの背丈の汚い人型の魔物だった。
人型だともう少し躊躇するかと思ったが嫌悪感が勝った。躊躇なく殺した。
これを人と同じに考えるのは人に失礼だと思う。
ゴブリンは食えないので討伐証明の耳を切り落として火をつけて捨てていく。
つまりネズミは食うわけだ。
おそらく既に・・・・考えるのは止めておいた。
馬車に乗せるには厳しい数を殺したところで教官に促され、野営の準備をして軽い食事を作る。狼煙を上げ、順番に休憩を取る。
しばらくするとギルドの馬車2台がやってきて仕留めた獲物を回収して戻っていった。
今日はこの流れを繰り返すらしい。
殆ど俺が仕留めたおかげで右目に映るステータスのレベルが結構上がった。もう8になる。
スキルポイントは14P溜まっている。おそらく1レベル2ポイント入るのだと思われる。
差しあたり急ぐ物も無く、出先で慌てて失敗する愚行を犯したくないので今は保留だ。
それよりも何だかんだと隣に座る女魔法使いがうざい。
何度か乗り降りしてるのに必ず俺の横に来る。
おかげでその横にもう1人の女が座るためにいつも3人席で狭い。
ライアスの横に座りたくないのだろうが、横に来ても全く喋らないのでちょっとうんざりしてきている。
昨日のビアンカの件が無ければこちらから話しかけても良かったのだが、なんとなく女に話しかける気分じゃ無かった。
女魔法使いと話さなくても、ライアスが結構喋りかけてくるので話し相手には困らなかった事もある。
野営中も、俺とライアスを向き合わせてその背後に3人が陣取るような配置を自然と取るために、この女俺に惚れてるんじゃねーの、という勘違いをすることは無かった。
1つ発見があった。隠れている魔物も一部は赤く見えたのだ。
つまり殺意があることになる。
考えてみれば 殺意が有る=すぐ向かってくる わけでは無い。
魔物の中にも殺意がある、つまり本能で人間を殺すような意志があるくせに、逃げる、隠れる選択肢をとる奴がいることがわかった。
場合によっては不意打ちを食らうので周囲はよく見るようにしようと思う。
そして赤く見える魔物は必ず殺さなければならない。
休憩が終わり、再度狩りに出る。
しばらく獲物を狩りながら進んでいたが、2人の冒険者が現れ、そこで止まる。
「報告ではこの先にオークが7匹いる。オークは狡猾で自分たちより多い人数で近づくと逃げてしまう。お前たちだけで倒して来い。
なに、上位種の混じらない野良オークだ、講習通りやれば充分対処出来る。」
そうブロル教官に言われ送り出されてしまった。
特に講習生内で話し合う間も無く、声を出さないように音を出さないように移動し始める事になった。
俺としては打ち合わせくらいしたかった。
特に魔法使いのコスプレイヤーがいる。
コスプレなんて概念は無いだろうから見た目通り魔法主体の戦い方をするのだろう。
前と後ろで意思の疎通が必要だ。
必要な筈なのに当の魔法使いも含め4人はやる気満々で勝手に先に進んでいった。
仕方なく少し呆れながらも、後を追った。
合流した冒険者に教えられた通りに進むと話通りにオークがいた。
先に見つけたのはこちらだ。アドバンテージが有る。
弓で何匹か射殺して数を減らしてやろうと思ったのだが、鉄鎧を着た女が雄叫びのような声をあげて飛び出していった。
つい呆気にとられて呆けてしまう。
「おい、マズイ、行くぞ!」
ライアスが声を掛け残る班員全員で飛び出して追いかけた。
我を忘れたように声を張り上げてオークに特効する女。
オークは舌舐りをして突っ込んでくる女を迎え撃とうと身構えていた。
弓だ、先に弓で射殺す。
そう考えたがオークは7匹
連射速射が出来ない自分には出来ても1匹殺すくらいだ。あまり状況は改善しない。
その間に残りのオークに女は潰されるだろう。オークは人間の女を好んで襲う。
「俺の前で豚に譲るか。ばーか。」
転生して強化された脚力をフルに生かして走り出す。走り出した班員より、錯乱している女よりも俺のほうが足が早かった。装備の差もある。
倒れそうなほど前屈みになりながら全力で走り抜けた。
声を張り上げながら走る女を追い越して、オークの前に到達する。そして走りながら取り出した投げナイフで手前から2匹のオークの目を狙った。
自ら突っ込んでくる〝人間の雌〟に狙いを定めていたオークたちは突然現れた俺に困惑したが、一斉に襲い掛かってきた。右端の一匹を遅れて到着した女講習生にぶつけ、顔を押さえ蹲る二匹を尻目に残る四匹に片手剣を向けて牽制する。4 対 1でも大きく崩れることはなく渡り合えた。
ここまで鍛えてくれた教官に感謝だ。
あとは残りの3人が到着したら順次任せればいい。俺は残ったオークを確実に殺す。
そう考えていたのだが、眼を潰したオークがいきり立ち、右端のオークと戦う女講習生に向かって突如突進していった。
それを目にし、反射的に身体を翻して動き、頭から突進しようと突っ込んでいくオークの手前に動きタイミング良く首と胴体を片手で力一杯に断ち切った。
突っ込もうと前に動いたオークを俺の片手剣が一太刀で両断する。首と胴体の別れたオークの死体が転がった。
これによりオークの数は7から6へと減少する。
だがオークを両断するために動いた俺の後をオークもまた追って動いていた。
先頭のオークは片手剣を振り下ろした俺に肉薄し、斧を振り上げ迫る。
このとき斧を振り上げさえしなければ俺は1手遅れただろう。残る左手で盾を操り防げはしただろうが、後手後手に回った可能性が高い。
迫り来るオークの悪臭に耐えきれずオークの鼻先に向かってカウンターで頭突きを叩き込んだが為に後ろに弾け飛んだオークが後ろに来ていたオークを弾いて飛ばし、再度睨み合うことになる。
「イゾウ1人でやるな!寄越せよ!」
そしてそこにライアスたちが駆け込んでくる。
鉄の装備一式に身を包んだ2人は勿論、魔法使いの女もまた息を弾ませながらの遅れた到着だった。
「左から殺してくれ、こっちを庇う」
右手の先でオークと戦う女講習生を庇うように左手で盾を掲げながら移動し、声を上げ手前のオークに斬りかかるライアスの動きを眼で追っていた。
ライアスがそのまま二匹のオークを相手取る。大剣を振るい二匹と一気に交戦状態に入った。
残る三匹のオークは魔法使いの女を見て、一気に欲情し襲い掛かった。
股間のエレクトした一物が見苦しい。
下半身が突撃体勢のまま女魔法使いに向き直り、突撃する三匹のオーク。
それに向かい盾と槍を挙げて身体ごとぶつかっていくもう1人の男の講習生。
一匹のオークとぶつかり、共に倒れそのまま揉み合って争う。
魔法使いの女は魔法の詠唱に入った。
それを見てさらにいきり立つオーク。
(あれは間に合わないな・・・)
もう1人の女講習生と切り結ぶオークの太ももに横からスッと片手剣を突き刺して、女魔法使いに迫るオークが自分の目の前で重なるタイミングで走り込み横蹴りで二匹纏めて蹴り飛ばした。
運悪く眼前までオークが迫っていた女魔法使いは、詠唱を中断し驚いて止まっている。
「悪いな、遅れた。あれ焼き殺してくれ。」
そう言って女魔法使いの肩をぽんぽん叩くと、一瞬ビクッと震えた後に動きだし
「べ、別に助けてなって言って無いんだからね! 自分でなんとか出来たんだから!」
と喚いた後に、そこそこの大きさの 〝 火 球 〟の魔法を作り出しオークを二匹纏めて焼き殺した。
おかしいな、さっきまではその魔法よりも下位の魔法 〝 炎の矢 〟を必死で詠唱してたのに。
出来るならさっさとやれっての。
「女に譲ってやるとはイゾウは甘めぇな・・・」
二匹のオークを大剣でザックリ斬り殺したライアスが近づいてきて言った。
女魔法使いも肩で息をしながらゆっくり歩み寄ってくる。
「俺は大概女の味方だぞ。」
「ふーん。で、あっちはどうするよ?」
今も交戦中の残る2人を指して俺はライアスに問うた。
俺が一匹、ライアスが2匹、女魔法使いが二匹。
班員としては一匹づつ譲ってやるのが筋かと思う。
ここに来てからずっと自分たちが歩いて来た方角から視線を感じている。
おそらく教官たちが隠れて見ているはずだ。
〝隠密〟のスキルのレベルが高過ぎて見つけられないが。
残る2人はどちらも苦戦している。
特に女の方は俺が片手剣を突き刺してなければとっくに組み敷かれて犯されかけているだろう。
それはそれで見物だが、面白くは無い。
オークにさせるくらいなら自分がしたいのが本音だ。
「ま、この先何度もあるし、今回は援護するか」
女の方に襲い掛かっているオークの足が揃うタイミングで、自分が刺した片手剣の柄の尻を踵で蹴り込み両足を串刺しにする。
振り向いて投擲用ナイフを抜き、男と戦うオークの武器を持つ手の肩に投げ込んだ。
〝氷の眼(劣化)〟の狙いアシストもありどちらも綺麗に決まった。
「おぉやるじゃんイゾウ!」
「えぐいわね・・・」
ライアスは嬉しそうな声をあげ、女魔法使いはどこか嫌そうな声をだした。
「ナイフ回収がてら男の援護をするからこっち危なくなったら頼むわ。」
「おう。」
「わかったわ」
返事を聞いたあと、先に投げたナイフを回収しつつ男の方に向かった。
俺が到着すると同時にオークの喉を男の槍が貫いた。




