志半ばで倒れた先達の遺品を汚いと思うのか?
ユリウス、シグベルと共に相変わらずつるんで講習を受けている。
弓の講習の時間に指導を担当するサムソン教官に呼ばれて今は別所に移動している。
弓の講習は指導者が多い講習だ。教官は勿論、講師も多数投入されている。
弓と魔法は必修で、段階による進級が無いために教える側も数が揃っている。
半分放任の魔法と違い、弓の指導者はかなり人数を揃えているようだ。
講師は現役の冒険者が任務依頼として受けており、比較的若い男女も多く参加している。
その講師中に1人、物凄い美人さんがいる。
凍りつくような美貌の美人。 自称〝氷の使徒〟の俺と相性いいんじゃないかと思ったがまるで相手にされていない。俺が、というより男を、全く相手にしないタイプの美人だ。
男に声を掛けられると明らかに不機嫌になって追い払う。指導も女にしかしない撤退ぶりだ。
それに対して教官も他の講師も何も言わない。
その氷のような美貌と相まって彼女はかなり冷たい印象を感じる。
冷たい系美人さんだ、多分レズビアン。ということで納得している。
寝泊まりしている同室の6人のうちの1人の男が、彼女がドストライクらしく弓の講習のたびに果敢に話しかけていた。振られても冷たくあしらわれても、それでもしつこくつきまとっていた。
異世界でもストーカー男は存在してました。
そしてうざ男のレッテルを貼られ、女の講習生の間でかなり嫌われているらしい。
女を口説くときは時と場所を考えるべきだと痛感した。
少なくとも、人前で口説きまくるもんじゃない。それも講習生が講師をだ、普通に無しだろう。
しかも講習中に、考えてみれば最悪だ。男としても講習生としても。
普通に無いシュチュエーションだから、有りだと興奮するんだと思います。今回は無しなのです。
馬鹿な男だと思ったが、その馬鹿さ加減は嫌いじゃ無いので同室の男たちで慰めた。
それからぽつぽつと同室の男たちとも交流している。
寝る前とかに世間話が出来るくらいには付き合いが出来た。
そんな美人講師さんはなんと〝ハーフエルフ〟らしい。
こっちの世界でも〝エルフ〟はいた、しかもエルフは美形が定説らしい。
ハーフであの美貌ならば、純血がどんな美しさなのだろうか。
会うのが楽しみだ。
この分だとエロフも期待できる。
ちなみに俺は特にリアクションは起こしていない。
起こす前に結構な数の男がこっぴどく振られていたので、何もしないを選択した。
人生はバーゲンセールで欲しい物は早い者勝ちなんてつまらないだろう?
たまには良いと思う。
普通、恋愛は先に口説いた者が勝つパターンが多い。
好きって言わない奴よりも言った奴になびく。
高値の花なら準備してからだ。素人が準備しないで山登りなんて死ににいくようなモノだ。山に登ってからゆっくり攻略するさ。
そのうち、いつか、いずれ、やるさ。
いや実は俺今は他を攻略中なので難易度高いのと同時進行はちょっとね・・・
そんな美人講師に呼び出されたかったな~とか思いつつサムソン教官について歩く。
サムソン教官は極道コンビと同年代の40台後半のごついおっさんだ。
呼ばれても面白いワケが無い。
面倒見のいい教官で、好きな教官ではあるが。
俺に弓の専任を目指さないかと声をかけてくれた人でもある。
弓の専任 つまり〝弓手〟だ。
弓の講習に参加している講師はだいたいこのポジションの人らしい。
〝後衛火力〟。
講習中は幅広くやりたいので結論を出したく無いとお断りはしたが、そう提案してもらったことは感謝している。基本的に評価されれば誰だってうれしいさ。俺は超嬉しかった。
断っても変わらず指導してくれている。
どっかの嫌みな魔法課のじじいにサムソン教官の足の爪の垢でも飲み物に混ぜて飲ませてやりたい。
水虫とか持ってたら最高の嫌がらせなのだが。
しばらくして辿りついたのは講習準備期間中に来たことが無い倉庫だった。
ギルドの施設は解放されているところが多いのだが、ここは厳重に鍵が掛かっていた。
サムソン教官に促され倉庫に入る。
そこには講習で使うシンプルな作りの量産品とは違う、作り手のこだわりを感じる手の込んだ装備が並んでいた。剣も、槍も、斧も、盾も、鎧兜も、そして弓も置いてあった。
サムソン教官はその中からいくつかの弓の具合を確かめるように順番に手に取りながら俺たちに向かって言った。
「ここにあるのはお前たちの先輩・・・とでもいえばいいか。死んだ冒険者たちの遺品だ、」
「遺品・・・ですか・・・・」
話が急に重くなった。元々倉庫の中は薄暗くひんやりとした空気だったが、さらに周囲が冷たくなった気がする。静かな倉庫でサムソン教官の声が響く。
「ああ、遺品だ。冒険者ギルドは遺品を可能な限り遺族の元に届けている。可能な限り、な。
だがその遺族が皆、遺品を大切に扱ってくれるとは限らない。
ここにある品は全て、元の持ち主たちが自分に合わせて調整した武器だ。思い入れのある武器だ。」
「特別注文品、ですか?」
ユリウスが言う。
彼はいつか特別注文品で槍を造りたいと語っていた。
自分の為に造られた武器は特別で、いつか自分もそんな武器が欲しい、と飲みながら話していた事がある。
酷い言いようになるが目の前にあるのはその成れの果てとも言える。
主を無くした不要品、そんな扱いを受けた品々か・・・
伝説の武器と語り継がれるのは成功した者の武器だけだ。
「そうだ、講習で貸している量産品とは比べものにならん。
持ち主と造り手、両方の思いが込められている。
だがそれに全ての者が価値を見いだすわけでは無い。
冒険者の遺族が皆、その武器を必要とする訳もない・・・・・」
「・・・・・」
俺たちは誰も何も答えなかった。
言ってることは理解出来る、出来るが自分もその冒険者になるわけだ。何とも反応しにくい。
「最悪なのは、造り手と別の同業者に遺族が売りに持ち込んだ場合だ。
足下をみられたそれらは量産品にも劣る評価が付けられることがある。
二束三文で売りに出される寸前の物をギルドが買い取った・・・・・
いつか日の目をみせてやりたくてな、儂らギルドの職員が手入れをしている。」
俺は1つの弓をサムソン教官の許可を得て、持ち上げて見た。
教習で使うシンプルな弓と違い細部にまで細工が施された弓だった。何かの花を象った模様が施されている。家紋みたいなものだろうか?
もし家紋だとして、そんな物まであっさり売りに出す遺族か・・・日本育ちの俺には信じがたい感性だ。
「当初はな、新人に有効に使ってもらえないかと貸し出していたがどれも癖が強く新人の使う物ではなくてな、武器に振り回されて新人の腕があまり伸びない。最近は貸し出しはせず結局ここで眠っている。
利用用途はといえばたまに儂ら教官が使うか、引退した元冒険者に街の危機に借りてもらうくらいだ。
使う用途はないのに、毎年この倉庫に眠る武器の数だけが増えている。」
「使えそうな人に売ったりはしないのですか?」
つい声をあげて問うてしまった。そしてすぐに失敗したと思う。
世の中の何割かの人間は縁起を担ぐ。
特に生き死にに直結する人生を歩む者ほどそこに重きを置く。
死んだ人間が使っていた武器が好まれるハズが無い。
金があれば新しい武器を買うか・・・・
サムソン教官も首を振る。
「持ち主が死んだ武器はあまり好まれない。特に持ち手が何代にも渡って死ぬとな、どうにも噂になる。」
こうやって呪いの武器が誕生するわけだ。
死なない人間がこの世にいない以上、持ち手が死なない武器なんて存在しないのに。
戦死と病死の違いはデカい。
倉庫にはたくさんの武器が眠っている。
もし武器の声が聞こえたら俺は何か感じるのだろうか?
残念ながら俺には声は聞こえない。
氷の神の力が宿ったこの〝氷の眼(劣化)〟も、何も見せてはくれなかった。
となるとあとは直感だ。
何か感じるモノがあるかどうか。
ここに俺が使いたいと思えるモノでもあれば面白いのだが、そう思いながら並んでいる武器を眺めた。
思い思いに装飾が施されている並んだ弓の中から、1つだけ真っ黒な弓を見つけた。
その弓は大した装飾が無い代わりに、弓も弦も真っ黒だ。
黒、それは装飾である。
飾り付けるだけが装飾では無い。
単一に揃えられた美しさよ。
それは厨二の輝き。
手に取ると見た目よりも重く感じる。なかなかの手応えだ。
「気になるのか?」
思ったより熱の籠もった目で見ていたようでサムソン教官に問われた。
「少し・・・引いてみていいですか?」
「構わん、が重いぞそれは・・・」
許可を得たのでその弓を構え引いてみる。
「ぐっ・・・重っ」
かなり手応えがあったが引き絞ることが出来た。
これは良いトレーニングになる。
「ほう、引けるか、どうする?」
どうするもこうするも無い。
彼は誰かに使って欲しくて俺たちをここに連れてきた。
多分彼には俺と違い、この武器たちの声が聞こえるのだ。
「まだ戦える」と、「このまま消えたくない」と。
俺には武器の声は聞こえない。
でもな、短い付き合いでも良くしてくれた教官の 「心の」 声ならちゃんと聞こえているんだよ。
半分以上予想だけどな、間違ってはいないはず。
「サムソン教官、俺・・・これを使ってみたいです。」
サムソン教官は少し考えたあと、ニッコリと良い笑顔で許可してくれた。
名もしらぬ先輩よ、講習中の短い間だけど宜しく頼むよ。
借りた弓を持って講習に戻る。
結局俺だけで無く、ユリウスもシグベルも弓を借りた。
2人とも武器と鎧を最低限揃えただけで、自前の弓は持っていなかった。
おかげでスムーズに話は進んだ。
借りた弓はどれもかなりの強弓で、3人とも扱える飛距離がかなり伸びた。
引きが比べものにならないくらいに強い。
手応えがある、疲れるがその分充実する。相性が良さそうだ。
これはいいもん、もらったぜ。
「ひゃっはー、的が止まって見えるぜ。」
つい調子に乗って世紀末雑魚みたいな事を言ってしまった。
「的は動いとらん、後ろに下げただけだ。
扱いに慣れたら動く的に進むからな。そのつもりで今から的を射るように。」
キチンと突っ込んでくれるサムソン教官は、俺の持つ誰かの遺品の弓を見て少し嬉しそうだった。
そして順調に弓の講習をこなす俺をみて美人講師が冷たい目で睨んでいた。
目が合ったらさらにキツく睨まれた。うはっ、えっろ・・・・何あれ押し倒したくなった。超ソソる。
あれーでも俺何かしたか?
おかしい、あの人には挨拶くらいしかしていないのに・・・・・・




