イゾウ裏手帳 ④ 魔法課の超劣等生
魔法の話をしよう。
この世界での魔法は魔法媒介を通して発動する。
魔法媒介は俺の持つ魔法使いのイメージ通りで杖が多いが、作りとしては魔法金属と魔法石の2つを組み合わせて作られている。
魔法金属は増幅装置、魔力を増幅して流し魔法石に伝える役割がある。
魔法石は発動装置。魔法が魔法の形として発動するにはこの魔法石が必要だ。
魔法の強さはその大きさや質に強く影響される。
少し強引だが魔法を車で例えると、魔力を持つ人間がエンジン周辺だとして、魔法石が地面に直接触れているタイヤ廻りだと考えられる。
魔法金属はエンジンのエネルギーをタイヤに伝える機構に相当するだろう。
エンジンが載っていない車はガソリンを入れても動かない。
タイヤのついていない車は走れもしない。
内部機関がイカレた車は不動車となる。
人間だけが残っていても魔法は発動しないのだ。
たとえ〝氷魔法〟という〝先天性才能〟を持っていて〝 魔力 Ⅶ 〟という超弩級のエンジンを積んだような俺も例外では無い。
魔法の講習が始まってすぐに〝初心者用の魔法杖〟を4本壊した俺は〝杖〟を使った練習を禁じられてしまった。おかげで魔法講習の実技時間は1人で瞑想をして自身の魔力を高めるしかやることが無くなってしまった。
おかげで自身の魔力と向き合う時間が長く取れて〝魔力操作 Ⅰ 〟のスキルがとれたことは怪我の功名だろう。
その魔法を覚える方法だが、大きく分けて2種類しかない。
自力で覚えるか、金で買うか、だ。
講習で習うのは勿論自力で覚える方法だ。
自力で覚えれば金も掛からない。
教官や講師が手本をみせ、それを真似するという理論もクソもない低レベルな講習で各自覚えなければならない。魔法課目においての指導は見本をみせてくれるだけだ。あとはセンスがあるかないか、魔法とはそんな世界らしい。出来る奴は実際にそれで出来るようになる。
講習内では出来た者が優遇され、出来なかった者は冷遇される。
ユリウスのように出来る者は教官がついてさらに上の魔法の見本を見せられてそれに挑戦する。
俺やシグベルのように上手く発動しない者は隅に追いやられ各自で励むことになる。
特に〝魔力 Ⅶ 〟の俺と、〝魔力 Ⅵ 〟のシグベルはその期待値からか、出来なかった後の冷遇は酷かった。そのおかげでシグベルとの中が深まったともいえるが、俺たちが魔法課の教官や講師を嫌うには十分な理由だろう。。
人は共に苦労を重ねると仲間意識が強くなる。
魔法分布としては、光魔法と火魔法の使用者が多いらしい。
ついで風魔法。そこから急に数が減って土魔法、最後に水魔法だ。
これはおそらく信仰者が多い〝神〟の影響だと予想している。
俺が会った〝氷の神〟は自分がいたらず〝氷魔法〟の使い手はほとんどいないと言っていた。
逆に考えれば使い手が多い = 信仰者が多い となる。
他の神を探せという指令としては会える可能性が高いのは信仰者の多い神になる。すくなくとも存命でバリバリ元気に活動している可能性が高い。そこを期待して探すのは後回しで良いと思う。
優先するのは信仰者の少ない〝宗教〟だ。急がないと消えてしまうかもしれない。
土と水、この〝概念を司る神〟が消えた世界で生きていく自信は無い。
特に多いのは〝光の神を信仰する宗教〟だ。
各街に神殿があるほど隆盛らしい。総本山にでも行けば〝光を司る神〟はきっと手厚く祀られていることだろう。
転生したての若造がそんなとこに入れるとは思えないから当然放置だ。
誰か知り合いが勇者にでも成ってくれたら、その従者の振りでもして忍び込めばいいのだ。
駄目でも、自分の名前を売った後に、教官長のコネでも使えば何とでもなるだろう。
そして魔法を買う方法だがこの神殿に行けば売ってくれる、もしくは信者になれば教えてもらえるらしい。
ただし光魔法限定らしい。他の属性はあまり市場に出ないと聞いている。
魔法自体の売り買いはこの世界では一般的で強い魔法使いならば可能らしい。
この場合の〝魔法使い〟は魔法を〝使える者〟を指す。
職業での自称の魔法使いでも30過ぎた童貞の事でもない。
職業は何でもよく、強い魔法を使える者ならば売り買いが可能になるらしい。
つまり神殿には〝強い光魔法を使える者〟がいっぱいいることになる。
陰険な俺には眩しいところなので必要以上に近づきたくないところでもある。
ただし、俺が訓練でよくお世話になる教官たちが使う〝初級の治癒魔法〟は、〝光の回復魔法〟という。回復手段が必要ならば神殿に出向く必要はある。
可能ならば攻撃魔法よりも回復魔法を優先して覚えたいのが俺の本音だ。
〝氷魔法〟だとか何魔法だとかは問わない。贅沢言う気はない、使えるのを使う、それだけだ。
傷だらけで戦い続けるなんて馬鹿のすることだ。
回復手段を得て初めて無茶が通るのだよ。
魔法が使えなくても攻撃手段には困っていない。むしろ今後さらに増えるだろう。
攻める手段も大事だがそれと同じかそれ以上に守る手立てが大事だと思う。
残念ながら講習では 〝初級攻撃魔法〟しか教えてくれない。
今回の講習では、光と火と風の3種類のみだ。
理由は簡単で講師がそれしか出来ないからだ。
回復魔法が使える奴は治療院に勤めるほうが稼げるらしい。
講師の依頼を受けるのは駆け出しを抜けた〝芽の出ていない魔法使い〟が殆どだと師匠たちから聞いている。
講師の仕事は期間中は安定しているが、三ヶ月に一度しか無いので、訳ありかそこそこの冒険者が多いらしい。強い冒険者、凄い冒険者は名前の通り冒険した方が稼げるのだと。
パーティが休暇の間の一稼ぎとか、新しいパーティを探してる間の繋ぎとかで働く人もいるので中には当たりもいるらしい。だがそこまで期待はしない方がいいだろう。
きっと弓講習のハーフエルフ講師のことだと思う、美人だし、美人だし。大事な事なので(略
困ったときの師匠頼りで〝光の回復魔法〟を教えてくれとねだったことはあるのだが、買った魔法は教えられないらしい。よくわからないが難しいようだ。
つまり講師になる最低限度の条件は自分で魔法を覚えた者だということでもある。
毎日瞑想するのも飽きる。俺は初日で飽きた。
それでも毎日しっかりやっている。継続はセックスなりだ。
自分の魔力は何となく探れたので、隣でうんうん言いながら瞑想するシグベルに声を掛けた。
「なぁシグベル、お前の魔力を探ってみたいんだけどやってもいいか?」
黙ってやっても良かったのだが、やってることが相手に伝わった場合、嫌な気分になられるかもしれない。
念のため断ってからにする、まさか駄目とは言うまいね。
「俺の魔力を?探れるのか?」
「いやだからそれをやってみたいのさ。出来たらすげえじゃん。」
「別にいいけどよ。じゃー俺もイゾウの魔力を探ってみるか。」
「おう、やれやれ。もし見つけたら教えてくれ。」
そんな感じで2人で互いの魔力を探り合った。
これが意外と楽しかった。
俺もシグベルも魔力が高いので互いの魔力はすぐ見つかった。
どうせ魔法の講習中は暇なので、その魔力を操作して、互いに見つけ合う遊びを始めたのだ。
手のひらに魔力を集めて押し合ったり、どこに魔力を集めているのか見つけ合ったり、遊びの要素が入っていると燃えるから不思議だ。
最初は隣り合っていないと見つからなかった相手の魔力が、少しづつ離れても解るようになっていった。
だが魔法の発動の練習はしないので、魔法は相変わらず発動しない、当然だろう。
杖を取り上げられた俺は勿論だが、シグベルもアホらしがってやらないようになっていった。
毎日シグベルと魔力を互いに探り合っていると〝魔力操作〟のレベルが上がり、〝魔力感知〟 のスキルを得た。
全て俺の計画通りだ。
と、いうのは勿論嘘なのだが、良い練習方法をみつけたと誇れるだろう。
一度この遊びにユリウスも巻き込んだところ彼もすぐに出来るようになった。
それ以来彼も一緒に隅っこで瞑想しながら練習するようになった。
教官に呼び出されても断るようになる。ユリウス曰わく、魔法の見本はお粗末で、くだらない自慢話と自派閥の勧誘が延々と続くらしい。
言われてみれば行くたびに嫌な顔して帰って来ていた。
そんな講習生活が2週間も経つ頃1人の男が俺たちのところに逃げ込んできた。
名前は 〝 ノリック 〟
なんでもユリウスと共に教官のつまらない講習を受けさせられていたのだが、一緒にいたユリウスが逃げたせいで無駄話がさらに加熱したらしい。
我慢して聞いていたがついに嫌気がさし、ここで一緒に瞑想してたほうがマシだと教官に啖呵を切って逃げてきたという。
「頼むよ、頭に来て結構色々言っちゃったから他に行くとこないんだ・・・」
そう言って泣きついてきたのだ。
特にいまさら、魔法課の教官に睨まれても大した問題にならないので受け入れることにした。
この男、講習開始前の検査で〝 魔力 Ⅷ 〟を叩きだした俺よりも高い魔力を数少ない持つ男だ。
〝魔力 Ⅷ 〟は彼ともう1人しかいない。
そのもう1人は講習に来る前は普通の町民で魔法が使えなかった。なので今現在魔法課の教科長一派に手厚く指導されている。
俺と違って素直な良い子ちゃんだから可愛がられているのだろう。ああ、俺たちと違ってか。
俺もシグベルも冷遇されているから魔法課の教官にはかなり態度が悪い。
ユリウスも態度こそ悪くないが、最近は指導を拒否している。
そして逃げてきたノリック。
前世の学校だったら問題児の集まりみたいなもんだろう。
そんな集まりだからかノリックともすぐに仲良くなった。
3人組は4人組になり、ノリックもまた武術の講習を一緒に受けるようになる。
魔力も高くて、武術も強い男がこうしてまた1人増えるのであった。
事実俺たちと合流以降、ノリックは凄い早さで武術の〝認可〟を進めることになる。
やっぱり情報共有し、切磋琢磨出来る仲間がいると違うと思った。
講習開始から3週間もする頃、何故か俺たち4人の魔力は目に見えて高まっていた。
魔法課の教官だけでなく、武術課の教官にも指摘されたほどだ。相当だろう。
俺も毎日実感していた。
自分だけで無く他3人も魔力が強くなっていくのだ、気づかないはずがない。
こっそり師匠たち3人には相談してあり、毎日その訓練を続けるように指示は受けていた。
試しに師匠たち内でもやっているらしいがそちらでは大した成果がでていないそうだ。
俺は有ることを思い出した。
〝氷の神〟の最後に言った言葉のひとつだ。
『わたくしを受け入れた貴方ならば必ず氷の魔法に目覚めるはずです。魔力を磨きなさい。わたくしの魔力を感じられる者を愛しなさい。共に魔力が育つでしょう。』
前半はまだだけどね・・・まさかこれって愛のなせる力?
ではなくて〝魔力を感じられる者〟の方だろう。それが〝共に魔力が育つ〟に掛かっているのかもしれない。
だとしたら大発見だ。
魔力が高い人間を俺は量産出来ることになる。
これは色々試してみなければ。




