ユリウス
ミッドナイトでは投稿していなかった部分になります。
最低三日は連続して投稿しますので宜しくお願いします。
「なぁ、僕たち3人でパーティーを組まないか?」
仲間への誘い。
冒険者として活動していけば今後誘い誘われ、挨拶のような軽い言葉に変わっていくだろう。
社交辞令でとりあえず声を掛ける、という事が増えていく。
だが最初の1回、それは何にでも特別な意味を持つ。
これはユリウスにとって初めての勇気を出した告白に近いモノだった。
声を掛けたのは2メートルを超える大男のシグベル。
そして最近悪名売り出し中のイゾウ。
最近仲の良い彼らにユリウスは勇気を振り絞り出して言った。
ユリウスにとって本気の言葉を人に断られたのは初めての経験だった。
ユリウスという男が天才として名を一般に轟かせたのは15歳を越えてからだ。
だがそれ以前から一部の貴族の子弟の間でその名は昔から有名だった。とある伯爵婦人の寵愛を受ける者として。
彼の生家は兵士として有望な家柄だが、家格としては平民だ。
代々貴族派閥の下に組み込まれている。そのトップの伯爵の妻にユリウスは幼少の頃より目をかけられていた。
15歳で成人し兵士になる。
髭も生え大人の体躯になるとそれまで可愛がられていた伯爵婦人の興味が失せた。
一族きっての才能を持つ彼は足枷となっていたしがらみから解き放たれた。
類を見ぬ速度で兵士の階級を駆け上がった。
歴代最速で中級を経て上級に至る。
彼の人生で最も充実した3年間だった。
そんな折に父親が病に倒れた。
彼の人生を変える転機が訪れてしまう。
ユリウスは4人の男兄弟に2人の姉妹の6人兄弟。
姉は中級の貴族に嫁ぎ、2人の兄は共に兵士として在る。
ユリウスの下にはまだ成人していない弟と妹がいる。
彼らに重荷を背負わせるわけにはいかないと、成人した男兄弟で話し合った。
兵士として頭1つ抜き出ているユリウスを次期当主に。そして一族の繁栄を目指す。
それが病に倒れる前の父の方針だった。
20を超える兄2人が中級兵士職で何年も、もがいているのに対しユリウスは若くして上級職に受かった。
ユリウスを当主に据えて、一家の繁栄を目指す方針にこのときは兄たちも異存が無く、兄2人が冒険者になり、父の治療費を稼ぐという事に話が落ち着いた。
ユリウスは兵士としてさらに上の地位を目指す。
いずれ成人する弟がそれを補佐する。ユリウスさえ兵士の中でそこそこの役職に就いてさえいられれば、治療費を稼ぎ終わった後に復職出来る、それが難しくても将来兄2人の子供が兵士の職を選んだときにコネとして活用できるから、それがその選択を選んだ理由だった。
ユリウスが成人して3年の間に興味を失くしたと思われていた伯爵家が介入してこなければ。
貴族としての位を持たず、父が倒れたファイエローズ家は伯爵家の決定に逆らえなかった。
その決定はこうだ。
〝 ユリウス・ファイエローズ〟に〝勇者〟を目指すことを命じる。
ユリウスが勇者を目指すのは自身の意思では無い。
それは上から落ちてきた天命である。
王都で家族が暮らしている以上ユリウスにそれに抗う術は無い。
父親の病は治す術こそ見つかっていないが、金を惜しまなければすぐに死ぬような病ではない。
起き上がることは出来ないが会話くらいなら問題無く出来る。
既に家の貯蓄を惜しむこと無く費やし、ベッドの上からでも出来る書類仕事など出来ることは彼が今も行っている。彼が家の実権を手放さないために、でもある。
旅立つユリウスが最後の挨拶にいった。
「ユリウスよ、冒険者などくだらない職業だ。奴らは美味い汁にのみ群がるハイエナだ、国のためにという概念もなく日銭を稼ぐことに執着する。国に害をなすモノがが現れても金を積まなければ働かないカスどもだ。
私はお前をそんなところに送りたくない。早々に目的を果たして帰ってくるのだ。
何、心配はいらん。昔、槍を教えた男が1人、これから行く冒険者ギルドで教官をしている。
私が教えた槍の技を使い姑息にも冒険者として大成した男だ、お前の力になることを拒むはずが無い。
〝血まみれ黒槍牙〟という通り名くらい聞いたことは無いか?
槍の腕は確かだったが、冒険者になると変わるモノだ。お前は気をつけるがいい。
少なくとも〝 A ランクの冒険者 〟に慣れる程度の知識はあるはずだ。私の名を出して訪ねるがいい。」
そう言われた。
〝血まみれ黒槍牙〟という通り名と、その男と昔、父が仲が良かったことは、母親からも聞いていた。
我の強い父にとって若い頃、唯一心の許せる人だったらしい。
父親との面会のあとユリウスは母親の元に向かう。
母親は第一夫人、第四までいる妻の最初の1人だが、最近は部屋に籠もることが多くなっていた。
彼女は、長男、長女、そして三男のユリウスを産んだ後、若い妻に夫のことを任せ、家のことには口を出さないように努めていた。
兵士として家を出ていたユリウスは随分長いこと顔を会わせいない。
まるで幽閉されているように屋敷の奥でひっそりと母は暮らしている。
顔色もだいぶ悪くなったとユリウスは思った。
「母上、お聞きになったと思いますが冒険者になりに王都を出ます。次に戻るときは何かしらの結果をだしてからになると思いますが、それまでお身体をお大事にしてください。」
「ユリウス、貴方にばかり苦労をかけて申し訳ないと思っています。ですがファイエローズの家のために尽力なさい。」
「はい、必ず。」
「向かうのは『バームクーデル』の街でしたね、父上に何か聞いていますか?」
「冒険者ギルドに父の古い友人がいると。その方を頼り父の名前をだすように言付かっています。」
「・・・・・・・そうですか・・・旦那様はあの時にことを忘れているのかしら、それとも病気の影響で・・・」
「母上、どうかなされたのですか?」
「ユリウス、旦那様は、お父上は彼の人のことを古い友人と言ったのですね?」
「いえ、そう言ったわけではありません。父上に恩義があるから力になってくれるはずだと、なので友人なのかと思いましたが、違うのでしょうか?
母上に昔、何度か話して頂いた〝黒槍牙・ガーファ〟さまの事ですよね?
お会いできることが嬉しく思います。」
「わたくしが知る限り、旦那様にあの街に知り合いは他にいないでしょう。
・・・・・・・・・そうね、これから会うのなら貴方には話しておくべきでしょう。
ユリウス、今から話すことを良く覚えておきなさい。 若き日に2人は友人であったでしょう。ですが今はそんなに良好な関係ではないと思います、事の発端は・・・・・・」
全ての話を聞いたユリウスもまた、教官ガーファになんと声をかけていいのかわからなくなる。
ユリウスが王都を出た数日後、ファイエローズの家の後継者には次男が指名される。
ユリウスへのその知らせは、講習の終了間際にたった数行の短い手紙で行われる。
ユリウスに過去に親しい友人はいない。
兄弟で1番の才能があったために父親の英才教育を受けていた。
他の兄弟からは贔屓とも取られるほど特別扱いで、幼少期より特別な鍛練を積み、父に伴われ社交界に顔を出させられていた。
おかげで知人は多いのだが親しい友人が出来なかった。
それは兵士になっても、講習を受けに来ても変わらない。
厳しい鍛錬に絶え、外に出れば顔に笑みを貼り付け過ごしていたためにどう接して良いかわからなくなっていた。
兵士としては誰よりも先に進んでいるユリウスに、同期の仲間は距離を置き、
社交界に放り込まれれば、貴族籍でもない平民の息子だ、まともに相手にされるわけが無かった。
冒険者になりに共に王都を出たのは年上の元兵士たちで、そこには既に人間関係ができあがっていた。
ユリウスの入る隙間は無い。冷たくされるわけでは無いが、どうしても距離が出来てしまう。
1人で過ごしていたユリウスは変な男に出会う。
最初はお互いに警戒して怪訝なやりとりだったが気がつけば一緒に行動するようになった。
気づけば数人でグループのようになる。
天才として扱われ、廻りに距離を置かれて過ごしたユリウスはそれが何故かをすぐに気づいた。
けっして声にしないが、ユリウスはそれに気づく。
彼らは自分と同格なのだ、と。
それに気づいたユリウスはだんだんと心を許し、本心を話せるようになっていく。
毎朝走り込みの前にイゾウにユリウスは髪を結ってもらうようになった。
髪の毛の話を人としたのも、友人に髪を触れられるのもまた初めての事だった。
イゾウが髪がウザいというのでナイフで整えてあげた所、お礼に自分の髪も邪魔にならないように結わいてくれている。
何故かイゾウが後ろに立ち髪を結う姿を興奮して見ている者が現れるようになってしまった。
何でも腐れ女子というらしい。男が好きなのに男と男が絡み合う姿を好む変態をそう呼ぶのだそうだ。
それは大丈夫なのか?とイゾウに聞いたところ、「そこにつけいる隙が有りそうだから問題無い」と返された。
イゾウは良い奴・・・・とは言い難いが悪い奴では無い。だが時々訳のわからない事を言う。
髪型もそうだ。
髪がウザい邪魔だと言うイゾウは左右の耳の手前と上の一部だけを短く刈る事を望んだ。
ツーブロックというらしい。
将来的に兜では無く、額宛をつける予定らしくその場合に耳の上の毛がない方がつけやすいのだそうだ。
横のボリュームが無くなっただけでイゾウの髪型は落ち着きを見せた。それをする前は刎ねて大変だったらしい。
「櫛も整髪料もドライヤーも無い生活がこんなに厳しいなんて・・・」
ある朝のイゾウの言葉だ。ユリウスにはこの言葉の意味がさっぱりわからない。
たまに髪を手櫛で掻きあげるイゾウの顔が酷く悪く見えた。
そんなイゾウと切磋琢磨して過ごしていたが、ある日イゾウはその牙を廻りに向けた。
イゾウが〝落ちこぼれ〟と罵られていることはユリウスにとっても頭にくることだった。
王都でも人の悪名を言って廻る人間は多々いた。
人の裏に悪意があるのは理解していたがここまであからさまで酷いものは初めて見る。
世の大半の者は〝魔法〟が使えない。
使えても実用レベルに達しない者がほとんどだ。
なのに強い〝魔力〟を持つイゾウを大した魔力を持たない者が〝落ちこぼれ〟と言って罵っていた。
イゾウとは友人でありたいと思っている。
その友人が馬鹿にされるのだ、黙って見ていたくない。
そう思いイゾウに「黙っていないで戦おう」と声を掛けた。
だが返事はノーだった。
「気持ちは嬉しい。でも絶対に手を出さないでくれよ。もう少し・・・・したら動くつもりではいるんだ。師匠にも言われているけど、悪口を言われたからって人数集めて喧嘩をふっかけたら俺が悪者になる。」
「でもそれじゃ言われたまんまになるじゃないか!まずは反論することから始めよう!」
「そのうちきっちり教え込んでやるから大丈夫だよ。別に日和ってるわけでも平和主義者でもないんだ。」
「それは僕も知っている。やるなら手を貸すから一緒に戦おう。」
ユリウスは言う。だがイゾウはそれに首を横に振って返した。
「イゾウが望むなら俺も手を貸すぞ。」
もう1人の友人シグベルもそう言った。彼もまたイゾウが悪意にさらされる事が許せないでいる。
「気持ちは嬉しいよ。でも手は出さないでくれ。」
イゾウの返事は変わらない。
「なんでだよ、お前だってムカついてるだろ。ちゃんと説明しろよ!」
シグベルがイゾウに強く問う。
「自分で解決できることは自分で解決するよ。
まず1人でやってみるさ、それで駄目だったらちゃんと頭を下げに行くからそのとき手を貸してくれ。
俺はお前らとは対等でいたい。くだらねぇ嫌がらせ相手に手を借りて負い目を負いたくない。」
「負い目なんて・・・」
恩に着せたくて言ってるわけじゃない、困難には共に立ち向かう、それが仲間だとユリウスは考えている。
「それはお前の誇りかよ?」
シグベルはまた違う答えだった。イゾウに同意する。
木こりとして己の手で稼ぎ、家族を養ってきた男。彼にまた行動に誇りを持っている。
「雑魚を狩るのに同格の手を借りる必要はねーよ。」
そう言ってイゾウはまた悪く笑う。この男はこうゆうサマが格好がつくな思う。
兵士として規律の中で育てられたユリウスにはない姿がそこにはあった。
ユリウスとは違う正義、イゾウもシグベルもまた自分の正義の中で生きている。
「ふん、ま、そりゃそうだな、でも数が増えて手間になったらちゃんと声を掛けろよな。いつでも手伝ってやる。」
「ああ、もうすぐ〝認可〟を取り終わるからそれまで待ってろって。まずは目の前の大事な事が先だ。
俺は今現在〝冒険者になるための講習生〟だから講習が優先。
目処がついたら〝冒険者〟としてちゃんと〝舐められない〟ように振る舞うさ。」
「ふぅん、ちゃんと考えてるならいいさ、な、ユリウス、俺たちが一緒に暴れるのはそれまで我慢しようぜ。」
「あ、ああ・・・わかった。なら僕ももう何も言わない。でもちゃんと僕の手が必要なら言ってくれ。」
「残念だけど出番は無いと思うよ。講習受けてて俺、すげー調子いいんだ。教わる全てが新鮮だ。今なら世界を狙えると思うんだよね。」
そう言ってイゾウは空を凄い速さで拳で撃ち抜いて見せた。
イゾウが暴れ出したのはそのすぐ後の事になる。
それはユリウスが思っていた正しい決着とはかけ離れていたが、不思議とイゾウを責める気にはならなかった。
そんな折り、ユリウスは共に王都から冒険者になるために旅をしてきた女の1人に呼び出される。
どうしても相談にのって欲しいと。
普段ユリウスは女性の呼びだしには応じない。色男ゆえの宿命ゆえに過去に面倒な経験が多々有った。
基本的に全てその場で断っていた。だが今回は身内とも言える存在だ。
仕方無くそれに応じた。
とはいえユリウスと彼女は元々兵士時代には顔くらいは知っている程度の関係で付き合いは皆無だった。
兵士を辞める際に旅路を行くのに人数が揃っていたほうが良いと退職者の中からこの街に来る者を紹介され、その方が安全だったために共に歩を合わせて移動してきただけの関係にすぎない。
そんな彼女から2人の男の話を聞いてやって欲しいと頼まれている。
「まぁそんなわけでイゾウくんを悪く言ったことを後悔してるみたいでさ、そのことを謝りたいらしいんだけど怖くて自分じゃ言えないって相談されて・・・」
元兵士である女講習生がユリウスに説明してきた。
「・・・・・・」
言葉が出てこなかった。
彼らは成績でいえば中の下もしくは下の上のあたりに位置する講習生だ。
講習の合格である〝認可〟などほとんど取れていないような者。
それが自分と変わらない速度で〝認可〟を得ているイゾウを、廻りと一緒になって〝落ちこぼれ〟扱いしていたのである。
「べ、別にイゾウが怖いわけじゃなくて・・・・」
「言い過ぎたのは事実だから謝ってやっても良いかなって・・・」
さらに彼らの態度はとても謝りたいと思っている者の態度には見えないことがユリウスを苛立たせた。
「ちょっと今更強がるんじゃないわよ、私に泣きついてきた癖に。いないところで強がるなら私は関与しないわ、あんたたちにも思うところがあるんだから!」
この元兵士の女講習生もイゾウとは顔見知り程度には付き合いがある。
だが元兵士の講習生はユリウスを除いた者たちで纏まっていることが多く、ユリウスはイゾウとシグベル3人でいることが多いのでイゾウとはそこまで深く付き合ってはいない。
元兵士組はイゾウに共に講習を受ける機会が多かったために、おそらく一目置いてはいるが、ユリウスほどにはイゾウを評価していない。故に〝落ちこぼれ〟扱いはしなかったが、味方もしていない。
「・・・・・僕にどうしろと?」
2人の男では無く、女のほうに問いかける。
もう3人の方を見ていない。見る気にならなかった。
ユリウスはただ建物の陰を見ていた。
「私はあの子が怒るのは分かるし、多少はやり返すべきだと思っていたけどさすがに今のやり方はやり過ぎだと思うの。」
兵士とは街の治安を守る事が仕事である。
それに従事してきた彼女は、イゾウの行動を良しとしない。
とはいえ黙っていないでやり返すことも必要だとは思っているようだ。
当初はユリウスも同じように考えていた。
「この2人には私からキチンと謝らせるからイゾウを止めて欲しいの。」
それは無理だろうなと思う。
この2人が謝罪したところでイゾウが彼らに対してだけ、矛をおさめるとは思えなかった。
その上彼女の言うキチンとした謝罪が行われるとも思えない。さらに怒らせるだけだろう。
イゾウは反撃に出るまでに〝殺すリスト〟を作っている。
全てはイゾウの頭の中にあるために、その中身は知らないが、禄に付き合いも無いくせに〝落ちこぼれ〟扱いしてくる〝雑魚〟が 最初 だと聞いている。
ユリウスは首を振る。
「悪いけど彼らがちゃんとイゾウに謝罪するとは思えないですよ。」
「そんなこと無いわ、ちゃんとあの子の前では頭を下げさせるし、よく言って聞かせるから。
お願い、私が言って聞くイゾウだとも思えないのよ。」
「まぁ僕も思わないですけど・・・・」
そんな謝罪には意味は無いだろうに・・・と思った。
3人を見ないで話すユリウスの視線に女が気づく。
普段のユリウスならば人と話すときはキチンと相手を見るのだ。
違和感を感じその視線を追ってみた、近くの建物の陰、暗闇になっっている中を見る。
女がユリウスの視線を追ったことでその暗闇の中からイゾウがゆっくりと浮き上がってくる。
暗闇から溶けでるように黒髪の悪人面が口元を悪そうに歪める笑みを浮かべながら現れた。
「え!な、なんでここに?いつから?」
女が困惑するように騒ぐ。
「さっきからいましたよ。誰もイゾウがいるのに気づかないから・・・」
イゾウが何らかのスキルを使いながらだろうが、暗闇の中を静かに歩いて来た事に、ユリウスはすぐ気づいていた。
イゾウもまたその事には気づいていたので、内緒にしろというジェスチャーを返していた。
どちらにも積極的に味方できなかったユリウスはイゾウを目で追い続けていた。
「何で・・・何で・・・」
「くくくっ、話は聞いてましたよ。彼らは殺すリストにはいってますけど、まぁ貴女の顔をたてますよ。
誠意ある謝罪があれば不問にします。それでどうですか?」
困惑する彼女にイゾウが男2人を軽く睨み付けた後、笑顔で答えた。
これにはユリウスも彼女も驚いた。
イゾウは暴れ出す前と後では人が変わっている、と思われている。
変わらず付き合いのある人間にとってはそれまで我慢していただけ、の話だ。
だが、付き合いの無い人間には何を言っても許される存在。馬鹿にしてもいい存在だった。
それが突如〝話の通じない存在〟となって襲って来る。
泣こうが喚こうが、そして怒ろうが聞いてもらえず殴られ続けると言う話は瞬く間に講習生内に広まった。
そこは何も変わっていない関係が残っている事を他人には気づかない。
イゾウは最初から彼らを〝人〟として扱っていなかった。
だからスルーして講習を進めることを選んでいだ。
講習に目処がついたので、ブンブン廻りで鬱陶しい存在を叩いて潰して廻っているだけだ。二度と飛び回って来ないように。
ハエが手を擦ろうが足を擦ろうが、どんなに胡麻をすろうが叩くのをやめる人間などいない。
何匹か叩きのめされるのを見たハエが散って逃げていくか、鬱陶しいハエがゼロになるまで叩きつぶすかしかもうイゾウの選択肢はない。
「本当!?うん、わかってるちゃんと謝らせるから!ほらあなたたちちゃんと謝って!」
だがまともな謝罪が行われることは無かった。
「ああ、悪かったな・・・つい言っちゃっただけて悪気は無いんだよ。」
「そうそう、別に俺たちが悪いわけじゃなくてさ、まぁ謝るからさ、許せって」
ここでイゾウと彼女との間で問答でも有ればまた違っただろう。
イゾウが姿を見せてすぐに引いた事で、浅い彼らはイゾウを再び軽く見た。
当人たちに自覚は無い。無いがその姿は 元兵士の女の威を借る馬鹿な男でしかないだろう。
女は姿を見せた事でイゾウの異常さを痛感し、心の底から恐怖した。
女を相手にあっさり引いた事で男は物事を甘く見る。後は自分たちが上辺だけ謝れば物事の帳尻が合うと判断する。
ではだれがその帳尻を合わせるのか?
「は!?」
イゾウの顔が激変する。悪そうだった顔は瞬く間に鬼の形相へと変わる。
イゾウはこれで帳尻を合わせる事を拒む。
「え!?ちょっとあんたたちなにその謝りかた、ちゃんと謝罪なさい!ほらちゃんと頭を下げなさい・・・」
イゾウに恐怖を抱いていた女は激変したイゾウの形相に心底恐怖し、引きつりながらも男2人の頭を押さえて無理矢理下げさせる。
「な・・・・」
が、下げた頭をイゾウの足が連続で蹴りあげた。
顔を蹴りあげられ少しだけ宙を浮いたあと、その勢いで背中から地面に落ちる男2人。
そのまま後ろに転がって動かなくなった。
そのサマを真横で見ていた女は思考が停止してしまう。恐怖で動けなくなった。
「俺は誠意ある謝罪なら許すって言ったんだよ、どこに誠意があんだよ。死ねカスが」
そう言ったイゾウは女の横を素通りして倒れた男に近づき、胸ぐらを掴み引き起こす。
そして拳を叩き付けるように殴りつけていく。
その後イゾウはユリウスの前で男2人と、なんとか再起動して恐怖しつつも止めに入った女にも容赦無く暴行を加えた。
そしてユリウスと向かい合った。
これを機会にイゾウは元兵士組とも敵対していくことになる。




