イゾウ裏手帳 ② 師匠たちの教え
〝聖剣〟は砕け散った。
(あーまたやっちまった、何で〝聖剣〟のくせに壊れるんだよ)
魔法課の講習で初心者用の魔法の杖を壊した前科のある俺は内心酷く焦った。
そういや弓の講習でも壊している、あっちは怒られなかったけど。
教官長を見ると驚いた顔で俺の周囲を見ていた。
その顔は驚きが表れ、俺の方を見ていない。
その視線を追うと俺の周囲には魔力で出来た刃が浮いている。
その数・・・8個。
砕けた刀身は半分程まで短くなっていたが、剣としての形は保っている。
その刀身には右目で見た視界にのみ文字が浮かんでいた。
「見事だ・・・イゾウよ。まさかこの段階で8個の聖なる刃を発動するとはな・・・いや、正直驚いた。」
静止から回復した教官長からお褒めの言葉をもらった。
そういや教官長に褒められたのは初めてか?あまりこの人は褒めない。悪いところを指摘するタイプの指導者だ。まぁチョコチョコと褒めのニュアンスに近い言葉も貰ってはいるのだが手放しで褒められたのは初めてかも知れない。
「ありがとうございます。でもこれ凄い魔力を使ってませんか?疲労感が半端無いんですけど。」
砕けるまでは自分が魔力を注いでいた。だが今は自分の意思とは無関係に剣が俺の魔力を吸い出しているように感じる。
ただし剣から悪意は感じない。吸い出されて死ぬような凄い勢いでの吸収では無い。
少しもらってますよ。とでも言うようなチョロチョロ程度だ。
ちょっと体力が削られているが、凄く疲れたというほどでも無い。教官長が驚いていたので少し盛って話しているに過ぎない。
「そうか、無理はしなくていい。キツそうなら戻すがいい。『戻れ』と念じれば戻るはずだ。
だが出来るなら試しに動かしてみろ。その聖刃はお前の意思で動くはずだ。」
なるほど、どっかで聞いたことあるような仕様だ。
試しに動かしてみる。
ノロノロとその浮いた刃が移動し始める。
「おっそ・・・・」
刃の移動速度についため息が漏れてそう呟いていた。
アレーっ?普通結構な速度で飛び回って相手を切り刻むもんじゃないの?
とてもじゃないけどこれで戦えるとは思えない。
普通に剣として振り回した方が遥かにマシに戦えますよ?
「ほう・・・もう操れるか。遅いのは気にするな。まだ名前を知らぬから契約されていないだけだ。
緊急時以外は契約者以外の指示は聞かぬよ。聖剣とはそうゆう物だ。持ち主を選ぶ。」
「へー、持ち主を選ぶ剣か、なんか生意気ですね。道具の癖に、俺とは相性が悪そうだ。」
「なんじゃ気に入らんか?イゾウは認められかけておるよ。」
そうは言われても建築系の仕事で職人の経験のある俺にとって意志のある道具など論外だ。
誰が持っても正しく使えば成果を出す。それが正しい道具である。
持ち主を選び、持ち主以外の指示を聞かないなんて欠陥品で不良品だ。
自分の手元には置きたくないとイゾウは考える。
「うーん・・これで戦えって言われたら嫌だとしか言い様が無いですよ。普通の剣での方が全然戦える気がします。」
そう言って俺はノロノロ動く聖なる刃を動かしながら、剣を振ってみせる。
短くなった刀身で切りつけた方が遥かに早く片付けられる。
「契約するか、緊急時に試すかだな。敵がいれば緊縛は外れるハズだ。」
「いや、普通の剣が良いんですけど・・・」
俺がそう言うと聖剣が抗議するように魔力を不規則に吸った。
それがウザかったので、「戻れこのナマクラが!」と命じると聖剣は元の大剣に戻った。
ウザかったので鞘に戻し教官長に丁寧に返す。
これを毎日魔力を注ぐ訓練か、面倒だ。
「ふむ・・・気に入らんか・・・儂以降に3個以上聖刃を発動出来た者がいない代物なんじゃがのぅ・・・ままならぬものだ・・・」
という教官長の呟きには聞こえない振りで通した。
次に個別指導を行ったのは傷顔の教官だった。
「〝身体能力強化のスキル〟ですか? 」
「うむ、ある程度のレベルになると必須なスキルだ。扱うのに魔力を必要とするが、魔法のように発動させる術では無い。だから今のお前には役立つと思う。」
「なるほど。」
魔法が使えない事に対して、正直に言えば『魔法を使う感覚がわからないから』という理由が大きい。
ひと言で魔法の発動と講習で言われているが、じゃー何で発動するんだよ、と思う。
手本として、魔法を使っている人間を見ていても、そこから伝わってくるものが何も無いのだ。
魔法なんて無い世界で40年生きてきたのだ。どうしようもないと思う。
「例えばユリウスたち兵士だった者たちは既に覚えていたり、覚えつつある。
講習開始前の検査で石を持ち上げただろう?」
勿論覚えてる。あの石がバーベルの形をしていたらあの倍の重さまであげられたと思う。
今ならこの体重での世界新記録まで出せると思う。あっちではもう死んでるんだけどな。
「素の能力のみで1番重い石を上げられたのはイゾウ、シグベル、あとライアスの3人だけだった。
だが〝身体能力強化のスキル〟を使って同じ重さの石を上げられる者はもう少しいるのだ。
例えばユリウスは素の力ではおまえたちより2段階下の重さの石までしか上がらなかったが、スキルを発動させれば変わらない重さの石が上がる、余裕を持ってな。」
なるほど、つまりユリウスは既に使えている訳か。
身体能力でなら負けていないと思っていたが、考えを改める必要がありそうだ。
「兵士の枠でいうと中級の兵士職になるのに必須なスキルだ。
覚えることで1段階上の動きが出来る。
つまり魔法が使えなかったとしても魔力は生かせる。
魔法を覚えても併用は出来る。こっちはかなり難易度が高いがな。」
身体強化、実に地味な能力だ。
だが休載がちなハンターの漫画でも言っていたはずだ。強化系こそ優先する能力だと。
確か1人で戦い抜くにはに続くハズな言葉だけど。
地味だからこそ強く欠点が無い。
身体が強くて困ることなどないしな。
寝たきりの老人が世界最強だって言われても本気にする人間はいない。
「あまり目立たないスキルであることは確かだ。魔力が高い者は威力があり派手な魔法を好む者が多い。
こちらは獣人などの魔力が低い者が好むスキルだ。毛嫌いする者もいる。
だが効果は高い。種族特性など無く使えるようになるスキルだしな。」
「種族特性ですか?」
「ああ、〝身体能力強化のスキル〟だけなら種族は問わないで使える。
だが一部の獣人はそれをさらに〝特化させた〟スキルを持って生まれることがあるのだ。
これを〝種族特性スキル〟という。その面で 人間 は特に特徴の無い種族になるな。
たまにお前やユリウスのように魔力も身体能力も秀でた存在も生まれるが、な。」
なるほど、やっぱユリウスも特別なのか。
神様の寝床である俺と素で同格とは恐ろしいイケメンだ。
むしろ寝床の性能がポンコツだって噂すらある。イケメンと比べてしまって申し訳ない。
顔で負けているのに性能でも負けているとか救いようがなくて困る。
良い奴なんだけどね。 あいつに対しては何故か卑屈になるわ。
「という感じだ。講習を受けながら覚えるのは厳しいかもしれない。
だが儂は貴様なら出来ると思う。どうする?強制はせんよ。」
「勿論、教わりたいです。
教えて下さい。」
「うむ、では早速始めよう、まずは・・・・・・」
こうして俺は傷顔の教官から〝身体能力強化のスキル〟を教わる。
そしてガハハ髭教官にも呼び出された。
「ガハハハハハ、イゾウよ、誰かの後をつけたことはあるか?」
なんだそりゃ。ストーカーかよ。嫉妬深い方だと思うがそこまではしたことが無いぞ。
嫉妬深いと同時に諦めも切り替えも早いのが俺の長所だ。
しつこく追いかけるくらいなら新しい恋を求める。
「いや・・・したことは無いですね。」
でも多分彼の言うのは俺の想像とは違う意味での話であろう。
他に意味があるのだが上手く説明できないだけなのだ、教官なのに。
「ガハハハ、そうか。〝隠密〟というスキルがある。知っているか?」
知るわけが無い。予習しろというなら攻略本でも持ってきて欲しい。
寝ないで読破する自信がある。それくらい情報にも紙媒体にも飢えている。
「知らないスキルです。」
「ガハハハハハ、だろうな。これは〝斥候系〟の冒険者が得ることが多いスキルだ。
おまえは今の所〝斥候系〟では無い。魔法が使えない現状を踏まえると〝後衛火力系〟の位置取りでもない。
魔法の鍛錬は続けるがいい。使えるようになれば選択肢は増える。
だがもし使えなければ、〝斥候系前衛〟〝盾型前衛〟〝火力型前衛〟から何をするかを選ぶ事になる。」
なるほど、ポジションか。言ってることは理解出来る。
攻撃魔法が使えれば〝後衛火力〟
回復魔法が使えれば〝後方支援〟
特化していれば専任で、バランス型なら他の補助も出来る。
専任を集めて仕事を割り振れば強いパーティだろう。それくらいは理解出来る。
てっきり師匠の怖い顔的に何か暴力的な技術に特化しろといってくるかと思ったわ。
それにしても〝隠密〟か、忍者みたいだ。
「つまり〝斥候系前衛〟になれと?」
「ガハハハ、違う。どちらかといえばお前に望むのは〝火力系〟だ。前衛中衛後衛どこでも構わん。
気にいらん奴、敵対する奴、すべて殺してしまえ。
だが〝斥候系〟の技術は馬鹿に出来んのだ。覚えておいて損はない。」
「損は無い・・・ですか・・・」
言ってることが分かるようでわからない。誰か通訳して欲しい。
「ああ、理由はいくつかあるが、損は無いのだ。
最もな、イゾウよ。技術とは覚えることは始まりにすぎん。使いこなしてこそ一人前、それがスキルだ、そして使いこなすことに終わりは無い。どんなスキルも持つ者使う物次第だと言うことだ。」
「なるほど、いいですね。そのお言葉、俺凄い響きました。ど真ん中に来ましたよ。
俺、その〝隠密〟使いこなしてみせますよ。」
「ガハハハハハ、そうだその意気だぞイゾウ。」
本能で話す男に本能で返す。多分これは正解。
こうして俺はガハハ髭教官に〝隠密〟の技能の指南を受ける。
どうにも〝追跡者〟改め 〝追跡者〟の才能があったようで気がつけば俺の右目のスキル表示欄に数日で 〝 隠密 Ⅰ 〟という文字が浮かぶようになる。
そしてほどなくそれは 〝 隠密 Ⅱ 〟を経て 〝 隠密 Ⅲ 〟になった。
おそらく経験値の問題だと思われる。
適当な講習生を見つけては練習で後をつけ、そいつが俺の悪口を言えば姿を現しては殴って遊んでいた。
傷顔の教官に教わった身体強化を試しながら。
知ってるか?殴るときに強化を使うと漫画みたいにふっ飛んでいくんだぜ?
超気持ち良かった。
気がつけば講習生内でのスクールカーストはぐちゃぐちゃになっていた。
だが別に俺はそんなことはどうでもいい。
殴り始めると相手が泣こうが喚こうが殴るのを止める気にならなかった。
思ったよりストレスが溜まっていたようだ。
反省もしないけどな。冒険者とは舐められたらいけない職業だし。
俺はイゾウ、転生者にて、やられたらやり返す男だ。
面識の無い人間に一方的に馬鹿にされて、口喧嘩で返してやるほど人間は出来ていない・・・




