やがて敵対していく人間関係 元兵士組②
「てっきり1人で待ち構えているかと思ったら3人ですか・・・」
呼び出されたときに確認するべきだった。
人数は名言されていない、俺のミスだ。
こちらも何人かで来るべきだったか
「すまないな、こちらにも事情があってな。4人で話をしたい。」
俺が元兵士の女講習生を殴った事に端を発した、このいざこざは頭を下げた事で向こうも一度矛を収めてくれた。
だが現在再度呼び出され、此処にいる。
「話ねぇ・・・」
てっきり指導員だったという元兵士の男とサシでやりあう場なのだと思って来ていた。
女を2人も巻き込むとはこいつは、とんだクズ野郎だと思う。
一度話を纏める。それに不満を持った男2人が別所で合流して殴り合う、という何とも燃えるストーリーを期待していた。
そんな期待はあっさり裏切られた。
精々派手に暴れてやろう。前回の宣言通り3人ともに後遺症が残る程度の怪我はさせてやろう。
そう覚悟を決めて戦闘態勢に入る。
目を細めながら薄く笑いながら静かに殺気を高めていく俺を見て、指導員だった男が慌てて声をあげた。
「待て、待ってくれ。本当に話がしたいだけなんだ!」
その表情は殴って廻った雑魚と同じ『なんでこいつ真面目に話してるのに全然聞かねぇんだよ!』という表情をしている。
顔見知りの相手が、話を聞いてくれないのは、日頃の行いのせいだろうと俺は思う。
そんな彼の無様な表情を見て、俺の頭は少し冷めた。
完全に信用したわけではないが、話をしたいというので場所を変えることにした。
俺が指定した場所は師匠たちの仮眠室。
ここでなら最悪戦闘になっても誰かが駆けつけてくれる可能性が高い。
3 対 1 でも粘っていれば光明が見える場所だ。
むしろ師匠の誰かが仮眠を取っていて、寝ているところを起こされて不機嫌に暴れ出す可能性も高い。
別に寝起きに何かされたということは一回も無いのだが、俺の勝手なイメージだったりする。
以外にも素直に受け入れられ、ソファーに座ってお茶を飲む。
当然お茶は俺が入れた。
と言いたいところだが女兵士の1人がやってくれた。
容姿としてはゴリラ系の女だと思っていたが女子力が高くて少し驚いた。人は見掛けによらない。
自分で入れるより遙かに美味しかった。
お茶もまた奥が深い。
残念ながら前世でもその辺の知識はさっぱりだ。
少しくらい興味を持っておけば娯楽の少ないこの世界で、楽しめたのかもしれない。
ちなみにこの部屋での話合いを指定したのはもう一つ理由が有る。
話合いをしたいが本当だったとして、当然互いに一切口外しないことを約束している。
俺は基本的に約束は守る男だ。
ここでなら師匠の耳がある。俺が口外する必要はない。
俺に〝隠密〟のスキルを教えたのは誰だって話だ。当然3人とも持っている。
俺に出来なくても、師匠たちならこっそり話を聞く事が出来るだろう。
やるかやらないかは師匠の判断になるが。
最も約束を守るかどうかは、最終的には相手次第だが。
信用出来るかどうか、そこに尽きる。
「まずは礼を言いたい。引いてくれて助かった、ありがとう。」
そう言って3人で頭を下げた。
「信じてもらえないかも知れないが我々は君と敵対するつもりもない。確かに仲間が殴られたことに憤ったが謝罪を受けたことで水に流す。そこは信じて欲しい。
ただユリウスについては過敏に反応する理由があるんだ、それを聞いて欲しい。」
「反応する理由ですか・・・それは俺が聞いてもいいんですか?」
「ああ、率直に言えば君が今してることに巻き込んで欲しくない。コレに尽きる。
なのでちゃんと話しておこうと思ってね。」
「なるほど・・・」
つまり俺の雑魚狩りにユリウスを巻き込むなって事か。
それは解せぬ。巻き込んだのはそっちの仲間だ。
「俺も巻き込むつもりは無かったんですけどねぇ・・・でしたら間に入るのは止めてもらえませんか?
今後俺絡みで何かあっても間を取り持たないで欲しいんですよ。ユリウスも含めてね。」
「ふむ、確かにその方が良さそうだね。ここにいない二人にもユリウスにも伝えておこう。
しかし・・・まだ続けるのか?」
「ああ、もう直接言われなければやめますよ。
それとは別にどうも俺舐められやすいみたいなんでね。また揉め事を起こすこともありそうなんで・・」
「そうか・・・程々に、な。
それはそうと、もし間に入るように頼まれたら何と返すのが良いだろうか・・・・」
「その場合自業自得だって突き放してもらうのが有り難いかな。できれば頭を下げに行くように促してもらえると話が早くなる。そして講習中とか食事中とか衆目の前で土下座でもさせるのが最高ですね。
そこまでさせたら他の奴らが皆ビビって競って頭を下げにくるでしょうし。」
「・・・・善処しよう。」
「ま、そこまでしてもらわなくても、陰口をたたいてる奴に軽く注意して終わりにしてくださいよ。
大事なのは間を取り持たないことではなくて、ユリウスを巻き込まない事でしょう。
こっちはこっちで自分のケツは自分で拭きますんで、巻き込まないで放り出してください。」
「・・・それは今回のことで承知した。君の方で巻き込む意志がないのなら・・・それでいい。
我々も色々事情があるのだが、ユリウスのことを少し伝えておきたい。
説明をしたいのだが全て話すと長くなってね。出来ればどこまでユリウスから彼の話を聞いているか教えてくれないか?」
「んー。そこまで詳しくは・・・・親が病気な事、おかげで金が無いこと、勇者を目指していること、今は恋愛をする気が無いこと、そんくらいですね。」
「そうか・・・はっきり言おう。ユリウスが勇者を目指しているのはユリウスの意志では無い。
家の方針・・・とは言い難いな。簡単に言ってしまえばユリウスの実家は槍の使い手として有名な名家だ。
だがただの家では無く、その上に貴族がいる家でもある。
その貴族の命令である・・・と言えば解ってもらえるかな?」
「・・・・そうですね、何となく。」
「何をしたいのか、何故そんな指示をだしたのか。
それは末端には知るよしも無い話だ。
今回父親が倒れた件、当初はユリウスの兄2人が冒険者になるハズだったんだ・・・・
だがな・・・」
そこからは酷い話だった。家族で話し合ったはずの結論に貴族が介入する。
ユリウスは外に出させた。
彼の予想では、家間のパワーバランスの問題らしい。
上にいる貴族も一枚岩では無い。その下の貴族家では無い家は尚更であろう。
ユリウスが当主になってユリウスの家が力をつける。
それを良しとしない派閥があり、彼らがが上を使って妨害したのだろうという。
ユリウスには家を継がせず、勇者を目指させる。
別に失敗しようが、特にだれが痛いわけでもなし。
実家が丸ごと人質みたいなもんだ、ユリウスなら逆らえまい。
上手く行ったならば丸儲けだ。その貴族に大きな利益が転がり込む。
そんな事をオブラートに包んで長々と聞かされた。
「と言うわけだ・・・。
そこで確認したい、君はユリウスとパーティを組むこと拒んだと聞いている。理由を聞かせてもらえないか?」
「んー装備が無いとか金が無いとか自由が無いとか色々あるんですけどね、結局俺は自分の好きなように生きたいんですよ。ユリウスとは友達になりたいだけで。
仲間として行動したいわけじゃ無い。」
「それは違うのか?」
「全然違いますよ。たまに一緒に仕事するくらいならいいけどね。
話し合って次は何をするかなんて決めて生活するのは息苦しくてまっぴらだ。かといって誰かの指示を聞いて過ごすのも御免なんで。」
有り体に言えばユリウスの下につく気は無い。そう伝えているつもりだ。
ユリウスはいい奴だし、凄い奴だとは思う。
だけど下につこうとは思わない。
ユリウスを勇者にするためのパーティなんて参加したら完全にユリウスの配下じゃねーか。
別にこれはユリウスに限ったことではない。
そんな人生は御免だ。
仮に俺に出資してくれるスポンサーがついたならな、その意向にくらいは沿うくらいはする。
でもそれ以上しようとは思わない。指示を五月蠅く出すのならそんなスポンサーもいらんのだ。
今の苦労は好きに生きるための苦労だ。弟子入りしたのも訓練に励むのも全て後で苦労しないためだ。
「そうか・・・イゾウも勇者を目指しているのか?」
「いや全然。興味ないですね。
それは好きに生きるという俺の意志に反しています。」
勇者なんて俺の中では馬鹿な鉄砲玉だ。そんな存在に成る気は無い。
「だがユリウスとパーティを組む気はないか・・・・」
「何か問題でもあるんですか?」
「正直にいえばユリウスとパーティを組んで欲しく無いと思っていたよ。今日までは。」
「ああ、なるほど、考えなしの馬鹿だと思っていたんでしたっけ?」
「・・・・・・それについても謝罪しよう。すまなかった。」
3人一斉に揃って頭を下げる。
綺麗に揃っているが練習してたのか?あんたら。
「別にいいですよ、腹を割って話す機会なんて無かったですからね。
少しは見直されたのかな?」
「話が出来る男だとはわかった。だがそれ以上にユリウスを庇ってくれただろう?
そうゆう君にこそユリウスに付いていて欲しいと思ったんだ。」
そういえばユリウスを庇った。
それは悪いのは俺なのに、ユリウスが責められる事を良く思えないからだ。
ふむ、そういえば俺も悪くない、悪いのはあの馬鹿2人だ。
「ユリウスと組むのが嫌なのは理解したがそこをあえて頼みたい。ユリウスが勇者に成ることに手助けしてくれないか?」
また3人揃って頭を下げる。何度も下げた頭は、その価値は下がる一方なんだけどね。
「パーティは組みません。だけど勇者に成る手助けは構いませんよ。
元々ユリウスともそうゆう話はしていますし。」
半分酒の席の戯れ言のつもりだったけどな。ちなみにシグベルともしている。
俺の廻りから勇者が一杯誕生してしまうぜ。
その後はしばらくパーティ結成を説得されたが、断固として拒否した。
「ではせめて手助けはお願いしたい。」
「お願いはされません。ユリウスとの友情で勝手にする予定です。
なのでお三方の指示も聞きませんよ。」
俺に言うことを聞かせたかったら、ね。金だよ金。
「指示ではなくお願いならどうだろうか?」
「お断りですね。友人以外の他の無を無償で聞く気はない。」
語尾を強めて宣言する。
その貴族の派閥になし崩し的に引き込まれるのは御免だ。
これはちゃんと宣言しといた方が良い。その貴族に対して敵対宣言になる危険性もあるが。
「お願いを聞いて、ユリウスを勇者にしたい貴族と繋がるのは御免ですよ。お三方はその手の人間なんでしょう?」
「・・・・やっぱり気づくか。そうだな、正確に言えば私は違う。
私は私の事情で兵士を辞めている。」
「そちらのお二人は違うと・・・・」
「ああ、ユリウスと同じさ。
上からの命令で冒険者になった。『勇者に成るユリウスを補佐する』使命を持っている。」
「そりゃー大変だ、つまり俺にユリウスとパーティを組ませて、そちらの二人を組み込ませようとしたわけだ。」
「その通りだ。」
悪びれもしないでやんの。
「俺に何のメリットが?」
「勇者になるユリウスとパーティを組むんだ、メリットしか無いだろう。」
お話になりませんな。
駄目だこいつら。
面倒になったのでその後の話は適当に打ち切った。
ただ諦めてはいないようだったのでまたそのうち同じ話が再燃する可能性は残っている。
だが俺は彼らを潜在的な敵認定しているのだ、そこまで手を貸してやる必要はない。
彼らが退出した部屋で1人ソファーに座り考える。
ユリウスについて
勇者について
考えが浮かんでは消えてまた浮かんでくる・・・・
どう考えてもユリウスとパーティを組む気にはならなかった。
俺には使命がある。
そっちが優先だ。
手助け=仲間 であるならばそれは無理だろう。
俺は俺の意志に沿って行動したい。
ではその使命とは何か?
子供をたくさん作ることと、どこかにいる〝氷以外を司る神〟を探すことだ。
ユリウスと一緒にパーティを組んでそれが出来るかというと無理だと思う。
もし俺に合わせると言ってくれたとしても、その場合ユリウスは勇者になんて成れないと思う。
そんな甘くは無いだろう。
つまり俺は自分の指示で動く仲間を作らなければいけないわけだ。
目的がはっきりすると考えがまとまりやすい。
手っ取り早いのは奴隷。
あとは特に目的の無い奴だ。俺に付いてきても支障の無い奴なら構わないだろう。
「やっぱりユリウスともシグベルともパーティを組むのは無理だな・・・・」
そう結論を出した俺は部屋を片付けて外に出る。
どこかにいるであろう2人を探して走った。
暇していたシグベルと女に囲まれていたユリウスを「話がある」と声を掛けて引っ張り出し、人気のない所へ連れていった。
「何だよイゾウ、改まって。」
シグベルが胡散くさそうな顔で見る。別に胡散臭くは無いぞ、俺はこれから格好いいことを言う予定だ。
「何かあった?」
ユリウスは特に変わらない。パーティの話を断っても特に態度が変わることは無かった良い男である。
「ああ、真面目な話がある。ユリウス、パーティの件だけど」
「え!?組む気になったのかい?大歓迎だよ!」
食い気味にユリウスが反応してきた。
すまんそこじゃないんだ。
「いや、待てって聞けよ。最後まで。
パーティは組めないんだ。俺は俺でやりたいことがある。
だけど改めて言うよ、だからこそ友達になってくれ。」
この日異世界に転生して初の友達が出来た。




