イゾウ裏手帳 ③ メアリーと
「と、突然すいません。お、お話があるんですが!」
今にも泣き出しそうな顔で話しかけて来たのは確かメアリーなんとかって名前の女だ。
講習生内で好みの女はチェックしてある。
青い髪を肩にかかるくらいで切り揃えた髪型に、知的な眼鏡をかけた彼女は、真面目そうだけど実はエッチな女の子だったというシチュエーションが好きな俺の好みにどんぴしゃな女の子だ。
そのクールっぽい風貌とは他所に今は少しオドオドしている。
「話? 俺と? いいけどさ・・・一応確認だけど喧嘩売ってる系のお話って奴?」
目の前の挙動不審な女をみてそんなわけが無いだろうと思う。
話しかけるのすら怖かったという印象だ、俺結構女に甘いんだけどね。
そうは見えないらしい。
でもちょっと苛めたくなるのは彼女が真面目系地味子ちゃんという雰囲気があるからだ。ソソる。
顔立ちは整っているのに目立たないってのは性格と行動が大人しいからだろう。
そう勝手に思っていたのだが、こうやって個人的に話しかけに来るくらいの積極性は持っていた。
そんな姿についサドッ気が顔を出して、牽制のジャブをいれてしまう。
本心は女の子から話しかけられて物凄く嬉しかったりする。
それも自分好みの相手ならなおさらだろう。いくつになってもこの辺は変わらない男心だ。
例え若返ったとしても、な。
「ち、違います。そうゆうんじゃなくて、そのセレナさんとのビアンカの事があるから信じてもらえないかとは思ったんですけど火急の相談があって・・・・
お願いします。話だけでも・・・聞いて下さい・・・」
そう言って泣き出してしまった。泣きながら頭を下げられた。
セレナとビアンカのことなど俺は知らんけどな。
ビアンカは前に一度何か言われたが相手が美人なら大した問題でも無い。それにあの時はちょっと夜の空気に酔っていた。実際酒も飲んだあとだったし。
女の子を苛めるのは好意の裏返しだと言う。
だがそれが許されるのは幼稚園までだろう。今時小学生でもいじめで問題になるわ。
だがそれを今、元40のおっさんがした。してしまった。
せめて自分の可能な限り誠実にもてなして、泣かしたことの謝罪にしようと思う。
「あー、師匠に管理を任されてる建物があって、そこになら椅子もあるし、人に聞かれないと思う。
そちらが嫌で無ければそこで聞くけど?」
密室は嫌がられるかな、と危惧したが特に問題無く彼女はイエスと答えた。
最近師匠たちに建物の管理を押しつけられた。いや、任された。
弟子という弱い立場だ。断れるハズが無い。
この冒険者ギルド第三地区支部は、放置された建物を吸収する形で広がっている。
内戦で済む者がいなくなった建物をギルドの敷地として囲うように納めている。
俺が任された建物は7件。
空き家が3件。訓練所に使っている小さな建物が3件。それぞれの師匠の名目で管理されている建物の合い鍵を預かっている。
基本的な仕事は空き家の空気の入れ換えである。前世でも人の住まない建物は早く朽ちるといわれていた。朝時間を見つけて寄って窓を開け、夕方しめるだけの簡単な作業だ。
所詮はギルドの敷地内、解放しても入ってこれる者は限られている。開けたら放置で問題無い。
師匠の管理エリアに知らん奴がいたら殺してもいいと言われている。それで正当防衛だと。
異世界はおっかない。
訓練所に使っている建物は、夜に戸締まりの確認のみだ。時間を超えて勝手に使用している者を追い出す役目もある。残念ながら今回の講習生でそこまで熱意のある者はいない。
今まで誰かに遭遇したことはない。
7件目は師匠たち3義兄弟が仮眠室代わりに使っている建物だ。
教官は結構なハードワークで時間を見つけては仮眠をしているらしい。
盃を交わしたことで俺にも使用権利が生じたらしい。ヤクザ者の謎原理だ。
理解する必要は無い。頷いておけば問題無い。
使っていいと言われたら特に文句はないしな。
3階建ての建物で1階がリビングルーム、簡易台所とトイレがある。上2階は個室になっている作りだ。
2階と3階に個室が4室あり、そこを俺と3人の師匠の部屋という事になった。
だが講習中に仮眠は100年早いと言うことで俺の部屋は封印されている。
別に仮眠に使うつもりは無いので永遠に封印しておいて欲しい。
主に俺が使うのは一階のリビングだ。向かい合わせに古ぼけた煤けたソファーが2つ置いてあり、ユリウスやシグベルと何度かメンズトークにいそしんだりしている。
女をいれるのは初めててだが、話をするだけだ問題無いだろう。
初弟子に甘い師匠たちがそれぞれお菓子を常備してくれていたりするので女の子を連れ込むには最適だったりする。
そのうち折を見てセレナあたりを呼んで接待するつもりだった。お菓子を出して好感度爆上げ大作戦だ。
もっとも押し倒したりするのに使う気は無い。
師匠たちも出入りするので鉢合わせる危険があることもあるが、俺は性格的にここでそうゆうことが出来る人間ではないのだ。
例えばだが、不倫をする奴がいる。
不倫はよくないことだがこれにも二種類がいるのだ。
生活圏であえて不貞を侵すことに興奮するものと、日常と切り離して楽しむ者だ。
前者は家族がいないうちに家に連れ込んで、そのシチュエーションに興奮するとかそんな奴ら。ただのカスだ。
後者は生活の陰を見せず、会うときはいつも外。クールな関係だ。割り切りとも言える。そしてどちらかが本気になって包丁でグサッとやられちゃう奴だ。片方が本気になるともう片方が逃げるのは世の常だ。
俺はどちらかというと後者に属する。
なんだかんだ師匠は敬っているし、感謝している。
あまり変なことでがっかりさせたくないとは思っている。
共同のスペースで女を押し倒すなんてもってのほかだ。
今回は話を聞くだけだから問題無いはず。
師匠が用意してくれたお茶を入れ、茶菓子を出して泣き止むのを待ちながら根気よくメアリーの話を聞いた。
「・・・・それでその女がちょっと怪しい動きをしてると思って、あとをつけて盗み聞きしたんですけど、全部は聞き取れなくて・・・・・
多分、ビアンカ・・・か、セレナさんのどっちかを襲うとかレイプするとかそんな話をしていて。
あとは断片的になんで推測ですけど・・・先に私もしくはマナさんが狙われるんじゃ無いかと・・・・」
異世界の知的美女はストーカー行為をしていた件。
あまりそうゆう行為が似合わないタイプではある。
現代にいたら理系美女とか、図書室の主とか、女ゲーマーとかにいそうな容姿だ。
正直あとをつけて盗み聞きをしていたと聞いてドン引いた。
が、よく考えたらここ数日それの上位の行為を師匠に促されてしているうえに、気に入らない奴を殴って廻っている。俺の方が酷い。
彼女は友達のためで俺は自分のためだ、だが同じ穴の狢だと思う。何かシンパシーを感じるモノがあった。
そんなことをしてまで確認するほど切羽詰まっていると言うことでもある。
俺はこれをチャンスだと思った。
はっきり言えば彼女を抱く機会だと思った。そんな中彼女が口を開く。
「突然こんな話をして信じられないのはわかります。
ですが友人に危害を」「ああ、細かい話はいいよ。話したければ終わってからそのうち酒でも飲みながらにしよう。とりあえず話はわかった、じゃー俺らはどうするか、を決めよう。
メアリーさん。力になるのは構わない。聞いた以上ほっとけないしな、あんたと連携しなくても勝手にやると思う。好きにして良いならこっちで片付けるよ。
だがあんたが自分の好きな場所に問題の着地点を決めたいならば、俺を使うのに対価が必要だ。
俺があんたの指示を聞くかどうかはあんたが何を俺に差し出すかによる。
俺はあんたの友人じゃーない。無償では働かない。
力にはなるよ、対価があれば。
選べ、そして差し出せ。
初めて話す同期の友よ、割りにあえば力になろう。
割りに合わなければ今日初めて話す相手だ、断られても仕方あるまい。
メアリー、お前は何を俺に対価として差し出すか?」
泣き止んだのに泣きそうな顔でそうしゃべり出す彼女に興奮してつい被せてしまった。
ちょっと興奮してまくし立てててしまった。何のキャラだ俺。
泣いてる眼鏡ッ子って苛めたくなるから不思議だ。
つい身体を要求してしまった。
どちらにせよ聞いた以上放置するつもりは無い。
彼女が拒否しても勝手にやるだけだ。だから別に断られても問題ない。
彼女に負い目と聞く耳があったらそれで後日ねちねち攻めればいい。
そんな彼女はあっさり自分を差し出して来た。
「・・・私に価値はありますか。私には他に何も無い。でも大事な友達なんです、知られること無く守りたいの。 対価は・・・私、私ではあなたは、私の力になってくれないでしょうか!」
男とは不思議なものだ。
さっきまで凄く欲しかったハズなのに目の前に差し出されると躊躇してしまう。
多分俺はもう少しだけ交渉をしたかったんだと思う。
交渉というお喋りを楽しみたかったのだ。
対価として身体を差し出せ、と言っておきながら実は欲しいのは貴方の心です。だったりするのだよ。
男心もまた複雑怪奇さ。
ただやるだけならそれでもいい。
でもそれもまた面白くは、無い。
縁もゆかりも無いどーでもいい女なら身体だけでいいんだけどね。同期の友になるわけだし。
俺に自分から話しかけてきた女はセレナ以来だ。
なんか無理矢理するのは勿体ない気がする。
こっちきて初がそれじゃ味気ない。
せめて俺は強がろう。今回は見逃してやる。
でも次はもっと設定増やしてエッチなシチュエーションを作っちゃうもんね。フラグを勝手に埋め込んでおくのだ。
「くくくっ、面白いなあんた・・・
あんたに価値はあるよ。充分魅力的だ、俺眼鏡ッ子フェチでもあるしな。
でもまぁ身体を求めるのは今回はやめとこう。勿体ない、そのうち自分で股を開かせてやる。
一個貸しな、今回は力を貸すよ、今度あんたは俺に知恵を貸してくれ。
それでどう?」
俺の言葉に彼女は頷いた。
あとはつまんない作業だった。
彼女の予想は当たり、馬鹿は開き直る。
それを俺が殴って終わらせるというくそつまんない作業だった。
問題になったのは一個貸しにしたほうだった。
翌日彼女に話しかけられた。
「その・・・貸しっていう話はどうしたら良いですか?」
「あーいや別にまだ考えてないけど?」
「困ります、あんまり先延ばしにされて・・・そのビアンカの耳に入ったら・・・」
「困ると?」
「今回は助かりました、ですがあまり長く恩にきたくないのです。
出来ればその・・・私の身体でいいのなら・・・」
なんかこいついつも身体からだ言ってる気がする。
興味のあるお年頃なのかもしれん。顔はほのかに赤い。欲求不満か?
発情期ですか-?
「うーーーん。よーわからんがメアリーさんは俺に抱かれたいん?」
「なっ、違います。私はただそれで済むならと・・・」
「俺あんまり心の無い相手と抱き合いたくないんだよね。我慢してる女といたしても面白く無いんだわ。」
「・・・・・・・・」
「ちなみに処女だったりする?」
「・・・・・・・・だとしたら私のそれには価値は無いですか?」
ギロリと睨まれた。別に怖くはない。
でもそんな顔も好きだ。
「いやー初物は価値があるかも知れないけど、遊び相手としちゃ面倒なんだよね、痛がったらこっちは気持ちよくも楽しくもないし。」
もう少し怒らせてみたくなる。
「・・・・そうですか・・・・」
「怒るなよ、馬鹿にする気も責める気もないよ。もう少し腹を割って話せないか?」
「私にはあなたの言うことは理解出来ません・・・」
「それは残念だ。
うーん、じゃー貸しは返してもらうよメアリー。俺はあんたの身体には興味がある。興味はあるが今回は別のものが欲しい。
誰かに聞いてるかな?俺この講習受けるまでの記憶が無いんだ。だから知りたいのは情報、もっと具体的に欲しいのは金策なんだ。手持ちは勿論装備も無い、講習が終わってもすぐに動けないんだ。
メアリーさんよ、あんたが人生のどこに価値観を見いだしているのか俺にはわからない。
だから俺の価値観を言う。人生とは金だ。俺は大金を稼げる人生を送りたい。
それに知恵を貸してくれ。なんか有意義な情報が欲しいんだ。
それでチャラにしよう、で、どうだ?」
「・・・・・・わかった。
今初めて貴方のことを少し理解出来た気がする。思ってた人と大分違うのね。
少し時間をもらえる?」
「勿論だ。それまでお互い接触は無しで。長い目で考えてくれていいよ。
講習が終わってその後のことまで折り込んでくれ。」
「わかった。満足するような答えを考えてみる。」
「で、どんな奴だと思ってたのかな?」
「・・・・・・それは内緒。でも話が出来る人だということはわかったわ。」
次に会う約束を取り付けて今回は満足しておこう。
身体を求めるのは簡単だ。でもやっぱ心も欲しいよね。
だから時間をかける。肉は熟成した方が美味いというしな。




